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国債の海外保有比率増加は何をもたらすのか
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国債の海外保有比率増加は何をもたらすのか

October 22, 2024

R-2024-048

国債の海外保有比率の動向
異次元緩和措置の終了と国内の消化余力
海外保有比率増加がもたらすリスク
日本への示唆

日本銀行は国債買入れの減額を決定し、今後、国債保有残高の縮小が見込まれている。国債の引き受け手となりうる預金取扱機関、特に国内銀行が引き受けられる量については、資本に関する規制やリスク管理の枠組みによって、現在日銀が保有する量の一部にとどまると考えられる。この間を埋めるのは海外部門になる可能性が高い。これまでも海外部門の保有残高・保有比率は徐々に高まってきたが、今後更に上昇する可能性がある。
国債の海外保有比率の上昇は引き受け手の多様化に寄与する一方で、金利上昇やボラティリティの拡大(金利変動の拡大)など、財政上のリスクを高める可能性もある。そこで本稿では、国債の海外保有比率の動向を整理したうえで、今後の見通しを論じる。そのうえで、先行研究に基づいて国債の海外保有比率の上昇がもたらす財政への影響について整理する。

国債の海外保有比率の動向

日銀による異次元緩和は20134月から始まった。その直前の20133月時点における主体別の国債保有残高は、日本銀行が128兆円、預金取扱機関[1]369兆円(うち国内銀行が166兆円)、海外が82兆円だった。これが、20246月には日本銀行が568兆円、預金取扱機関が134兆円(うち国内銀行が56兆円)、海外が154兆円となった(図表 1)。異次元緩和によって日本銀行の国債保有残高が4倍以上に増加し、預金取扱機関が3分の1に減少する中で、海外は約2倍に増加した。
全体に占める割合についても、日本銀行は13.1%から46.9%へ大きく伸ばしており、預金取扱機関は37.9%から11.1%へ大きく低下させている。海外は2022年以降微減であるものの、長期的に見ると上昇傾向が続いており、8.4%から12.7%へ伸ばしている(図表 2)。

図表 1 国債の保有者別保有額の推移(財投債・国庫短期証券含む)

(注)「その他(国内)」には公的金融機関・公的年金・家計等を含む。
2024年6月時点では、公的年金が62.3兆円、家計が13.9兆円であった。
(出所)日本銀行「資金循環統計」

 

図表 2 国債の保有者別保有比率の推移(財投債・国庫短期証券含む)

(注)「その他(国内)」には公的金融機関・公的年金・家計等を含む。
(出所)日本銀行「資金循環統計」

異次元緩和措置の終了と国内の消化余力

日本銀行は202473031日に開催した金融政策決定会合で、それまで月6兆円程度としていた国債買入額を2年程度かけて月3兆円に減らしていくことを決定した。しかしながら、どういった考え方で、どういった水準まで国債保有残高を減らそうとしているのかが全く示されていない(愛宕(2024)「日本銀行はどこまで国債保有残高を減らすべきか ~中銀バランスシートの在り方と長期金利への影響~」)。
日本銀行の国債保有残高の最終的な水準は明らかではないが、日本銀行が減らした分の国債を預金取扱機関がすべて買入れることができない可能性が高い。具体的には、資本等に関する規制やリスク管理の枠組みによって、預金取扱機関による国債の購入余力は、現在日銀が保有する量の一部にとどまる可能性がある(図表 3)。例えば、レバレッジ比率規制によって、総資産等に占める自己資本の割合が一定水準以上である必要がある。またVaRValue at Risk)による内部リスク管理によって、一定期間に想定される最大損失額を一定水準以下に抑える必要がある。更に、IRRBB(銀行勘定の金利リスク)規制については、自己資本に占める金利リスク量を一定水準以下に抑える必要がある[2]IRRBB規制に基づき、預金取扱機関による国債の購入余力は、現在の日銀保有分の3割前後と試算されている[3]
日本銀行の国債保有残高の減少額と、預金取扱機関の国債購入余力の差を埋めるため、他の主体による国債購入が想定される。この中で有力な主体の一つが海外部門であると考えられる。

 

図表 3 銀行等の国債保有に関わる規制やリスク管理の枠組み

規制等の枠組み 概要
資本の規模による制約

①レバレッジ比率規制
(レバレッジ比率=Tier1資本/総資産等)

