道内市町村民幸福度指標の作成 | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

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道内市町村民幸福度指標の作成
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R-2024-071

はじめに
幸福度指標について
地方自治体での実施状況
道内市町村民幸福度指標の作成
まとめ

本報告は、2024820日に開催した「第1回 地方自治体におけるEBPM活用研究会(於: 北海道上川郡東川町)」にて発表した内容に加筆修正したものである。研究会の詳細は 【開催報告】第1回 地方自治体におけるEBPM活用研究会(於:北海道上川郡東川町) を参照のこと。

はじめに

本報告では、市町村統計を用いて、市町村における幸福度指標を作成する。近年、自治体においてEBPM (Evidence Based Policy Making: 証拠に基づく政策立案)の実践が求められている。エビデンスをデータと仮定するならば、自治体におけるエビデンスの運用は、1次統計の集計及び県民経済計算など集計データの公表が従来のやり方であった。そして、近年では、自地域の経済的特徴を明示化することや政策・イベントの効果測定など、分析が求められている。
しかしながら、どのような情報を政策立案の源泉として作成すれば良いのかなどについては各自治体で苦慮されているのが実情である。特に、市町村レベルになると、データを扱う人材やノウハウが不十分であることから、EBPMの活用に足踏みしている自治体も多いと予想される。そうした現状を考慮すると、データの取り扱い、分析方法、そして結果の出し方を研究者側が示すことが重要なことと思われる。
本報告では、近年、地方自治体で運用が求められている幸福度 (Well-being)指標を取り上げる。そして、まだ作成が行われていない市町村レベルの幸福度指標についても言及する。

幸福度指標について

本報告では、幸福度指標を取り扱う。近年、幸福度を測る統計指標として国内総充実度(Gross Domestic Well-being: GDW)が注目されている。このGDWは幸福や充実の度合いを測る統計指標であり、物質的な豊かさを測る国内総生産(Gross Domestic Products: GDP)とは異なる視点で国民生活を測ろうとしている。
GDWは、英国カーネギー財団が作成したのが最初である。同財団は、人々の幸福度を測るために、個人の幸福度、所得と富、健康など10カテゴリーを作成し、関連する統計の整理やサーベイを行うことで作成している。日本でのGDWへの取り組みを見ると、日本経済新聞社[1]が国単位のGDWについて公表している。
GDWに関する国内の展開として、2021年以降、Well-beingについて関係省庁連絡会議が立ち上がり、議論が始まった。その後、2023年度経済財政運営と改革の基本方針においても「地方自治体におけるWell-being指標の活用を促進する」という記述がされていることから、この指標の運用及び活用は都道府県レベルでの運用が求められるようになった。これにより、現在、各自治体で指標構築及び運用が進められている。
次に、幸福度をどのように測るのかという点について説明する。幸福度は大きく「客観的幸福度」と「主観的幸福度」に分けられる。前者であれば、「あなたはどの程度、幸せですか?」などの個人の判断に関するアンケートを実施・集計したものであり、人々の生活実感を捉える指標として有用である。一方で、後者は、所得や住環境に関する統計に基づき算出しており、人々の生活実態を測るものである。豊かさを測るのであれば、主観的評価に基づく指標が、当初目的に合致しており、こちらの運用を進めるべきである。
しかし、先述したように各自治体レベルでの運用となると、主観的指標には、問題がある。それは、地域間の比較まで考えると、回答内容や実施時期の統一が難しい点である。地域によって生活環境や仕事の種類及び繁忙期が異なるなど回答者は同質と言えないことから、何をどの時点で測るかについては包括的な議論をすべきである。また、アンケートを実施するには多大な費用が発生することから、包括的な分析やガイドラインがない現状においては、小規模地域で運用することは難しいと言えるだろう。

地方自治体での実施状況

まず、都道府県を対象とした取り組みなどについて紹介する。外部機関においては、日本総合研究所が毎年、全47都道府県幸福度ランキングを発刊している。同研究所は、人口増加率、1人当たり県民所得、食料自給率、財政健全度などのオープンデータを用いて、都道府県別客観的幸福度を発表している。次に、ウェルビーイング学会 (2022)は生活に関する主観的なアンケートを実施し、全国と都道府県別GDWを公表している。
都道府県レベルの取り組みについては、東京財団政策研究所でも過去にワーキンググループ[2]があり、東野 (2023)でサーベイ結果が公表されている。同研究では、茨城県、岩手県、富山県などの幸福度指標について紹介されている。ここでは、茨城県 (2024)の「いばらき幸福度指標」について紹介する。この指標は、図1にまとめられているように、幸福度の4分野を定め、それに該当するとされる統計を収集している。

図 1 いばらき幸福度指標の概要

出所: 茨城県 (2024)「いばらき幸福度指標の概要」より引用抜粋

 

