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05④マルクス・レーニン主義と毛沢東思想を堅持するであった。この四項目の基本原則には虚実両面があり、共産党指導部にとってもっとも堅持しなければならないのは、③共産党指導体制を堅持することである。極論すれば、「改革・開放」そのものは、マルクス・レーニン主義と毛沢東思想を根本的に否定するものである。要するに、鄧はマルクス・レーニン主義と毛沢東思想を堅持すると口では述べているが、本音はそれと決別したはずだ。繰り返しになるが、本当に守りたいのは共産党指導体制だったのである。あれから40年が経ち、習近平政権は鄧小平路線を逸脱し、③共産党指導体制だけでなく、①社会主義の道、②プロレタリア独裁と④マルクス・レーニン主義、毛沢東思想も堅持すると舵を切り返した。習近平理論―政治統制と経済成長のジレンマ習近平政権は、その誕生から経済の自由化に代わって、国の統治を強化しながら経済成長を図っていく考え方に変わった。要するに、市場メカニズムの「見えざる手」による資源配分に代わって、政府による資源配分に変えていくということである。その変化を詳しく考察してみよう。最初は、2012年に聞かれた第18回党大会一中全会で総書記に選出されたばかりの習近平は演説のなかで、「市場メカニズムを強化する」と繰り返して強調した。それを受けて、中国内外で改革を大幅に遅めとする「四人組」が逮捕され投獄された。その逮捕劇も正規な法的手続きを取っていなかったため、実質的にはクーデターだったといえる。要するに、指導者を含むすべての中国人は、法によってその基本的人権が守られていないということである。つまり、中国社会では、あることの正当性は法律によって決められるものではなく、社会の「常識と慣習」によって決められるものになっているのだ。たとえば、「四人組」が悪人だから、法的手続きを取らなくても、逮捕して投獄していいというのは、まさに中国社会に今も存在する「常識と慣習」である。中国では長い間、刑事犯の死刑宣告の書類に「罪が重大なので、殺さなければ、群衆の憤りを落ち着かせることができない」という一文が必ず書かれていた。このような社会通念に基づいた法の執行には、常に恣意性が伴うものである。政権が守りたいのは共産党独裁体制鄧小平が推し進めた「改革・開放」政策はマクロな制度設計に基づいたものではなく、石橋を叩いて川を渡るような実験型のものだった。政策の実験には必ずコストがかかる。日米のような民主主義の国では、改革を実施する前に議会で審議し、それが採決されてから実施に移される。なぜそのように時間をかけて法案を審議するかといえば、不必要なコストを最小化するためである。対して、共産党一党支配の政治体制のもとでは、鄧小平のような強い権限を有する指導者が、トップダウンで改革の実験を命ずる。そのコストは当然のことながら人民が負担する。改革の実験が失敗しても、その責任を取る者はいない。改革の採算を度外視できるからこそ、共産党は大胆に挑戦することが可能だった。40年前の中国を振り返れば、鄧小平は毛沢東の過ちを十分に清算せず、そのまま「改革・開放」のほうへと舵を切った。当時、鄧によって「四項目の基本原則」が提唱された。それは①社会主義の道を堅持する②プロレタリアによる独裁を堅持する③共産党指導体制を堅持する習近平は、国の統治を強化しながら経済成長を図るという。