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2020年大統領選挙とシンクタンク(2)―バイデン陣営との関係を中心に―
2020年9月4日、デラウェア州ウィルミントンにて新型コロナウイルス感染症の経済への影響について話すバイデン候補 (写真提供 Getty Images)

2020年大統領選挙とシンクタンク(2)―バイデン陣営との関係を中心に―

September 9, 2020

帝京大学法学部准教授
宮田智之

シンクタンク「復権」の可能性

トランプ時代の特徴の一つに、シンクタンクの存在感の低下が指摘できる。トランプ大統領が反エリートの姿勢を掲げ専門家軽視の姿勢を貫く中で、現政権では共和党政権と密接な関係を築いてきた保守系シンクタンクを含めシンクタンク関係者が少ない。要するに、トランプ時代は「シンクタンク不遇の時代」と言える。しかし、11月の大統領選挙の結果次第では、シンクタンクを取り巻く状況が再び大きく変わる可能性が高い。

民主党のバイデン陣営には、政策アドバイザーとしてシンクタンク関係者が多数集結している[1]。その多くはオバマ政権での高官経験者であり、政府を離れて以降はシンクタンクを活動の拠点の一つとしてきた。また、バイデン前副大統領自身、政界での長年のキャリアを通じて政策専門家のコミュニティとの繋がりが深い上に、副大統領退任後は外交・安全保障に特化するペン・バイデン・センターや、国内・経済問題を扱うバイデン・インスティテュートといったシンクタンクまで立ち上げている。さらに、予備選の段階でウォーレン、ブーティジェッジをはじめ他候補の応援に回っていたシンクタンク関係者が、現在バイデン陣営に続々と集まってきている[2]

以上に加えて、ワシントン政界での経歴は短いものの、副大統領候補に指名されたカマラ・ハリス上院議員がトルーマン・センターという外交シンクタンクの顧問を務めている事実や、かつて妹のマヤ・ハリスがシニア・フェローとしてアメリカ進歩センター(CAP)に在籍していた事実も重要である。

このような関係性をみれば、バイデン政権ではシンクタンクが「復権」を果たすであろう。そこで、以下ではバイデン陣営に関わっているシンクタンク関係者を紹介したい[3] 

バイデン陣営の政策チームとシンクタンク

歴代民主党政権との関係では、ブルッキングス研究所などの中立系シンクタンクや、CAPなどのリベラル系シンクタンクが人材供給源の一つとして機能し影響力を行使してきたが、バイデン陣営との関係でも大きな存在感を発揮している。

たとえば、外交・安全保障チームでは、アントニー・ブリンケン、ブライアン・マッケオン(以上、ペン・バイデン・センター)、ジェイク・サリヴァン(カーネギー国際平和財団及びハーバード大学ベルファー・センター他)、アヴリル・ヘインズ(ブルッキングス研究所)、ジュリー・スミス(ジャーマン・マーシャル・ファンド)、トーマス・ドニロン(外交問題評議会及びベルファー・センター)、スーザン・ライス、サマンサ・パワー(以上、ベルファー・センター)、ニコラス・バーンズ(ベルファー・センター及びアトランティック・カウンシル)らシンクタンクに在籍している者が、中核メンバーを構成している[4]

中核メンバー以外でも、シンクタンク関係者の存在感は目立っている。『フォーリン・ポリシー』誌(731日付)によると、外交・安全保障チームの内部では地域やイシュー別に20からなるワーキング・グループが設置されているが、東アジアWG、南アジアWG、欧州WG、中東WG、西半球WG、国防WGなどではシンクタンク関係者が共同委員長を務めている。なお、東アジアWGについてはイーライ・ラトナー(新アメリカ安全保障センター(CNAS))とジャング・パク(ブルッキングス研究所)が取り纏めている。

