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市町村における空き家対策と課題
画像提供:Getty Images

R-2024-059

  • 空き家所有者は遠隔地に居住する場合が多く、行政が空き家の実態を把握する手段がない。各集落の自治会長や地域おこし協力隊等を利用して実態把握をしている。
  • 空き家を手放したくない理由としては、仏壇、お墓の祭祀関係の他、既存住民への配慮(新規参入者が地域のルールを壊す)を理由とするものが最も多い。
  • 空き家所有者はそもそも空き家バンクへの登録をしない。自治体では空き家バンクへの登録促進のため修繕に関する助成金等の金銭的施策を採用している市町村が多い。また、中には、空き家バンクへの登録に対する報奨金的な施策を実施している市町村もある。
  • 空き家バンクの物件に関する取引では、所有権の在り方が大きな課題となっている。空き家を手放したくない理由から、所有権を移転させることに躊躇するからである。このため、中間管理住宅や定期付き借家権取引等の形態での取引を行っている。
  • 空き家バンクの運営では、担当職員に専門的な知識や経験が求められる、しかし、現実には、自治体におけるローティーション人事の影響で知識や経験が蓄積されないことも課題となっている。

本稿では、小巻(2024)により実地調査した市町村の空き家への取組状況を概略する。なお、調査先の市町村の意向もあり、市町村名は明示していない。

空き家の実態把握
空き家バンクの現状
空き家にしておく理由
空き家登録を進める施策
空き家の取引成約を高める施策
空き家施策における特徴的な取り組み事例
最後に

空き家の実態把握 

・日本産業新聞(2022)は、空き家率の西高東低の傾向は顕著と指摘し、西日本での空き家率が高いのは、東日本と比べて近隣都市圏等への人口流出が大きいことが要因と解説している(図1)。
・表1は空き家率について東西日本[1]での比較を確認したものである。西日本の方が東日本より空き家率は高い。空き家率(全体)についても 2018年調査以降では西日本で有意に高くなっている。
・このように統計上の空き家の状況は確認できるが、空き家状態の実態(空き家の保有意欲、修繕意欲等の所有者の意向)は把握できていない。これは、空き家の所有者の約3割は遠隔地(車・電車等で1時間越)に居住[2]しており、見た目では実質的な空き家の状態を把握することが困難だからである。
・各自治体は、各集落の自治会長、地域おこし協力隊及び、移住サポーター(市民ボランティア)等を活用し、空き家と思われる物件に個別訪問の上で状況を確認している。また、近隣住民へのヒアリングも併せて実施し、実態の把握に努めている。特に、空き家率の高い自治体では、こうした調査を毎年実施している。

 

図1 東西日本の空き家率(二次的住宅、賃貸・売却用住宅を除く)

(出所)総務省「住宅・土地統計調査」(2023年)より作成

 

表1 都道府県別空き家率(二次的住宅、賃貸・売却用住宅を除く)

(注)都道府県の、空き家率について推定したもの。ただし、空き家全体には、別荘などの二次的住宅や賃貸・売却用の空き家も含まれているため、これらを除く空き家率についても推定している。
(出所)総務省「住宅・土地統計調査」(2023年)より作成

空き家バンクの現状

・多くの市町村が空き家バンクを運営している。実地調査の範囲では、香川県のみ県が運営主体であり、香川県内の市町村は全て県に任せている状況であった。
・空き家は明らかな需要超過である。実際、空き家バンクへの新規登録を行うと、問い合わせが即座に入る自治体も多い。移住希望者は、当該地域の空き家状況について常にネット検索をしている。
・空き家の紹介では、3Dカメラを利用したバーチャル方式で物件の状況を開示している自治体での成約率が高い。ネットを通じた情報公開が効果的となっている。
・しかし、空き家バンクへの登録がほとんどない自治体も多く見られる。特に、沖縄県及び、本州の中山間部の自治体で多い。 

空き家にしておく理由

・所有者は特定空き家(解体するしかない)状態にならないと、空き家バンク等に登録しようとしない。しかし、特定空き家状態では、空き家バンクに登録する意味がない。多くの自治体では特定空き家状態での登録を行っていない。
・空き家にしておく理由は、①祭祀関係、②既存住民への配慮、③いずれ使うかもしれないため、④手続き等が面倒であるため、を理由とするものが多い。国土交通省調査(2019)でも同様の結果である。
・特に、仏壇、お墓の存在を理由とする所有者は沖縄県が最も多い。仏壇等の祭祀関係については、空き家を手放すことに対する親類縁者からの抗議や、自分の代で手放すことでご先祖様に申し訳がたたない等の理由となっている。沖縄県は移住希望者数が全国で最も多い地域であり、完全なミスマッチが生じている。
・既存住民への配慮については、集落での保守性が高い(近所付き合いが濃密な)地域ほど、所有者が空き家を手放し、その結果、新たな移住者が来ることで既存住民に迷惑を掛けないか(ごみ捨てや地域行事へ参加の忌避等のルールを守ろうとしない)、を気にしている。
・実際、各自治体における新規移住者の問題では、①自治会費の未納や②ごみの捨て方で揉める事例が多い。このため、新規移住者への拒否反応を示す集落もある。
・こうした課題への対策として、一部の市町村では、自治会長による事前の面談や、自治会費納入を移住における条件としているところもある。 

空き家登録を進める施策

・空き家バンクを周知させる方法として、多くの自治体で実施しているのは、当該物件の固定資産税の納付票を送付する際に、空き家バンクに関する資料を同封する方法である。自治体の中には。資料の紙の色を白からブルーに変更した結果、問い合わせが増えたとするところもあった。
・この他、セミナーを定例的に年3回程度実施している事例も見られる。
・空き家バンクへの物件を登録した所有者に対して報奨的な補助金を実施している自治体も複数あった。 

