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08このことは米中貿易戦争の一因になっている。習近平政権が打ち出した「中国製造2025」計画は壮大な目標を掲げたが、それを実現するには、中国企業の地道な研究・開発が必要不可欠である。5G技術競争に代表される覇権争い6オールドエコノミー、伝統的なモノづくりの技術のキャッチアップは漸進的に技術レベルをあげていくしかない。戦後日本のモノづくりの、ケミカル、鉄鋼、自動車などはその典型である。新しい技術が開発されても、それを製品化していく職人・技術労働者がいないといけない。結局、日本は約50年の歳月をかけて、技術レベルを世界ナンバーワンに引き上げることに成功した。政府共産党は市場の一部を外国企業に譲る代わりに、先端技術の移転を求めてきた。今回の米中貿易戦争において、外国企業に技術移転を強要した事実はWTOルールに違反するとして問題になっている。2018年は中国「改革・開放」政策の40周年である。40年前に比べ、今の中国は世界の工場を誇れるようになった。しかし、オールドエコノミーの最先端の技術をみると、中国に進出している外国企業はそのキーコンポーネントの技術を支配している。しかし、中国のような大国、とりわけ強国復権を目指す習近平政権にとって、キーコンポーネントの技術をいつまでも外国企業に依存するわけにはいかない。技術力をショートカットして躍進していける分野といえば、情報通信産業がもっとも有望である。現在、世界主要国の通信機器メーカーは5G(第5世代移動通信システム)の開発にしのぎを削っている。マッキンゼー・アンド・カンパニーの調べによると、日本は5Gの開発で欧米と中国に遅れを取っているという。なぜ日本は5G技術の開発が遅れているのだろうか。一言でいえば、日本には5Gを開発し利用する包括的な戦略の制定と実行が遅れている。具体的には、規制当局(行政)、サプライヤーとメーカー(産業界)の連携が十分になされていない。現在の予定では、2019年に主要国は順次5Gに移行する予定とみられている。2020年末には5Gのフェーズ2に入っていく予定だ。中国は世界の製造業強国に仲間入りし、2035年までに中国の製造業レベルを世界の製造強国陣営の中位に位置させ、最終的に2049年(中華人民共和国建国100年)に世界製造強国のトップレベルに達するという計画である。「一帯一路」プロジェクトと違って、「中国製造2025」は中国にとって必要なものと思われる。世界の工場としての中国の製造業は、付加価値の低い生産加工に集中している。かつて、中国商務部の商務部長(大臣)は「中国は1機のボーイング737機を輸入するのに、2億から3億枚のワイシャツを作って輸出しなければならない」と述べたことがある。今回、米中貿易戦争が勃発してから、中国政府の役人は「中国はアップル社からiPhoneの組み立てを受注している。1台のiPhoneは1000ドルもするが、中国に落ちる売り上げは1台につきわずか6〜7ドル程度」と不満を述べている。中国政府のスポークスマンによると、中国の対米貿易は確かに黒字だが、付加価値貿易で見た場合、赤字である。「中国製造2025」計画こそ、中国の付加価値貿易を黒字にするプロジェクトである。図4に示したのは、グローバルバリューチェーンのスマイル曲線だ。現状において中国の製造業は主に生産加工段階に集約している。「中国製造2025」計画は、中国が生産加工だけでなく、研究・開発へと産業構造の高度化を図ることを目指している。この計画は完全に自主開発に基づくものであれば、まったく問題にならないが、問題なのは、先進国企業の技術や知財権が中国企業によって侵害されていることにある。知財権の侵害が米中貿易戦争の一因になっている。図4●グローバルバリューチェーンのスマイル曲線と中国製造2025出典:筆者作成付加価値研究・開発物流・流通マーケティングサービス生産加工中国製造2025デザインブランド戦略ChinaWatch1