2007 12.4 TUE
第9回東京財団フォーラム「経営と戦史にみる『撤退の研究』」
■第9回 東京財団フォーラム「経営と戦史にみる『撤退の研究』」
【講 師】
森田 松太郎(日本ナレッジ・マネジメント学会理事長、公認会計士)
杉之尾 宜生(前 防衛大学校教授、元一等陸佐、戦略研究学会事務局長)
【フォーラム開催趣旨】
経営においても、また国家戦略においても的確な情勢判断、迅速な決断とタイミングのよい対策の実行がなによりも大切です。いかなるケースにおいても、環境の制約というよりも人間の問題に帰着し、結局は経営者、指導者の能力の優劣にかかってきます。事態の特質がなんであるのかを看破し、当初の企画の継続的な実現に見切りをつけることができるのかどうかが指導者の実力なのです。
そこで、今回の東京財団フォーラムは日本ナレッジ・マネジメント学会理事長で公認会計士の森田松太郎氏と、前・防衛大学校教授、元一等陸佐の杉之尾宜生氏に、それぞれの専門分野である企業経営と戦史研究の観点から、過去の歴史や実例に基づいて望ましい戦略的な撤退の方法についてお話しいただきます。
大変大勢の皆様に参加していただき盛況でした。質疑応答の時間も大変に充実したやり取りが行われました。講師の森田松太郎氏、杉之尾宜生氏ともどもお礼申し上げます。
【講演概要:杉之尾宜生氏】
このたび森田松太郎氏と共著『撤退の研究 時機を得た戦略の転換』(日本経済新聞出版社)を上梓した。『撤退の研究』は、企業並びに軍事における撤退はいかなる状況で決断実行されるか、その成否の条件は何かを研究した。その結果撤退の決断は難しい、厳しい条件の下で行われるが、トップの責任が重い。成功の成否は企業及び軍隊のリーダーの卓越したリーダーシップに掛かるリーダーの判断・決断・スピーディな実行が鍵であり、軍事も企業経営も同じである。
自衛官としては実戦を知らずに退職したが、さまざまな問題意識を生かして戦史研究を行ってきた。
織田信長の金が崎撤退は、司令官である織田信長が生きてさえいれば撤退戦としての戦略目的は達成される。また、海軍によるキスカ撤収作戦は、気象士官橋本少尉(九州帝國大学理学部出身)の純学術的判断が戦略的な判断の基礎となった。どちらの例も、二兎を追うことなく原点(戦略目的、任務)に還ることが最善の戦略であることを示している。
故瀬島龍三氏の述懐に「作戦も事業も開始することよりも、撤退することの方がより難しい」とあるが、まことにそのとおりである。
【講演概要:森田松太郎氏】
公認会計士としての長年の活動からさまざまな企業の栄枯盛衰を見てきた。
ミシン業界にみる判断について、以前は、ブラザー工業と蛇の目ミシンはほぼ同規模の会社であった。ところが、ミシン業界の先行きへの判断から、ブラザー工業はミシンから事務用機器のメーカーに変身し、無借金化達成するなど順調な経営をしている。
また、日産自動車の例についても、会社倒産の瀬戸際まで追い詰められていたところ、経営再建を果たした。これは、経営合理化に対するときのゴーン社長(2001年6月就任)による決断とスピーディな実行がある。工場閉鎖・人員整理、下請けの合理化を行うことと平行して、彼は経営にコミットメントという考え方を導入、コミットしたことは必ず実行し実現することを宣言した。
【講師プロフィール】
森田松太郎(日本ナレッジ・マネジメント学会理事長、公認会計士)
1929年北海道生まれ。北海道大学農学部農業経済科、小樽商科大学経理経営専攻科卒業。
59年、公認会計士開業。69年、監査法人朝日会計社設立とともに代表社員。93年、朝日監査法人理事長。
日本アーサーアンダーセン研究所理事長。98年、日本ナレッジ・マネジメント学会理事長。
著書『撤退の研究 時機を得た戦略の転換』(今回の講演者である杉之尾宜生氏と共著)、『経営分析のはなし』、
『会計決算を見抜く方法』、『ビジネス・ゼミナール経営分析入門』、『社内のナレッジマネジメント入門の入門』など
杉之尾宜生(前・防衛大学校教授、元一等陸佐)
1936年鹿児島県生まれ。防衛大学校応用化学科卒業。61年、陸上自衛隊入隊。88 年、防衛大学校教授。
2001年、防衛大学校を定年退官。元1等陸佐。戦略研究学会事務局長。
著書『撤退の研究 時機を得た戦略の転換』(今回の講演者である森田松太郎氏と共著)、
『戦略の本質 戦史に学ぶ逆転のリーダーシップ』、『失敗の本質 日本軍の組織的研究』(ともに野中郁次郎氏らと共著)、
『教科書 日本の安全保障』(田村重信氏と共著)、『戦略論大系(1)孫子』など
(モデレーター 金子(研究部))