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AIをEBPM研修にどう活かすか
画像提供:Getty Images

R-2024-075

第4次AIブームの盛り上がり
データサイエンスに関する検定
北海道上川郡東川町での試行

本稿では「地方自治体におけるEBPM人材の育成」プログラムの一環として、AI(人工知能)の活用方法について考察する。まず、AIの普及の広がりについて述べ、データサイエンスに関する各種検定の出題範囲を比較する。そして最後に2024820日に開催した「第1回 地方自治体におけるEBPM活用研究会(於: 北海道上川郡東川町)」での発表内容について紹介し、AIを活用したEBPM研修について述べる。

第4次AIブームの盛り上がり

総務省の「令和6年版情報通信白書」によると、現在は第4次AIブームの期間になる。2010年頃から機械学習を使った第3AIブームが起こり、機械学習のなかでもディープラーニングの技術の優位性が明らかになった。2016年の画像認識コンテストILSVRCImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge)で、ディープラーニングを用いたチームが圧勝したことが象徴的である。
その後、自然言語処理分野で、リカレントニューラルネットワーク(RNN)やトランスフォーマーなどの技術が進み、2022年にOpenAIChatGPTのサービスを開始し、第4AIブームが始まった。第3次AIブームから冬の時代を経ずに第4次AIブームが盛り上がりを見せることとなった。
4AIブームの特徴としては、まずAIが身近になったことである。無料で使えるものやアプリなどで簡単に操作できるもの、ビジネスなどに活かせるものも多い。
2つ目の特徴はAIツールが多様化していることだ。文章生成だけではなく、音声や動画を生成するソフトが増えている。また、膨大な資料を要約したり、図解したりするAIもあり、さまざまな作業の効率化を支えている。
3つ目の特徴は進化が速いことだ。新たなサービスが次々生まれており、既存のサービスも随時更新されている。ChatGPTは、さまざまな質問に答えてくれるが、情報源がすぐに確認できない。その問題点を解決したのが、PerplexityGenSparkなどのサービスだ。会話形式で質問できるのは同じだが、検索元が明記されているので、情報源にたどり着きやすい。
総務省の統計研究研修所では、さまざまな統計教育を行っているが、受講形態としては、対面形式の集合研修、インターネット配信であるライブ配信研修とオンライン研修があり、最近ではオンライン研修に力を入れている。2016年に「初めて学ぶ統計」を配信して以来、講座数を増やしており、2024年度には14講座が開講されている。オンライン研修は良い面もあるが、双方向性がないことや毎年動画を更新するにはコストがかかるといった問題がある。
だが、AIの普及により、動画の作成コストの低下や、チャットボットなど他のアプローチも可能となり、受講形態のバリエーションが増えそうだ。

表1 AIツールの広がり

(出所)令和6年版情報通信白書を参考に筆者が項目を追加。

データサイエンスに関する検定

次に、EBPM(エビデンスに基づく政策立案)人材の育成には、AIの進展をどのように採り入れていくべきかを考える。EBPMの基本は、データの取り扱いに習熟することだろう。21世紀初頭までは統計学がその役目を果たしたが、コンピューターの発達でデータサイエンスがそれに代わろうとしている。
そこで、まずデータサイエンスと統計学との関係を整理しよう。データサイエンスの定義として基本的なものは、20109月にドリュー・コンウェイが彼のブログで公開したベン図である。①コンピュータースキル、②統計学、③各分野の専門領域――の重なったところがデータサイエンスと定義した。EBPM人材の育成という意味では、コンピュータースキルと統計学に加えて政策評価法を学ぶ必要があることになる。
次に、さまざまな検定の出題範囲を見ることで、どのような能力を評価しようとしているのか整理してみよう。統計に関連する検定として、「統計検定」がある。実施団体は一般社団法人 統計質保証推進協会で、認定団体は一般社団法人 日本統計学会である。統計検定は4級から1級まである。その他に公務員の実務を想定した統計調査士の検定もある。統計調査士は、公的統計を適切に利用する能力を評価する検定試験で、専門統計調査士はさらに統計作成に関する知識も評価する検定である。
また「統計検定」の一環としてデータサイエンスの検定も行われている。「統計検定 データサイエンス基礎」は高校レベル、「データサイエンス発展」はMDASHリテラシーレベル、「データサイエンスエキスパート」はMDASH応用基礎レベルの内容となっている。MDASHMathematics, Data science and AI Smart Higher Education)は、大学教育のデータサイエンス関連の認定制度で、日本語では「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」と呼ぶ。MDASHにはリテラシーレベルと応用基礎レベルの2つがある。MDASHのリテラシーレベルは、全大学生が修得すべきデータサイエンススキルとして作成されており、統計学などの知識のほか、社会におけるデータやAIの活用法に加えデータセキュリティやAI倫理なども含んでいる。
社会人一般を対象とした検定もある。経済産業省がオブザーバーとして入っているデジタルリテラシー協議会は、ビジネスマンに最低限必要なデジタル関連の知識の範囲として、「Di-Lite(ディーライト)」を提唱している。D=デジタルを、 i =自分ごととして捉え、Lite(リテラシーの略)=基礎(知識)を身につけることを表している。データサイエンスよりさらに広く、AIやデジタルツールの活用能力も含んでおり、基本的な検定3つの集合体を最低限必要なスキルとしている。
基本的な検定3つは、独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)のITパスポート試験、一般社団法人 データサイエンティスト協会(DSS)のデータサイエンティスト検定リテラシーレベル、一般社団法人 日本ディープラーニング協会(JDLA)のG検定(ジェネラリスト検定)である。3つの統計検定の間では以下のように整理されている。

