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「未来の水ビジョン」懇話会1「集落水道の事例から考える水みんフラ人材」
画像提供:Getty Images

R-2024-045

はじめに「未来の水ビジョン」懇話会について

「未来の水ビジョン」懇話会を結成し、次世代に対する責務として、水と地方創成、水と持続可能な開発といった広い文脈から懸念される課題を明らかにしたうえで、それらの課題の解決への道筋を示した「未来の水ビジョン」を提示し、それを広く世の中で共有してきた。

第1期(20224月〜20243月)では、私たちの豊かで安全、健康で文化的な暮らしを支える有形無形の社会共通基盤システムを「みんなのインフラ」という意味で「みんフラ」と名付け、特に水をマネジメントする社会の仕組み全体を「水みんフラ」と呼び、社会全体で支えていこうという提言を行なった。

2期(20244月〜20263月)では、「水みんフラ」を支える人材について議論する。地域に合った「水みんフラ」の再構築による、持続可能な維持管理、突発的な事故や災害への対応体制の整備が急務で、それには「水みんフラ」に関する総合知を習得した卓越人材(水みんフラ卓越人材)が不可欠だろう。日本各地を見回すと、コミュニティでの水道の維持管理や、市民普請でグリーンインフラを整備するケースで、そうした卓越人材が地域社会を先導する場合が多い。こうした水みんフラ卓越人材がどのように育成され、彼らを中心とした組織がどのように生まれ、ノウハウがどのように共有されているかを議論していく。

※「未来の水ビジョン」懇話会メンバー(五十音順)2024年9月現在
沖大幹(東京財団政策研究所研究主幹/東京大学大学院工学系研究科)
小熊久美子(東京大学大学院工学系研究科)
坂本貴啓(金沢大学 人間社会研究域地域創造学系)
笹川みちる(東京財団政策研究所主席研究員/雨水市民の会)
武山絵美(京都大学 大学院地球環境学堂農学研究科/愛媛大学 大学院農学研究科)
田中尚人(熊本大学 大学院先端科学研究部)
中村晋一郎(東京財団政策研究所主席研究員/名古屋大学大学院工学研究科)
橋本淳司(東京財団政策研究所研究主幹/水ジャーナリスト)
村上道夫(大阪大学感染症総合教育研究拠点)
吉冨友恭(東京学芸大学環境教育研究センター)

第1回は、集落水道の事例から水みんフラ人材について議論を行う。202492日 東京財団政策研究所にて)

Keynote Speech(概要)
1.議論をはじめるまえに

2.国内の小規模水供給施設
3.住民の負担を軽減する技術。人の役目、テクノロジーの役目
4.集落水道を取り巻く環境
5.水みんフラを支える人材について
議論 さらなる課題探求

Keynote Speech(概要)

東京大学 大学院工学系研究科 都市工学専攻 小熊久美子

(写真:小熊久美子氏提供)

 1.議論をはじめるまえに

 「水みんフラを支える卓越人材の体系的な育成について」というプログラム名には、複数の要素が重層的に入っている。それについてメンバーで議論し、共通認識を得る必要があるだろう。

「水みんフラ」は前年度までの懇話会で定義済みだ。一方、「卓越人材」については現在「『水みんフラ』に関する総合知を習得した」人物と仮定義されているが、1人が総合知をもつか、集団でもつかは意見の分かれるところだろう。また、「卓越」とは何を指すか具体的な要素について考える必要がある。

「人材育成」について、私が専門とする集落水道では、かつては自然と口頭伝承されてきた。渇水・洪水などの共通体験、清掃、祭事、消防団などの活動をコミュニティで行いながら、自然と人材育成が行われた。しかし、現在は構成員が減少し、とりわけ若年層がいなくなり伝承する相手がいない。

人材育成を体系的に行う場合、全体を見渡せる人が必要だ。従来は村長、水道組合長などのリーダーがこの役割を果たし、あるいは年長者が自然と住民の信任を受けてリーダーシップを発揮してきたが、現在では多くの構成員が高齢者で同年代となり、年功序列で支えられてきた秩序の維持が難しくなっている。

こうなると、最終的には行政が全体を見渡して仕切る可能性もあるが、果たしてそれは行政の役割か、住民に受け入れられるかという疑問があるし、行政自体も人材が不足している。

こうした点についてメンバーで共通認識をもち、課題を明らかにしていきたい。

2.国内の小規模水供給施設

 私は飲料水の処理や供給システムの研究を専門としている。小規模水道、集落水道などを視察し、技術での課題解決を模索している。全国の水道普及率は98%だが、逆にいうと2%200万人超)は今なお公共水道に接続できず、集落水道や私設水道を利用している。これらの施設は住民が消毒用の塩素を入れたり、水路の詰まりを掃除したり、山地の急斜面を登って水源の状況を確認するなどの維持管理を行っている。住民の負担は大きい。そうした状況を技術で改善することが私の研究の動機になっている。

静岡市のF集落水道のケースについてお話しする。F集落は公共水道未普及地区だが、民営の簡易水道事業として、1950年から水道組合により運営・維持管理されてきた。原水は山間の湧水で、先祖代々の水源だという。

水道組合長は任期2年の持回り制だ。年長者から順番に行ってきたが、現在の組合長は最年少で、次に誰に順番を回すか悩ましいという話を伺った。給水人口は1994年に22戸、102名だったが、2022年には18戸、44名に減少した。

