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2012 11.30 FRI

「日米欧 東京フォーラム 新たなグローバル・アーキテクチャー ~変動する世界をいかに導くか~

「日米欧 東京フォーラム」公開セッションでは、各パネリストからの短い開会の言葉に続き、参加者からの質疑応答がなされ、様々な議題について深く議論できました。その前に開催された非公開の6つのセッションにおいても、活発な討論が行われました。

民主主義の将来

慶應義塾大学の細谷雄一教授は、フォーラムの感想を述べる際に、アラブの春に関連したコメントを紹介しました。「中東の政治体制は過去何度も打倒されてきました。春という言葉を聞くと希望と暖かさという意味を思い浮かべますが、しかし春はやがて夏になり、秋、冬がやってきます。よってこの春という言葉は適切だとは思わない。」というコメントがありました。

細谷教授また、民主主義ではない中国の台頭により、日本、アメリカ、ヨーロッパの人々の中には民主主義が本当に高い経済成長と将来の繁栄に最善の道だと言えるのかどうか疑問を抱いている人もいる、と述べました。彼は共通の「疾患」がこれら3つの地域に影響を及ぼしていると指摘します。すなわち、民主主義政府が意見が鋭く対立する困難な問題に対して決定を下すことができないという疾患です。

外務省の石井正文審議官は、主に3つの問題が安全保障に関するセッションで討論されたと述べました。「東アジアにおける顕著な挑戦の1つは、中国との良好な関係を保つことで、十分な協力が必要です。なぜなら私たちは中国に対して多くの利害関係を共有しているからです。」と述べました。特に中国が長期に渡って現状の経済成長を保つことができない場合に、問題は発生するだろうと石井審議官は付け加えました。「もし問題が起こった場合、民主主義的な選挙によって選ばれたのではない中国の指導者たちによるリーダーシップの正当性に疑問が生じるでしょう。」

他の安全保障に関する主要なトピックは、オバマ政権が最近行った「アジア回帰」の発表に関してでした。「アメリカ単独では変化している安全保障上の脅威全てを解決することは不可能です。それで米国がアジア太平洋地域に十分に関与することを望む私たちは援助の手をアメリカに差し伸べるべきです。日米同盟を保つ努力は、日本が持つ防衛技術を全て活用することや、アメリカの同盟国との間で安全保障ネットワーク作りに合意することなどが含まれます。」

3つめのトピックは、ヨーロッパのこの地域における役割が強まっていることに関してでした。「日本とアメリカの二国間提携に加えて、ヨーロッパを含めた日米欧のフレームワークも必要です。」と石井審議官は述べました。

ドイツの大使であるVolker Stanzel大使は、ヨーロッパと日本の間で対話を深めることが役立つ数多くの事柄があることを指摘しました。それは次のようなものです。原子力と化石燃料から再生可能エネルギー源に移行するための努力、移民すなわちヨーロッパにおける中心的な議題であり日本の将来の課題、社会の高齢化に含まれる福祉と老人介護に関する政策、資源ナショナリズム、EUと日本間での自由貿易協定の可能性などです。

「日本のように、ヨーロッパの国家の多くは中規模の国家であり、将来の繁栄はグローバル マーケットの自由化に依存しています。それで日本とアメリカの間あるいはアメリカとヨーロッパの間だけの関係を考慮する代わりに、EU全体と日本の協力関係について考慮するほうが役立つと私は思います。」とStanzel大使は述べました。

「中身のないスープ」

フィナンシャル タイムズ アジア担当の編集者であるDavid Pilling氏は、経済成長のセッションの討論参加者が、アメリカ、ヨーロッパ、そして日本からの参加であって、中国やインドなど急成長を遂げている国々からの代表がいないとの皮肉を言いました。

貿易に関しては様々な見解が表明され、特にTPPについては「絶対的に重要である」から「中身のないスープ」あるいは「害悪」まであらゆる意見が出ました。自由貿易は全員にとってウィンウィンの状況を意味するという受けの良い見方に対しては懐疑的な態度が見られました。「自由貿易は中間層に対して大きな挑戦になるという感覚が米国で現れている」からです。