図1 Di-Liteの守備範囲

(出所)デジタルリテラシー協議会の図を参考に、筆者作成。 


2は、各検定の公式サイトを参考に、出題範囲を比べたものである。〇は出題範囲にあるもの、△は出題されるが難易度の低いものである。同じ出題範囲でも、難易度が異なるものがある。たとえば、ITパスポート試験において、データ分析に関する出題がされる場合もあるが、かなり基礎的なものである。
これらの範囲を概観すると、社会人向けの検定にはビジネス課題や経営戦略なども含まれているのが特徴であることがわかる。また、機械学習やAIの歴史など統計学を超えた分野の出題も多いことがわかる。
EBPM人材の育成を検討する場合、どの範囲までをカバーする必要があるかを考えると、統計学だけでは狭いかもしれない。機械学習やAIも含めた範囲を考えた方がよいだろう。AIは、プログラムを書くこともできる。ChatGPTでは、さまざまな作業がPythonのプログラムの形で出力される。Pythonに関する多少の知識は必要となるだろう。

2 各検定の出題範囲

(出所)各検定の公式サイトを参考に判断。△は出題されるが難易度の低いもの。

北海道上川郡東川町での試行

こうしたことを踏まえ、東川町では、新たな研修法の試みとして、動画とチャットボットの作成について説明した。
動画は、拙著「回帰分析から学ぶ計量経済学:Excelで読み解く経済のしくみ」の内容で作成した。この本にはマンガのキャラクターが会話をする部分があり、それを動画化した。動画作成は、「ゆっくりMovieMaker4」を使用した。音声は、テキストファイルのセリフを入力し、音声合成ソフト「VOICEVOX」を使い合成した。キャラクターを動画上に登場させ、セリフとともに口が動くようにし、図表なども動画に掲示できるようにした。
動画の制作は今後さらに容易になることが見込まれる。話者の動きに応じてキャラクターが動くソフト(Webcam Motion Capture)も新たな研修ツールとして使える可能性がある。いわゆるVTuberが作成する動画を誰でも安価に作れるようになっている。AIを使うことで、単なる講義動画よりも魅力的でわかりやすいものが作成できる可能性がある。
もう1つはチャットボットの作成である。チャットボットは、質問をすると、コンピューターが答えるものだが、これを応用して研修制度に用いることができないかを試した。統計学や計量経済学のテキストをAIに読み込ませると、それらの内容に関して対話形式で答えることができる。ChatGPTでも、GPTsという形でチャットボットを実現できるが、有料版を使用している人に利用が限られる。今回はLINEで会話をする形式のチャットボットを、「Docsbot」というサービスを使い作成した。
チャットボットは、通常の動画視聴などに比べて、能動的に学ぶことができる。頻出する質問などを分析すれば、よりよいテキスト作りにも役立つ。
今後、AIを活用したEBPM研修を発展させるには、日進月歩で進むAIサービスを的確にフォローしつつ、受講者がより実践的なスキルを習得できる仕組みを作ることが必要となる。研修の効果が上がれば、地域社会の課題解決や持続可能な発展に寄与することが期待される。

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