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官民データを利用した地域の見える化 ―「将来推計人口」データで見る人口減少の克服に向けた取組み:北海道東川町のケース―
October 10, 2024
R-2024-042
・人口減少の克服に向けた取組みを評価するには |
人口減少の克服に向けた取組みを評価するには
我が国で進む少子化への対応は、国のみならず、実際に人口減少圧力に直面する地方において最も重要な政策課題の1つとなっており、近年、それぞれの自治体で様々な取組みが実施されている。
少子化対策や移住促進等の人口減少対策は、効果の発現までにある程度の時間を要するため短期的に評価を行うことが難しい一方で、そうした取組みが上手くいっているのか、いないのかを把握し次の取組みに活かしていくためにも、いずれかの視点から評価を行っていくことが今後重要となってくる。
そこで、前回に引き続き、官民データを利用した地域の見える化という問題意識のもと、各自治体が行う人口減少の克服に向けた取組みの成果を中長期的な視点から可視化し、その評価を行ってみたい。
その際、本稿では、「地方自治体におけるEBPM人材の育成」プログラムで連携する北海道上川郡東川町を取り上げるが、以下で紹介する「将来推計人口」データに基づく評価の視点はいずれの自治体にも応用することが可能であり、人口減少対策といった政策分野における1つの評価軸になり得ると考えている。
「将来推計人口」による予測と実績の乖離が意味するもの
「将来推計人口」(国立社会保障・人口問題研究所)は、人口について、国勢調査の確定数を出発点とした上で、それまでの傾向を踏まえた出生や死亡等に関する仮定をもとに、将来の人口の推移を予測するものである。言い換えれば、人口増減について、過去の傾向が今後も継続されると考えた場合に、最も蓋然性が高い将来の人口の姿を示すものと言える。
人口増減については、自然増減と社会増減に大別され、経済社会環境の影響を様々に受けるが、そうした環境は、出産・子育て支援や地域の魅力作り、移住の促進など、国や地域の政策によって変わり得る。つまり、もし、過去に予測された人口の推移と比べて、実際に実現された人口が大きくなるような場合があれば、そうした予測と現実の間に生じた差の背景には、単に予測が外れたという意味以上に、それまでの傾向から見通された予測を覆す、そうした地域での取組みや頑張りがあったとも考えることができる。
そこで、以下では、過去に行われた人口予測として、①2010年の国勢調査の人口を出発点として予測された2020年の人口(2013年に公表[1])を、そして、そうした予測の実現値として、②2020年の国勢調査の人口を用い、両者を比較する。具体的には、
により求められる値を確認する。この値が1の時、実際の人口と予測された人口が同じであること意味し、1より大きい(小さい)時には、予測に反し実際の人口が上振れ(下振れ)したことを意味する。
東川町は道内トップの上振れ
東川町について、これまでに公表された「将来推計人口」の中では、人口が減少していく姿が予測されてきたが、実際に実現された人口は、そうした予測に反し、増加を続けてきた。つまり、人口の増加を目的とした取組みが上手く行われてきたと考えることができるが、そうした成果を、予測と実績の乖離を表す上記の値を用い、北海道下の他の市区町村との比較の中で見てみる。
なお、2020年時点の実際の人口と10年前に予測された人口の比を、日本全国について見ると1.02であり、この10年間で2%の上振れ、また、北海道全体で見ると1.01であり、1%の上振れであった。概ね予測と実績が近しく、ある程度正しく予測されていると考えるなら、そうした予測からの大きな上振れには予測を覆す何らかの取組みがあったと解釈することも出来得る。
図1では、北海道下における上振れが大きい上位10市区町村を示しているが、東川町(1.09)は2位であり、予測に対し実績は10%程度の上振れとなっていた。
図1 人口予測からの上振れが大きい10市区町村(北海道)
(出所)「日本の地域別将来推計人口」(国立社会保障・人口問題研究所)より作成(以下の図も同様)。
なお、図2で、道下の全市区町村の分布を見ると、0.82(月形町)~1.09(真狩村)と20%程度の下振れを経験している地域も存在したが、予測と実績の乖離は概ね±5%の範囲内にとどまっていることが確認される。逆に言えば、±5%を超えて予測から実績が乖離している地域では、この10年の間に、予測を覆す、何らかの要因があったと考えられる。
図2 人口予測からの上振れ・下振れの分布(北海道)
東川町では、30~40代における上振れが顕著
東川町で見られた10%程度といった上振れの背景を探るため、予測と実績の乖離を年齢階級別に見ると、30~40代での上振れが顕著であった。
こうした動きを、図3で、同じく上位の真狩村、そして東川町に近接する比較的人口規模の大きい旭川市と比較すると、いずれの地域も、進学・就職等の影響もあり20代で下振れ傾向が見られるが、30~40代での上振れ傾向は旭川市(ないしは、北海道全体の傾向)では観察されず、東川町(及び、真狩村)の特徴的な傾向と考えられる。こうした結果は、「子育て世代の移住相談が増えている実感がある」といった東川町の政策担当者の評価を裏付けるものであり、背景には、住宅政策、コミュニティ醸成、景観づくりなど東川町が長年にわたり取り組んできた予測を覆す政策努力がある。
図3 人口予測からの上振れ・下振れの状況:年齢階級別
実際に人口が増加している地域で上振れる傾向
最後に、上振れ・下振れとなる市区町村の道内での一般的な特徴を探るため、2010~2020年にかけて実際に実現された人口増減率との関係を見ると、図4で示されるように、上記期間中に人口が増加している地域で上振れ、逆に、減少している地域で下振れる傾向が確認できた。
図4 実現された人口増減率と人口予測からの上振れ・下振れの傾向(北海道)
全国的に少子化が進む中、人口増が実現されるような地域では、その背景に人口増に繋がる積極的な取組みや環境の整備があると考えられ、そうした努力が上振れを引き起こしている可能性が考えられるが(逆に、人口減が見られる地域では、結果として、人口減少が加速する傾向)、東川町は、そうした限られた市区町村の1つとも言える。
その一方で、上振れ・下振れと、市区町村の人口規模(大きい、小さい)の関係性は顕著に見られず、必ずしも、人口規模が大きい都市でのみ上振れが起こっているわけではないとすれば、こうした事実は、人口規模が小さかったとしても、それぞれの地域での取組みによって人口増(もしくは人口減の緩和)を実現することができるといったことを示唆しているのかもしれない。
東川町を含め人口減少対策に取り組む自治体にとって、その成果を可視化することは、これまでの自らの取組みを評価することに限らず、これからのあるべき姿を議論する上でも重要なことであると考えている。
[1] 出生中位・死亡中位仮定に基づく値。なお、人口移動については、直近期間に観察された市区町村別・男女年齢別純移動率をもとに、そうした値が2020年にかけて定率で縮小していくといった仮定が設けられている。