バイデン陣営の経済チームも同様である。中核メンバーには、ジャレッド・バーンスタイン(予算・優先政策センター)、ヘザー・ブシェー(ワシントン公正な成長センター及びバイデン・インスティテュート他)、ベン・ハリス(ブルッキングス研究所ハミルトン・プロジェクト)、ロン・クライン(CAP)、ステフ・フェルドマン(バイデン・インティテュート)、バイロン・オーギュスト(バイデン・インティテュート及びニュー・アメリカ)、インディバ・ドゥッタ=グッタ(予算・優先政策センター)らシンクタンク関係者が含まれる。また、外交・安全保障チームの中心人物の一人であるサリヴァンは、経済チームでも重要な役割を果たしている。

ロバート・ルービン、ローレンス・サマーズ、ジェイコブ・ルー財務長官経験者たちも助言を提供しているが、これらの人々もいくつかのシンクタンクと関わりをもち、サマーズについては、ハミルトン・プロジェクト、ベルファー・センター、バイデン・インスティテュート、CAPそれぞれに籍を置いている。その他、グーグル元CEOでニュー・アメリカ理事長を務めたエリック・シュミットも助言を提供している模様である。 

バイデン陣営と左派の関係

このように、バイデン陣営では中立系シンクタンクやリベラル系シンクタンクの専門家が多く関わっているが、その一方でサンダース、ウォーレン両上院議員に近い左派の専門家やシンクタンク関係者も助言を提供していることを忘れてはならない。2016年大統領選での党内対立を教訓に、バイデン陣営はサンダース支持者らの声を取り入れることに積極的な姿勢を示している。7月上旬に6分野に関する政策提言を発表したバイデン・サンダース合同政策タスクフォースは、そのような象徴である。そして、このタスクフォースでは、ダリック・ハミルトン(ローズヴェルト・インスティテュート)やチラグ・ベインズ(デモス)、そして現代貨幣理論(Modern Monetary TheoryMMT)で有名なステファニー・ケルトン(サンダース・インスティテュート)が名を連ねていた[5]

『ニューヨーク・タイムズ』紙(611日付)によると、富裕層課税案の提唱者であり、予備選でサンダース、ウォーレン両議員に影響を与えた若手経済学者のガブリエル・ズックマンもバイデン陣営と関わりがある。現時点で、ズックマンは特定のシンクタンクに籍を置いていない模様だが、ローズヴェルト・インスティテュートのチーフ・エコノミストのジョセフ・スティグリッツらとともに、『フォーリン・アフェアーズ』誌に論文を発表しているところをみると、同インスティテュートに近い専門家と言える。

無論、左派の間でバイデン前副大統領に対する不満や批判の声がないわけではない。なかでも、外交・安全保障の分野については厳しい批判が見られ、非介入主義を掲げるクインジー研究所のスティーブン・ワーサイムは、バイデン前副大統領には「終わりなき戦争」を終わらせる意思がないなどと非難している[6]。同じくクインジー研究所のダニエル・ベセスナーも、「バイデン外交はオバマ外交と似たものになる」との警戒心を表明している。先の合同政策タスクフォースで外交・安全保障を扱う委員会だけ設置されなかったのも、このような難しい関係が背景にあったのかもしれない。

とはいえ、外交・安全保障の分野においてもバイデン陣営は左派の専門家を完全に排除しているわけではない。『ネイション』誌(727日付)によると、外交・安全保障チームの責任者であるアントニー・ブリンケンとサンダース陣営で外交顧問を務めたマット・ダスが定期的に意見交換を行っているだけでなく、バイデン陣営の外交・安全保障チームのWGには左派の専門家も入っている。なお、ダスは元々CAPに在籍していたが外交エスタブリッシュメントに幻滅して2014年に中東和平財団というシンクタンクに移籍したという経歴を有している。一方、今のところ、上記WGに参加している左派専門家の顔ぶれについての詳細な情報は明らかになっていない。

