2009 1.13 TUE
第18回東京財団フォーラム「日本は安保理で何をすべきか~非常任理事国の2年を考える~」
日本は安保理で何をすべきか
~非常任理事国の2年を考える~
【日時】 2009年1月13日(火)18:30~20:00
【会場】 日本財団ビル2階 第1~4会議室
【テーマ】 「日本は安保理で何をすべきか ~非常任理事国の2年を考える~」
【登壇者】
■ 基調講演者:高須幸雄(国際連合日本政府代表部特命全権大使)
■ モデレーター兼パネリスト:北岡伸一(東京財団 主任研究員、東京大学教授)
■ パネリスト:星野俊也(大阪大学教授)、池田伸壹(朝日新聞Globeシニアライター)
東京財団は1月13日、日本財団ビル2F大会議室で「日本は安保理で何をすべきか~非常任理事国の2年を考える~」と題するフォーラムを開催した。本財団が実施している「国連研究プロジェクト」の一環として行われたもので、基調講演には国際連合日本政府代表部の高須幸雄・特命全権大使が登壇、1月から非常任理事国となった日本の理事国としての役割と今後2年の意気込みを語った。
講演の中で高須大使は、2月に議長国となる日本が新生オバマ政権での国連大使の初仕事を一緒にすることになる旨に言及した上で、アメリカの新たな国連政策に期待を示した。さらに、イスラエルのガザ侵攻問題やソマリア問題などについて、現場での交渉の臨場感を伝えるとともに、日本も目に見える形で国連に貢献していくべきだとの見解を示した。
パネリストの星野俊也・大阪大学教授からは、平和構築や人間の安全保障など日本が活躍できる分野での積極的な外交を目指すことに期待したいとのコメントがあり、池田伸壹・朝日新聞シニアライターからは、今後はパブリック・ディプロマシーをさらに強化してもらいたいとのコメントがなされた。
シンポジウムは、国連研究プロジェクト・リーダーでもある北岡伸一主任研究員をモデレーター役に進行。会場に集まった200名を超える聴衆は真剣に登壇者の話に聞き入り、質疑応答も含めた議論は白熱したムードが漂った。
各氏の発言、会場との質疑応答の主な内容は以下の通り。
「国連安全保障理事会と日本の役割」・・・高須大使
(1)新生オバマ政権と国連
・アメリカというのは国連にとって政治的経済的に大きな存在。イラク問題等でもそうだがブッシュ政権はあまり国連を大切にしてくれなかった。オバマ政権がどのような政権になるかわからないが、国連大使にアフリカ専門のスーザン・ライスという側近中の側近を任命した。しかも閣僚級にすると。2月1日から日本は安保理の議長国になる。新しいアメリカの大使と初仕事が一緒にできる。オバマ政権の最初の2年は、前政権とはいろいろな違いがでてくると思う。核不拡散問題、気候変動の問題、その他地域問題など多国間協力、マルチで協力していこうとする姿勢がある。国連の場を今まで以上に活用してくる。そうなれば、日本が安保理の席を占めている国連の場でアメリカの国連政策に影響力を与えることができる。そういう意味でこの2年は重要な2年となる。
(2)安保理の抱える課題
・一番重要なのは、「地域問題のに対する平和的解決」。ガザの問題で、安保理で決議が通せたので日本に戻ってこられた。アメリカは先週の水曜日(7日)の段階では、遺憾の意を表明する議長声明でいいという立場であった。しかし、数多くのアラブの外相たちがNYにきて絶対、安保理決議だと主張し、話し合いは決裂。日本は決議が必要であると述べたが、「決議はバランスのとれたものでなければならない。イスラエルばかりを一方的に非難してはいけない」との立場であった。停戦を宣言するのはいいが、停戦というのは、実効的なものにならなくてはならない。ハマス側からのロケット砲弾がやみ、武器弾薬がトンネルを通じて密輸されることを停止しなければ、イスラエルの国民の安全は確保されない。そのためには、モニターが必要だ。それを誰がやるのかというのが決まっていなければ意味がない。ただちに停戦を!というけれど、「ただちに、実効性をもち、長続きし、きちっと守られる」停戦という最低限の原則を確認し、粘り強く交渉しようというのが日本のスタンスだった。安保理の強さは分裂した安保理ではなく、統一した安保理から来る。ライス長官は、ワシントンとやりとりをして、なんとか説得しようとしたが、結局アメリカは、反対はしないけれど、棄権となった。
