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11能しなくなった。そればかりか、国際連合でさえも機能しなくなっている。これは、トランプ大統領だけでなく、国連事務総長であるアントニオ・グテーレスも認めているところだ。国連は設立以来の危機に直面しているといっても過言ではない。こうしたなかで、米中「新冷戦」が勃発したのである。安倍首相は突然辞任したが、その後継として菅政権は安倍政権の国際戦略を継承し、日米同盟を軸とする戦略を続けるとしている。しかし、今こそ新しい国際秩序を構築する際の日本の役割が問われている。そのための国際戦略を明確にしなければならない。ここで強調しておきたい点は、不安定期の国際社会にとって必要なのは強いリーダーシップであるということだ。図表2に示したのは中国人の持つ日本の印象であるが、近年明らかに改善している。だからこそ、日本にとって重要なのは中国戦略を再構築することである。安倍政権が描いた中国との関係改善の誤算は、歴史的な負の遺産をほとんど処理せずに、関係改善を図ろうとしたところである。日本が描いている国際戦略のなかで中国の位置づけを明確にしないまま、中国との関係改善を図ろうとしても、安定した日中関係が実現されることはない。日本は、国家の安全保障をアメリカに依存し、経済を中国に依存している。新型コロナ危機をきっかけに、安倍政権は補正予算を準備して中国にある日本の工場を日本国内、ないしは東南アジアなどへ分散することを図っている。このことは、サプライチェーンの安定性を強化するための措置として重要だが、中国とのデカップリング(断絶)にはならないはずだ。日本にとって、戦略物資の製造やハイテク基幹部品の開発と製造を中国国外へreallocate(再配置)することは合理的といえる。しかし、中国との新たな関係性は依然として、はっきりとみえてこない。そんななか、2020年8月28日、安倍首相は突然健康問題を理由に辞任を表明した。その後継政権は2021年9月までの過渡的な政権であり、本格的な外交戦略を考案することができない。おそらく、日中関係はこのまま安倍政権が描いたロードマップを継続して、2021年秋以降に誕生する新政権のもとで、あらたな戦略が作成されることになるだろう。菅政権に求められるのは中国戦略の再構築最後に、現在、国際社会は戦後75年間続いた体制を見直し、新しい国際秩序を再構築する節目に差し掛かっていると考えられる。国際社会がアメリカという超大国にリードされる時代は、すでに終わった。アメリカ一国で国際社会を引っ張っていくほどの国力は、もはや備わっていない。だからこそ、トランプ大統領はAmericaFirst(アメリカを優先する)と叫んでいる。見方によっては、これはアメリカがあげた悲鳴にも聞こえる。新しい国際秩序の形はまだ見えてこないが、安定した国際社会にするためには、G7を中心とする集団指導体制が望ましいのではなかろうかと思われる。現在、国際社会を支える国際機関のほとんどは、機参考文献と補足解説●*1…荘則棟に対するインタビュー記事より。●*2…自国の通貨と米ドルなど特定の通貨との為替レートを一定に保つ制度。貿易規模が小さく、輸出競争力のある産業をもたない国などを中心に、多く採用されている。●*3…購買力平価は、自国の物価指数と外国の物価指数の対比で為替相場を算出し、GDPを再評価するものである。問題は、中国の消費者物価指数は食品など価格上昇率の高い財やサービスのウェートが過小評価されているため、購買力が過大評価されていることにある。それを無視した購買力平価によるGDPの再評価は、現実的に国力を示す指標にはならない。●*4…2010年2月、ワシントンポストとABCニュースが共同で実施したアンケート調査によると、46%のアメリカ人が、21世紀は中国の世紀になると答えている。図表2●中国人の持つ日本の印象資料:言論NPO良くない印象良い印象%0100708090605020104030200520062007200820092010201120122013201420152016201720182019