空き家の取引成約を高める施策

・何らかの金銭的施策を実施している自治体が多い(143市町村/157市町村)。その内容は空き家の修繕費や家財処分費用が多く、支給対象は所有者あるいは購入者(賃借者)となっている。
・空き家を含む移住者向けの施策の効果[3]については、157市町村ベースでの計測であるが、移住先の空き家を利用する場合に利用可能な「住宅の改修費用」や「家財処分費用」の補助制度が有意となっており、またその効果は大きなものとなっている。年齢別では、年齢が若い階層ほど有意で、パラメーターも大きくなっており、効果的な支援策と見られる(表2)。

 

2 市町村における移住者向けの住宅支援策の効果

(注)①分析は157市町村ベース ②カッコ内の数値はp値を示す
(出所)小巻(2024)より抜粋

・空き家の取引における法律上の手続きが面倒を理由とする空き家所有者については、自治体が売買・貸借の仲介者として空き家の取り扱いを行っている場合がある。
・さらに、空き家の所有権を移転させずに、空き家取引を活発化させる施策も実施されている。四国地域で多く見られる「中間管理住宅」あるいは「定期付き借家権」の方法である。ともに、自治体が10年間程度の条件で仲介しており、空き家の修繕についても自治体が行い、取引を円滑に進めるようにしている。
・こうした金銭的な施策の効果については、否定的な自治体も複数あった。ただし、その評価は定量的なものではなかった。 

空き家施策における特徴的な取り組み事例

空き家における効果的な施策として、一部の自治体が採用したものを紹介する。

①専門職員の配置
・空き家バンクの運営では、自治体を含め、地元の不動産業者や宅地建物取引協会等の共同で行われる場合がほとんどである。したがって、自治体職員にも不動産取引に関する専門的な知識が求められる場合が多いことから、担当職員を配置している自治体が複数ある。
・その中には、会計年度任期付き任用職員を支援員として配置する自治体も多い。

組織変更の実施
・自治体における空き家の所管は建設関連部署である場合がほとんどである。空き家の需要者は移住関連等の相談窓口へ向かう場合が多い。しかし、多くの自治体では、空き家所管の部署と移住関連の部署間での情報共有が十分でなく、空き家の取引等で問題が生じることが少なくないとのことである。
・このため、取引可能な空き家を中心に、その事務を企画や政策関連部署での移住等の相談窓口に集約している自治体を2つ確認できた。この2つの自治体では、組織変更後、成約件数が倍増以上となっており、その効果が高いと思われる。

外部委託
・地域おこし協力隊のミッションとして、空き家バンクの運営を取り上げている自治体がある。別組織の地域団体を設置して、空き家バンクを専任として取り扱い、空き家バンク登録件数や成約件数で成果を上げている自治体も見られる。
・あるいは、都市圏の事業会社に市町村の活性化のデザインを委託し、その中で空き家バンクの運営も当該企業からの専門スタッフが運営している場合も見られる。中には、ふるさと納税についても外部委託をしている自治体も見られた。 

最後に

・多くの市町村にとって空き家管理は大きな政策課題となっている。
・その中で空き家バンクの担当者に関する課題としては、厳格なローティーション人事を堅持する市町村がほとんどのため、空き家バンクに関する知識や経験が高められない点が挙げられる。これは、市町村の担当者の個人的な能力上の問題ではなく、職務内容への習熟における期間が短いためである。
・この結果、市町村ごとに業務・施策への知識量に差異が生じている。特に、ローティーション人事が厳格に堅持されている市町村ほど、その傾向が強いように感じる。もちろん、こうした状況を現地の担当者は課題として認識されている。
・自治体における職員の専門性を高めていくことは重要であり、その中で、東京財団政策研究所が提言しているような空き家バンクの管理方法や、その効果に関するプロジェクトの重要性はより高まっているのではないかと考える。


(参考文献)

1.国土交通省(2019)「令和元年空き家所有者実態調査」
2.小巻泰之(2024)「定住・移住策における地域格差とその効果の検証」、令和5年度総務省統計データ利活用推進事業『分析実践!EBPM 推進事業報告書』、2024年3月31日
3.近藤明子・近藤光男(2015)「市町村の政策的取組が人口移動に与える影響」、日本地域学会年次大会学術発表論文集
4.人口戦略会議(2024)「令和6年・地方自治体「持続可能性」分析レポート-新たな地域別将来推計人口から分かる自治体の実情と課題-」、2024年4月24日。
5.内閣府(2015)「選択する未来-人口推計から見えてくる未来像-「選択する未来」委員会報告解説・資料集-」、第3章、財政諮問会議、「選択する未来」委員会
6.日本産業新聞(2022)「空き家問題は「西高東低」 中四国が上位/首都圏低く 人口移動で「家余り」進む」、2022年10月12日。


[1] 東日本と西日本の区分については、『広辞苑』(岩波書店、第七版)によれば、東日本は「日本の東半分。広くは中部地方を含めそれ以東であり、通常は北海道・東北・関東の3地方とされている。他方、西日本は「日本の西半分。広くは中部地方を含めそれ以西。通常は近畿以西。狭くは中国・四国・九州3地方の総称」とされている。したがって、中部地域の区分をどうするかであるが、本稿では中部地域は気象庁での地域区分を用いて、東日本と西日本に区分することとした。
[2] 令和元年空き家所有者実態調査(国土交通省)
[3] ここでの推計は、それぞれの施策に関する質問事項を「ある」「なし」で自治体担当者から回答を得て、それを説明変数にしている。被説明変数には、総務省「住民基本台帳人口移動報告」の年齢別の転入者動向のデータから当該地域の人口数で除した移住者率を算出して用いている。

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