東京財団政策研究所 Review No.04

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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09という修飾語の意味は「共産党指導の下で」という言葉に置き換えることができる。この体制は共産党指導が前提となっているということである。中国の現行の経済システムは、共産党指導下の社会主義市場経済であるということである。それでもわかりにくいかもしれない。もう少し深く追求すれば、生産や販売といった経済活動について、原則的に自由に行っていいが、所得分配については共産党指導の下で行われる。要するに、資本家だろうが、労働者だろうが、個人の財産所有権が国益に抵触した場合、それが保障されないということがある。中国の制度設計について、民営企業に金融サービスを供給する民営銀行が設立されていないだけでなく、政府の買い付けプロジェクトでも民営企業はほとんど門前払いされてしまう。民営企業が受けるこのような差別的な扱いについて、前述の北京大学の張維迎教授は「所有制差別」と定義している。日本の商工会議所に相当する中華全国工商連合会が発行する「中国民営企業発展報告2018」によると、民営企業が設立されてから倒産するまでの平均寿命は3年未満といわれている。ちなみに、米国では民営企業の平均寿命は40年以上である。問題は社会主義体制が失敗したのは国有企業の非効率性に原因があり、民営企業が創った付加価値を国有企業に補助金として与えるのは公平性を欠いていることだ。このやり方は明らかに持続不可能である。結論をいえば、国家の役割か市場の役割かを議論する前に、中国は本物の市場経済に移行しなければならないということである。がある。専門のシンクタンクに研究プロジェクトとして外注して、その報告書をもとに共産党中央委員会や国務院に報告するやり方はもっとも無難である。こうしてみれば、中国の政府系シンクタンクの研究と米国のシンクタンクの研究を比べた場合、質的に異なることがわかる。米国のシンクタンクは民主党系と共和党系など理念が異なる場合があるが、基本的に独立した研究によって得られた成果をもとに政策提言を行う。民主主義国におけるリベラルな研究の主な消費者は国民である。この点において決定的に異なる。国家の役割と市場の役割7近代経済学の基本的な命題は需要と供給が均衡する状態をいかに維持していくかにある。そのために、金融政策と財政政策からなる最適なポリシーミックスが考案される。このなかで、もっとも重要な論点は国家の役割と市場の役割のバランスをどのように取るかにある。前述のように、自由な市場経済においてプライスメカニズムは効率よく資源配分を行ううえで重要な役割を果たすものであるが、市場において需要と供給に関する情報の非対称性が存在するため、市場の失敗が同様に起きうる。それを補完するのは国家(政府)の役割である。ケインズ経済学はとくに政府のこうした補完的な役割を重要視するものである。問題は、中国が自由な市場経済ではないことである。中国共産党は現在、経済システムを「中国の特色ある社会主義市場経済」と定義している。そもそもマルクスとレーニンが定義した社会主義は公有制と平等の所得分配を前提にしている。資本家は労働者を搾取する罪びとであり、打倒されなければならない。それに対して、市場経済の基本は自由で資本家と労働者が協力する存在になっている。しかも、労働者も起業ができ、資本家になりうる。逆に、資本家は経営に失敗すれば、労働者になることも多い。マルクスとレーニンの階級論は明らかに静学的なものであり、現実から大きく乖離している。社会主義と市場経済は水と油の関係にあり、相いれない存在である。そのうえで、「中国の特色ある」民営企業より国営企業を優先する現政策は持続不可能。


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