  • 総資産等に占める⾃⼰資本の割合が⼀定⽔準以上となる必要がある。
  • 国債購入は総資産等の増加要因となり、当該比率を低下させる。

※特例措置により⽇銀への預け⾦は総資産等から除外。
※本規制は国際統⼀基準が適⽤される金融機関のみが対象。

資本の毀損回避 ②IRRBB規制
(対象の比率=金利リスク量/自己資本)
  • ⾃⼰資本に占める⾦利リスク量を⼀定⽔準に抑える必要がある。
  • 国債購⼊は⾦利リスク量の増加要因となり、当該⽐率を上昇させる。
③VaR (Value at Risk)
  • VaRを⼀定の範囲内に抑える必要がある。
  • 国債購⼊はVaRを増加させる。

※金融機関が保有する市場リスク量を計測する指標の一つ
※統計的手法を用いて、「一定期間において想定される保有資産等の市場価格変動から生じる最大損失額」を算定

④有価証券の評価損益
  • 資本毀損に繋がりうる評価損を⼀定の範囲内に抑える必要がある。
  • 国債購⼊後、⾦利が上昇すれば評価損益は悪化し、資本毀損につながる。

(出所)三菱UFJ銀行(2023)「国債の安定消化」(第3回 国の債務管理に関する研究会 資料)

海外保有比率増加がもたらすリスク

こうした異次元緩和措置の終了と国内における消化余力を踏まえると、今後は海外が重要な引き受け手になっていく可能性が高い。日本ではこれまで海外保有比率は徐々に上昇しているものの、国債金利に大きな影響を与えていたわけではない。そこで、海外保有比率と金利の関係性の手がかりを探るために代表的な実証研究を整理したものが図表4である。先進国を対象とした研究、新興国を対象とした研究、双方を含む研究など、さまざまな実証研究があるが、全体としてみると、国債の海外保有比率が上昇すると、金利を押し上げる方向に働くことを確認している研究が多い。例えばIchiue and Shimizu(2015)は先進10か国を対象としたデータを用いて、政府債務の増加がすべて海外からの借入で賄われる場合、国内からの借入で賄う場合と比べてフォワード実質金利の上昇は約3倍になるとしている。Agca and Celasun (2012) は新興国を中心とした15か国を対象として、国債の海外保有比率と企業の借入コストの関係を分析し、対外政府債務が1標準偏差増加すると、企業の借入コストは9%上昇するという結論を得ている。
ただしEbeka and Lu(2015)の研究では、国債の外国人保有率が高まると、ボラティリティは高まるものの、利回りは下がる傾向があると指摘している。しかしながらこの研究についても、財政状態が悪い中で外国人保有比率が上昇すると、むしろ利回りが上がると結論付けている。また、外国人保有比率とボラティリティが連動しているため、外国人保有比率が高まることは、金利リスクを高める点を指摘できる。
最近の研究で興味深いのがMatsuoka(2022)である。Matsuoka(2022)は、先進11か国・新興14か国を対象とした実証分析によって、民間海外主体の国債保有率が20%を超えると長期金利が非線形に上昇することを指摘している。

 

図表 4 国債の海外保有比率増加が金利に及ぼす影響まとめ

研究 対象 研究概要 主たる結論
Dell’Erba et al. (2013)

先進国・新興国

  • 債務の構成・水準がソブリンスプレッドとどのような関係を持っているのかを検証。
  • 新興国では、スプレッドと債務水準に有意な相関はあるものの、債務が自国通貨建ての場合は有意ではない。
  • 先進国では、債務水準とスプレッドの相関は、新興国の1/5程度だが、ユーロ圏については新興国と同程度。
  • 債務水準とスプレッドの関係は、対外債務が大きい場合により強くなる。外貨建て債務が大きくなると、金融の脆弱性が高まる。
Ebeka and Lu (2015) 新興15か国
  • 自国通貨建て国債の外国人保有率の上昇が利回りに与える影響を検証。
  • 自国通貨建て国債の外国人保有率が上がると、利回りは下がるがボラティリティは高まる。
  • 財政状態が悪いと、外国人保有率の上昇は利回りの上昇と関連する。
Ichiue and Shimizu (2015) 先進10か国
  • 長期金利の決定要因を分析。
  • 内生性に対処するため、フォワード金利とエコノミスト・国債期間の予測を利用。
  • 政府債務の増加がすべて海外からの借入で賄われる場合、フォワード実質金利の上昇は、国内からの借入で賄う場合と比べて約3倍になる。

Matsuoka (2022)

