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06月以降、シンガポールのオフショア市場の外貨預金が急増しているという事実がある。その多くは、香港から送金されたものとみられている。両国の「文明衝突」の行方3先に述べたように、米中対立が日増しにエスカレートしているのは、相互の信頼関係が完全に崩れたからだと考えられる。とくに第3ステージに入って、相互の領事館が閉鎖したことに加え、中国が香港の「一国二制度」を50年間維持する約束を破ったことで、アメリカ人の対中感情の悪化に拍車がかかり、いまや中国のことを好ましく思わないアメリカ人の割合は73%に達している(図表1参照)。一般的に、二国間関係の悪化は相互で同時に進むものである。1999年、米軍は旧ユーゴスラヴィアの中国大使館を誤爆し、3人もの中国人記者が犠牲になった。それに対して、北京の米国大使館前で大規模な反米デモが起きた。しかし、今回、トランプ政権がヒューストンにある中国総領事館の閉鎖を命じたことに対して、中国では、反米デモが起きていない。一方、その対抗措置として中国政府は、成都にあるアメリカ総領事館の閉鎖を命じた。米国総領事館が閉鎖されたとき、少しだけ野次馬が発生したが、大規模な反米抗議デモは起きなかった。1999年当時と比べて、今はネット時代である。中国国内のインターネットのウェブサイトを見ると、内外から習政権に対する期待が高まっていた。若返った習政権が、思い切った改革に着手すると思われていたためである。しかし、これまでの7年間を振り返ると、習政権は反腐敗には取り組んだが、市場統制の強化と言論弾圧など、改革を前進させるどころか、むしろ少しずつ逆戻りさせているといえる。中国が民主化しなければ、香港も強権政治に転換させられる可能性が高く、「一国二制度」は最初から破綻する運命だったともいえる。中国の政治体制が少しでも民主化の方向へ歩み寄れば、「一国二制度」はもう少し存続するだろうし、将来的に民主主義のほうに統一されれば、香港住民側も中国側も円満に向き合うことができるようになる。だが北京が民主化を拒否する以上、民主主義である香港を受け入れることはできない。したがって、香港の中国化は時間の問題である。ただし、中国が香港の中国化を急ぐ、その代償も大きい。まず、香港住民の人心が離れ、“香港が香港でなくなってしまうこと”が挙げられる。人心が離れている証拠の一つとして、中国で新型コロナウイルスの感染拡大や長江流域の大洪水があっても、香港住民による支援金が募られていないことが挙げられる。また、中国は香港に適用されている「一国二制度」と同じやり方で台湾を統一しようとしているが、香港統治に失敗すれば、台湾を平和裏に統一することもできなくなる。2019年1月2日に習主席は新年談話のなかで、「台湾統一に武力行使を辞さない」と述べた。これは本音だろう。さらに、自由と司法の独立性を失った香港は、もはや国際金融センターではなくなってしまう可能性が高い。アメリカ政府は、すでに香港に付与している特別優遇措置の停止を発表している。中国からすれば、国際金融センターとしての香港を失う代償は、あまりにも大きすぎる。しかも、香港の富裕層とエリート層は海外への移住を加速させている。金融資産が流出するにあたって、現在の1ドル=7.8香港ドルのペッグ制*2が外れる可能性が高くなる。つまり、香港は将来、中国の一都市に変わってしまうことになる。そうなると香港の代わりに、シンガポールが新しい国際金融センターになる可能性が高い。2020年4図表1●中国に関するアメリカ人の見方注:2020年の調査は同年6月16日から7月14日の間に行われたもの資料:PewResearchCenter激化する対立の原因は「利益相反」だけではない!好ましい好ましくない%080706050201040302005202020152010ChinaWatch6