この水道は、民営の簡易水道事業に登録していたが、2020年に飲料水供給施設(法律上は水道施設ではない)に認可変更された。ダウングレードの理由は、水質検査費用だ。民営とはいえ簡易水道であれば水質検査が義務付けられるが、この費用負担が住民に大きな負担となっていた。市の保健所が窓口となって浄水装置の導入に対する補助金制度を提供しているが、水質検査費用に対する補助制度はない。そこで、住民合意のもと、検査が任意になる飲料水供給施設にあえてダウングレードしたと伺っている。 

3.住民の負担を軽減する技術。人の役目、テクノロジーの役目

 F集落の施設のしくみは以下のとおり。まず、山間の湧水から引いた原水が、タンクに入り、自然沈降と浸漬ろ過で濁質を除去され、小屋に送られる。小屋では凝集剤と塩素を添加し急速砂ろ過を行なったのち、紫外線LEDで消毒され配水池に送られる。紫外線LED消毒装置は私たちが実証試験を行なったのち実装された(日本水環境学会技術賞2023受賞)。静岡県ではこの他、3か所で実装されている。

F集落での実証試験中、断水を経験した。この間、組合長は山間にある施設に出向いて配水池の水位を目視確認しており、大きな負担になっていた。水質だけでなく水量も住民にとって死活問題であると身に沁みて感じ、専門知識や特別なインターフェースがなくても、住民が手軽に水(量・質)の状況を知るシステムを作りたいと考えた。

簡易無線モジュールを活用した水位モニタリング機器の主要部材は、ネット通販で購入可能で、電子工作に興味のある人なら比較的簡単に製作できるレベル。総額約42000円かかったが、さらに安くできる可能性がある。機器設置後、組合長は自宅にいながら配水池の水位をリアルタイム監視できるようになり、山間の施設まで行く必要がなくなった。20243月からは、モニタリングした情報を集会所のインターネットを活用して、スマホアプリ(無料)に送れるようになった。ログイン情報を知る住民はだれでも常時閲覧可能で、私自身、東京からでも日常的に集落の状況を把握できる。結果として、住民が漏水に気付いたり、予防的に節水を通知して給水制限を免れたりするケースが複数回あったと伺っている。今後データが蓄積されれば、傾向の把握や予測も可能になるだろう。

このように維持管理の負担の一部は、デジタル技術で軽減が可能であり、未来の水供給システムの話をするならば、そのようなデジタル技術の活用や普及を予測したうえで人間の役割を明確にしないと、人材育成の話はしにくいのではないか。公共水道のデジタル化は進みつつあるが、小規模水道こそ伝承すべき情報や技術をデジタル化すべきで、しかも時間切れが迫っている。さらに言えば、人間がなすべき役割でも集落内でカバーしきれないのであれば、外部化していく必要がある。何を集落で行い、何を外部化するかをある程度見通してから、卓越人材の人物像を議論したほうがよいのではないか。あるいは、その全体のコーディネートを行うことこそ卓越人材の役割、という可能性もあると思う。

4.集落水道を取り巻く環境

集落水道に対する行政の関与度は自治体ごとに大きく違う。状況をまったく把握していない自治体もあれば、把握だけはしているところ、技術指導や補助金、職員の定期巡回まで積極的に関与しているところなど、さまざまである。私の知る事例の範囲では、山間地や離島でも観光資源としての価値があると行政の関与が強く、予算配分も行われやすい印象である。また、集落水道に特化した地元密着型の企業があると良くも悪くも技術導入が早いようだ。

人材育成に関して言えば、小規模施設のほうが、技術者は総合知を得やすいように思う。大規模施設の場合、ろ過担当、消毒担当などと役割が細分化されるため、技術者1人の専門知識は限られることがある。一方、小規模施設の場合、限られた技術者で運用するため、それぞれが水源から給水までのすべてのプロセスに関する知見をもっている。

5.水みんフラを支える人材について

水みんフラを支える人材について、まとめると以下の3点になる。

  • 水みんフラは全国一律「均質化」がゴールではない。多様性を認めたり、むしろ多様なことを面白がったりする雰囲気を醸成したい。多様性は地域性と読み換えることもでき、求める人材像、人材育成の方法も地域性があっていい。人材育成は地域ごとにことなり、絶対解は無いのかもしれない。
  • スーパーマン的な卓越人材が1人いる地域より、専門性の異なる複数人材のチームのほうが強いだろう。
  • 水みんフラ人材に求められる人物像(能力)を議論する前に、デジタル化や通信技術に任せられる(任せた方が良い)部分を明らかにしてはどうか。

最後に、個人的に気になっているのは行政の人材育成の問題だ。地域で水みんフラが支えられなくなった時に、行政に委託しようと考えても、行政も若手職員がいない、離職率が高い、専門性が乏しく技術職ではない人が技術を担当しているという課題を抱えている。

議論 さらなる課題探求

どういう人材が必要か

(写真:橋本淳司撮影)

多くの人が水みんフラ維持に参加できる社会

 


(写真:橋本淳司撮影)

 

必要な役割やサポート体制

 ※「水みんフラ卓越人材を探せ」第1回 吉岡律司さん(岩手県矢巾町政策推進監)水みんフラ卓越人材を探せ | 研究プログラム | 東京財団政策研究所 (tkfd.or.jp)

水みんフラ人材と教育

<現時点でのまとめ>

 

 

 

 

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