バイデン政権とシンクタンク

バイデン政権が誕生すれば、前オバマ政権の高官で中立系やリベラル系のシンクタンクに在籍する者の多くが要職に起用される可能性はほぼ確実である。同時に、左派の専門家やシンクタンク関係者も政権入りすることが予想される。当然、人事においても左派の声を無視することはできない。この点に関連して、ローズヴェルト・インスティテュートは経済政策を担当する高官候補リストの作成を進めており、近くバイデン陣営に提示する計画という。この動きが示唆するように、今後左派は政権人事をめぐりバイデン陣営に対して「圧力」を強めていく可能性がある。いずれにせよ、バイデン政権では左派の専門家やシンクタンク関係者がオバマ政権の時よりも多く政権入りする可能性があり、ローズヴェルト・インスティテュートやデモスといったシンクタンクの動向も軽視できない。

ここへきて、「ネバー・トランプ派」の動きが再び活発化している。歴代共和党政権の高官経験者や、2008年及び2012年のマケイン、ロムニー両陣営のスタッフを中心にバイデン前副大統領への支持を表明する書簡が相次いで発表されているが、これらの動きでは、4年前同様、シンクタンクなどに在籍する専門家も少なからず含まれている。バイデン陣営はこうした「ネバー・トランプ派」専門家にも接触しているとの情報もあり、共和党系専門家の中から政権入りするケースが生まれるかどうかも注目されよう。

 

バイデン陣営のシンクタンク関係者(一部):()は担当分野】[7]

ペン・バイデン・センター

アントニー・ブリンケン、ブライアン・マッケオン、マイケル・カーペンター、コリン・カール、スペンサー・ボイヤー、ダニエル・エリクソン、フアン・ゴンザレス、ジェフリー・プレスコット(以上、外交・安全保障)、スティーブ・リチェッティ。

バイデン・インスティテュート

ステフ・フェルドマン、ヘザー・ブシェー、バイロン・オーギュスト、サラ・ビアンキ、ローレンス・サマーズ(以上、経済)、アーネスト・モニツ、ヘザー・ザイカル(以上、エネルギー・気候変動)、バレリー・バイデン・オーウェンズ、マイケル・ドニロン、ブルース・リード[8]

ブルッキングス研究所

アヴリル・ヘインズ、ジャング・パク、ダニエル・バイマン、タルン・チャブラ、ラッシュ・ドーシ、リンジー・フォード、ライアン・ハース、フランク・ローズ、アマンダ・スロート、マイケル・オハンロン、スティーブン・パイファー、ジョシュア・ホワイト(以上、外交・安全保障)、ベン・ハリス、マルセラ・エスコバリ、ジェニー・シュエツ(以上、経済)、ノーマン・アイゼン(政府問題)。

ハーバード大学ベルファー・センター

ジェイク・サリヴァン、トム・ドニロン、スーザン・ライス、サマンサ・パワー、ニコラス・バーンズ、ウェンディ・シャーマン、カート・キャンベル、ミシェル・フロノイ(以上、外交・安全保障)、ローレンス・サマーズ(経済)、アーネスト・モニツ(エネルギー・気候変動)。

カーネギー国際平和財団

ジェイク・サリヴァン、トム・ウェスト(以上、外交・安全保障)。

外交問題評議会

トーマス・ドニロン(外交・安全保障)、ロバート・ルービン、ジェイコブ・ルー、ブレア・エフロン(以上、経済)。

アトランティック・カウンシル

ニコラス・バーンズ、ウェンディ・シャーマン、マイケル・カーペンター(以上、外交・安全保障)。

ジャーマン・マーシャル・ファンド

ジュリー・スミス(外交・安全保障)。

ランド研究所

クリスティン・ウォーマス(外交・安全保障)。

戦略国際問題研究所(CSIS

フランク・ケンドール(外交・安全保障)、フランク・ベラストロ(エネルギー・気候変動)。

新アメリカ安全保障センター(CNAS

カート・キャンベル、ミシェル・フロノイ、イーライ・ラトナー、イラン・ゴールドバーグ、アンドレア・ケンドール=テイラー、ダニエル・キルマン、カリサ・ニーチェ、マーティン・ラサー、エリザベス・ローゼンバーグ、ケイラ・ウィリアムズ(以上、外交・安全保障)

