R-2021-023
・水道料金はどのように決まるのか ・料金収入減の理由①1人当たりの水使用量の減少 ・料金収入減の理由②人口減少 ・料金収入減の理由③地下水利用専用水道の普及 ・料金改定だけでは水道を維持できない |
水道料金はどのように決まるのか
ここ数年、水道料金の値上げに踏み切る自治体が増えている。2020年、2021年に水道料金を値上げした主な自治体(水道事業者)、2022年に水道料金の値上げ予定の主な自治体(水道事業者)をまとめた。一般的に市民は「安くておいしい水道水」を望んでおり、値上げの理解には時間がかかる。
図1 自治体(水道事業者)のWEBサイト情報(最終閲覧2021年12月2日)をもとに「地理院地図」にプロット
メディアは「◯%の値上げ」と「料金改定率」のみを伝えるケースが多く、そこから「自分の水道料金がいくらになるか」はわかりにくい。
まず、水道の基本料金は自治体によって異なる。さらには水道管の太さ、使用量によっても料金が異なる。基本料金のほかに、使用量に応じて加算される従量料金もある。詳細は自治体WEBサイトにある「試算表」などで確認する必要がある。
図2 日本水道協会「水道料金表」(2019年4月1日現在)より作成
日本水道協会の調査(2019年4月1日現在)によると、標準世帯が1か月に使う20立方メートル当たりの水道料金は、全国で最も安い兵庫県赤穂市の853円に対し、最も高い北海道夕張市は6,841円と8倍の格差がある。
水道事業は原則として市町村が経営するものと定められている(水道法第6条第2項)。水道料金は、日常生活に直接影響を与える公共料金であることから、公正妥当なものでなければならず、かつ、能率的な経営の下における適正な原価を基礎とし、地方公営企業の健全な運営を確保することができるものでなければならないとされている(地方公営企業法第21条第2項)。
料金算定のプロセスは次の通り。
図3 水道料金が確定するまでの流れ
おおまかに水道料金の決まり方を知るには、以下のような分数式をイメージするとよい。
図4 水道料金の決まり方のイメージ(「いらすとや」イラストを構成)
分子の部分には、施設・設備費(ダムや浄水施設、水道管などの設置、維持費用)、運営費(職員給与、支払利息、減価償却費、動力費や光熱費)、受水費(ダムや近隣の浄水施設からの水供給費用)などの原価がくる。
それを分母の部分の利用者で割って計算する。
どういう場合に、料金が高くなるかといえば、分子の部分が大きくなる時と、分母の部分が小さくなる時だ。
たとえば、水源から家庭までの距離が遠いと、水道管の距離が長くなるし、ポンプで水を送るための動力費、維持費が高額になる。もともとの水質が悪いと薬品が多く必要になるため、薬品費が高額になる。
このように、原価は地域の地理、環境条件、採用している技術などに左右される。さらに今後は、老朽化した浄水場や水道管を更新したり、耐震化を進めたりする資金も必要だ。(「水道の現在地 1『進まない耐震化・老朽化対策』参照」)
水道事業運営の健全性・安定性には、適正な水道料金による収入の確保が不可欠だ。だが、それが不足しているために、老朽化した管路施設や浄水場等の適切な時期における更新や、耐震化の推進を図ることができない。
では、なぜ料金収入は減少したのか。
料金収入減の理由①1人当たりの水使用量の減少
家庭で使用される水を「家庭用水」といい、そのほか病院、ホテル、飲食店等で使用される水も含めて「生活用水」と呼ぶ。1人当たりの生活用水の使用量(飲食店、デパート、ホテル、事業所、公衆トイレなどで用いる都市活動用水を含む)は、2000年頃は1日322リットルだったが、そこから少しずつ減り、1日286リットルになった。[1]
なぜ減ったかといえば、節水機器の普及が大きく貢献し、「無意識節水」が行われているからである。
図5 家庭での水使用量の変化(「いらすとや」イラストを構成)
