R-2021-021-2
本問題について取り上げた、朝日新聞社「国土交通省による基幹統計の不正をめぐる一連のスクープと関連報道」が、2022年度日本新聞協会賞に選ばれました。 ▼朝日新聞社・伊藤氏の受賞報告寄稿に、平田主席研究員のコメントが掲載されております。 https://www.pressnet.or.jp/journalism/award/2022/index_7.html (2022年10月11日) |
・はじめに ・考えうる理由1:データの動きの傾向が変わってしまうことの回避 ・考えうる理由2:遡及訂正の回避 ・考えうる理由3:受注統計と総合統計に向けられる目 ・考えうる理由4:2013年の回収率調整導入とセットでの数値引き上げ ・今後求められる対応 |
はじめに
上編に引き続き、建設工事受注動態統計(受注統計)の問題について論じていく。本稿(下)では、なぜ書き換えが始まったのか、そして、なぜ書き換えが直近まで続いたのかの双方について、考えうる理由を提示し、今後求められる対応について考えていきたい。
朝日新聞報道では、国交省が書き換えを始めた正確な時期が「追えていない」と答えていると報道しているので、開始時期については予断を持たずに考えてみる。
考えうる理由1:データの動きの傾向が変わってしまうことの回避
―― 始まった理由の可能性:なし、続いた理由の可能性:あり
統計は水準そのものよりも変化(動き)でみられる傾向が強い。やや乱暴な言い方ではあるが、統計の定期的公表は、統計が大きく動かない限り、または違和感のある動き方をしない限りにおいて、一般的にはそれ程注目されない。逆に、大きな動きや、違和感のある動きは注目される。そして、2019年の厚生労働省による毎月勤労統計(毎勤統計)の問題も、数字の動きに対してエコノミストらからの疑問が呈されたことがきっかけとなり、問題が発覚していった。
むろん、統計メーカーとしては、淡々と統計を作成するのが筋ではある。しかし、書き換えを行っていた場合、急に書き換えを取りやめることで、これまでのデータの動きが変わってしまうのは避けたいと考え、書き換えを継続したという可能性はありうる。一方で、これは書き換えを始める理由とはならないだろう[1]。
考えうる理由2:遡及訂正の回避
―― 始まった理由の可能性:あり、続いた理由の可能性:考えにくい
遡及訂正とは、過去に遡ってデータを直すことであり、これは統計作成ミスゆえの場合もあるが、一般的には締め切り後に集まってきた調査票を反映して、より正確な統計にアップデートするために行われる。事務作業的にも、システム的にも遡及訂正は大変な作業ではあるが、多くの政府統計で当たり前に行われている。国交省による「書き換え」は、遡及訂正が必要なくなるという意味では、極めて簡便ではある(もちろん、不適切な対応ではある)。
過去の公表資料を確認すると、受注統計については、調査対象月の2か月後には、確報化する運用がされていた[2],[3]。この仕組みでは、「書き換え」をせずに、真摯に複数月の提出遅れの調査票の情報を遡及訂正で反映しようとしても無理である(故に、反映をしなくて済む)。この事実を踏まえると、遡及改訂回避を目的として、書き換え方式が開始された可能性は否定できないだろう。
ただし、(書き換えがどの時期から始まったかははっきりしないものの)2013年以前から既に始めていたとすれば、回収率調整を開始した2013年以降は書き換えを止めてもよかったはずである。事後提出分の情報を反映しなくても、回収率調整を始めたことで、問題は発生しなくなったためである[4]。つまり、自治体まで巻き込んで「書き換え」という手間のかかる方法をとることの費用対効果はあまりなかったと考えられる。あくまで憶測の域を出ないが、長期に亘って書き換えが行われた結果、作業がルーティン化し、抽出率調整開始以降も続けてしまっただけかもしれない。
考えうる理由3:受注統計と総合統計に向けられる目
―― 始まった理由の可能性:あり、続いた理由の可能性:あり
