このレビューのポイント
昨年(2021年)10月に、OECDはデジタル時代の新しい国際課税ルールについて、136か国の参加を得て“歴史的”とも言われる合意を達成しました。公益財団法人・東京財団政策研究所「デジタル経済と国際課税プログラム」では、この100年に一度とも謳われる合意を題材に、パネルディスカッションを行いました。
前半では、国際合意の内容と評価、そして5年をかけた交渉の中で明らかになった各国の利害対立について。後半ではデジタル経済で加速する富の集中と競争・格差を巡る問題について議論しています。
国際金融、報道機関、法学、税・社会保障改革など、異なった経験・専門領域を持つ4人のパネリストの方々に論じていただくことを通じて、デジタル時代の企業課税、富の集中と競争・格差を巡る最先端の議論や展望を立体的に示すことができました。
専門家の方のみならず、幅広い人々の関心を喚起し、楽しみながらご覧いただけることを願って、本ウェビナーをお届けします。
編集:(公財)東京財団政策研究所「デジタル経済と国際課税プログラム」岡
R-2022-030
(目次)
「►」をクリックすると動画の該当部分にリンクします。
最初から全体(90分)を視聴したい方は ►こちら(注意:音が出ます)
資料は►こちら 東京財団BEPS国際課税ウェビナースライド.pdf
開催報告・全文提供ページは ►こちら「【ウェビナー開催報告・全文提供】OECD・BEPS国際課税改革と競争・格差」
櫻井玲子 |
中尾武彦 |
渡辺徹也 |
岡直樹 | |
パネリスト | パネリスト | パネリスト | パネリスト | 司会・進行 |
日本放送協会(NHK) 解説委員 経済全般・国際経済・デジタル経済担当 |
みずほリサーチ&テクノロジーズ(株)理事長 元財務省財務官、前アジア開発銀行(ADB)総裁 |
(公財)東京財団政策研究所研究主幹・デジタル経済と国際課税研究プログラムメンバー(研究分担者) |
早稲田大学法学学術院教授・(公財)東京財団政策研究所デジタル経済と国際課税研究プログラムメンバー |
(公財)東京財団政策研究所研究員・デジタル経済と国際課税研究プログラムメンバー(研究代表) |
※順不同・敬称略。令和4年6月29日に東京財団政策研究所で実施。
Ⅰ 合意の内容と評価
(1)合意の内容
スライド1 BEPSプロジェクトとは |
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スライド4 国際課税の改革案 第1の柱、第2の柱。 |
(2)ディスカッション 国際合意の評価
❑ 経済・社会からみた合意の評価
✓ 市民・一般の人々からみた合意の意味とは?
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国際課税交渉が、一般市民にも関心のある「格差の是正」「デジタル化によって生じた不平等の是正」に貢献できるツールであるという認識を広めた… |
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先進国でwinner-takes-all(勝者独り占め)・格差の傾向が強まり、社会の分断が深刻になっている。合意の背景にはそうしたことへの憤りがあった… |
►【森信】 |
BEPSの始まりには、欧州の市民運動があった。企業がプレゼンスに応じた税を払っているかどうかチェックしていく必要がある… |
✓ 多国間主義・日本のリーダーシップという観点からみた評価とは?
スライド7 日本とBEPS |
利害を乗り越え良く合意した。国際的な協調が必要な分野は拡大している。金融、人権、貿易、データなど… |
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同床異夢のまま合意し、実施段階に入った。もうひと悶着あり得る… |
❑ 法人税改革としてみた合意の評価
✓ 企業の立場からみた合意の評価
「第1の柱」の課税はとりあえずTop100社で合意し、日本企業で該当するのは数社といわれる。しかしホッとするのは早い… |
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「第2の柱」のIIR(合算ルール)と、CFC税制(タックスヘイブン対策税制)の関係を検討する必要がある… |
✓ デジタルが生む無形資産とこれからの法人税のありかた
法人税が複雑化している。売上から仕入れを引いた付加価値分についてきちっと課税し、再分配の原資とする。歪みも少なく執行も簡単なはずだ… |
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重要な問題提起だ。法人税が“溶けていく”時代にあって、デジタルサービス税(DST)のような、消費税と法人税と法人税の中間みたいな税も登場した… |
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仕向地型・消費型の法人税は、以前トランプが主張したが、理論的にも根拠がある… |
Ⅱ デジタル企業を巡る利害対立とデジタルサービス税(DST)
スライド8 利害の対立 |
✓ DSTは果たして良い税か、悪い税か。日本も導入すべきか
DSTには技術的な問題がある一方、国民の間に人気がある。コロナ禍で疲弊した財源を少しでも補填することもできる… |
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無形資産にいかに課税すべきか。DSTも超過利益への課税として容認しうる部分もある。政治合意が進展しない場合、日本も導入を検討すべきだ… |
Ⅲ ポストコロナ・国際合意と競争・格差
❑ 巨大な経済力・影響力を持つデジタル企業にどう向かい合うか
「デジタル企業とは何ぞや」。GAFA課税として始まった国際交渉だが、今やGAFAでなくGAMA(メタ)だ。自動車産業だって“デジタル”になり得る。早い変化のスピードと国際交渉のタイムラグを縮める努力が必要だ… |
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巨大企業が国境を越えて自由に行動することは、経済面を超えた社会のありかたの問題にかかわってきている。いきなり統一的・包括的とはいかなくても、GAFAのようなところには対応しないと社会がもたない… |
❑ 富の集中・格差を巡る問題
スライド11 企業の富の集中と法人税改革・格差(イエレン米財務長官の主張) |
富の集中は今後も進む。国際課税の新ルールによって得られた財源は、格差是正の観点から得られる財源なので、格差の解消に使ってほしい… イノベーティブな動きを促すような規制緩和とセットで、国際的な議論を通じて富裕層課税の”Race to the bottom”を止めることはできないか… |
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ピケティが指摘したようにr>gなので金融所得への課税だけでは格差の拡大を止めることはできない。法人税では、無形資産=超過利潤課税(通常の経済活動を阻害しない優れた税)の税収を分配に回すことは考えられる… |
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国家を凌駕する巨大プラットフォームへの対応は、法律学が直面する課題でもある。シェアリングエコノミーでは、巨額の富を得るプラットフォーム企業の課税と、役務提供より多くの報酬を支払った企業への税恩典が考えられる… |