東京財団政策研究所 Review No.5

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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11毛沢東思想であり、ジョージ・オーウェルが『1984年』のなかで描写した「戦争は平和なり、自由は隷従なり、無知は力なり」という「党の三つのスローガン」であろう。結論的にいえば、中国社会はこれまでの30数年間の高度成長期を終え、これからは低成長かつ不安定期に入っていく可能性が高い。なぜならば、市場経済の制度作りと自由・民主主義の政治制度のいずれも構築されていないからである。いまだに政治指導者個人の権威に委ね、国家運営が行われようとしているのだ。すでに自由を味わった人民は、手足を縛られる隷従を受け入れるはずがない。2019年に香港で起きた抗議デモは、まさにこれから中国社会で起きるムーブメントの予告になると思われる。るはずがない。中国経済が成長しなくなれば、共産党の統治も難しくなる。1949年、英国作家ジョージ・オーウェルの小説『1984年』が刊行された。第2次世界大戦直後にもかかわらず、作家には先見の明があって、統制社会の内実を如実に言い当てている。この小説を読んだ人は誰もがオーウェルの偉大さに感銘するはずである。スターリン時代のソビエト、毛沢東時代の中国と現在の中国社会そのものである。問題は、一度自由を味わった中国人が『1984年』のなかのような監視社会を受け入れられるかどうかである。国家の針路は政治指導者が決めるものではなく、人民の合議制で決めるはずである。毛沢東時代のやり方で恐怖政治を行おうとしても、社会は安定するはずがない上、経済も成長しない。現在の政治指導者たちはなぜこの簡単な理屈を理解しようとしないのだろうか。中国の現在の政治指導者の年齢はほとんど60歳台である。彼らのほとんどは1960年代、毛時代の文化大革命(1966-76年)のときの中学生で、当時、彼らは紅衛兵と呼ばれていた。紅衛兵とは毛沢東を守る衛兵という意味である。彼らは実は、しっかりとした初等教育と中等教育を受けていない世代なのだ。文化大革命のとき、造反有理(謀反にこそ正しい道理がある)のスローガンを叫びながら、自分たちの先生を殴り殺した世代である。彼らが信奉しているのは、図2●中国の実質GDP伸び率の推移(前年=100)1981年1983年1985年1987年1989年1991年1993年1995年1997年1999年2001年2003年2005年2007年2009年2011年2013年2015年2017年2019年100120118116114112110108106104102%資料:中国国家統計局


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