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「地方自治体のガバナンス研究」英仏自治体調査を終えて

December 7, 2007

1.調査の目的

「地方自治体のガバナンス研究」では、今後の地方自治のあるべき姿について検討を重ねており、その検討の材料とするため、ヨーロッパの地方自治体が実際にどのような運営をされているのかを調査することにしました。
イギリスもフランスも、どちらの自治体も、選挙で選ばれた議員の中から市長が選出されており、議員は無報酬が原則で、議会は夜に開かれているとの情報でした。我が国の自治制度と大きく異なるその現状を、元市長及び現職の市議会議員という地方自治の現場の経験者の目で確認してくることにしました。

2.調査の概要

(1)11月19日にロンドンに到着後、大ロンドン市内のSuttonという区の議会を見学しました。こちらの議会は当然のように議員や市民の仕事が終わった後の午後7時に開会されます。日本のようにあらかじめ通告していた議員の質問に対して役所が答えるという形式的なものではなく、議長のたくみな議事運営の下で議員同士による活発な議論が行われていました。
○議場は日本のような専用の立派なものではなく、図書館のホールが使われており、移動可能な机とイスを並べて議論していました。冷たい雨が降る中でしたが、30人ほどの市民が熱心に傍聴していました。

(2)20日は、ロンドンから電車で2時間ほどの、Weston-Super-Mare Town Councilという人口71,000人のパリッシュを訪問しました。
○イギリスの地方自治制度は、?カウンテイ(日本の県に相当)、?ディストリクト(日本の市町村に相当)があり、その下に、パリッシュという自治組織が存在します。教会の教区が元となっており、市民菜園や集会所の運営、街路灯の整備などの法律で定められた権限のうち、議会が選択したものについて住民サービスを行っています。
○選挙によって、25人の議員が選ばれ、その中から市長が選ばれますが、市長は、一年交代の儀礼的な役割しか果たさないポストです。議長となる人が議員の候補者の選定、議会での議論のとりまとめを行っており、実権を持っているようでした。
○事務局長は、大学で地方自治を学び企業でマーケティングを担当した経験がある若い女性で、この自治体の政策の案を一手に引き受けて作っています。実際の行政は、この事務局長がキーパーソンとなって動いているようです。
○印象的だったのは、議員の皆さんが、「議員は無報酬で自分の住む町に貢献すべき」とのお考えであることでした。
○話を伺った議員は、知識、経験、教養も生活力もある人ばかりで、地方自治を支える「ノーブレス・オブリージュ」を体現した階層が存在している印象をうけました。

(3)22日に、フランスのプロバンスにある人口1,157人のメネルブ市を訪問しました。
○大学で地方行政法を学んだ37歳のバリバリの専門家が事務局長でした。この方が、議会が決めた方針が円滑に実行できるように運営しており、若い有能な事務局長が行政のキーパーソンとなっているのはWeston-Super-Mare Town Councilと同じです。
○議員は15名で、その中から市長が選出されています。ここでは、市長は権限を持ったリーダーでした。
○投票率は85%と、とても高く、ここでも議会は夜に開催されており、原則として無報酬です。市長および助役は、月10万円以下の報酬を受けています。
○議会の雰囲気は村の寄り合いであり、調査した当日は農地を宅地等に転用することの是非について活発に議論がなされていました。議員のほとんどは地元の農家で、服装は気取らない普段着でした。
○自分たちのことは自分たちで決めるのが当たり前という雰囲気が強く、とくに、知識・経験が豊かで一定の財力のある指導的な層の存在が感じられました。

これまでイギリスやフランスの「地方自治制度」について書かれた論文はありましたが、法律で定められた制度だけ見てもそれぞれの国の地方自治体がどのような運営がされているのかが見えてきません。イギリスもフランスも、それぞれの地域の伝統や価値を大切にし、それを守るために自分たちの地域を自分たちの手で作るという自治の精神が長い歴史の中で培われ生き続けていることと、地方自治体の運営に献身的に協力するパブリック・マインド豊かなリーダーを輩出する階層とそれを支える有能な若い事務局スタッフが存在していた印象をうけました。詳しい報告書を、どうぞご期待ください。

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