受注統計を用いて作成される建設総合統計(総合統計)については、受注統計公表後、しばらくしてから発表される発表頻度の低い類似統計との比較から、データの精度に関して厳しい目が向けられ、改善の必要性の指摘を国交省は受けてきた[5],[6]。更に、総合統計がGDP統計の作成に用いられることもあり、GDP統計の動きから総合統計のデータが実勢を反映していないとみられるケースについても、統計ユーザーなどから批判と改善を求める声が上がっていた[7]。例えば、2010年代以降では、工事の進捗率、補正率などに関するものが代表的である。まず、進捗率については、総合統計では、着工段階(建築着工統計調査)・受注段階(受注統計)のデータを用い、過去の公共工事の進捗率を適用して出来高ベースの公共工事の額が推計される[8]。GDPの速報値(いわゆるQE)の出来高ベースの公共投資の数字は、総合統計を用いて算出される。しかし、実際の工事の進捗率はそれぞれの時期の人手不足の状況などによって異なる[9]。受注統計はあくまで受注時点の情報であって、受注は増えても、実際の工事はあまり進まないようなケースもあり、実体としての公共事業の動向を反映しないこともある。また、補正率に関しては、決算データなどから算出される建設投資額と受注統計の受注総額(工事費総額)の乖離を調整する必要がある。この乖離を調整する比率が補正率であり、補正率を定期的にアップデートして、補正率調整の遡及訂正をしていくことの必要性が指摘されている[10]。
統計の作成作業とは、問題を解いて正しい答えを解答書と照らし合わせるといったタイプの作業ではない。問題は解く(=統計は作成する)が、それが正しいかどうかは簡単に判断できるものではない。それ故に、これこそができる範囲でのベストを尽くした正答の導き方であるという方法、具体的にはフィージビリティ(実現可能性)を考慮し、望ましい生データの取得方法や集計方法などをロジカルに考える[11]こと、そして方法を一度固めたら、それを遵守して定例作業を粛々とこなしていくことが重要だ。もちろん方法は、定期的に見直していく必要がある。
だが、統計の作成には、生データ収集作業や集計作業のどの段階でも、意図せず間違えてしまいうる落とし穴はいくらでもある。このため、筆者が統計メーカーであった時、統計メーカーが生産物を世に出していく(統計を公表していく)という作業の責任の重さを常に感じていた。更に受注統計とそれを用いて作成される総合統計について考えてみると、既に説明してきたようにデータの動きに対するユーザーからの厳しい目もあり、継続的にかなりのプレッシャーにさらされていたとしても不思議ではない[12]。
総合統計は、「加工度が高く推計方法等が複雑」といわれる[13]。自ずと、過去の統計委員会での議論を見ていても、加工(推計)という技術的な部分が問題とされるケースが多い。比喩的にいえば、生データ(総合統計の場合は、受注統計の調査票から得られるデータ)を食材とすれば、加工は調理に相当し、統計委員会では特に調理のテクニックが論点になることが多かった。
換言すれば、食材自体については、調理テクニックに比べると問題視されてこなかった、またはある程度信頼された上で議論されていたということである。このような状況で、食材が間違っていました、と言い出せなかった可能性は十分にある(もちろん、言い出すべきではあった)。
では、書き換えが始まった理由となりうるだろうか。なった可能性は十分にある。上述の補正率は、決算データなどから算出される建設投資額と受注統計の受注総額(工事費総額)の乖離を調整するものであり、建設投資額÷受注総額で算出される。細かい概念の違いはあれど、本来、両者は近い数字になってしかるべきものである。だが、回収率調整をする以前の当該年度の補正率は2程度、調整以降は1.5程度と両者にはかなりのギャップがある[14]。このギャップを解消していくには、(不適切ではあるが)受注総額を増やす必要がある。そこで、調査票の提出遅れ分を取りこぼさず、書き換えによって拾いあげ、少しでも数字を押し上げたいと考えたとしても不思議ではない[15]。
考えうる理由4:2013年の回収率調整導入とセットでの数値引き上げ
―― 始まった理由の可能性:あり、続いた理由の可能性:考えにくい
回収率調整は、未回答業者分の過小評価を避けるための方法であり、考え方はわかりやすい。では、一体、どのような経緯で2013年から導入されたのであろうか。調べてみると、今から10年ほど前の2011年の統計委委員会の第29回産業統計部会にたどり着く[16]。ここでは、受注統計の受注高が建設工事施工統計の完成工事高の6割程度にとどまることを理由の一つとして、回収率調整の導入を提案している(図表参照)。