たとえば水洗トイレ。1995年は1回流すと10リットル(大の場合)の水が流れたが、現在では1回4.8リットルが主流(最新型は4リットル以下)。1回の「無意識節水量」は5リットル以上。病院、ホテル、オフィスビルなどが建て替わるとトイレは一新され、集団的「無意識節水」が行われる。
全自動洗濯機の場合は、衣料品1キロを洗うのに必要な水は30リットルだったが、現在では10リットル以下。
食器洗い乾燥機の普及も大きい。5人分の食器を洗った場合、手洗いだと75リットルだが、食器洗い乾燥機では11リットル。水を庫内にためて噴水のように循環させて洗浄。そののち水を入れ替えてからすすぐ。泡立ちが少ないため早くすすげる。
生活習慣の変化も影響する。家庭で調理をせず、調理済みの食品を買ったり、外食したりすれば、食事の準備と後片付けに使う水がゼロになる。
料金収入減の理由②人口減少
同時に人口も減少している。日本の総人口は、総務省統計局によると2021年11月1日現在、1億2507万人となっている。2017年4月に国立社会保障・人口問題研究所が公表した「日本の将来推計人口」における出生中位・死亡中位推計結果によると、2029年に人口1億2000万人を下回った後も減少を続け、2053年には1億人を割って9,924万人となり、2065年には8,808万人になると推計されている。
水道が普及していった高度経済成長期は、1人あたりの水使用量が増え、人口も増えるという時代だった。しかし時代は変わり、需要予測を大きく下回っている。総務省によると、料金徴収の対象となる水量(有収水量)は、2000年の日量3,900万立方メートルをピークに減り続けている。2015年には日量3,600万立方メートル、2065年には日量2,200万立方メートルになると予測される。これはピーク時の4割である。[2]
水を使わない社会は環境のことを考えるとよいことだ。しかし、水道経営という視点に立つと「商品が売れなくなっている」と言える。
料金収入減の理由③地下水利用専用水道の普及
もう1つ別の視点から考えてみたい。
2021年10月19日、群馬大学病院の「水道」から硝酸性窒素等が基準値を大幅に超えて検出された。この水でつくったミルクを飲んだ乳幼児がメトヘモグロビン血症を発症した。その後の調査で、地下水、水槽内の水の水質に問題はなく、引き続き原因が調べられている。[3]
一部メディアで「水道」と報道されたが、これは下図に示す「地下水利用専用水道」というもので、敷地内の地下水を独自に利用している。
図6 地下水利用専用水道の設置例(病院は「いらすとや」イラスト)
地下水利用専用水道は水道事業にどのような影響を与えるか。2000年代前半、地下水を飲用レベルまで処理する技術がコンパクトになり、専門に扱う業者も登場した。日本水道協会のアンケート調査(給水人口10万人以上の水道事業者対象)によると、2002年に88件だった地下水利用専用水道は、2017年には1,934件に増加している。同調査は、増加の原因を「コストの削減」と「災害対策」と推測している。[4]
静岡県のA病院は、地下水利用専用水道をもった結果、年間約500万円の経費節減ができた。万一に備えて水道契約は残すが、普段は全面的に地下水を使用。水道料金には基本料金と、使った量に応じて支払う従量料金があるが、従量料金を大幅に削減できた。
東日本大震災後にも地下水利用専用水道は脚光を浴びた。地下水利用専用水道をもっていた病院やホテルは、ほかの施設が断水するなかで平時同様に稼働した。宮城県のB病院は、周囲が2週間断水するなか病院機能を維持できた。
一方で水道経営という視点に立つとどうか。大口利用者が地下水利用専用水道をもち、水道水を使わなくなると、従量料金の収入が減り、経営悪化につながる。水道の持続にも関係する。水道事業の経費は、施設の維持管理に関する固定費が大半を占める。これを水道料金でまかなうわけだが、従量料金にも固定費を配分している。
地下水利用専用水道をもつ事業者は、従量料金の支払いがわずかである。それは水道施設の維持費の支払いが少ないという見方もできる。
