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コロナ禍における第3次産業活動指数の変動と基準改定の影響
画像提供:Getty Images

コロナ禍における第3次産業活動指数の変動と基準改定の影響

April 26, 2023

R-2023-005

はじめに
第3次産業活動指数の作成方法と基準改定の影響
第3次産業活動指数の変動-コロナ禍前とコロナ禍-
第3次産業活動指数の変動-基準改定の影響-
コロナ禍&基準改定後で事後的な改定幅が大きくなった

「情報通信業」、「医療、福祉」での改定幅が大きく
第3次産業活動指数を軸に、サービス産業統計の“見取り図”を

はじめに

2020年初頭からのコロナ禍を経て、サービス産業の動向にこれまで以上に注目が集まるようになった。最近では、海外経済の減速から輸出や国内の生産活動が落ち込むことが見込まれる一方で、ようやく行動制限が外れたことによりサービス産業がどこまで回復し、景気を下支えするかに注目が集まっている。

こうしたサービス産業の活動を示す経済指標の代表が「第3次産業活動指数」(経済産業省)である。モノの生産動向を示す「鉱工業生産指数」(経済産業省)に比べて、公表までのタイムラグが長いこと(当該月が終了してから1ヵ月半程度)や、変動が小さいことなどを理由に、これまで注目度は低かったが、コロナ禍を機に状況が変わってきた。また、理由は必ずしもコロナ禍ではないだろうが、これまで生産データ中心だった「景気動向指数」(内閣府)において、2022年8月分から参考指標として「景気を把握する新しい指数(一致指数)」の公表を始めている[1]

また、単なる偶然ではあろうが、第3次産業活動指数はコロナ禍初期の2020年2月に基準改定が行われた。詳細は後述するが、指数を作成する基準年を2010年から2015年に変更したほか、個々のサービス産業の指数を作成するための基礎統計の変更なども行っている。これらは、第3次産業活動指数の月々の変動に変化を生じさせ、速報値が公表された後の改定幅の大きさにも影響を与えている可能性がある。

研究プログラムは、前身である「経済データ活用研究会」から、第3次産業活動指数のリアルタイムデータベースを整備してきた。2018年4月に公表された2018年2月分の速報値から、毎月公表される第3次産業活動指数の時系列データを保存し、「第3次産業総合」については各公表月における時系列データをExcel1枚にまとめ、速報値以降、各月の指数がどのように改定されていったかを把握できるようにしている。

本稿では、このリアルタイムデータベースを活用し、コロナ禍と基準改定という2つの要因により、第3次産業活動指数の毎月の変動や改定幅にどのような影響が生じたのかを確認し、同指数を観察するうえで注意すべき点につき考察したい。

第3次産業活動指数の作成方法と基準改定の影響

第3次産業活動指数は、個々の業種のサービス生産活動を指数化し、基準年のウエイトで加重平均したものである。ウエイトは「産業連関表」(総務省)による個々の業種の付加価値額がサービス業全体に占める比率が用いられており、付加価値を多く稼ぐサービス業の変動の影響が第3次産業総合指数により大きく反映する仕組みになっている。この点は鉱工業生産指数とほぼ同じであるが、モノの生産を示す鉱工業生産指数とは異なり、形のないサービスの生産の測り方は一筋縄ではいかない点が決定的な違いである。例えば、当該サービスの生産活動に関わる労働投入量を代理変数にしたり、契約件数を用いたりするという考え方もあれば、当該サービスの売上高を何らかの物価指数を用いて実質化する方法も考えられる。

第3次産業活動指数の2015年基準改定では、後者の考え方、すなわち当該サービスの売上高を何らかの物価指数を用いて実質化する手法がより多く用いられている。具体的には「サービス産業動向調査」(総務省統計局)から得られる売上高を何らかの物価指数を用いて実質化したものを基礎統計に用いてサービスの生産量を測るように変更され、これは2015年基準改定において目玉の一つであったと見受けられる[2]

例えば、「通信業」という指数は、2015年基準において、サービス産業動向調査の「通信業売上高」が用いられるようになった。2010年基準では、総務省資料による「固定系データ・音声通信契約数」、「固定系ブロードバンド契約数」、「移動系通信契約数」の加重平均値を用いて指数が算出されていた。「廃棄物処理業」も2015年基準からサービス産業動向調査の「廃棄物処理業売上高」が用いられるようになったが、2010年基準では「毎月勤労統計調査」(厚生労働省)から得られる廃棄物処理業における雇用指数と総実労働時間指数を乗じたもの(=労働投入量)を用いて指数が算出されていた。

このように2015年基準改定で「サービス産業動向調査」を用いるようになった業種が第3次産業総合指数に占めるウエイトは1万分の1240.1と1割強を占める。なお、基準改定においては個別業種の指数を加重平均する際のウエイトが変更されるが、大部門を見る限り、2010年基準と2015年基準では大きな違いは見受けられなかった(図表1)。