ここまで見てきたように、絶対額としての受注統計の受注高の数値が低いという点が、長きに亘って問題視されてきたことがわかる。この状況の中で、回収率調整とセットで書き換えを始めたいというインセンティブが、統計メーカーに芽生えた可能性は指摘できるだろう。というのも、書き換えを始めると、前年からのデータのジャンプ(大幅な増加)が生じる。だが、回収率調整とセットで導入をすれば、その問題をうやむやにできる[17]。ちなみに、国交省は「同調査(=受注統計)の受注高と、建設工事施工統計調査の完成工事高はほぼ同水準で推移」しているとして、2013年以降の回収率調整の成果をアピールしている[18],[19]。
今後求められる対応
ここまで、今回の問題が始まった理由と続いた理由に関する筆者の考えうる複数の仮説を提示してきた。しかし、仮説は仮説に過ぎず、仮説はファクトを用いて検証する必要がある。検証は可及的速やかに始めるべきであるが、性急に結論を急いで幕引きを図るのではなく、しっかりと丁寧に行われるべきである。そして、政府統計の整備・改善を企図した「公的統計の整備に関する基本的な計画(第Ⅲ期)」の実現に向け、まずは各政府統計の作成担当部署で統計作成ルーティンに関して改めて確認をすることが望まれる[20]。
今回の問題は、毎勤統計問題発生後に行われた点検調査で問題の洗い出しをしたにも関わらず、それが不十分であったことを意味するが、だからといって、点検調査を行った統計委員会の能力不足故だと筆者は考えていない。同委員会による点検調査では、時間制約の中で、各省庁からの報告に基づき、問題点を洗い出すという方式がとられた。統計委員会は学識経験者の委員(13名)と事務局で構成され、そうそうたる顔ぶれであるが、委員長を含めて全員が非常勤である。
統計委員会を先生、各省庁の統計担当部署を生徒だと考えてみよう。例えば、漢字の書き取りをテキスト通りの書き順(統計作成の手順)で書きましょうという課題を出したとして、先生は書き順を一人一人の生徒が守っているかどうかまでをチェックできるだろうか。今回の書き換えを統計委員会が見つけ出すことを期待するのは、そのようなレベルの要求を統計委員会にしているようなものだ。
きちんとした書き順を身につけさせるのは、保護者の責務であろう。保護者を各省庁だと考えれば、今回の問題の原因は、組織のガバナンスの問題に帰着する。統計担当部署は大人であるから子供扱いをしないとすれば、統計担当部署の統計メーカーとしての矜持やOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング、現任訓練)が不十分ということであろう。
では、今後、どのような対応が必要となってくるのか。筆者が個人的に望ましいと考えている方向性については毎勤統計問題の際の拙著から基本的な変化はないので、詳細はそちらに譲る[21]。ここでは、今回の問題への対応に関連して、当面重要だと考える点についていくつか言及し、結びとしたい。
第一に、毎勤統計問題を受けて31人設置されたという内閣官房(統計改革推進室)の分析的審査担当は、今回の問題を把握できていたのかという点である。この担当は「各府省に派遣(常駐)され、(1)集計結果の公表前の分析的審査、(2)公表済みの統計の点検や誤りの是正、(3)調査設計変更時の影響分析・補正手段の検討、(4)誤りが発覚した事案への対応や再発防止策の検討等」を行うとの触れ込みであった[22]。おそらく、把握できていなかったものと考えられるが、なぜこのような大胆な書き換えを見抜けなかったのか、原因を究明しないと問題の解決に繋がらない[23]。
第二に、書き換えの経緯を掴めるか否かは、調査票を含めた各種資料がどこまできちんと保存されているかに依存するという点である。本稿では、かなり多くの専門的な資料を引用することで、今回の問題に関連する経緯などを紹介してきた。統計委員会の議事録や各種資料がオンライン上で公開されていたことや政府統計のポータルサイトであるe-Statに過去の受注統計の公表資料が掲載されていたことが、これを可能にした。しかし、公にされている方法とは異なる方法で受注統計が作成されていた、というのが朝日新聞の報道内容の肝である(つまり、公開された資料からは、その方法はわからない)。異なる方法がどのように運用されてきたのかを確認するためには、同統計の作成担当部署(国交省総合政策局情報政策課建設経済統計調査室)の内部資料を、国交省内部の関係者ではなく、第三者の専門家などが調べるべきだと考える[24]。筆者としては、過去の経緯について、きちんと国交省内で文書管理がされていることを願うばかりである。
