帝京大学法学部准教授
宮田智之
アメリカ大統領選挙の民主党指名候補争いは、ジョセフ・バイデン、バーニー・サンダース、エリザベス・ウォーレン、ピート・ブーティジェッジの4名に絞られた感があるが、以下では共に党内穏健派を代表するバイデン、ブーティジェッジ両候補に焦点を当て、どのような人々が彼らに政策的助言を提供しているのか現地報道をもとに紹介したい[1]。
バイデン陣営の顔ぶれ
しばしば指摘されている通り、バイデン陣営には上院議員時代からの側近に加えて、オバマ政権でバイデンに直接仕えた者たちが数多く参加している。これまで彼らの多くは、副大統領退任後にバイデンによって設立されたシンクタンクなどに所属してきた[2]。
政策ディレクターは、前政権で副大統領室国内・経済政策副ディレクター等を歴任したステフ・フェルドマン(Stef Feldman)である。フェルドマンは、2017年から昨年春までデラウェア州立大学にあるバイデン・インスティテュート(Biden Institute)の政策部長を務めていた。また、スティーブ・リチェッティ(Steve Ricchetti)元副大統領首席補佐官、マイケル・ドニロン(Michael Donilon)元副大統領上級顧問、サラ・ビアンキ(Sarah Bianchi)元大統領次席補佐官(経済政策担当)、アントニー・ブリンケン(Antony Blinken)元国務副長官らも陣営立ち上げ時からの中心メンバーである[3]。
ブリンケンについては、2018年に設立された外交専門のシンクタンクであるペン・バイデン・センター(Penn Biden Center)の運営に携わり、陣営でもニコラス・バーンズ(Nicholas Burns)元国務次官(政務担当:ジョージ・W・ブッシュ政権)とともに、外交政策チームを指揮している[4]。このブリンケン率いる外交政策チームには大勢の者が関わっていると見られるが、その一端は昨年11月半ばにバイデン支持を表明する書簡が発表されたことで明らかになった。すなわち、前政権で外交安保の要職を務めた133名が書簡に署名した。いくつか名前を挙げると、ジェイク・サリヴァン(Jake Sullivan)元副大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、トーマス・ドニロン(Thomas Donilon)大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、リサ・モナコ(Lisa Monaco)元大統領補佐官(国土安全保障・テロ対策担当)、アヴリル・ヘインズ(Avril Haines)元大統領次席補佐官(国家安全保障問題担当)/元CIA副長官、コリン・カール(Colon Kahl)元副大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、カート・キャンベル(Kurt Campbell)元国務次官補(東アジア・太平洋担当)、ジェームズ・ミラー(James N. Miller)国防次官(政策担当)、ビクトリア・ヌーランド(Victoria Nuland)元国務次官補(欧州・ユーラシア担当)、リンダ・トーマス・グリーンフィールド(Linda Thomas-Greenfield)元国務次官補(アフリカ担当)らが署名している[5]。
また、支持書簡の発表とほぼ同じ時期には、ワシントンD.C.でバイデンの資金調達集会が開催され、その主催者として、ビアンキ、ブリンケン、トーマス・ドニロン、ウィリアム・デイリー(William Daley)元大統領首席補佐官、アンソニー・フォックス(Anthony Foxx)元運輸長官らとともに、ジェフ・ザイエンツ(Jeff Zients)元国家経済会議委員長、マイケル・フロマン(Michael Froman)元米国通商代表が名を連ねた[6]。以上から、ザイエンツやフロマンは陣営の主要な経済アドバイザーであると考えられる。また、民主党の大物専門家であるローレンス・サマーズ(Laurence Summers)元国家経済会議委員長についても、陣営に深く関わっている可能性がある。元々サマーズについては、バイデン・インスティテュートの理事の一人であることに加え、陣営と連携しながらウォーレンの選挙公約である「メディケア・フォー・オール」批判を展開しているといった報道もある[7]。
その他では、ヘザー・ザイカル(Heather Zichal)元大統領次席補佐官(エネルギー・気候変動担当)、アーネスト・モニツ(Ernest Moniz)元エネルギー長官、フランク・ベラストロ(Frank Verrastro)戦略国際問題研究所(CSIS)上級副所長らがエネルギーや気候変動の分野で助言を提供している[8]。
上記から明らかなように、バイデン陣営の特徴としては長官経験者らオバマ政権で要職を歴任したベテラン、すなわち重量級の人材が少なくない。
ブーティジェッジ陣営の顔ぶれ
ブーティジェッジ陣営にも多くのオバマ政権関係者が集結しているが、バイデン陣営と比べると中堅若手の人材が多い模様である。
政策ディレクターは、ソナル・シャー(Sonal Shah)である。シャーは、オバマ政権で新設のソーシャル・イノベーション・市民参加室長を務めた経歴をもつ。現在は、ジョージタウン大学ソーシャル・インパクト・イノベーション・センター(Center for Social Impact and Innovation)事務局長やアメリカ進歩センター(Center for American Progress)上級フェローを兼任している。このシャーとともに、ジェス・オコネル(Jess O’Connell)前民主党全国委員会CEOも陣営の中心メンバーの一人である[9]。
外交政策チームは、ダグ・ウィルソン(Doug Wilson)元国防次官補(広報担当)が率いており、ネッド・プライス(Ned Price)元大統領特別補佐官(国家安全保障問題担当)、タレク・ガーニ(Tarek Ghani)セントルイス・ワシントン大学助教/国際危機グループ(International Crisis Group)チーフエコノミスト、リンジー・フォード(Lindsey Ford)元国防次官補上級顧問、タルン・チャブラ(Tarun Chhabra)元NSC部長(戦略計画担当)らがウィルソンを支えている。ただし、以上は陣営の外交政策チームのごく一部に過ぎず、『ポリティコ』紙(2019年6月11日付け)によると100名を超える専門家が関与しているという。なお、この『ポリティコ』紙の報道直後に、オバマ政権で駐露大使を務めたマイケル・マクフォール(Michael McFaul)は「自分はその多くを知っており、ピート(・ブーティジェッジ)市長は素晴らしいチームを形成している」と評している[10]。