いくつかの水道事業者では以下のような対策をとっている。
神奈川県企業庁、流山市などでは、地下水利用専用水道をもつ事業者が水道に転換した場合、料金の減免措置を行なっている。また、京都市、神戸市などでは地下水利用専用水道の利用者からも水道施設を維持するための負担金を徴収している。4)
だが、全国的にみると、このような制度をもうけている水道事業者は少ない。
「水道は地域の資産であり、地域全体で支える」という考え方は、どこまで共有されているのだろうか。技術の発展によって独自に安全な水の確保ができるようになると、公共の水道という哲学が揺らぐ可能性もある。今後はますます多様な技術が登場するだろう。雨水を活用する住宅や少量の水を循環再生利用できる装置をそなえた住宅などだ。そのとき水道の維持をどのように考えるべきか。水道を再定義する必要があるのか。いずれにしても課題は多い。
料金改定だけでは水道を維持できない
水道の料金収入の減少を、水使用量の減少、人口減少、地下水利用専用水道の普及という3点から考察した。
あらためて水道料金の決まり方のイメージ図を見て欲しい。
分子の部分の水道施設の原価は今後増加し、分母の部分の人口は減り、病院やホテルなどの大口利用者は水道離れを起こしている。分子が増え、分母が減る。普通に考えれば、水道料金は値上がりする。人家がまばらで人口減少の進む地域ほど値上がりの幅は大きくなるだろう。
ふりかえると、水道普及の背景には日本国憲法がある。憲法には、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」「国は(中略)公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と明記され、この理念の基に1957年に「水道法」が制定された。
水道法第1条には「この法律は、水道の布設及び管理を適正かつ合理的ならしめるとともに、水道を計画的に整備し、及び水道事業を保護育成することによつて、清浄にして豊富低廉な水の供給を図り、もつて公衆衛生の向上と生活環境の改善とに寄与することを目的とする」と記された。
これを根拠に、国は自治体に対し資金面での支援を積極的に行い、水道は普及していった。水道法に記された「清浄にして豊富低廉な水の供給」が「水道は安全、安価」という社会通念の根拠となっている。
現在、水道事業は大きな曲がり角を迎えている。水道の維持は不可欠だが、それを現在の考え方に基づく料金収入だけに頼るのは限界があるのではないか。
2018年の水道法改正によって第1条は次のように変わった。
「この法律は、水道の布設及び管理を適正かつ合理的ならしめるとともに、水道の基盤を強化することによつて、清浄にして豊富低廉な水の供給を図り、もつて公衆衛生の向上と生活環境の改善とに寄与することを目的とする」
目的を達成する手段が、制定時の「水道を計画的に整備し、及び水道事業を保護育成する」の部分が、「水道の基盤を強化する」に変わっている。
では、基盤強化の手段にはどのような選択肢があるだろうか。
選択肢は地域によって異なるだろう。一般的には事業の広域化、原価の部分の縮小を図るなどのダウンサイジングが有効とされるが、小規模分散化が有効なケースもあるだろう。また、利用者の負担があまりに高い地域へは、公費の投入も必要になるだろう。次回以降、さらに掘り下げていく。
<資料>
[1] 「令和2年版日本の水資源の現況」(国土交通省 水管理・国土保全局水資源部)
[2] 「水道事業の課題と取組について」(2019年4月/総務省自治財政局公営企業経営室)
[3] 群馬大学医学部附属病院「外来診察再開について」(https://hospital.med.gunma-u.ac.jp/?p=13608 最終閲覧2021年12月2日)
[4] 「地下水利用専用水道等に係る水道料金の考え方と料金案 事例集」(2019年3月27日/日本水道協会」