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02指導での強い中国を実現することである。三点目の国家統治体制の近代化は、1970年代故周恩来首相が提案した「四つの近代化」(工業の近代化、農業の近代化、科学技術の近代化と国防の近代化)に、五つ目の近代化が加えられたのである。その中身について二つ重要なポイントが含まれている。一つは、法をもって統治するという「法制」(rulebylaw)である。すなわち、共産党にとって法律は国を統治する道具であり、党が法を凌駕するものである。もう一つは、顔認証などAI(人工知能)とビッグデータのハイテク技術を駆使した人民に対する監視体制の強化である。これこそが、習近平が実現しようとする国家統治体制の近代化なのである。※注経済自由化によってもたらされた中国の繁栄世界の中国研究者の一部では、中国の政治経済体制を国家資本主義(statecapitalism)と定義している。しかし既存の研究では、国家資本主義について必ずしも明確な定義がなされていない。かつて、ASEANなどの新興国で進められた開発モデルを、開発独裁(developmentalism)と定義していた。開発独裁というのは、国家(政府)が市場経済システムに介入し、重点産業や特定の企業を優遇して、経済全般をけん引していくやり方である。1980年代以降、東アジア諸国で奇跡的な経済発展を成し遂げられたのは、この開発独裁のモデルと無関係ではなかった。中国では、これまでの40年間(1978-2018年)、とりわけ習近平政権が誕生する前の30余年間は、経済の自由化が進められ、その結果、奇跡的な高成長を成し遂げている。「改革・開放」政策以降の中国の開発モデルと東南アジア諸国の開発モデルを比較すれば、2019年10月1日、中華人民共和国は建国70周年記念日を迎えていた。天安門広場では、その記念式典と大規模な軍事パレードが執り行われ、この式典で習近平国家主席はいつもよりも短い演説を行った。習近平の演説を要約すれば、かつて中国の国力が弱かった時代には、外国列強に侵略されてきた歴史があり、だからこそ、中国が二度と侵略されないためには、国力を強くしなければならない、それを実現することができるのは、中国共産党だけである、となる。そのなかでとりわけ強調されたのは、①共産党統治体制の維持②強国復権の夢の実現③国家統治体制の近代化の三点だった。この短い演説で習近平は、自らが描く国家像をはっきりと提示している。すなわち、共産党による統治、強国復権と統治体制の近代化であり、共産党序論/習近平が描く強い中国は実現できるのか?自由化から統制強化へと大転換した習政権の狙いと中国経済の近未来中国南京市生まれ。1988年来日。92年愛知大学法経学部卒業、94年名古屋大学大学院経済学研究科修士課程修了。長銀総合研究所を経て富士通総研経済研究所の主任研究員に。2018年より現職。静岡県立大学グローバル地域センター特任教授・広島経済大学特別客員教授兼務。主な著書に『中国「強国復権」の条件「一帯一路」の大望とリスク』(慶應義塾大学出版会、第13回樫山純三賞受賞)、『中国の不良債権問題―高成長と非効率のはざまで』(日本経済新聞出版社)など多数。柯隆東京財団政策研究所主席研究員共産党指導で強い中国を実現することが、習近平の考える近代化だ。ChinaWatch4