・最近の問題では、「文民の保護」が重要である。紛争時一番被害を受けるのは、文民である。また、「平和と正義」の問題。これは、ジェノサイドなどへの責任をきちっとしないといけないということである。他方、和平がきちっとしていない段階で「正義」に固執すると、和平自体が飛んでしまう。スーダンがいい例だが、遅くとも来月にはICC(国際刑事裁判所)によるスーダンの大統領の訴追問題の結論が出てくる。スーダンの問題が国連の活動にどのように影響を与えるかという側面からも、2月の議長国としてそのことについてどうしたらいいのかを考えている。
・次に「国連のPKO問題」。今、世界中に約12万人のPKO要員が派遣されている。要員を出せる国が段々なくなってきている。また予算的な問題もある。今は出口戦略を考えなくてはならない。ある程度の目標に達したらスケールダウンする必要がある。また最近では、平和構築ミッション、政治ミッションというのが増加している。PKOというのは和平協定ができた後、和平協定が順守されているかを監視する役割だが、政治ミッションは、PKOの役割は終わったけれど、まだまだ不安定な地域で、平和の定着を確認するため、復興・支援・開発につなげていくためのものである。平和構築委員会の議長を1年以上務めてきたが、紛争後だが、まだ安定していない国は60カ国くらいある。そういう国で和平協定ができても5年後には24%が、10年後には50%が再び紛争を始める。これは、平和構築戦略の失敗である。東ティモールもその例である。PKO後、民兵だった人たち、若い人たちの失業率が高い。そのため、また戦い始めることになる。平和維持活動と平和構築という活動は、伝統的な考えに倣えばまず、平和維持があって、その後に平和構築。その後普通の国づくりとなる。日本はこの分野で先頭を切っているが、今後は、平和維持の活動の中にいかに平和構築の活動を取り込んでいくことが重要となってくるだろう。
(3)日本の特色と役割
・第一に、紛争解決のために武力を行使しないという日本の国是。このスタンスは非常に重要である。日本がこのことをいうと誰でも納得してくれる。また、日本には、それだけの実績がある。アフガニスタンと東ティモールの問題でも、各国の調整を図るリード国になった。
・二つ目は、核に対するきちっとした立場。核不拡散を許さない、核軍縮をどう進めていくのかというのが日本の責任。北朝鮮やイランの問題も国連の場での議論となる。アメリカ新政権にとっては、まず経済の立て直しが最重要だと思うが、気候変動と核軍縮がそのあとに続く。CTBTの問題など、安保理の中で日本もリーダーシップを持ってとりあげていきたい。
・三つ目は、安全保障の捉え方。伝統的な国家の安全保障だけでなく、社会的安定や経済的発展といった側面からも日本が10年前より提唱している「人間の安全保障」という概念は定着した考えになっている。紛争後の国づくりにとってこれは、非常に大切なコンセプトで、日本の戦後の国づくりの経験が役に立つ。これは、日本でなければできないし、日本がいうことならついてくる。
・四つ目に、日本のコンセンサスビルダーとしての役割がある。安保理は議論ばかりして行動しないのではいけない。東ティモールやアフガニスタン問題でのコンセンサス作りの場面だけでなく、膨張したPKOを戦略的に考えていくためのPKO作業部会、また文書作業部会の議長でもあり、日本の役割に期待が集まっている。
(4)アフリカ問題
・国連の安保理の問題は、6割から3分の2は、アフリカの問題。ソマリアについて問題は二つある。1つは海賊問題。日本に関係する船がソマリア沖を1年で2000隻以上通る。日本の経済にとっても重要である。安保理でソマリア海賊対策に関する決議が出た。日本としても掛け声だけでなく、法律の許す範囲でできるだけの貢献をすべきではないかと思う。もう一つに陸上の問題がある。現在、AUのミッションがでているが、それは今後強化しなければならない。場合によっては、PKOに発展させなければならないかもしれないということで交渉中である。
・西アフリカにギニアビサウという小さな国があり、麻薬の中継点である。西アフリカのガバナンスの弱いところが犯罪の温床となる。日本はここで国の安定を図ることに尽力した。このことは国際犯罪に対する対策になる。かわいそうな国だから助けなければならないというのではなく、テロとか国際的な社会の安定という平和構築の観点から協力しなければならない。
パネリストコメント
