東京財団政策研究所 Review No.02

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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011紛争をいかに解決すればいいか、具体的な解決法が見つかっていない。こうした火種にいつ引火するかは分からない。要するに、今後の日中にとって重要なのは、共同でリスク管理メカニズムを創設することである。現在、習近平政権は二期目であるが、これから三期目に入る準備が始まる。中国では、民主主義の選挙が実施されないため、共産党内の権力闘争が激化する恐れがある。アメリカの政治学者イアン・ブレマーは、「国際社会の危機管理機能が弱体化するなかで、地政学リスク、とりわけ米中の対立は深刻なリスクとなる」と述べている。国際社会にとって米中覇権争いがエスカレートすることに伴うリスクをいかに管理するかが問われている。の成果として、多国籍企業による対米直接投資を受け入れ、雇用情勢を改善できれば、次期大統領選を有利に戦うことができる。むろん、アメリカ経済は中国に依存している側面もある。航空機やエネルギー、農業にとって中国は一番の得意先である。米中関係の悪化が長期化すれば、アメリカにとってもダメージが大きい。しかし、国際政治のパワーバランスを考えた場合、アメリカにとっての一番の仮想敵国は、中国ではなくロシアである。ここで中ロが歩み寄った場合、アメリカにとってとんでもない誤算となる。日中共同でリスク管理のメカニズムをつくるべき最後に、今後の日中関係について展望してみよう。政治外交的にいえば、日本にとって日米同盟は基軸となる。現状では、それを揺るがすことはありえない。一方、経済的に日中の相互依存関係がすでに確立している。約2万社の日本企業は中国に直接投資を行っている。日本企業にとって中国は工場であり、市場でもある。中国にとって、日本企業は技術の源である。景気が減速している中国経済にとって、ここで日本企業が大挙して中国を離れてしまうと、さらに景気を押し下げることになる。米中の貿易戦争がエスカレートしているが、日中関係は急速に改善されている。2018年10月に安倍首相は北京を訪問した際、第三国におけるインフラ整備について、中国に協力する用意があると述べた。「一帯一路」プロジェクトがトーンダウンするなかで、安倍首相の態度表明は習近平政権にとって重要な助け舟になる。米中は技術覇権争いに突入しているが、日中は技術協力を強化しようとしている。具体的に、電気自動車と環境エネルギーなどは、技術協力の軸になるとみられている。むろん、目下の関係改善の背景には、中国がアメリカからの圧力をかわすために、中国にしてみれば、日本を利用しているとの側面が否定できない。いかにして安定した日中関係を持続していくかは重要な課題となる。日中にとって朝鮮半島の非核化という共通の関心事がある。一方、歴史認識の違いや領土領海を巡る参考文献と補足解説●*1…HillaryClinton“,AmericaʼsPacificCentury,”ForeignPolicy,October11,2011;WhiteHouse“,RemarksByPresidentObamatotheAustralianParliament,”November17,2011●*2…2001年4月1日、アメリカの電子偵察機は南シナ海で中国軍の戦闘機と空中衝突し、中国軍機は南シナ海に墜落。パイロットは行方不明になり、米軍機は海南島に不時着した。一時期、両国の軍事的緊張が高まったが、最後は、両国政府はこれ以上のエスカレートを避けたい思惑もあって、米軍機の機材が返還された。しかし、この事件の意味はアメリカ政府が中国を「戦略的競争相手」とみなすようになったといわれている。●*3…日韓の間で、慰安婦問題と徴用工問題があるが、日本政府はそれがすでに解決済みとするが、韓国政府と韓国与論は民間への賠償が終わっていないとしている。●*4…鄧小平自身は毛沢東型独裁政治の被害者だったため、民主化こそ拒まれたが、それに代わる集団指導体制が導入された。中国はアメリカの圧力をかわすため日本を利用している。


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