第三に、今回の問題がどのような影響を及ぼしうるのか、早急に検討をする必要がある点である。報道が事実であるならば、書き換えの定量的なインパクトがどの程度あるかに関わらず、統計の公表は一時的に停止し、事実確認を早急に行う必要がある[25]。また、総合統計を用いているGDP統計に関しては、今月公表された2020年度の年次推計、2022年2月15日公表予定の本年10-12月期のGDP一次速報についてどのような対応をするかについて検討が必要になるであろう。また、岸田首相は2020年度、2021年度のGDPへの影響はないと国会で発言したが、進捗率調整に伴って書き換えが実施されていた時期のデータが影響を与えた可能性は否定できない。政府統計への信頼が失墜した今こそ、もう少し丁寧な確認と説明をすべきであろう。更に、書き換えの行われていた時期を含むデータで推計される需給ギャップや潜在成長率についても影響が及ぶことは必至であることも、忘れてはならない。
(国土交通省「建設工事受注動態統計」問題を紐解く(アップデート)に続く)
[1] むしろ、書き換えを始めたときに、データの動きが変わってしまうことの方が問題となるが、これについては考えうる理由4で後述する。
[2] 2000年4月~2021年3月の受注統計について、「提出期限から遅れて提出があった調査票については、可能な限り当月分の調査結果に反映」させていたという国交省の説明を踏まえると、調査票の提出遅延や再提出などについて、ある程度は速報から確報への段階で反映させていたのかもしれない。ただ、速報と確報の情報量の差が何によるものなのかについての説明資料は、筆者の調べた限りでは存在しない。
[3] 国交省資料によると、2019年2月分以前については、調査対象月の翌月末に速報、翌々月に確報が公表されていたが、2019年3月分(つまり、2019年4月の公表)から速報の発表が取りやめられ、2か月後発表の確報値のみとなった。2021年4月分以降については、「報告者のやむを得ない事情等により提出期限から遅れて提出があった調査票については、可能な限り当月分の調査結果に反映させるよう柔軟な運用を行っているところであるが、それでも間に合わない調査票については、毎年度の年度報の公表に合わせて遡及改定を行い反映する」としている。ここで、遡及訂正と遡及改定は同義である。
[4] ただし、抽出率調整で全てが解決するわけではない。これについては、考えうる理由4で後述する。
[5] ここで発表頻度が低いとは、年一回の公表、数年に一度の公表頻度を指す。
[6] 例えば、2011年から2015年にかけての建設業の産出額の伸び率に関し、産業連関表から得られる数字に比べて、総合統計から得られる数字が大きく上振れていた(統計委員会国民経済計算体系的整備部会他(2020)「国民経済計算の次回基準改定について」(第19回国民経済計算体系的整備部会 資料2) 7ページ参照)。また、2013年度以降、総合統計の公共工事出来高が、決算書データを基に年次で算出される公的建設投資額を大きく上回っていた(国土交通省総合政策局情報政策課建設経済統計調査室(2020)「建設総合統計の遡及改定及び今後の推計について」(第22回国民経済計算体系的整備部会 資料1) 6~7ページ参照)。
[7] 類似統計との比較と、実勢の反映如何については、密接に関係している場合が多い。ここでは、論点を明確にするために、あえて、両者を区別して紹介している。
[8] 進捗率に関する論点については、肥後雅博(2017)「進捗パターンの機動的見直しのための補正調査の活用について」を参照。
[9] 人手不足は、高齢化などによる構造的要因による場合もあれば、東日本大震災や新型コロナウイルスの流行といった経済的ショック要因による場合もある。
[10] 進捗率と補正率の概念については、国土交通省総合政策局情報政策課建設経済統計調査室(2020)「建設総合統計の遡及改定及び今後の推計について」(第22回国民経済計算体系的整備部会 資料1) 8ページ参照。
[11] 統計委員会はそれらの方法論をチェックしている機関だとみなせる。