先進11か国・新興14か国
  • 国債の保有割合の変化が、長期金利に及ぼす非線形の影響を推定。
  • 海外の民間主体の保有率が約20%を超えると、長期金利上昇リスクが指数関数的に高まる。
  • 政府債務が一定レベルを超えると、海外の民間主体の保有比率増加は金利を引き上げる方向に働く。
Agca and Celasun (2012) 新興国を中心とした15か国
  • 国債の海外保有比率が企業の借入コストに及ぼす影響を分析。
  • 国債の海外保有比率が高まると、企業の借入コストは上昇する。
  • 対外政府債務が1標準偏差増加すると、企業の借入コストは9%上昇する。

(出所)筆者作成

 

日本への示唆

本稿の執筆時点で、日本において、国債の海外保有比率の上昇が金利の上昇につながっているわけではない。しかし既存の実証研究をみると、海外保有比率の上昇は、金利水準の上昇やボラティリティの拡大をもたらす可能性がある。また最近の実証研究によると、海外保有比率が20%を超えると、金利への影響が非線形に大きくなるという指摘もある。
ここで注意すべきなのは、海外の銀行においても、図表 3で示した規制やリスク管理の枠組みが適用されるため、国債の保有余力には限界があるという点である。バーゼル規制[4]上、自国通貨建ての国債は格付けにかかわらず信用リスクをゼロにすることができるが、外国通貨建ての国債の場合はそうならない。つまり円建て国債を保有するハードルは海外銀行の方が高いと言える。そうした点を踏まえると、国債の海外保有比率が上がるから金利が上昇するというよりも、海外保有比率を高めるためには金利を上げないと購入してもらえないという逆の因果になっている可能性もある。
日本国債の足元における海外保有比率上昇は12.7%であり、それに伴う金利の上昇は観察されない。しかしながら、日本国内の国債消化余力を踏まえると、日銀の異次元緩和の終了に伴って海外保有比率が上昇する可能性がある。Matsuoka(2022)の実証研究で示された海外保有比率20%という閾値は、あくまでも分析対象国全体における平均値であり、日本についてはそれがもっと高い可能性もある。しかしながら、債務残高が大きくなっている日本の状況を踏まえると、わずかな金利上昇であっても財政に与えるインパクトは大きい[5]

日本銀行の国債保有残高の減少が見込まれるなかで、こうしたリスクにも配慮した財政運営が求められる。

(本稿は筆者の個人的見解であり、所属機関の意見を代表するものではありません。また、本稿の執筆にあたり、愛宕伸康氏に貴重なコメントを頂きました。記して感謝申し上げます。) 


参考文献

Ağca, Ş., & Celasun, O. (2012). Sovereign debt and corporate borrowing costs in emerging markets. Journal of International Economics, 88(1), 198-208.
Dell’Erba, S., Hausmann, R., & Panizza, U. (2013). Debt levels, debt composition, and sovereign spreads in emerging and advanced economies. Oxford Review of Economic Policy, 29(3), 518-547.
Ebeke, C., & Lu, Y. (2015). Emerging market local currency bond yields and foreign holdings–A fortune or misfortune?. Journal of International Money and Finance, 59, 203-219.
Ichiue, H., & Shimizu, Y. (2015). Determinants of long-term yields: A panel data analysis of major countries. Japan and the World Economy, 34, 44-55.
Matsuoka, H. (2022). Debt Intolerance: Threshold level and composition. Oxford Bulletin of Economics and Statistics, 84, 894-932,


[1] 国内銀行、農林水産金融機関、中小企業金融機関、ゆうちょ銀行等を含む
[2] 詳細は服部孝洋(2021)「銀行勘定の金利リスク(IRRBB)入門 ―バーゼル規制からみた金利リスクと日本国債についてー」『ファイナンス』20216
[3] 三菱UFJ銀行(2023)「国債の安定消化」(第3回 国の債務管理に関する研究会 資料)。なお、大手行・地銀、ゆうちょ、農中等を対象とする一方、各信用金庫等は含まない試算となっている。
[4] バーゼル銀行監督委員会が公表している国際的に活動する銀行の自己資本比率や流動性比率等に関する国際統一基準のこと。日本を含む多くの国における銀行規制として採用されている。https://www.boj.or.jp/about/education/oshiete/pfsys/e24.htm
[5] 小林庸平(2024)「利払費急増に直面するアメリカ財政 ―論点と日本への示唆―」東京財団政策研究所Review
https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4410

  • 研究分野・主な関心領域
    • 公共経済学
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    • 馬場 康郎
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