2009 9.9 WED
第28回東京財団フォーラム「総選挙の総括と政局展望―どうなる鳩山政権と自民党の今後」
【日時】 9月9日(水)18:00~19:30
【会場】 日本財団ビル1F バウ・ルーム(港区赤坂1-2-2)
【テーマ】 「総選挙の総括と政局展望 ― どうなる鳩山政権と自民党の今後」
【スピーカー】 泉宏 東京財団研究員、元・時事通信社政治部長
【コーディネーター】 渡部恒雄 東京財団上席研究員
総選挙後の9月9日に行われた第28回東京財団フォーラムでは、時事通信社の政治記者として36年、永田町・霞が関を見続けてきた泉宏研究員が、民主大躍進と自公大敗の要因、そして内閣の人事・組織や連立協議などから見る鳩山政権の行方と、総裁選や派閥必衰で揺れる自民党の今後について語った。また、外交・安全保障の専門家である渡部恒雄上席研究員が、民主党の外交政策について報告した。
以下に泉研究員の講演と渡部上席研究員の報告の概要を報告する。(文責:編集部)
■泉研究員の講演概要
8月30日の夜8時、テレビ各局は一斉に出口調査の結果を報じた。NHKは民主党の獲得議席を298から329、自民党が84から131と予想。日本テレビは324と96、TBSとフジテレビはまったく同じ数字で321と97、テレビ朝日が315と106とした。これらの平均値は民主党が320議席を超え、自民党は100議席ぎりぎりだった。
出口調査というのは、午前中の集計を昼過ぎに一旦出して、それを各社が選挙センターでまとめる。次に午後4時くらいまでの集計を取って、最後は6時半から7時までのまとめを発表する。午前中に投票所へ行く人はおおよそ投票する候補者を決めて出かける。午後に行くのは、「今日は選挙だよな。ニュースでやっていたから行ってみようか」というような人。6~8時頃になると、ゴルフや旅行などに出かけた帰りに「今日は選挙だったか。まあ行くかな」というような人が多い。だから、出口調査というのは時間帯によって結果が異なる場合が多い。ところが、今回はほとんどが同じような結果だった。それが今回の選挙の大きな特徴である。
民主党のマニフェストの表紙を見ると、鳩山代表の顔の横に「政権交代。」と大書されていて、「政権交代」に「。」が付いていた。これはほとんど「モーニング娘。」の世界だ。自民党の冊子にも「日本を守る、責任力。」といったことで、なぜか「。」が付いていた。あれは後出しじゃんけん。表紙にある「-→+」「+→++」の記号も何だかよく分からない。こうしたことからも今回の勝ち負けがよく分かる。
民主党がそのマニフェストを発表した8月27日は、党事務局の電話は鳴りっぱなしという人気ぶりで、ウェブサイトのアクセス数も一日に14~15万件あった。翌日昼には、某局のマニフェストを比較した番組が、NHK昼のニュースやフジテレビの人気バラエティ番組よりも視聴率が高かったという。今回の選挙はそれほどマニフェストが注目され、「自民党はもう退散してほしい」という一方で、「民主党は一体何をしてくれるのか」という期待感が広がっていた。
バンドワゴン効果による民主の勝利
通常、事前の世論調査で270とか280という数字が出ると、新聞記者は「過半数を大きく超える」と書く。今回の場合も「過半数超え、絶対安定多数の勢い」といった言葉が紙面トップに踊るだろうと思っていたが、その予想を超える300に届く情勢になると数字が独り歩きして、とうとう4年前の郵政選挙の揺り戻しという結果になった。これはバンドワゴン効果である。行列の先頭の楽隊が「ピーヒャラ、ピーヒャラ」と笛を吹いたら、皆がそれに続いた。簡単に言うとそういうことだろう。
自民党が期待した「判官びいき」の投票行動、つまりアンダードッグ効果は結局起こらなかった。「自民党はもういいかな」という雰囲気が流れを変えてしまった。今回の選挙も4年前の「劇場型」選挙と外形的な部分ではまったく同じだ。小沢さんがここで小選挙区の戦い方をしっかり学んで、それをどう実現するかということを考え続けた4年間だった。
小沢さんのやり方は、古いかたちの選挙運動だ。辻立ち千回、個別訪問1万件。これは彼が昔から言っていることで、そこには政策の「せ」の字もない。それをまずやらないと選挙にならないということで徹底した。2年前の参院選で「姫の虎退治」というキャッチフレーズが功を奏したが、今回も同じようなことをやった。「美絵子の森伐採」「衣里子のクマ退治」「孝子の潮干狩り」、さらには「ひろこっこのにわとり」などなど。小沢さんという人は、非常に剛腕なところと顔に似合わない細やかなところでいろいろ考えている。
今回の選挙で非常に珍しいケースとして、与謝野馨、野田聖子、甘利明、塩谷立、佐藤勉、林幹雄各氏の閣僚6名が比例でなんとか復活した。なぜ自民党はこれほどまで負けてしまったのか。「10月3日解散、26日投票」の議席獲得予測は、自民215、民主214だった。歴史に「もしも…」はない。が、もし11月ならば民主250、自民170。1月ならば民主280、自民140だった。
どうなる鳩山政権の「脱官僚」政治