星野:新年早々にガザ問題への対応で、正月休み返上だったのでは。安保理はそういう場所。もっとも、日本の今回の非常任理事国任期は、経済危機で民心は内向き、政治は流動的、ODAの額やPKO派遣要員数も下り坂という厳しい時期に出発しなければならない。だが、むしろ安保理の中に入ったことをはずみにして日本は各方面での外交努力を積極的なものにしていってほしい。それと連動してこそ、安保理での日本の活動に厚みが増す。平和構築支援は、日本として看板となるような活動。いつもPKO後にあわてて平和構築の戦略を立てるというのではもう遅い。平和構築委員会(PBC)議長国としての日本の経験を生かし、ある紛争案件を安保理で議題化する時には、平和維持と平和構築とその後の開発までも含めた包括的な戦略を展望するというプラクティスを作りあげていくのがよい。また、国連では「人間の安全保障」と「保護する責任」論が活発に議論されているが、この二つには違いがある。両概念とも人々の「保護」を主眼にしているが、「人間の安全保障」概念にはさらに人々の潜在力を伸ばすという考えを含む。日本は、能力向上の側面までも取り込んだ議論を安保理でしていって頂きたい。最後にアジアの選挙区から選出された日本であるから、アジアの問題を、アジア出身の事務総長とタイアップして活発な安保理外交を展開してもらいたい。
池田: 2004年から07年初までNYで国連の取材をしていた。日本政府は、前回、非常任理事国だった時に、Handbook on the Working Methods of the Security Council(以下、ブルーブック)という手引書を作成した。これは国連の安保理がどんな話の進め方をするのかという決定の仕方を説明したもの。これまでは、P5が決定的な力を持っていて、新参者の非常任理事国はただP5についていくだけだった。日本はアジアの安保理に入っていない国々を呼んでブリーフィングをし、ちゃんとルールを文書化して公のものとして定着させることによって、誰もがそのルールを使えるようにする努力をしていて、その点については、地味だけれど非常に重要だと思う。ほめておいてから厳しいことを言うのは何だが、日本が安保理に「オール・ジャパン」として取り組んでいるのか、安保理改革を含めて疑問だ。また、各国の報道対応にもあなどれないものがある。イギリス、フランス、アメリカ、中国、カナダ、北欧などは働き盛りのキャリア外交官ががっちりメディア対応をしており、四六時中携帯電話でやりとりをしている。世界から集まっている国連の記者にとってまだまだ日本は遠い。パブリック・ディプロマシーに関してもあと一歩越えなければならないものがある。
北岡:官僚組織の権力の源泉は、知識である。しかも権力者はそれを秘密にしておく。ブルーブックの内容である先例や手続きについてP5はだいたいわかっている。しかしこれを共有して教えてくれない。そうした知識は彼らの記憶の中だけにある。あとから来たニューカマーは先例に従うしかない。日本は安保理の議論の透明性を高めるためにブルーブックを作った。日本には、安保理の中と非メンバー国とつなぐ橋渡しの役割を果たそうとしたわけである。メディアは、こうしたことを含め、中東がどうこうという報道だけでなく、日本はどういう行動をとったということを報道してもらいたい。
会場との質疑応答
高須:私が考えている交渉方法は、3段階くらいだ。2月の段階では、今までのG4案から出発すると思うが、これはあくまでも交渉のはじめである。安保理改革、常任理事国を増やすのに反対なグループがある。具体的に言えば、パキスタンやイタリアや韓国など12カ国くらいだが、彼らの考えは、非常任理事国を増やし、再選禁止条項を撤廃するという案である。さらに長期非常任の再選という案も出ている。2月くらいにこうしたものを含め、いろんな案が出てくるだろう。中盤戦になってくると修正案が出てくる。これに日本がどこまで譲歩できるか、それは今の段階ではいえないが、必ずしもG4案のままで実現するとは思わない。ある程度の修正が必要になってくる。その上で終盤戦になると、ハードな交渉になる。改革案には3分の2の支持が必要になってくるが、プラスアメリカ・中国が完全に賛成ではないが絶対に反対という案ではだめである。他方、おそらくアメリカ・中国が完全に同意するという案ではアフリカ等は支持しない案になろう。できるだけ多数の政治的支持の集まる案にしなければならない。イタリア、カナダ、韓国、メキシコ、スペインなど常任理事国にはなれないが、国連の場で非常に活躍している国々は、日本が入るならまだしも、アフリカが入るなら我々が入りたいと思っているため、反対するかもしれない。こうした国の立場も考えなければならない。どこまでいくのかというのは政治決断の問題でもある。日本の国内の指導層の了解も得なければならない。
