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「未来の水ビジョン」懇話会3 「川づくりは人づくり、まちづくり」
画像提供:Getty Images

R-2024-077

3回は、全国の一級水系をめぐり川に関わる市民団体を調査した経験を通して、市民が関わる川づくりのポイントや活動の継承と人材育成に関する課題を考える。懇話会メンバーの坂本貴啓氏とプログラムメンバー4名で議論を行う。2024819日 東京財団政策研究所にて)

Keynote Speech (概要)
1.はじめに~全国109水系の市民活動を調査
2.市民主導で50年後を議論する
3.市民団体の継承と20年問題
4.流域治水における合意形成をどうするか?
議論 さらなる課題探求

Keynote Speech(概要)

坂本貴啓:金沢大学 人間社会研究域地域創造学系
(写真提供:坂本貴啓氏)

1.はじめに 〜全国109水系の市民活動を調査

私は福岡県の出身で遠賀川の近くで育った。大学時代はつくば市で過ごし、その後、岐阜県の木曽川の土木研究所自然共生研究センターで4年半、石川県白山にほど近く、手取川ダムの上流の集落(白峰)で2年間過ごし、今は金沢大学で『川と人』ゼミを主宰している。

手取川での「しらみねリバーチャレンジスクール」の活動(写真提供:坂本貴啓氏)

河川に関わる施策や活動には大きくハード面とソフト面があるが、私の関心は『川と人』で、扱ってきたのはどちらかというと河川のソフト面である。計画時の合意形成、施工後の利用分析、維持管理の実態、また災害時には地域の人の行動分析などを行うことで、ソフトの力を国土管理にどう活かしていけるかを意識している。

河川の用語で、1本の川に集まってくる全ての川をまとめて水系と言い、日本全国で国が管理する一級水系が109指定されている。私は、約2年半かけてその全てを回り、どのような市民活動が行われているか、それが河川の管理にどう役立っているかを定量化する研究を行った。その調査や自身の経験をもとに、本日は「川の空間を人の活動に活かす」「人(民間)の力を川の空間に活かす」という観点での川に関わる市民活動の調査、市民活動を継いでいく上での課題、あらゆる主体が参画する流域治水を進める上での合意形成の難しさについてお話しする。

(坂本貴啓氏作成)

2.市民主導で50年後を議論する

「川づくりは人づくり」を実体化するには、河川という公共空間を人々が活用し、民間の力を行政が管理する河川空間に活かすという相互協力が重要だ。その一例として、私の出身地である福岡県直方市の遠賀川で行われた「住民発案の川づくり計画」を紹介する。この計画は1996年に地域住民が中心となり、河川事務所や市役所と連携してスタートした。女性座長の元に多様なメンバーが集まり、定期的に会議を開き、「50年後の夢プラン」として理想の河川の姿を議論した。メンバー手作りの夕食を共にしながら時には深夜まで白熱した議論が行われ、具体的な絵として共有された。絵に落とし込むことは細部を共有する上で非常に重要で、50年後という遠い未来を設定することで行政も話を受け止めやすくなるという利点がある。結果的に夢プランが現実を動かし、10年以内に多くのアイデアが形になった。

住民主体の計画は、行政主導の計画と異なり、時間をかけて自由に議論ができるため、地域の愛着が育まれ、質の高いプロジェクトにつながる。また、住民が計画を自分たちで立てることで、計画の管理や実行に積極的に関与するようになり、地域全体での継続的な取り組みが可能になるのが特徴で、寝屋川(大阪府寝屋川市)、源兵衛川(静岡県三島市)など、他地域でも類似した取り組みが成功している。

市民発の自主計画は行政主導の計画と比べて柔軟性が高く、事業化の際にも反映しやすいという利点がある。市民主導の自主計画を持っておけば、急に予算がついたり、事業が動いたりした際にも対応がしやすい。他方、いつ実現するかわからない議論を、熱意を持って続けられるか、時間・労力をかけ続けられるかという課題がある。

(坂本貴啓氏作成)

 遠賀川での高校時代からの活動を振り返った講演風景(写真提供:坂本貴啓氏)

3.市民団体の継承と20年問題

市民団体の後継者問題は、全国共通の課題だ。川に関わる市民団体は1990年代から増加したが、同じメンバーが活動を継続する構造の団体の多くで、高齢化や後継者不足が深刻化している。10年ほど前から、存続の難しさが「20年問題」として語られるようになり、現在では「30年問題」にまで至っている。一部の団体では活動を簡素化したり、規模を縮小したりする動きも出てきている。

ただその中でも、工夫により活動を継続している団体の5つの類型を紹介する。

①会長職の短期交代制:下諏訪町諏訪湖浄化推進協議会(長野県)では、青年会議所の会長が兼務する形で12年ごとに会長が交代し、役割負担を大きくしすぎず活動を維持している。

②二重運営制:直方川づくり交流会(福岡県)では、NPO法人と任意団体を使い分け、NPOでは受託や助成事業、任意団体は行政を含む幅広い層の参画といった形で活動の幅を広げている。

③世代別会員枠制:ふるさと侍従川に親しむ会(神奈川県)では、ジュニア会員制度を取り入れ、団体では、小学生から中学生、成人まで世代ごとに参加しやすい仕組みで継続参加を実現している。