民主党は、社民、国民新党との連立を成立させたが、これは参議院の数が足りないからで、はじめに連立ありきである。そして、亀井さん、福島さんに入閣を要請した。それよりも先に決まったのが小沢幹事長である。鳩山さんが夜8時過ぎに突然記者団の前に現れて、「小沢代表代行に幹事長を要請するため、ここに来てもらう」と語った。ところが、小沢さんは2時間経っても来ない。11時過ぎにようやく現れ、幹事長を引き受けた。これはいわゆる“小沢流”で、そう簡単にはいかないよということであろう。
党内権力の二重構造といったこともあるが、やはり今後の大きな問題は、霞が関との関係である。マニフェストの鳩山政権構想の原則1に「官僚丸投げの政治から、政権党が責任を持つ政治家主導の政治へ」と書いてある。当初は「霞が関解体」と言っていた。局長級以上は全員辞表を取ると意気込んでいた。ところが、その後「脱官僚」となった。政権がとれるとわかってようやく普通に戻った。それが今度は事務次官会議の廃止となった。廃止してどうするのか非常に興味深い。
菅さんは、各府省事務次官の定例記者会見や記者懇談も認めないと言っている。そうなると、すべてを大臣に聞くのだろうか。あるいは副大臣に聞くのか、それとも政務官に聞くのだろうか。知る権利からしてもこれは情報公開ではない。下手すると鉄のカーテンになりかねない。
焦点は早くも次の参議院議員選挙
民主党の政権公約支持に関する各世論調査を見ると、国民が賛成する政策の一番が年金、次が後期高齢者医療制度の廃止、そして子ども手当と続いているものの、高速道路の無料化は支持が低い。いずれにせよ、公約は何が何でも実現すると言っている。これは次の参議院議員選挙を見据えてのことだ。来年1月18日に通常国会が開かれるとなれば、順調にいくと6月16日が会期末になる。参議院の任期満了が7月25日だから、選挙は早ければ6月27日、あるいは7月11日になる可能性が高い。それまでに子ども手当が支給される。高速道路の無料化もある程度実現している。暫定税率も4月から廃止する。これらの財源はこれからなので、究極のお手並み拝見となる。その他、「温室ガス25%削減」や「対米外交」などは政治主導の話ではなく、外国との交渉で直接国益に関係する話だから、当然そのことについても考えていただきたい。
民主党が抱える火種として、鳩山さんの「故人献金」の問題がある。少なくともこの2カ月以内にはこれが動き出す。延び延びになっている小沢さんの元秘書の初公判もおそらく2カ月以内、つまり11月中下旬にはあるのではないか。これらは秋の国会のポイントになる。ところが、一方の自民党はどうも負けっぷりがよくない。8月30日から9月16日まで17日間もあるに、一体何をやっているのか。自民党の将来に絶望的な思いがある。
今後最大のポイントは、やはり何と言っても来年の参議院選挙である。121の改選議席のうち、公明党が9、共産が3、社民が2、その他が4とすると、18になる。そうなると、残りが103議席で、たとえば民主が63を取ると、自民は40になる。自民党はこの40議席をオーバーできるかどうか。民主が60議席を超えてくると、単独過半数になる。衆院で300を超え、参院で単独過半数となれば、中曽根内閣以来となる。そうなったら、小沢さんはどう出るのか。それは来年の参院選以降のお楽しみだが、いろいろなことが起こる可能性がある。解散は余程のことがない限りありえない。3年後の7月頃に、次の次の参院選があり、その時に衆参同時選挙もあるかもしれない。そこに向かっていろいろな動きが次々出てくるだろう。
■渡部恒雄上席研究員の報告概要
民主党の外交政策については、ともすればインド洋の給油の話ばかり出る。ところが、それを止めたらからと言っても、直接的に大きな問題とならない。むしろ、代わりに何かやるかということになる。今後問題になるのは、むしろ沖縄を含む米軍の再編問題である。
ここには複雑な沖縄の政治も絡んでくる。是非考えていただきたいのは、これを進めるには、日米政府が合意しているということだけではなくて、沖縄県知事が「うん」と言わなければならない点である。その覚悟をしているのが今の仲井眞弘多知事で、彼は自民党系である。ところが、任期は来年12月までで選挙が行われる。もし紆余曲折あって、民主党政権が違うかたちで合意したとして、その時に仲井眞知事でない場合はどうなるのか。次の知事が「うん」と言わなければ、また止まってしまう。
というように、外交について言えば、大変微妙なスケジュールにある。本当ならばすぐにでも答えが必要なところだ。政治とは可能性のゲームだから、それを一生懸命やろうとすれば事は進むわけである。
この点に関しては、民主党よりもむしろ自民党政権を批判したい。こうなることがわかっていたのに、なぜ早くやっておかなかったのか。いずれにせよ、今度は民主党が「これは自民党の問題だから関係ない」というような態度であれば、当然批判が出るだろう。
われわれ国民が外交・安全保障政策のことを真剣に考えないといけない時期に入った。今回の政権交代というのは、日本人全体が覚醒しろよということであろう。