リーマンショックを受けて、保護貿易主義はまだ顕著にはなっていないが、その兆候は表れていますとPilling氏は指摘しました。すなわち、国内品の調達奨励や金融政策の量的緩和を促す産業政策といった政策が表明されています。民主主義に対する一般的な見通しは、どちらかと言うと暗い、とワシントン ポストの社説面の編集者であるFred Hiatt氏は述べています。「社会的不公正や政治停滞など、私がワシントンで関心を払っている問題点の多くは、ヨーロッパと日本においても類似している。」と述べました。「これらの課題の多くは老齢人口の増加など人口統計学上の課題を共有していることが原因である。どのように各世代が税を負担するかという点で政治的緊張を悪化させます。」

しかしながらHiatt氏はこう付け加えました。「私たちは民主主義のシステムにもっと自信を持つべきです。長年にわたり、多くの国々にとって民主主義は羨望の的であり、大韓民国やフィリピンから東ヨーロッパあるいはかつてのソビエト共和国、アラブ諸国、さらに今やロシアでさえも、民主主義を求めて大きな叫び声が上げられてきました。より成熟した民主主義国家においては、この民主主義というシステムが確実に機能し、自分たちの教訓や経験を共有する必要があるのです。」

サイバー空間の使用と管理

インターネットの衝撃に関する質問に対して、Stanzell大使は、「船を攻撃するのではなく、政府による統制からインターネットの自由を守る」海賊党 (Pirates) と呼ばれるドイツの新しい政党について言及しました。この政党は、最初は地方自治体および州レベルでの地盤を獲得していましたが、今では国家全体で11%の支持があると主張しています。「このことは政府がサイバー空間の使用に関する統制ができることを大きく示していると思います。」

外務省の石井審議官は、この論点は2つの観点から議論されたということを付け加えました。1つの観点は、自由なアクセスをどのように守るかということです。この点に関して国際連合は、現在、ヨーロッパで作られているルールを基盤とした新たなルール作りを始めている。2つめの観点はソーシャル メディアを使用することを含め、災害に関連した情報を発信するツールとしてインターネットを使用するということです。

アラブの春においてソーシャル メディアが果たした役割という観点から、インターネット統治の問題は政治学者の間でも注目の話題になっていると細谷教授は説明しました。「ソーシャル ネットワークはまた世論の形成において強い影響を与えることができる。フィナンシャルタイムズやワシントンポストといった良質の新聞は、長年大きな影響力があったが、これらのメディア組織と、インターネット上で起きている議論との間のギャップはますます大きくなっている。その議論はしばしば匿名で行われ、とても民主主義的な性格になることが多い。」

しかしながらフィナンシャル タイムズの編集者であるPilling氏は、高尚なメディアと匿名のソーシャル メディアの評論家を区別する必要性はないと考えている。「思想は公開の場で戦わせるべきだ」と彼は述べて、あるニューヨークのコラムニストを引き合いに出しました。そのコラムニストは昔は毎朝起きては、6人のライバルが新聞に記載した事柄を見たそうですが、「今は毎朝起きては、600万人が語る事柄を読んでいる。この方がはるかに良い!」と述べたそうです。

中国と民主主義

中国大使館のあるスタッフは、民主主義はアラブの春の支持者が求めた解決策を提示していないという点を指摘しました。彼はまた今日の中国は1960年代および1970年代の中国とはかなり異なることを指摘しました。国家が変化する能力を甘く見るべきではないと彼は述べ、外部の国々の忍耐がとても重要であると付け加えました。

アメリカはヨーロッパの同盟国と共にアフガニスタンで戦っています。なぜならばアメリカ連邦議会が毎年戦費を承認するからです。「アメリカ連邦議会の議員は人々によって選出されるので、もし人々が戦争を支持しないなら戦争はすぐにでも終了する。」とワシントン ポストの編集者であるHiatt氏は説明しました。

中国の過去30年の発展は確かに驚くべきものです。「歴史上これほど大勢の人々が貧困から解放されたことはありません。」とHiatt氏は述べました。しかし中国内部の人々が民主化あるいは中国共産党以外の政党に対する要望を口にすると、「彼らは牢屋に入れられるか追放させられます。それで外部の世界が忍耐があるかどうかが常に問題ではなくて、中国人自身が、統治機構がどのように発展するかもっと公にすることをなぜ許されていないのかが問題なのです。」

日本の歴史という観点から見ると、「民主主義なしでは1945年以降に日本が経験した種類の急速な経済成長を成し遂げることは決してできなかった」と細谷教授は言い足しました。民主主義は「白か黒か」ということではありません。現在の中国政府には民主的な要素も既に多く見られると彼は示唆し、「中国が現在のレベルの経済成長の維持を望むなら、民主主義的な原則が広く行き渡る領域を拡大する必要がある。」と述べました。

