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09最後に述べておきたいことは、中国が真の強国として台頭していこうとすれば、世界主要国との協調姿勢を徹底していく必要があるということだ。中国は、「恐れられる国」ではなく、「信頼される国」になる努力が必要不可欠なのである。「改革・開放」政策への原点回帰5国際政治学者は、「外交は内政の延長である」と指摘している。この見方が正しければ、中国の外交戦略に問題が起きているということは、内政に深刻な病原体が潜んでいる可能性がある。上で述べたように習政権は強国復権の夢を実現しようとしているが、実力以上の拡張路線を進め、主要国との関係は日増しに悪化している。ここで、「改革・開放」政策の原点に立ち返って、さらなる市場開放と規制緩和を軸とする制度改革を進めなければならない。さもなければ、中国社会が毛時代の大混乱を再び経験することになる。もともと「改革・開放」政策の方向性は、開放された自由な市場経済を実現することだった。2001年に中国がWTOに加盟したとき、朱鎔基首相(当時)は金融市場を含め、すべての市場を外国企業に開放すると約束した。残念ながら、その後、中国の市場開放は大幅にトーンダウンしてしまった。胡錦濤政権はきわめて無為無策の政権だった。習政権になってから、経済統制、言論統制、報道規制、ネット規制など、統制と規制が日増しに強化されている。統制された社会では、経済の活力がどんどん殺されてしまうことになる。2013年3月、習氏が国家主席として正式に選出されたとき、中国内外では、lostdecade(失われた10年)から脱出するため、習政権に対して抜本的な改革の実施が期待されていた。その結果、これまでの7年間、反腐敗キャンペーンで累計260万人の共産党幹部が追放されたという驚きの事実がある。このこと自体は国民から多くの支持を集めているが、腐敗を防止するガバナンス機能が用意されていないため、腐敗が“エンドレス”になってしまっている。同時に、習政権は権力集中を狙うあまり、改革を前政権以上にトーンダウンさせてしまっている。一部の研究者によれば、習政権が目指しているのは国家資本主義であるといわれている。見方によっては、毛時代の中央集権と市場経済を組み合わせようとしているようにもみえる。しかし、統制された社会では、自由な市場経済は根付かない。加えて、習政権指導部のほとんどは、現在60代である。すなわち、1960年代に小中学校に在籍していたということになる。当時の中国では、文化大革命(1966-76年)という知識人を迫害する政治キャンペーンが繰り広げられた。中学生を中心とする紅衛兵たちは、学校の教師たちを次々と迫害した。その世代の人たちが、現在の中国政治の中枢を支配している。この現実からも、中国社会が闊歩して毛時代に逆戻りしている原因が理解できるだろう。このような論点整理を踏まえて、目下の米中対立は“起こるべくして起きたこと”と理解することができる。なぜならば、自由と民主主義のアメリカと強権政治の中国が協調することは、不可能だからだ。たまたま、トランプ大統領はその引き金を引いただけであり、そうでなくても、米中「新冷戦」の勃発は時間の問題だっただろう。習政権は米中対立が激化した原因と責任について、すべてはアメリカにあると主張している。極論すれば、その言い方は完全には間違っていないかもしれない。しかし、問題の本質は両者の体制が水と油の関係であることにあり、アメリカ政府が進めた対中エンゲージメント政策(関与政策)は誤算だったのである。毛時代に逆戻りする中国……米国との衝突は必然だった