図表1 大分類別新旧ウエイト比較

第3次産業活動指数の変動-コロナ禍前とコロナ禍-

図表2は、2023年1月分の第3次産業活動指数が公表された時点の第3次産業総合指数の季節調整済み系列である。2015年基準改定では20131月まで指数が遡及改定されているため、20131月以降のグラフとなっている。コロナ禍前までは、2度の消費税率引き上げ時期を除けば緩やかな右上がりでの推移であったが、コロナ禍、特に第1回の緊急事態宣言発令時には指数が大きく下落している。その後は右上がりトレンドながら、コロナ禍前よりはブレが大きくなっているようにも見受けられる。業種別(大部門、以下同)の季節調整済み系列を見ると、第3次産業総合指数と似通った動きをしているのは、「運輸業、郵便業」、「事業者向け関連サービス」及び「生活娯楽関連サービス」である。「卸売業」及び「小売業」はコロナ禍前から低下トレンドであり、「金融・保険業」はコロナ禍後に上昇トレンドに転じた。

図表2 第3次産業活動指数の推移


こうした第3次産業総合指数や主要業種指数のコロナ禍前と後の変動の違いを前月比の時系列データ(ヒストリカルデータ)で確認したのが図表3である。2015年基準改定では20131月まで指数が遡及改定されているため、20132月以降のグラフになっている。

コロナ禍の影響が出始めたと考えられる2020年2月~2023年1月までの季節調整済みの前月比の標準偏差は2.40であり、それ以前(20132月~2020年1月)の1.09に比べて2倍になっている。コロナ禍において、サービス産業の生産活動の変動が大きくなったことが第3次産業活動指数からも確認できる。

図表3 第3次産業活動指数(前月比)の推移

業種別ではどうであろうか。図表4の「(c)/(b)」の欄では、同じ2015年基準のデータについて、コロナ禍(20202月~2023年1月)の標準偏差がコロナ禍前(20132月~20201月)の何倍になっているかを確認している。他業種に比べて圧倒的に大きいのが「生活娯楽関連サービス」で、標準偏差はコロナ禍前の7.73倍になっている。次いで大きいのが「運輸業、郵便業」で標準偏差はコロナ禍前の3.57倍である。

「生活娯楽関連サービス」には宿泊業、飲食店、飲食サービス業、旅行業などコロナ禍における行動制限の影響を大きく受けた業種が含まれている。同様に「運輸業、郵便業」では、鉄道業、航空運輸業などが含まれ、これらの行動制限の影響を大きく受けた業種である。

図表4 第3次産業活動指数(前月比)の標準偏差

()表中の数字は小数点第二位までを表示したものである。

第3次産業活動指数の変動-基準改定の影響-

前述したように、2015年基準改定において、売上高(物価指数で実質化したもの)を基礎統計に用いる業種が増えた。これは、個別業種のサービス生産の実態を指数に反映できるメリットがある一方で、基準改定前に比べて指数の変動が大きくなることが予想される。 

図表2のヒストリカルデータはすべて2015年基準で推計されたものであるが、20132月~2020年1月については2010年基準のヒストリカルデータ(20201月分が公表された時点の時系列データ)も確認できる。そこで、図表5では2013年1月~2020年1月について旧基準(2015年=100のデータに変換)と新基準を比較した。新基準の方が若干緩やかな上昇トレンドになっており、この間の平均年率成長率は旧基準が0.57%であるのに対し、新基準は0.37%と低下している。ただ、変動については2度の消費税率の時期の駆け込みと反動が若干強まった以外は、さほど変化していない。実際、前月比(20132月~20201月)の標準偏差を確認すると旧基準が0.94であるのに対し、新基準は1.09であり大きな差はない。

図表5 第3次産業活動指数(総合)の新旧基準の比較


業種別ではどうであろうか。図表4の「(b)/(a)」の欄では、20132月~20201月について2015年基準データの標準偏差が2010年基準データの何倍になっているかを確認している。最も大きいのは「医療、福祉」の標準偏差で、基準改定前の3倍になっている。それに次ぐのが「情報通信業」(1.37倍)、「卸売業」(1.21倍)である。逆に標準偏差が小さくなっているのが「事業者向け関連サービス」(0.70倍)である。

旧基準と新基準の前月比の変動パターンはどうだろうか。第3次産業総合では相関係数が0.95であり、大きく変化していない。一方、業種別では「医療、福祉」(0.15)、「事業者向け関連サービス」(0.30)、「情報通信業」(0.46)が他の業種に比べて低く、旧基準と新基準で変動パターンが大きく変わっている。