政治の停滞

アメリカおよび日本で見られる政治的な停滞の責任の一部をメディアが負っているかどうかという質問に対して、Hiatt氏は「未だかつてないほどの読者がいるが、未だかつてないほど収入は少ない」とデジタル メディアの「破壊的かつ建設的」な面を指摘した。

メディアと政治の停滞には関係があると彼は指摘しています。「より分裂を加速させる分野においてはそうでしょう。過去において、異なる見方に時々出くわすことは避けられなかったからです。今日では、人々は選ぶなら、自分たちが同意できることを知っている見方だけを掲載したサイトだけを見ることができます。これにより政治的な妥協に達することはより難しくなっています。」

この意見にPilling氏も同調しました。「私たちの論説ページを見れば分かりますが、そこには内部のコラムニストからの記事も外部のコラムニストからの記事も両方あり、本当の対談が行われてます。」と彼は述べています。彼は政治姿勢が明確に確立された新聞ではこうではないことを述べました。「しかしこれは有害であり、Hiatt氏が今話した分裂を加速させる原因の1つだと思います。1つ以上の見方あるいは正反対の見方があることはとても貴重だと思います。」

三者間協力

三者間協力のトピックに戻り、東京財団研究員および広報渉外ディレクターの今井章子は、パネリストに対していかに、日本、アメリカ、ヨーロッパが、安定してオープンな世界秩序を維持し、世界情勢において影響を及ぼせる勢力として留まることができるかについて質問しました。

細谷教授はグローバルな問題は3つのレベルから取り組む必要があると考えています。1つめは7つまたは8つの国家のレベルで、発達した先進民主主義国家が協働して構築すべき順序に従ってコンセンサスを構築することです。「この合意が開始点となり、次に第2層である、中国、インド、ブラジル、トルコ、韓国、インドネシアなど20の新興国の意見が求められることでしょう。」

第3層は、多くの国家から構成される国連総会またはCOP会議などのフォーラムになるでしょう。「これらのフォーラムで、ゼロから協議しなければならないとしたら、いかなる協定も締結することは不可能でしょう。」

外務省石井審議官は三者間協力は中国およびロシアとの関係を平和裏に維持するためには不可欠であると述べました。「ユーロ危機はヨーロッパが中国経済に大きな影響を及ぼすことを強調しました、また私は一般的に考えられているよりもヨーロッパとアジアの経済的な結び付きはより強いと考えています。」

日本とヨーロッパはともにロシアの隣国であるが、ロシアにとっては弾道ミサイル防衛は重要な問題であると石井審議官は述べました。協力できる可能性がある分野としては、日本とアメリカにより協同で開発されているより高度なミサイル防衛技術をヨーロッパと共有することでしょう。

「多くの肝要なトピックに関してヨーロッパと日本の間では十分な対話がなされていません」とStanzel大使は失望の言葉を述べました。「二極世界の秩序は崩壊し、世界の秩序は次第に弱くなっています。新たな巨象たちは、主要な貢献者になっていません。我々が頼れるのは、日本、アメリカ、ヨーロッパが過去数十年の間維持してきた安定性にのみです。それゆえ、世界秩序の3本柱が戦略的な対話を続け、新たなルールを作る方法を生み出さなければならないです」と大使は述べました。

Pilling氏はしかしながら、中国とは少し距離を置くことへの警告を述べました。「三者間協力には潜在的な危険があり、反中国クラブまたは中国を閉じ込めようとしているとみられる可能性がある。」

これは中国が傑出した大国になることを示唆するものではありません。「しかし中国がアメリカよりも巨大な経済力を築き上げ、さらにそれ以上の経済力を持つ日が来ることは確かです。」

三者間協力のより有益な分野は金融構造の分野でしょう、と彼は指摘しました。「リーマン ショックの後でさえ、金融規則の再形成は何もありませんでした。これはより大きな被害を引き起こす可能性があります。環境問題と災害への準備という点も、日本がソフトパワーを発揮できる分野です。」

Hiatt氏は、「すべての答えを持っている国はありませんが、私たちの経験は、自由主義的な法制度の発展および政党の構築など技術的、実質的な問題を解決するのに大変役立つ。」と話し、より発達した民主主義国家が、若く過渡期にある民主主義国家の成長を助けられると確信していると言及し締めくくりました。

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