R-2023-094
エビデンスに基づく政策立案(EBPM)が重要であるとの認識が高まっている一方で、経済全体を分析するマクロの経済データに限っても、EBPMに資する経済データが十分にそろっているとは言えない。
「エビデンスに基づく政策立案(EBPM)に資する経済データの活用」研究プログラム(研究期間2021年10月~2024年3月)では、以下の5つの柱で研究を進めることで、EBPMに基づく政策評価やデータ整備を行ってきた。
(1)政策を意思決定した時点の情報群である、リアルタイムデータ
(=時点ごとに利用可能であるデータ)の整備とそれを用いた政策評価
(2)現下の景気を早期に的確に判断できる景気指標の開発や代表的な
経済指標であるGDPを早期に推計するGDPナウキャスティングの定期公表
(3)企業が経済活動を行う中で生成されるデータ(オルタナティブデータ、以下「AD」)の利活用を通じ、政府統計では早期につかむことのできない経済動向の把握
(4)政府の統計改革の検証と提言
(5)予測担当者の研究会を通じた日本経済の中長期展望
その最終成果として、本書『EBPMに向けた経済データの現状と課題』を刊行し、2年半の活動と成果を振り返りつつ、6人の研究メンバーが政策提言をとりまとめた。特に力点を置いたのが「政府の統計改革の検証と提言」である。小巻は、統計の整備で国よりも劣位にある地方公共団体におけるEBPMの現状を整理し、Covid-19感染拡大期に各地域で実施された「飲食店への営業自粛要請」に効果検証を試みた。山澤は、注目度が最も高い国内総生産(GDP)統計を活用する上で必要な視点を論じた。飯塚は、日本経済にとって今後一段と重要性が高まるであろうインバウンド需要を把握し、政策に生かすために必要な統計改革を論じた。
浦沢は2番目の柱となり、月2回の公開を続けてきたGDPナウキャスティングの成果と課題について、景気判断という視点も踏まえて論じた。
3番目の柱となったADの利活用については、平田が2024年1月初旬の米国出張で得た知見を踏まえ、日本でADを生かす視点を示している。大塚は、株式会社ナウキャストが公表する「日経CPINow」も生かしながら、令和インフレのトレンド分析を行った。
本書が、EBPMに基づく政策評価やデータ整備の構築に向けて、関係者の議論を深めるきっかけとなれば幸いである。
目次
・「エビデンスに基づく政策立案(EBPM)に資する経済データの活用」研究プログラム
・「エビデンスに基づく政策立案(EBPM)に資する経済データの活用」プログラムの2年半を振り返って
(東京財団政策研究所研究主幹/神奈川大学経済学部教授 飯塚信夫)
・地方公共団体におけるEBPMの現状と課題
(東京財団政策研究所主席研究員/大阪経済大学経済学部教授 小巻泰之)
・インフレのトレンド分析
(東京財団政策研究所主席研究員/東北学院大学経済学部教授 大塚芳宏)
・多様化するデータをどう使いこなすか~米国での動向からの知見~
(東京財団政策研究所主席研究員/法政大学経営学部教授 平田英明)
・GDP統計の活用法-限界を意識しつつ使いこなそう 都道府県別月次実質GDPから経済成長の長期国際比較まで
(東京財団政策研究所主席研究員/跡見学園女子大学マネジメント学部教授 山澤成康)
・GDPナウキャストは、なぜ当たり、なぜ外れるのか―景気推定とGDP推計のギャップ―
(東京財団政策研究所主任研究員/神奈川大学経済学部准教授 浦沢聡士)
・インバウンド需要を的確に把握するために求められる統計改革
(東京財団政策研究所研究主幹/神奈川大学経済学部教授 飯塚信夫)
・執筆者略歴
■『EBPMに向けた経済データの現状と課題』全文はこちら(PDF:2.15MB)
▼「エビデンスに基づく政策立案(EBPM)に資する経済データの活用」研究プログラム研究成果一覧はこちら