東京財団政策研究所 Review No.04

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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10ナスサムゲームとなる。それがプラスサムゲームに転じるのは改革から一定の時間が経ってからである。それゆえ、制度改革によって不利益を被る既得権益集団は必ず抵抗してくる。これこそ改革を行っていくうえでの高いハードルとなる。そのなかで改革を推進するには、強い原動力が必要である。物理学的に見て、原動力は往々にして圧力から来る。国内において改革を推進していくインセンティブが強くなければ、改革は進まない。比較的やりやすいのは市場を段階的に開放して、そのなかで外圧を利用して、改革を推進していく方法だ。振り返れば、中国で、改革が進んだ時期は、市場が開放された時期とたいてい重なる。2001年に中国は世界貿易機関(WTO)加盟を果たした。その前から市場開放を進めた。実は中国の市場経済の基本的な構図はまさに1990年代の後半にWTO加盟に向けた市場開放と同時に行われた市場経済改革によって完成したものだった。その改革のボーナスとして、2001年以降の高成長につながった。このような論点整理を踏まえれば、目下の経済成長の減速は改革の遅れに原因があって、強いていえば、市場開放の遅れが原因であるといえる。米中貿易戦争をポジティブに捉えるなら大胆な市場開放を進めることができれば、改革は再び深化していけるきっかけとなる。そうなれば、中国経済は再び成長軌道に乗る可能性が十分にありうる。残念ながら、今の中国社会と中国経済の実状を考察すれば、統制経済に逆戻りしているようにみえる。強国を目指す中国が米国の制裁関税に屈しない理由中国経済は明らかに減速しているのに、中国政府は国際社会での影響力を強化しようとしている。習市場開放、制度改革と経済発展の関係性前掲の図表3に示したように、中国経済は急減速している。中国の公式統計では2019年第1四半期の成長率は6.4%、第2四半期は6.2%と景気減速が下げ止まっていない。一般的に新興国経済は何らかの原因により、成長が一時的に減速しても、その後リバウンドして、いわゆるV字回復を果たすことが多い。1997年に起きたアジア通貨危機のとき、東アジアの多くの国の経済は一時的に大きく減速したが、すぐさま回復した。では、減速している中国経済は今後、回復する可能性があるのだろうか。中国経済のファンダメンタルズを考察すれば、世界2位の経済規模、世界の工場としてのステータス、世界の市場としての潜在性、ほぼ完壁に整備されているインフラ基盤、新興国のなかでも突出する教育水準の高さなどから中国経済はこのまま停滞していくとは予想しにくい。中国の経済成長を妨げているのは、制度改革の遅れである。いかなる制度改革も経済学的にみれば、短期的にゼロサムゲームかマイ結論/V字回復するには何が必要か?制度改革こそ中国復活のを握る米中貿易摩擦を外圧に利用せよ図表5●市場開放、制度改革と経済発展の関係性資料:筆者作成①市場開放③経済発展②制度改革ChinaWatch3


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