
P-2024-001
わが国の最優先課題の一つは、少子化対策である。少子化の原因は様々で、経済的な要因を重視し子育てに係る費用負担を軽減するため児童手当の拡充などを行うべきだとする考え方や、若者が結婚しなくなったことに原因があるのでその背景として、育児を女性に押し付けて男性は長時間労働という考え方を形成してきた日本社会や会社の変革を促すという考え方、さらには、女性が結婚して出産するとキャリアダウンし失う機会費用が大きすぎることを問題にする考え方など実に多様である。
さて岸田前内閣は、少子化を食い止めるための「異次元の少子化対策」として「こども未来戦略方針(令和5(2023)年6月13日閣議決定)」https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_mirai/pdf/kakugikettei_20230613.pdf を決定した。それに基づき、総合的な子ども政策を推進する核となる「こども家庭庁」を創設、さらに子ども・子育て政策の財源として、医療保険者が被保険者から保険料と合わせて徴収する「子ども・子育て支援金制度」を立法化した。
東京財団政策研究所研究の「税・社会保障一体改革のグランドデザイン 全世代型社会保障改革とその検証プログラムⅡ」は、2024年度のテーマとして「税・社会保障の将来展望―わが国の少子化対策の検証と課題」を取り上げ、これら岸田前内閣の政策を検証し、米国の制度との比較を論じ、さらには地方行財政の課題も取り上げ、具体的な政策提言を行った。
2026年度から開始される「子ども・子育て支援金制度」については、森信、西沢、岡の3者がそれぞれの立場から自論を展開している。森信・西沢・岡の3者とも、この制度は保険制度として創設されたものの、保険原理との関係などから様々な問題があり、税での対応が望ましいとの共通の立場に立っている。
その上で、森信は「更なる拡大は慎むべき」とし「今後足らざる少子化対策財源を検討することになれば・・所得税など選択肢を広げて議論していくことが必要」とし、西沢は「税を持ち出す政治的な困難さは無視」するという前提の下で、「撤回・・施行延期をした上で・・既存の税制との理論的な比較検証からスタート」とし、岡は「あらたな税財源として、世代間衡平の観点から相続税の一部の目的税化が考えられる」としている。このように、目指す方向は同一(税で対応すべき)であるものの、そのタイミング、具体的税目については異なっている。
本書が、わが国の少子化対策問題について、関係者の議論を深めるきっかけとなれば幸いである。
目次
- 要 旨
- 第1章 少子化対策・社会保障財源のベストミックスを考える
(東京財団政策研究所研究主幹 森信茂樹) - 第2章 現役世代の社会保険料負担抑制と構造の見直しを
(日本総合研究所理事 西沢和彦) - 第3章 少子化対策の財源を巡る制度と将来展望(子育て支援納付金制度)
(東京財団政策研究所主任研究員 岡直樹) - 第4章 日本の子育てをどう支援するか ―アメリカの児童税額控除制度からの示唆―
(一橋大学名誉教授 田近栄治) - 第5章 児童手当拡充が家計に与える影響
(東京財団政策研究所研究主幹/慶應義塾大学経済学部教授 土居丈朗) - 第6章 少子化・人口減少(縮小)の地方行財政
(東京財団政策研究所研究主幹/一橋大学経済学研究科教授 佐藤主光) - 第7章 こども未来戦略と保険料率の上限抑制 ―医療費「成長率調整メカニズム」の導入に向けて―
(法政大学経済学部教授 小黒一正)
提言全文
少子化対策のあり方 ―財源問題を中心に―(PDF:3.26MB)