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2020年代に求められる所得税改革に関する経済分析
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2020年代に求められる所得税改革に関する経済分析

March 31, 2024

R-2023-130

はじめに
所得税と住民税の定額減税
16~18歳の扶養控除の縮小
政策的含意

はじめに

東京財団政策研究所の研究プログラム「所得税改革の経済分析:2010年代の改革効果のパネル分析と2020年代に問われる改革のマイクロシミュレーション分析」では、2020年代に求められる所得税改革に関連して、今後行われようとしている所得税改革に関する経済分析を行った。本稿では、これらを総括して、改めて2020年代に求められる所得税改革に関する政策的含意を導くこととする。

まず、本研究プログラムにおいて実施した、今後行われようとしている所得税改革に関する経済分析の結果を展望しよう。 

所得税と住民税の定額減税

まず、所得税と住民税の定額減税が、2023年12月に閣議決定された政府の「令和6年度税制改正の大綱」に盛り込まれ、早速2024年6月に実施されることとなった。この各所得層に与える影響については、拙稿「岸田内閣の『所得税減税』の家計へのインパクト」で、政府や他の調査機関よりも先んじて公表した。

前掲拙稿によると、納税者と配偶者を含む扶養家族1人につき2024年分の所得税を3万円、2024年度分の個人住民税を1万円減税するという定額減税の効果だけをみると、所得水準が高くなるにつれて納税額の減少額が大きくなっている。そして、所得階級を十分位にしたときの第Ⅲ階級以下では、納税額の減少額が4万円未満となっており、明らかに納税者本人に与えられる減税額よりも少なくなっている。つまり、納税額が減税予定額よりも下回るために、定額減税だけを行うと減税の恩恵を全額は受けられない納税者が低所得層に含まれていることを示唆する。

そこで、現に、政府が実施する予定の方策は、定額減税と給付を組み合わせるというものである。定額減税だけでは納税者本人に与えられる減税額よりも少ない分を、追加的に給付することとなっている。

加えて、住民税均等割のみ課税される世帯には、1世帯あたり10万円と18歳以下の児童1人あたり5万円を給付することとしている。また、住民税非課税世帯には、別途1世帯当たり7万円の給付を支給することとしている。

前掲拙稿では、定額減税だけでなく、これらの給付措置も加えた結果、各所得階層にどのような影響が及ぶかも分析している。それによると、所得税・住民税の定額減税と付随する給付措置によって、各所得階級で可処分所得が減税前と比べてどの程度増えたかについて可処分所得増加率でみると、第Ⅰ階級では、可処分所得増加率は6.76%と、直近の物価上昇率を超える増加率となっていることがわかる。第Ⅷ階級以下では、可処分所得増加率は2%以上となっている。そして、所得水準が高くなるほど、所得階級平均の可処分所得増加率が低下している。

それだけ、定額の減税と給付は、所得格差を是正する効果があると考えられる。 

16~18歳の扶養控除の縮小

次に、2023年12月に与党決定された「令和6年度税制改正大綱」に例示されたが、結局決定にはまだ至っていないものとして、所得税制における16~18歳の扶養控除の見直しがある。これについては、本研究プログラムにおける研究成果として、拙稿「18歳までの児童手当支給と扶養控除廃止なら誰にどれだけ負担純増となるか(その1)」、拙稿「18歳までの児童手当支給と扶養控除廃止なら誰にどれだけ負担純増となるか(その2)」、拙稿「18歳までの児童手当支給と扶養控除縮小なら誰にどれだけ給付の純増となるか」で分析結果を公表している。

児童手当の支給期間を18歳まで延長して所得制限なしに月1万円(年12万円)の支給とすることにしたため、それに付随して16~18歳の扶養控除について、所得税で38万円から25万円に、住民税で33万円から12万円にするという金額の例示が、与党決定された「令和6年度税制改正大綱」には示されている。

これらの前掲拙稿の分析結果をまとめると、次のことが言える。18歳まで支給期間を延長して所得制限なしに月1万円(年12万円)を支給するだけで他は変わらないと、対象の扶養親族1人当たり12万円の可処分所得の増加となる。児童手当は非課税なので、そのまま可処分所得の増加となる。

しかし、2010年に子ども手当の創設に際して所得制限を撤廃したことを受けて、当該年齢の扶養控除を廃止した経緯があることから、16~18歳の扶養控除を廃止する効果を合わせると、扶養控除の廃止に伴い所得税・住民税が増税となることが効果として加わる。

また、児童手当の支給増と所得税・住民税の増税の効果を合計した負担の純増となる(扶養控除が適用される)主たる稼ぎ手の課税前収入は、1,150万円前後以上であることが明らかとなった。これは、16~18歳の扶養控除が現に適用されている所得者の約1割に過ぎないことが判明した。

しかし、この約1割でも負担の純増になることを恐れたのか、政府・与党は16~18歳の扶養控除を全廃するのではなく、縮小する案を提示した。16~18歳の扶養控除について、所得税で38万円から25万円に、住民税で33万円から12万円にすると、16~18歳の扶養控除の縮小に伴う所得税・住民税の増税額は、所得制限なしの児童手当の支給の増額にあたる12万円を下回っていることが、前掲拙稿で明らかとなった。

ただ、高所得層ほど直面する(限界)税率が高いため、扶養控除による税負担軽減額は大きい。だから、高所得層ほど、扶養控除の縮小による負担増の額は大きく、それだけ児童手当の支給増と合わせた負担の純減額は小さくなっている。 

政策的含意

定額減税と扶養控除の縮小を対象に分析を行った結果を踏まえて、2020年代に求められる所得税改革について、政策的含意を導こう。扶養控除に象徴されるように、所得税制における所得控除は、高所得者ほど税負担軽減効果が大きい。だから、所得控除を縮小することは、高所得者ほど増税額がより大きくなる。つまり、所得控除を縮小するほど、所得格差の是正(所得再分配機能)が実現する。

他方、定額減税は、高所得者ほどそれによる可処分所得増加率は小さくなる。逆にいえば、定額減税は、低所得者ほど可処分所得増加率が高くなる。つまり、定額減税は、所得格差を是正する効果を持つ。

定額減税と同じ効果を持つ課税控除は、税額控除である。定額減税を行うのと、税額控除を拡大することは、控除の使い残しや定額減税で行使しきれない場合を除き、両者は同じ効果を持つ。

では、前述したように、納税額が納税者本人に与えられる定額減税の額よりも少ない場合はどうなるか。調整が一切行われないなら、定額減税は行使しきれず、それだけ減税の恩恵が受けられなくなる。

そこで、2024年6月に実施される定額減税では、前述のように、給付措置で恩恵が行き届くようにするという。

ならば、定額減税と給付を組み合わせるということは、定額減税が税額控除の増額と同じであることを踏まえれば、「給付付き税額控除」そのものである。給付付き税額控除とは、税額控除を設けた結果、 所得税額がマイナスとなる納税者には給付を与える仕組みである。

2024年6月に実施される定額減税とそれに付随する給付措置は、税額控除を一切使っていない。その分だけ、源泉徴収時の手間や、追加的な給付事務を強いることになる。それならば、こうした税制改正は、給付付き税額控除という手段で実施することが望まれる。これが、本研究プログラムにおいて実施した研究から得られる政策的含意である。

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