複数の報道によると、オバマ政権で大使を経験した者たちがブーティジェッジ陣営の選挙資金集めを熱心に支えているという。ドン・ベイヤー(Don Beyer)元駐スイス大使(現下院議員)、 ルーファス・ギフォード(Rufus Gifford)元駐デンマーク大使、トッド・セドウィック(Tod Sedgiwick)元スロヴァキア大使、デイヴィッド・ジャコブソン(David Jacobson)元駐カナダ大使、ティモシー・ブロース(Timothy Broas)元駐オランダ大使、ジョン・フィリップス(John Phillips)元駐イタリア大使、ウィリアム・イーコ(William Eacho)元オーストリア大使らが多額の資金を集めるいわゆる「バンドラー」の役割を担っている。また、彼らは資金調達だけでなく政策面でのアドバイスも提供していると報じられている[11]。ただし、大使経験者の間でブーティジェッジへの支持が際立って多いというわけではない。バイデンを支持している者も少なくなく、実際上記のバイデン支持書簡においても大使経験者の名前が多く見られる[12]。
経済政策チームでは、オバマ政権で大統領経済諮問委員会委員長を務めたオースタン・グールズビー(Austan Goolsbee)シカゴ大学教授が深く関わっていることが既に報じられている[13]。その他では、気候変動対策に関して、ブルッキングス研究所でエネルギー気候変動研究プロジェクトを担当しているデイヴィッド・ヴィクター(David Victor)カリフォルニア州立大学サンディエゴ校教授が助言を提供している[14]。
以上のように、バイデン、ブーティジェッジ両陣営ではオバマ政権関係者が多く参加している。ただし、現時点までにいずれの陣営にも入っていない者が一定数いることも確かである。また、前政権関係者の中には既に撤退を表明した候補者の陣営に属していた者も少なからずおり、カマラ・ハリスを応援していたミシェル・フロノイ(Michelle Flournoy)元国防次官(政策担当)はそのような一人である[15]。民主党候補者争いに影響を及ぼすことはないにせよ、これら人々の動向も注目される。また、バイデン、ブーティジェッジは共に民主党穏健派を代表する候補であり、政策的立場はほぼ同じである。そのため、民主党予備選の展開次第では、バイデン、ブーティジェッジ両陣営の政策チームの面々がいずれかの陣営に吸収されていく状況も当然考えられる。
[1] エリザベス・ウォーレン陣営の政策チームについては次を参照。宮田智之「エリザベス・ウォーレン陣営の政策チーム」東京財団政策研究所ウェブサイト(2019年12月5日)
[2] Kevin Sack and Alexander Burns, “How Biden Has Paved the Way for a Possible Presidential Run,” The New York Times, January 1, 2019
[3] Marcia Brown, “Who’s Writing the 2020 Candidates’ Policies?” The American Prospect, July 31, 2019; Amie Parnes, “Exclusive: Inside Joe Biden’s campaign in waiting,” The Hill, February 28, 2019
[4] Simon Lewis, “The Top foreign policy gurus in the 2020 Democratic race,” Reuters, October 31, 2019
[5] Josh Rogin, “133 foreign policy officials endorse Joe Biden,” The Washington Post, November 13, 2019
[6] Maggie Severns, “Dozens of Obama alums rally to boost Biden at D.C. fundraiser,” Politico, November 4, 2019
[7] Ryan Grim, “Joe Biden Campaign Pointing Reporters to Larry Summers for Comment on Elizabeth Warren’s Health Care Plan,” The Intercept, November 3, 2019
[8] Valerie Volcovici, “Exclusive: Presidential hopeful Biden looking for ‘middle ground’ climate policy,” Reuters, May 10, 2019
[9] Brown, “Who’s Writing the 2020 Candidates’ Policies?”; Tucker Higgins, “Pete Buttigieg hires for Goldman Sachs executive as national policy director,” CNBC, July 18, 2019
[10] Elena Schneider, “Buttigieg puts focus on foreign policy as he hammers Trump,” Politico, June 11, 2019 ;マイケル・マクフォールのツィート(2019年6月12日)。また、リンジー・フォード、タルン・チャブラの情報については在籍するブルッキングス研究所のホームページ(経歴欄)で確認した。
[11] Daniel Strauss and Jacqueline Feldscher, “Obama diplomats throw in with Buttigieg,” Politico, September 9, 2019; Reid J. Epstein and Thomas Kaplan, “Big Donors, Small Donors: Pete Buttigieg Has Courted Them All-Successfully,” The New York Times, July 1, 2019
[12] Rogin, “133 foreign policy officials endorse Joe Biden.”
[13] Rachel Frazin, “Obama’s former chief economist advising Buttigieg,” The Hill, November 8, 2019
[14] Lisa Friedman, “Sanders’s Climate Ambitions Thrill Supporters. Experts Aren’t Impressed,” The New York Times, November 14, 2019
[15] Steve Peoples, “2020 Democrats see opportunity on foreign policy,” AP, July 6, 2019