4月27日、森信茂樹上席研究員が、「民主党 簡素な給付措置及び給付付き税額控除検討WT」で「給付付き税額控除とその課題」と題した報告を行った。
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給付と税額控除を組み合わせて実施する給付付き税額控除は先進諸国では一般的に導入されている。給付付き税額控除は、税と社会保障など縦割となっている官庁の業務を効率化させるとともに、勤労を条件にして給付や税額控除を実施することで働く意欲を促進することもできる。
1. 給付付き税額控除の4類型
給付付き税額控除は各国の導入例から大きく4つに分けることができる。第1類型は、主として低所得者の勤労意欲の促進をねらいとするもので、勤労を条件に税額控除をする勤労税額控除である。第2類型は児童税額控除で、世帯人数に応じて税額控除を行い、母子家庭の貧困対策や子育て支援策となる政策。第3類型は、社会保険料負担軽減税額控除で、低所得層の税負担や社会保険負担を緩和する。給付や還付は行わず財源を抑えることができる。このタイプはオランダで実施されておりオランダ型とも言われる。第4類型は、消費税の逆進性対策として、基礎的生活費の消費税率分を割り出しその分を所得税額から控除・還付をするというものである。
このように給付付き税額控除は税と社会保障を一体的に設計することで多くの可能性を持っており、消費税の逆進性対策だけではもったいない。
2.各国の導入事例
諸外国における給付付き税額控除の導入状況を見てみると、「大きな政府」と言われるスウェーデンでも勤労税額控除が導入されている。モラルハザードを引き起こさず勤労意欲を促す制度の重要性は大きいのだ。
米国では、所得の増加とともに給付付き税額控除額が増加した後、一定の所得で頭打ちになり、所得がそれ以上になると税額控除額が減少し最終的には消滅する(資料p5)。オランダの勤労税額控除は、所得が上がるにつれ控除額が増加し、一定の所得以上では税額控除額は一定になる。働く(所得が増える)と控除額が減るというディスインセンティブが起きないようにしている。オランダではすべての所得控除をなくし、社会保障を社会保険税として税と一元化して徴収している(資料p8)。またカナダの逆進性対策税額控除は食料品など基礎的生活費の消費税率分を控除している(資料p9)。消費税に関しては軽減税率によって負担を減らすという方法もあるが、私の試算によると軽減税率を実施しても、全体の負担率は下がるが、所得の低い人の税負担割合が高く所得の高い人の税負担割合が低いという逆進性は緩和されないことがわかっている。一方、給付付き税額控除は、逆進性の対策に効果的であるという結果だった(資料P10)。
給付付き税額控除の導入には正確な所得の捕捉が必要であり、そのため番号制度の導入が前提である。またその際、何を所得とするかの整理が必要である。諸外国では金融所得利子も所得として情報を把握している。日本も同様に金融所得利子も所得に含めたほうがよいのではないか。そのためには現在の源泉分離課税を申告分離課税にし、利子所得の情報を税務署に伝える必要がある。
3.論点
給付付き税額控除の導入にあたり明確にしておく必要のある論点がいくつかある。1つは、政策目的の明確化である。雇用促進や子育て支援を組み合わせた設計が必要で、勤労所得に応じて税額控除・給付を行うのが基本となるだろう。その場合、年金世代への給付をどう考えるかも重要である。2つ目の論点は生活保護との整合性である。勤労を条件に給付しても生活保護受給額より収入が多くなければ勤労インセンティブにはならないからだ。3つ目の論点としては制度の簡素化が求められる。米国で不正受給が多い原因は世帯の状況に応じた給付額の違いなど制度の複雑性にあるからだ。4つ目の論点として執行官庁をどこにするかという問題もある。各国の例では徴収の一元化を前提に基本的に税務官庁が執行している。また地方自治体の関与や地方税をどうするのかも検討する必要もあり、日本の場合、財務省が執行官庁になるのは難しいと考える。早急に責任官庁を決めた上で、市町村の協力・関与を含めて日本の実情に合った具体的内容を開始しなければならない。
これらのことを考慮すると給付付き税額控除の導入は政治主導でなければ実現できず、今後さらなる議論の充実を期待したい。
文責:坂野裕子(研究員兼政策プロデューサー)