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06いくことになるという考え方に基づくもので、民営企業を鳥籠に閉じ込めるように政府の管理下に置いておかなければならないという方針であった。当然ながら、政府共産党の管理下に置いておけば、民営企業はたちまち委縮してしまうことになる。しかし、習近平政権誕生までの35年間、民営企業はさまざまな制約を受けながらも、大きく伸長した。民営企業が政権によって受けた制約を改めて整理してみると、①公共工事など政府の買い付けプロジェクトの入札について不利な立場に立たされている②国有銀行の融資を申し込むとき、不当な扱いをされる③新しい事業への参入にあたり、国有企業に比べ障壁が高いなどの諸点が指摘できる。また習近平政権になってから、民営企業に対する統制をさらに強化するレギュレーションとして、一定規模以上の民営企業内に新たな共産党支部の設立を義務付けている。それだけでなく、浙江省など一部の地方行政では民営企業に対する管理監督を強化するために、党幹部を派遣することを決めた。建前としては、行政と民営企業の情報交換と情報共有をスムーズにするためといわれている。偶然かもしれないが、2019年に入ってから、アリババの馬雲(ジャック・マー、55歳)会長、テンセントの馬化騰(48歳)会長、レノボの柳傳志(75歳)会長などが相次いで引退した。こうした一連の動きとして、「国進民退」と表現されているが、その背景には、民営企業に対する統制が強化されていることがある。このことは目下の経済成長の減速をもたらしている(図1参照)。中国で成長した民営企業は政府が統制していない隙間産業中国で政府が重点的に育成する産業のほとんどは重厚長大産業である。これらの産業には民営企業が参入できない。民営企業が大きく伸長している産業分野は、国有企業が支配していない産業ばかりである。アリババとテンセントはその典型といえ、e-commerce(インターネット通販)は、国有企業がまったく参入していない分野といえる。特にテンセントらせた胡錦濤政権に代わって、習近平政権が真剣に市場経済の改革に取り組むことに対する期待が一気に高まったのである。しかし、その後の習近平政権の経済運営をみると、中国内外の有識者の期待は大きく外れてしまった。習近平政権は経済の自由化が共産党幹部腐敗の温床となっていると判断し、腐敗を撲滅するために経済統制の強化を始めた。前述したように、ここ数年、習近平国家主席は国有企業をより大きくより強くするよう、号令をかけている。これまでの40年間の「改革・開放」政策の経験を踏まえれば、奇跡的な経済成長を成し遂げたのは経済の自由化を進めた結果である。しかし、自由な経済活動の政治的な意味を解釈すれば、経済の自由化は民営企業の拡張を意味するものである。民営企業が国民経済をけん引する主役になれば、それは共産党指導体制の弱体化を意味するものではないかと、習近平政権は心配しているようだ。経済運営に関する習近平政権の基本的な考え方は、国有企業を大きく強くすると同時に、民営企業を弱体化させるのではなく、民営企業を共産党の統治下に置いておくことのようである。この考えは、1980年代前半、共産党長老の一人、陳雲が提起した「鳥籠経済」に由来するものである。これは、民営企業を自由にしておくと、いずれ国有企業を凌駕するようになり、そうなれば、共産党指導体制は弱体化して米中の分断は経済だけでなく、政治や社会など多方面で生じている。図1●中国の「改革・開放」に関する政策選択資料:筆者作成毛沢東時代の鎖国政策習近平時代:国進民退低成長の時代「改革・開放」政策経済の長期停滞部分的経済自由化国有企業体制維持民営企業の伸長ChinaWatch4