2008 9.25 THU
「食のたからもの再発見プロジェクト」写真展
【日時】2008年9月25日 18:30~20:30
【テーマ】「食べ支えよう、食のたからもの」
【スピーカー】 島村菜津(東京財団 研究員)、山口博(豆問屋「山口物産」代表取締役専務)
東京財団は、政治、外交、経済、文化・文明等、多岐の分野にわたる政策研究を行う政策シンクタンクです。私たちは「政策は生活だ」と考えています。これは、政策は生活実感に根ざしたものであるべきという意味であり、中でも食は人間生活の根本です。しかしながら、現在の日本では食料政策や農業政策がおざなりにされ、惨憺たる状況が毎日のように繰り広げられています。
東京財団では、これまで食に関する取り組みを幾つか重ねてきました。今回の写真展のもとになった「食のたからもの再発見プロジェクト」もその一環であり、昨年から始まりました。日本各地には地域独自の祭事や職人芸、町並みや景観、言葉や郷土料理等、有形無形の「たからもの」が存在します。しかし、いま、そうした伝統の多くが、経済効率優先の流れの中でその価値が認識されないまま、次世代に受け継がれることなく消失しつつある、という危機的な状況にあります。本プロジェクトは、特に人間の根源である「食」に焦点をあてて、失われつつある日本古来の食文化と生産が危ぶまれる食材、それを支える生産者や生産地を取材し、国内外に発信することを通じて、地域が活性化していくことを目指しています。というのも「たからもの」、つまり地域資源こそ、地域活性化の源泉であると考えるからです。
レクチャーは二部形式で行われ、まず島村研究員による昨今の食糧事情と取材レポートについて、そして豆問屋「山口物産」の山口代表取締役社長との対談が行われました。
まず島村研究員は、日本の地域再生のモデルとして、イタリアのトスカーナ地方を紹介しました。トスカーナ地方の再生のカギは「量から質への転換」つまり大手と競って量産するのではなく、「質」に拘り、在来種を見直していくことでした。そして日本の地域再生もそうあるべきであるという思いから、様々な日本の「たからもの」を取材してきましたが、島村研究員は、今回、その中の「焼畑カブ」を紹介しました。
焼畑は、数百年前から続く日本独特の農業であり、山を育てながら続けていくため「山と付き合う」という表現が使われることもあります。しかし、伐採や火入れなど、大変な手間がかかるため、日本から失われつつあります。島村研究員はこのような焼畑を行うベテラン層のことを「超人的な体力をもち、身ひとつでも生きていける貴重な技術をもった『食育のマエストロ』」と命名し、「こういった人たちにもっと注目しスターにしていくこと、また、ものづくりをしている人のもつ感性や技を、何らかの方法で伝えていくことが私たちの役目なのです」と訴えました。
続いて、豆問屋「山口物産」の山口氏代表取締役専務との対談の中で、山口氏の食への取組み状況が紹介されました。
山口氏は自ら生産地に出向き豆を選定、生産者の分からない原料、遺伝子組み換えの大豆は一切使わないという姿勢を貫いています。そもそも、遺伝子組み換え大豆が出回り始めた15年ほど前に、危機感を覚えた山口氏が「遺伝子組み換えでない大豆」と「生産者の顔の見える原料」を日本の大きな商社に依頼したところ、断られ、自らアメリカのやや規模の小さい商社に直接出向いて契約を結び、遂にはオーダーメイドの大豆づくりを実現させたことがきっかけでした。山口物産の地大豆は、町で経営を続けている小さな小売店を中心に出荷されています。小さな農家と小さな小売店を繋ぎ、地大豆を支えていくことに山口氏は拘りをもっています。
また山口氏は、数年前より国産大豆にこだわる豆腐屋「大桃豆腐」と一般のお客さんも交えて大豆作りを始めました。有機農家から借りた畑が3反だったことから、「3反プロジェクト」と命名され、関東近辺において、生産者・製造者・消費者の3者による豆から育てる豆腐作りが行われています。
最後に島村研究員より、昨今の食のグローバル化の中で、食べる側にも、作る側にも、大きな意識改革が必要であること、つまり、地元の生産者の努力だけでなく、それを都会で食べる私たち、食品メーカー、産業界、政治家、一人ひとりが意識を変えていかなければならないとの指摘がありました。日ごろ、私たちが口にしている食べ物、一つひとつに必ず生産者がいます。私たちが最も望んでいる安心・安全なものを食べること―これが日本の生産者を支えること(「食べ支え」)に繋がるのではないでしょうか。
文責:佐藤麻衣