北岡:もう一つのハードルはアフリカ。アフリカにコモンポジションを変えた方がいいという動きがあるのか。
高須:常任議席を作り拒否権を持たせるという案は、交渉のはじめの段階では、出てくるだろう。しかし、第二段階になれば、交渉に応じて柔軟に応じようという声も出てくるだろう。交渉を遅らせようとする勢力は拒否権がなきゃだめだと言うかもしれないが、そうすればアフリカの共通のポジションがばらける。かなりの国は、柔軟な対応をとりたいと考えている。アメリカにしても、また日本にしても拒否権を拡大するというのは慎重であるという姿勢であるのだからそこでの妥協がないと難しい。これから交渉に入るのだから、交渉に入ればそこでは相手の出方を見なければいけなくなる。そこでの柔軟な対応を期待したい。
Q:前事務総長のアナン氏が新たに安保理の常任理事国になるための3つの条件を挙げている。第1に財政的、第2に、軍事的、第3に外交的な貢献。日本は第1についての問題は全くないが、第2の軍事的貢献。PKOの貢献と言い換えてもいい。これは、びりに近い。外交的な貢献に関してもカナダ、スウェーデン、ノルウェーなどのようにはいっていない。やはりリスクを恐れる外交をしているとなかなか克服できない。また、日本のメディアの報道ぶりの限界が日本外交の制約となる。日本全体が内向きになっている。そうした状況で高須大使がのびのびとした外交を展開するのは難しいと思う。高須大使が戦える玉を国内からに投げなければならない。
高須:現場での発信力、交渉力はできる限りのことをやるが日本の国として国民としてのサポートがなければうわついたものにでしかなりえない。財政力に関しては、ODA拠出(増額)が厳しいというのはあるが、ODAは戦略的かつタイミングが大切。きちっとした日本の考え方、政策をもった上で行っていく。ガザの問題でも、大臣とか政治レベルで汗をかくことも重要。国会や距離、時差などの問題はあるが、外交努力は目立った形でやるべきだ。紛争の形態やPKOも変わってきたし、もっと日本が前向きに出てきてほしい。数だけで競う必要はない。質で行えることはたくさんある。
北岡:安保法制懇でも武器使用原則が高すぎるという話がでた。ミッション達成のための武器使用はだめだというはなはだおかしい。しかし制度内でもできることはある。明石さんがカンボジアにいらした際は今よりももっと窮屈な制度の中で、数百人出していたわけで、私は直感的に世界の1%。十万なら1000人くらい派遣すべきと思う。
Q:イランの核問題。今年どういう展開になるのか。NPTの交渉はどうなるのか。
高須:イランの核問題に関しては、オバマ政権のイラン政策がどうなるかが大きな要素となる。イランの濃縮活動は継続的に行われている。先延ばしすればするほど、核を作る能力が進む。そういう意味で先延ばしできない。イランの核開発計画は広範に行われている。多くが地下で行われている。報道されているのはほんの一部にしかすぎない。それをたたいても完全に除去はできない。外交的解決が必要だ。安全保障、経済開発を含めた形でのパッケージディールが必要となってくる。EUがやっているが、もう少し大きな形でやる必要がある。その中で日本の役割がかなりある。イランは中東における日本になりたいと言う。日本は濃縮もやっているし、再処理もやっている。なぜ日本は後ろ指をさされないのか。それはIAEAの査察に対し完全にオープンであるからだが、イランもきちっとやれば日本のようにできるということを示していく。CTBTをアメリカがいつ批准するのかについても、日本の働きかけのポイントとなるだろう。
北岡:世界の日本への期待ははるかに高い。世界中にネットワークがあって、独自の情報網を持つ国でなければ、グローバルなイシューに対応できない。だから日本への期待も大きい。日本が国連での活動を強化することは与野党問わずみな賛成のはずだから、政争を超えて合意を作ってサポートする体制にしてもらいたい。現地にあがっているモメンタムを日本国内に伝える機会として、みなさんの出席に感謝して会を閉じたいと思う。ありがとうございました。
(報告・大沼瑞穂)