東京財団政策研究所 Review No.02

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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07ミットが開かれた。歴史家は、この「一帯一路」サミットを古代中国の朝貢外交の華夷秩序と揶揄するものがいる。問題は中国が「一帯一路」プロジェクトの建設を通じてどんな目標を達成しようとするかにある。2018年、中国で開かれた中国・アフリカ協力フォーラムで習近平国家主席は、600億ドルを拠出するアフリカ支援を表明した。「一帯一路」プロジェクトは物流インフラを整備することで、中国の国際貿易に資するものと期待されている。しかし、アフリカへの支援は単なる物流インフラを整備するための支援ではなく、外交・安全保障上、とりわけ国連などの国際機関においてアフリカは非常に重要な存在になっている。ただし、「一帯一路」プロジェクトのような中国の夢が実現するには、中国経済が成長し続けなければならない。図3に示したのは、中国の対外直接投資と「一帯一路」沿線への直接投資の推移である。2017年から中国の対外直接投資は減速するようになった。一方、「一帯一路」沿線への直接投資はまったく増えていない。なぜならば、「一帯一路」沿線への直接投資のほとんどは国家プロジェクトであり、民間の資本はほとんど入っていないためである。「中国製造2025」計画の狙いと行方5習近平政権は「一帯一路」プロジェクトと同時に、「中国製造2025」というビッグプロジェクトを進めている。「中国製造2025」は中国版インダストリー4.0と呼ばれるものであり、具体的に2025年までに分もあるが、権力の象徴として「面子工程」(メンツプロジェクト)は特別な意味を持つ。習近平国家主席は、その前任者と同じように自らが何らかのプロジェクトを立ち上げ建設しようとする。そこで考えられたのは「一帯一路」プロジェクトである。「一帯一路」とは、古代のシルクロードを真似して現代のシルクロードと性格付けされている。具体的にいえば、それは陸のシルクロードと海のシルクロードからなる「一帯一路」(OneBelt,OneRoad)というものである。中国が「一帯一路」プロジェクトを打ち出したもう一つの背景は、オバマ政権のときすすめられた環太平洋経済連携協定(TPP)が現実味を帯びたことにある。それは中国を封じ込めるための経済協定とみられていた。当然のことながら、中国は座して死を待つことをせず、TPPに対抗する何らかの枠組みを考案する必要があった。そこで提起されたのは「一帯一路」プロジェクトだった。しかし、TPPと違って、「一帯一路」プロジェクトは“協定”(agreement)ではない。中国商務部の役人にインタビューすると、毎回のことだが、「一帯一路」プロジェクトは、関係の国々と地域が利益を共有するための「平台」(プラットフォーム)であるといわれている。すなわち、中国が域内で鉄道、道路、港湾などの物流インフラを整備し、物流効率を向上させたうえで、関係の国々はそれを利用しやすくするという互恵的な考え方だった。では、中国にとって「一帯一路」プロジェクトを推進するためのメリットが実際にあるのだろうか。いくら中国政府が「一帯一路」は域内の互恵的な枠組みだと説明しても、先進国からみると、それは中国的ヘゲモニーであると警戒する。具体的に、中国は「一帯一路」沿線諸国のインフラ施設を整備しようとしているが、一部の関係国が将来的にその債務を返済できなければ、そのインフラ施設の運営権は中国にわたってしまう恐れがある、という懸念である。共産党の論理からすれば、中国は世界二番目のGDP規模を誇っている。「一帯一路」プロジェクトは単なるインフラ施設を途上国などに輸出するためのプロジェクトだけでなく、中華民族復興のシンボルのような存在である。それを実現するために、2017年5月、北京で主要国首脳が参加する「一帯一路」サアフリカへの投資は単なるインフラ整備の支援にとどまらない。図3●中国の対外直接投資と「一帯一路」沿線地域への直接投資2017年2013トータル対外直接投資「一帯一路」沿線への直接投資2014201520161800(億ドル)16001400120010008004002006000出典:中国商務部


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