次に、各統計を標準化[3]し、それらの合計値を用いて、都道府県のランク付けをしている。これは日本総研(2024)と同様の手法で行われている。
そして、市町村レベルでの取り組みに関しては、内閣府と経済産業省が手がけるRESAS (Regional Economy Society Analyzing System:地域経済分析システム)で地域幸福度Well-Being指標[4]が公表されている。RESASには、総合的な評価指数はなく、各項目のレーダーチャートを用いて、市町村の特徴を視覚化している。このように、幸福度指標は、都道府県レベルでは取り組みが行われているものの、市町村単位になると、いまだ着手されていないのが現状である。

道内市町村民幸福度指標の作成

本報告では、統計データを用いた客観的手法による幸福度指標の作成を行う。前節で紹介した標準化による計算方法は、平均と標準偏差の2つの統計値しか使用しないことから、管理コストが低い点がメリットとして挙げられる。しかし、少ない方が良いとされる統計の取り扱いについて、不明な点がある。例えば、待機児童数などの指標は数値が低い方が良いとされる。これを標準化した場合には、当然、標準化変量も低い値となり、総合値は過小に評価されてしまう。こうした問題を回避するために、本報告では、主成分分析を用いて、幸福度指標の算出を行う。
主成分分析は、機械学習では教師無し学習に分類される。そして、複数のデータから合成した変数を作成する場合に使用される。簡単な事例で説明すると、国語・数学・理科・社会・英語の試験結果から、総合学習能力という新しい指数を作り出すことができる。主成分分析は、低いことで良い指標も関係する係数が負の値となり、恣意的な制約を課す必要はない。
以下では、北海道内の179市町村[5]を対象に幸福度指標の算出を行う。市町村統計は、都道府県に比べ、統計整備及び開示に大きくばらつきがあり、利用データの制約が大きい。ここでは、表1にまとめられた5種類のデータで分析する。

1 利用データ (2021年度時点)

出所:筆者作成

市町村内生産は、公表されていないことから、人口比で按分したものを暫定的に使用する。図2は、市町村内生産以外の統計の分布図であり、色が濃くなるほど数値が高いことを示す。

図2 統計データの地理的分布状況

出所:筆者作成

これら5種類のデータを用いて、主成分分析をした。結果の可視化として、第1主成分を横軸、第2主成分を縦軸とした散布図が以下の図3にまとめられている。

図3 主成分の得点分布

3より第1主成分は全体の傾向を表している変数と解釈でき、第2主成分は全体の傾向を除いた個別の状況を表していると解釈される。これより、第2主成分を市町村の幸福度指標と仮定して、詳細を見ていく。
4は各自治体の指標状況を可視化したものである。図4より最も高いのは、更別村であり、低いのは占冠村であった。道内の最大都市である札幌市は第1主成分で見ると、突出して高いものの、幸福度の観点では5位となった。

図4 主成分スコアの分布状況

さらに、地理的な分布状況として可視化したものが図5である。必ずしも都市部の幸福度が高いわけではないということが示されている。このように数値化することで、自地域が道内でどの位置にいるのかを相対的に評価することができる。また、各統計データの反応度(主成分得点)も数値として出てくることから、どの分野を改善していくべきかという政策立案の基礎材料にも活用することができる。

図5 第2主成分スコアの地理的分布状況

出所:筆者作成

今回の分析では、地域間の関係性を表す統計データは用いられていない。人流に関する情報を加えることで、地域の相互関連性ひいては交通に関する議論も出来るかもしれない。また、北海道はふるさと納税額で上位に入る自治体も多いことから、関連データを追加することも、今後、必要であると考えられる。

まとめ

本報告では、地方自治体におけるEBPMの実践例として、幸福度指標の作成を行なった。EBPMは重要であると言われているが、実際、どのようにやっていくのかについては、多くの自治体が頭を悩ませていることであろう。そうした状況下においては、シンクタンクや実証分析に携わる研究者が分析事例を多く示すことが重要であると考える。また、現代においては、PythonRなどの分析ツールが充実していることから、それらの操作方法を示し、作業を内製化できるように補助していくことも、今後の地方自治体におけるEBPMの活用を促進させるために必要であろう。


参考文献

1.東野瑠華 (2023)都道府県におけるウェルビーイング政策の現状と今後の課題」、東京財団政策研究所Review R-2023-059
2.
茨城県 (2024)いばらき幸福度指標について
3.ウェルビーイング学会 (2022)「四半期ごとの日本全体&都道府県別GDW」ウェルビーイング学会、2022年12月8日
4.日本総研 (2024) 「全47都道府県幸福度ランキング」日総研出版


[1] 日経新聞社が作成するGDWhttps://well-being.nikkei.com を参照のこと。
[2]地方自治体のウェルビーイング政策推進に関する研究—ウェルビーイング指標の開発および横展開可能な公共政策パッケージのデザイン—(2023年度終了)
[3] ここでは、都道府県の平均を引き、標準偏差で除している。詳しい計算方法は以下のURLを参照のこと。
https://www.pref.ibaraki.jp/kikaku/kikaku/seisaku/kikaku1-sogo/shinkeikaku/documents/02_sannsyutuhouhou.pdf
[4] 地域幸福度Well-Being指標の詳細は、https://well-being.digital.go.jp/dashboardを参照のこと。
[5] ここでは、札幌市は行政区に分類せず、1つの市として取り扱う。

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