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02再エネと省エネ・高効率機器の普及による鉱物資源の需要不安定化まず考えるべきは、エネルギー転換は、再エネ設備導入量の大幅な増加を促す可能性があるということである。例えば、2015年の大規模水力を含めた世界での再エネ設備導入量は約1,973GW(全設備容量の約31%)となったが、国際エネルギー機関(IEA)が公表した報告書「WorldEnergyOutlook2016(IEA、2016)」におけるパリ協定の“2℃未満”の目標を達成するためのシナリオ(450シナリオ)では、その導入量が2040年には約6,955GW(全設備容量の約59%)にまで拡大すると予測されている。また、風力発電における設備導入量については、2015年の383.58GWに対して、2040年には約6倍の2,312GWになるとされているが、この年間増加量は単純計算すると、およそ80GW/年となる。そして、風力発電におけるタービン製造には、レアアース元素の一つである「ジスプロシウム(Dy)」が使われるが、その使用量を最大で25㎏/MW(WorldBankGroup、2017)とすると、年間約2,000tのジスプロシウムが必要になる。2017年のジスプロシウムの世界生産量が約1,500t(AdamasIntelligence、2018)であったことを考えると、風力発電設備の需要だけでジスプロシウムの年間生産量を上回ることになり、供給の不安定化が発生することが考えられる。省エネ・高効率機器の急激な普及や拡大は、鉱物資源リスクを招く可能性があるのだ。また、導入が進められている電気自動車(ElectricVehicle:EV)は、2017年の世界保有台数が約300万台(IEA、2018)で、車載用蓄電池の電極材として「コバルト(Co)」が欠かせない鉱物である。例えば、テスラ社のモデルSでは、一台当たり、コバルト9.9kgが使われる(SNEResearch、2017)。IEAの450シナリオ(IEA、2016)では、EV累積台数が2040年までに7億1,500万台に達するとされているが、そこでの年間増加台はじめに世界は、化石燃料の利用を大幅に削減するとともに、再生可能エネルギー(以下、再エネ)や省エネ・高効率機器の普及を進めるという「エネルギー転換」へと急速に向かっている。この「エネルギー転換」は、平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃未満に抑えることを目標にした、「パリ協定(2015年12月に採択)」の達成を目指したものである。ただ、これらは生産に必要な鉱物資源の需要を増大させ、需給不安定化(鉱物資源リスク)を引き起こすことが危惧されている。鉱物資源リスクに対処するためには、従来、供給源の多元化や代替技術の開発、備蓄などがされてきた。しかしながらエネルギー転換により、普及が進む再エネ施設と省エネ・高効率機器は多岐にわたり、鉱物資源リスクが発生する鉱種も多種多様となることから、これまで展開してきた施策だけでは十分に対処できないことが考えられる。これらに対処するためには、資源循環政策を推進していくことが重要となるが、日本での都市ごみのリサイクル率は18%にとどまっており(産業環境管理協会、2018)、その多くが焼却処分されているなど「循環型社会」の構築には至っていない。そうした中、欧州連合(EU)では、資源の採鉱→生産→消費→廃棄物管理→廃棄物からの再資源化→生産という循環サークルを形成し、各段階で必要な施策を講じることで、資源の価値を可能な限り持続させる「サーキュラー・エコノミー(CircularEconomy、以下CE)」の構築が進められている。本稿では、エネルギー転換による鉱物資源リスクの影響を考察するとともに、欧州で進められているCEの具体像と日本の資源循環政策との差異を分析しながら、CEが日本へ及ぼす影響を考察していく。エネルギー転換による鉱物資源リスクとサーキュラー・エコノミー特別レポート