アメリカ進歩センター(CAP

フランク・ケンドール、マラ・ラドマン、ダニエル・ベネイム(以上、外交・安全保障)、ヘザー・ブシェー、ロン・クライン、ローレンス・サマーズ、ソナル・シャー(以上、経済)。キャロル・ブラウナー(エネルギー・気候変動)。

ニュー・アメリカ

ローサ・ブルックス(外交・安全保障)、エリック・シュミット、バイロン・オーギュスト(以上、経済)。

トルーマン・センター

ジェイク・サリヴァン、ミシェル・フロノイ、フランク・ケンドール(以上、外交・安全保障)。

予算・優先政策センター

ジャレッド・バーンスタイン、インディヴァ・ドゥタ=グッタ(以上、経済)。

ワシントン公正成長センター

ヘザー・ブシェー(経済)。

サンダース・インスティテュート

ステファニー・ケルトン(経済)。

ローズヴェルト・インスティテュート

ダリック・ハミルトン(経済)。

デモス

チラグ・ベインズ(人種問題)。

中東和平財団

マット・ダス(外交・安全保障)。

■ 「2020年大統領選挙とシンクタンク(1)―民主党候補者争いとの関係を中心に―」はこちら

 

 


[1] ただし、シンクタンクが組織として特定候補を直接応援することは不可能であり、所属する研究員らはあくまで「個人の立場」で特定の陣営に関与している。シンクタンクの大半は内国歳入法上の501(c)3団体であり、同団体は税制面でもっとも優遇される代わりに、政治活動では大きな制約を受け、選挙に関与することは固く禁じられている。

[2] 2019年春までのシンクタンク関係者の動向については、次を参照。宮田智之「2020年大統領選挙とシンクタンク(1)―民主党候補者争いとの関係を中心に-」東京財団政策研究所WEB論考(2019416日)<https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3076> また、民主党予備選時点でのバイデン、ウォーレン、ブーティジェッジ各陣営の政策チームについては、次を参照。宮田智之「バイデン、ブーティジェッジ両陣営の政策チーム」東京財団政策研究所WEB論考(2020131日)<https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3325>; 宮田智之「エリザベス・ウォーレン陣営の政策チーム」東京財団政策研究所WEB論考(2019125日)<https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3290>

[3] 陣営資料や現地報道、そして一部シンクタンク資料をもとに作成した。ブルッキングス研究所やCNASは、所属する研究員がバイデン陣営に助言を提供している事実を公表しており、そのような情報も活用した。

[4] 政権移行準備委員会の外交・安全保障分野の責任者でもあるヘインズは、現在はブルッキングス研究所に籍を置いていないが、昨年末時点の同研究所のウェブサイトでは、客員研究員として名前が掲載されていた。

[5] サンダース・インスティテュートは、サンダース議員の妻のジェーン・サンダースが2017年に立ち上げたシンクタンクである。昨年春に活動を一時停止しているが、ケルトンのほかに、ロバート・ライシュ、ニナ・ターナー、ジェフリー・サックス、コーネル・ウェスト、トゥルシー・ギャバードらがフェローを務めている。

[6] クインジー研究所は左右両派の孤立主義者の結集を目指しているため、厳密に言うと、左派系シンクタンクではない。クインジー研究所については、次を参照。宮田智之「非介入派を支えるコーク財団―クインジー研究所の誕生―」東京財団政策研究所WEB論考(2019827日)<https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3211>

[7] このリストでは、常勤の研究員だけでなく、客員研究員や理事を務めている者、過去に在籍していた者も掲載している。公開の情報に基づくため陣営のシンクタンク関係者すべてを網羅しているわけではない。

[8] スティーブ・リチェッティ、バレリー・バイデン・オーウェンズ、マイク・ドニロン、ブルース・リード、ロン・クライン、アントニー・ブリンケンらは、陣営立ち上げ時からのメンバーであり、バイデン前副大統領の最側近である。これら人々は、選挙運動全般にも深く関与している。

 

<参照記事・資料>

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    • 宮田 智之
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