
P-2024-003
本政策研究『財政危機時の緊急対応プラン2025』は、共著者が2023年7月以来進めてきた研究プログラム「財政危機時の緊急対応プラン」(以下、財政危機PG)の研究成果の一つとして発表するものである。
財政危機PGでは、日本において財政危機が生じた際に、政府・日本銀行(以下、「日銀」)が取るべき具体的対応策について、数値シミュレーションや法的制度的分析に基づいた提言を行ってきた。本PGの目的は、政府が危機時に迅速かつ的確な対応を取ることを可能とし、国民生活の損失を抑えることである。
周知のとおり、近年の日本の対GDP公的債務残高は先進民主主義国家中で突出した高いレベルとなっている。世界史上類のないペースで少子高齢化も進んでいる。世界経済が長年のデフレ基調からインフレ基調に転じる中、日銀は金融正常化へと舵を切り、安定的な国債消化を支えてきた低金利にも上昇圧力がかかり始めている。
このような状況下であっても、現時点など短期スパンで日本の財政危機が発生する可能性は低いと考えられる。ただ、10年、20年単位で考えれば、その確率は決して低くはないという試算も出ている。そして、いったん財政危機が発生すれば、国民生活への負の影響は甚大だ。つまり財政危機は、大地震や原発メルトダウンなどと同様、テールリスクの一種と言えよう。火事や地震といった他のテールリスクに備え避難訓練を行うように、財政危機にも対応プランが必要と考えたのが、本PGを始めた大きな動機である。財政危機を近々に予期しているからではないが、想定外は許されない。
本研究はあくまでプランBを策定する作業であり、財政危機を未然に防ぐには、本来は中長期の見通しに基づいた財政再建策の策定とその実施が必要となる。つまりプランAだ。本報告書の共著者の多くもそういったプランAの作業にも携わってきた。ただ、現在の日本では、持続性のあるプランAは、増税など国民の負担が大きすぎるとして、政治的に全く相手にされない。そうした状況からも、プランBの必要性は増している。
本政策研究は、財政の持続性という数十年単位の長期的な視点と、直近の経済財政状況に応じた短期的な視点とを併せ持つ。内容的には、政策実務に活用できるよう、冗長となるのを厭わず、各種対応策の具体的数値と法的根拠を盛り込むようにした。本政策研究を一つのたたき台として、財政問題のプランBの在り方について、実務に根ざした具体的な政策論争が発展していくことを期待したい。
目次
- 第1部 危機時の重要指標シミュレーション
- 補 論 日本銀行の金融政策正常化に伴うリスク
- 第2部 緊急対応策の検討
提言全文
財政危機時の緊急対応プラン2025(PDF:4MB)