[12] むろん、これは統計メーカーの宿命であり、ユーザーからのチェックをされて精度を高めていくことが望ましいことはいうまでもない。
[13] 「第22回国民経済計算体系的整備部会(書面開催)議事結果」の宮川努部会長による取りまとめによる。
[14] 補正率の数値は、国土交通省総合政策局情報政策課建設経済統計調査室(2020)「建設総合統計の遡及改定及び今後の推計について」(第22回国民経済計算体系的整備部会 資料1) 4ページによる。
[15] 建設投資額は各年度のデータのため、当該年度内に拾い上げれば、ギャップ解消につながる。この意味において、考え方は間違っていないが、書き換えという方式は不適切であり、遡及訂正が定石である。
[16] 国土交通省(2011)「建設工事受注動態統計調査の推計方法の見直しについて」(第29回 産業統計部会 資料5-6)による。
[17] 当時(2011年)、2007~2008年のデータに関して、回収率調整をしてもなお、完成工事高には追いつかないという試算が、第29回産業統計部会で報告されており、書き換えによってもう一段下駄を履く余地はあった。
[18] 国土交通省(2020)「建設工事施工統計調査における欠測値補完の見直しについて(案)参考資料」(第8回評価分科会 資料3) 13ページ)による。
[19] なお、両者の前年比の推移について比較すると、2013年度以前の方が両者の動きは似ており、2013年度以降、水準は近づいた一方で動きは異なるものとなってしまっている。この事実も、書き換えがこの時期に始まった可能性を示唆するのかもしれない。もう少し丁寧に説明をすると、ここで国交省が比較している受注統計の受注高(=元請+下請工事の受注額の総額)の前年度比と建設工事施工統計調査の完成工事高(=元請+下請工事の完成工事高の総額)の前年度比の相関係数を計算すると、2013年度以降は0.07と両者の相関は弱い。逆にその前は0.63と両者の相関は高い。ただし、越年度する工事もあること、データ数が少ないことなどを踏まえると、評価には注意を要する。
[20] 「公的統計の整備に関する基本的な計画(第Ⅲ期)」は、2018年3月に閣議決定された後、毎勤統計問題などを受けて2020年に閣議決定を経て変更(改訂)された。
[21] 拙著「毎月勤労統計調査問題についての経済統計メーカーの視点~統計、複数の目で点検を」(東京財団政策研究所 政策データウォッチ(6)、2019年2月19日)、「解決には統計部署の専門性と独立性向上が必要だ-統計のメーカー側の経験から考える「統計不正」問題」(2019年3月『論座』)、「私見卓見:統計、複数の目でチェックを」(日本経済新聞、2019年2月26日)を参照されたい。
[22] 内閣官房統計改革推進室(2019)「公的統計の分析的審査の体制強化について」による。
[23] 岸田政権となり、統計改革推進室は本年11月に廃止されたとのことであるが、その判断の是非も問題となるだろう。
[24] 12月15日夜のNHK報道によると、国交省は今回の書き換えに違法性がないと考えていると考えているとのことである。これは、統計法で「基幹統計をして真実に反するものたらしめる行為」とされる「架空の調査票を捏造する行為」、「調査票に記入された報告内容を改ざんする行為」に該当しないと考えていることを意味する。このような考えの下では、適切な内部調査はできないと筆者は考える。斉藤国交相は16日午前の参議院予算委員会で第三者委員会の設置を命じたが、1か月での報告を求めるとしている。1か月では足らないというのが、統計を実際に作った経験者、受注統計の仕組みと課題を分析した一研究者としての率直な思いである。
[25] 万が一、書き換えについて調査をせずに統計が公表され続けた場合でも、「月例経済報告」への掲載は、いったん見合わせるべきであろう。なぜなら、総務省の「公的統計の整備に関する基本的な計画(第III期基本計画)」では、公的統計とは、EBPMを支える基礎であり、行政における政策評価、学術研究及び産業創造に積極的な貢献を果たすという役割が求められている、としているが、受注統計がその要件を満たしていない可能性があるためである。そして、2021年12月3日の経済財政諮問会議の場で岸田首相が「証拠に基づく政策立案、EBPMを徹底しながら、イノベーションやデジタル化の推進、地方活性化といった分野横断的な視点で取り組むことが重要」との発言をしているためである。