「医療、福祉」は、2010年基準においては「医療業」(984、カッコ内は第3次産業総合(10000)に対するウエイト)、「介護事業」(251.4)から構成されていたが、2015年基準では「保健衛生」(30.9)が新設され、「介護事業」が「社会福祉・介護事業」(315.4)に変更され、「医療業」(892.6)とともに3業種で構成されるようになった。

このうち、「社会福祉・介護事業」はサービス産業動向調査の「社会保険・社会福祉・介護事業売上高」を基礎統計に用いている。2010年基準の「介護事業」では「介護給付費実態調査月報」(厚生労働省)における居宅介護サービス受給者数と施設介護サービス受給者数の加重平均が用いられていた。この結果、20132月~2020年1月の標準偏差は、基準改定前の0.48から基準改定後の1.76へと3.7倍に拡大し、旧基準と新基準の相関係数も0.09と変動が大きく、変動パターンも大きく変わっている[3]

基礎統計変更の影響は「情報通信業」の内訳である「通信業」(323.2)及び「放送業」(72.8)にも表れている。ともに2015年基準からサービス産業動向調査の「通信業」、「放送業」の売上高を用いることになった。2010年基準においては、「通信業」は音声通信契約数などの加重平均、「放送業」はNHK受診契約件数などの加重平均が用いられていた。この結果、20132月~2020年1月の「通信業」の標準偏差は、基準改定前の0.13から基準改定後の2.36へと18.1倍に拡大し、旧基準と新基準の相関係数も0.11と変動が大きく、変動パターンも大きく変わっている。同様に、「放送業」の標準偏差は、基準改定前の0.09から基準改定後の3.07へと32.9倍に拡大し旧基準と新基準の相関係数も0.11と低い。

「事業者向け関連サービス」の内訳でも、「廃棄物処理業」(97.7)、「職業紹介・労働者派遣業」(217.6)が2015年基準からサービス産業動向調査を基礎統計に用いることになったほか、2015年基準から新設された「自動車整備業(事業用車両)」(52.9)、「機械修理業」(67.6)でもサービス産業動向調査を基礎統計に用いている。一方、「土木・建築サービス業」(98.0)、「エンジニアリング業」(50.9)では基礎統計は変更しないものの、基礎統計に移動平均をかけて指数算出に用いるようになったことが、変動が小さくなった一因ではないかと推察される。

第3次産業総合で見ると目立たないが、業種別でみると、基準改定前より変動の大きさやパターンが変わっているものがあり、これは基礎統計の変更によるところが大きいと考えられる。

コロナ禍&基準改定後で事後的な改定幅が大きくなった

第3次産業活動指数は、当月分の公表時に過去3ヵ月分の指数を改定している。例えば、2023年1月の速報値は、20232月分、3月分、4月分の公表時に改定される可能性がある。これは、推計までに間に合わない基礎統計があるためだ。このため、2015年基準改定において、売上高(物価指数で実質化したもの)を基礎統計に用いる業種が増えたことは、改定幅にも影響しよう。というのも、サービス産業動向調査は当該月から約2ヵ月のラグで公表されているためだ。これは、1ヵ月半のラグで公表される第3次産業活動指数よりも遅い。

第3次産業活動指数の推計部署に聞き取り調査したところによると、基礎統計が間に合わない場合は個々の基礎統計ごとに推計(予測)を行っている。具体的な推計の方法や、どの基礎統計がどのタイミングで第3次産業活動指数の推計に用いられているかについては非公表とのことである。売上高等が大きく変動しない時であれば、遅れて入手される実績値と予測のズレは小さいかもしれないが、コロナ禍の時にはその影響が出ることが想像される。

以上を踏まえて、第3次産業総合の速報値と1ヵ月後の改定幅を確認しよう(図表6。本研究プログラムで第3次産業活動指数のリアルタイムデータを整備した以降のデータを用いているため、20182月以降のデータとなっている。棒グラフで示した改定幅(=1ヵ月後の改定値の前月比-速報値の前月比)を見ると、2015年基準になった20202月以降、改定幅が大きくなっている。改定幅の絶対値の平均(MAE)をみると、基準改定前(20182月~20201月)は0.16であるのに対し、基準改定後(20202月~2023年1月)は0.422.55倍になっている。第3次産業活動指数は、毎年2月分の公表時に年間補正が行われるため、毎年1月分の速報値の1ヵ月後の改定幅にはこの影響が含まれる。2020年1月分の改定幅には基準改定の影響もある。そこで、これらを除いてMAEを比較すると、基準改定前の0.15に対し、基準改定後は0.40と大きな違いはない。