④流域連携のネットワーク組織:個々の団体では実現困難なプロジェクトを複数団体が共同で行い、活動の活性化と継続を図る。具体例として、旭川流域ネットワーク(岡山県)の147の支流に毎年1カ所、源流の碑を建てる取り組み、球磨川水系ネットワーク(熊本県)で川辺川ダム問題の賛成・反対を超えて「球磨川が好き」という共通項を持つ上下流のグループが源流水をリレーしたといった取り組みがある。

⑤外からの応援団づくり:人口減少が進む地域では、地元住民と外部支援者が協力する新しい形も見られる。例えば、彼杵おもしろ河川団(長崎県)は、外部の人が時々来て活動に参加したり、応援団としてサポートしたりなど、関係人口の広がりを実現している。

また、必ずしも団体の継続にこだわらない活動の続け方もある。長年活動を続ける「レジェンド」団体を継ぐのはプレッシャーとなって難しくても、別の新たな団体をつくり支援することでいずれ置き換わっていけばよいという考えだ。

4.流域治水における合意形成をどうするか?

2020年に国土交通省から流域治水の推進の方針が示され、河川管理者だけではなく住民を含めた多様な主体が治水に参画するという転換点を迎えた[1]。地域における合意形成のプロセスは非常に繊細で、環境保全と治水の対立が見られるケースがある。例えば、住民間では賛否は分かれているものの、浸水被害に直面する住民の声によって、コンクリートで固めたり矢板を並べたりする護岸工事が進められているケースがある。地域住民の声を反映した自治会の合意は行政にも強い影響力がある一方、野鳥の生息域などの保全や下流地域へ洪水が集中しやすくなる影響が十分に考慮されていない場合もある。専門家が意見を求められる際にも住民間の意見の相違を理解し、共通の論点を洗い出すことが重要で、環境の観点だけ、或いは治水の観点だけから意見を述べても議論が進まない。

流域単位での日頃からの連携が流域治水の合意形成には有用と考えられる。例えば、2023年に白山手取川が「ユネスコ世界ジオパーク」に認定された。流域全体が一つのジオパークとして認定されたのは例がなく、これを記念して流域一体での「水リレー」を実施した[2]。最終的には500名が源流から海まで70kmに渡って水を受け渡し、地域住民に流域全体の視点を提供し、連帯感を高める一助となった。

流域治水は概念としては広がりつつあるが、小規模なレベルでの実践は難しさを伴う。環境と治水の両立を図るためには、流域連携を意識しながら合意形成のプロセスを丁寧に進めることが重要だ。

(白山手取川ジオパーク水リレー動画:https://www.youtube.com/watch?v=Z6vVV7k0Ox8

議論 さらなる課題探求


参考文献

[1]「未来の水ビジョン」懇話会2「古くて新しい上下流問題-流域治水から市民の受益と負担を考える-」https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4045

[2]YouTube動画「あの感動をもう一度!白山手取川ジオパーク水リレー」
https://www.youtube.com/watch?v=Z6vVV7k0Ox8

「未来の水ビジョン」懇話会について

「未来の水ビジョン」懇話会を結成し、次世代に対する責務として、水と地方創成、水と持続可能な開発といった広い文脈から懸念される課題を明らかにしたうえで、それらの課題の解決への道筋を示した「未来の水ビジョン」を提示し、それを広く世の中で共有してきた。

第1期(20224月〜20243月)では、私たちの豊かで安全、健康で文化的な暮らしを支える有形無形の社会共通基盤システムを「みんなのインフラ」という意味で「みんフラ」と名付け、特に水をマネジメントする社会の仕組み全体を「水みんフラ」と呼び、社会全体で支えていこうという提言を行なった。

2期(20244月〜20253月)では、「水みんフラ」を支える人材について議論する。地域に合った「水みんフラ」の再構築による、持続可能な維持管理、突発的な事故や災害への対応体制の整備が急務で、それには「水みんフラ」に関する総合知を習得した卓越人材(水みんフラ卓越人材)が不可欠だろう。日本各地を見回すと、コミュニティでの水道の維持管理や、市民普請でグリーンインフラを整備するケースで、そうした卓越人材が地域社会を先導する場合が多い。こうした水みんフラ卓越人材がどのように育成され、彼らを中心とした組織がどのように生まれ、ノウハウがどのように共有されているかを議論していく。

※「未来の水ビジョン」懇話会メンバー(五十音順)
沖大幹(東京財団政策研究所研究主幹/東京大学大学院工学系研究科)
小熊久美子(東京大学大学院工学系研究科)
坂本貴啓(金沢大学 人間社会研究域地域創造学系)
笹川みちる(東京財団政策研究所主席研究員/雨水市民の会)
武山絵美(京都大学 大学院地球環境学堂農学研究科/愛媛大学 大学院農学研究科)
田中尚人(熊本大学 大学院先端科学研究部)
中村晋一郎(東京財団政策研究所主席研究員/名古屋大学大学院工学研究科)
橋本淳司(東京財団政策研究所研究主幹/水ジャーナリスト)
村上道夫(大阪大学感染症総合教育研究拠点)
吉冨友恭(東京学芸大学環境教育研究センター)


 

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