一方、1ヵ月後から2ヵ月後の改定幅のMAE(基準改定、年間補正の影響除く)は基準改定前の0.04に対し基準改定後は0.07とほぼ変わらず。2ヵ月後から3ヵ月後では基準改定前の0.00から0.03とわずかである。第3次産業活動指数の改定は速報値から1ヵ月後の間がほとんどであると言える。

図表6 第3次産業活動指数(総合、前月比)の速報値と1ヵ月後の改定幅

「情報通信業」、「医療、福祉」での改定幅が大きく

業種別ではどうであろうか。MAE(基準改定、年間補正の影響除く)の基準改定前と改定後を比較すると、その差が最も大きいのは「情報通信業」である(図表7)MAEは基準改定前の0.1から基準改定後の0.767.9倍になっている。基準改定で基礎統計にサービス産業動向調査を使うことになった影響が多いとみられ、「通信業」のMAEは基準改定前の0.03から基準改定後の1.77へと54.1倍に、「放送業」のMAEは基準改定前の0.09から基準改定後は3.07へと32.9倍になっている。

図表7 第3次産業活動指数(前月比)の1ヵ月後の改定幅のMAE

()表中の数字は小数点第二位までを表示したものである。

一方、第3次産業総合指数への寄与度ベースでみて、MAEの増加に寄与したのは「医療、福祉」である(図表8)。内訳の「社会福祉・介護事業」のMAEは基準改定前の0.02から基準改定後の1.22へと64.8倍になった。これは基礎統計にサービス産業動向調査を用いることになったことが影響していると考えられる。一方、「医療業」のMAEは、基礎統計の変更がなくても、基準改定前の0.54から基準改定後の2.484.6倍になっている。ウエイトの大きさから考えて、「医療業」のMAEの拡大が「医療、福祉」のMAEの拡大に寄与していると考えられる。

図表8 第3次産業活動指数(前月比)の1ヵ月後の改定幅のMAE(寄与度ベース)

()表中の数字は小数点第二位までを表示したものである。

前述したように、経済産業省は、どの基礎統計がどのタイミングで第3次産業活動指数の推計に用いられているかについては明示していない。ただ、「医療業」の基礎統計である「診療報酬支払確定状況」(社会保険診療報酬支払基金、(公社)国民健康保険中央会)が速報値に間に合わず、1ヵ月後の改定時に実績値が反映されるためではないかと推察される。コロナ禍で、従来と比べて医療サービスの消費額に大きな変化が生じた中、速報値作成における推計(予測)が外れ、それが指数の改定につながったのではないだろうか。

第3次産業活動指数を軸に、サービス産業統計の“見取り図”を

以上、第3次産業活動指数の総合指数と業種別指数について、コロナ禍前とコロナ禍以降、基準改定前と基準改定後の変動パターンや改定パターンを確認してきた。サービス産業動向調査を基礎統計に取り入れることが指数の変動を大きくし、変動パターンを変えた一方、速報値の後に公表されるために、1ヵ月後の改定幅が大きくなる傾向が確認できた。

冒頭で述べたように、サービス産業の生産活動が日本経済に与える影響は従来に比べて大きくなっている。代表的な指数である第3次産業活動指数の重要性も高まろう。

前述したように、どの基礎統計がどのタイミングで第3次産業活動指数の推計に用いられているかについて経済産業省は非公表の姿勢である。業界団体や企業などから非公表データや公表前統計値などを提供してもらっているという事情もあるようだ。基礎統計が間に合わない際の推計(予測)方法も非公開である。

しかし、今後、サービス産業の生産活動を把握することの重要性が増すのであれば、可能な範囲で上記の情報を公開することも今後検討すべきではないだろうか。それを通じて、サービス関連のどのような統計がどのタイミングで得られるのかという“見取り図”が得られれば、サービス化が進む日本経済における統計改革に資するものと考える。


[1]研究プログラムでは、この「景気を把握する新しい指数(一致指数)」を批判的に検討したReview(「新たな景気動向指数の特徴と提案」)も発信している。

[2] 「第3次産業活動指数 2015年基準改定の概要」(経済産業省)には「特にこれまで必要な観測値数に至らず採用を見送ってきた「サービス産業動向調査(月次)」(総務省、平成20年7月から実施)は、売上金額の統計ながらもサービスを供給する側からみた統計調査であり、適切に価格変動を除するデフレータを併用すれば、指数の採用系列とすることは定義上好ましいと考えられることから、新規拡充のみならず、採用系列の切替えによる精度向上など、重点的に取込みを行い活用することとしました」との記述がある。

[3] なお、「医療業」も基礎統計に変更はないものの、20132月~2020年1月の標準偏差は基準改定前の0.67から1.772.6倍に拡大している。この理由について統計作成部署に問い合わせをしたところ、季節調整に用いているスペックの違いが影響している可能性があるとの説明を受けた。季節調整値だけでなく原数値でも今後、同様な分析を行いたい。

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