帝京大学法学部准教授
宮田智之
民主党指名候補争いで有力候補の一人であるエリザベス・ウォーレンは、政策通であることを売りにしており、選挙集会では「自分にはプランがある」という主張を繰り返している。実際、政策への熱意は並々ならぬものがあるようで、報道によると、ウォーレン陣営が発表した政策文書のほとんどに関与し、陣営のスタッフに対しては四六時中メールで自らの意見や質問を投げ掛けているとされる[1]。このように、政策への強い熱意をもつウォーレンをどのような人々が支えているのか。以下では、現地の報道をもとにウォーレンの政策チームの主な顔ぶれについて紹介したい。
政策ディレクターを務めるのは、ジョン・ドネンバーグ(Jon Donenberg)という人物である。ドネンバーグは、2012年上院選挙以来ウォーレンを支えてきた主要スタッフの一人であり、ウォーレン議員事務所では立法担当部長の座にあった。このドネンバーグの例のように、陣営ではウォーレン議員事務所関係者が少なくない。金融・経済政策を担当するバーラト・ラママティ(Bharat Ramamurti)も、ウォーレン議員事務所出身である。現在ヴァンダービルト大学ロースクール教授で、陣営内で国内政策・外交政策双方を担当しているガネッシュ・シタラマン(Ganesh Sitaraman)も、かつてウォーレン議員事務所で上級顧問を務めていた経歴を有する。また、安全保障政策を担当するサーシャ・ベーカー(Sasha Baker)は、アシュトン・カーター国防長官の次席補佐官を経て2017年にウォーレン議員事務所に加入している[2]。
『ポリティコ』紙が「ウォーレンの政策アジェンダを象牙の塔の専門家チームが支える」と指摘しているように、ハーバード大学ロースクール教授であったウォーレンは、大学の研究者を活用することにも非常に積極的である[3]。いくつか例を挙げると、富裕層への課税案ではカリフォルニア大学バークレー校のエマニュエル・サエズ(Emmanuel Saez)とガブリエル・ズックマン(Gabriel Zucman)の協力を得ており、学生ローン債務の減免案についてはブランダイス大学のトーマス・シャピロ(Thomas Shapiro)の助言を受けている。また、ユニバーサル・チャイルドケアでは、カリフォルニア大学アーバイン校のマーサ・バラダラン(Mehrsa Baradaran)に意見を求めている[4]。さらに、メディケア・フォー・オールについては、ニューヨーク市立大学のステフィ・ウールハンドラー(Steffie Woolhander)、ハーバード大学のドナルド・バーウィック(Donald Berwick)、マサチューセッツ工科大学のサイモン・ジョンソン(Simon Johnson)、ミシガン大学のベッツィ・スティーブンソン(Betsey Stevenson)らの助言を受けている[5]。
シンクタンクも政策アイディアや人材の供給源である。例えば、ウォーレンが打ち出しているGAFA解体論は、オープン・マーケット・インスティテュートのバリー・リン(Barry Lynn)の存在が大きい。また、ウォーレンがローズヴェルト研究所やデモスといった党内左派に近いシンクタンクと緊密な関係を持っている事実は以前から知られており、娘のアメリヤ・ウォーレン・チャギ(Amelia Warren Tyagi)はデモスの役員を務めていた[6]。今回もこれらシンクタンクの研究員はウォーレン陣営にアドバイスを提供していると考えられる。
バーニー・サンダースと並んで、ウォーレンは民主党左派を代表する政治家である。したがって、当然ウォーレン陣営では左派の人材が多い。ただしその一方で、興味深いのは党内穏健派の態度であり、ウォーレンについて必ずしも批判的な声ばかりではないということである。筆者が行ったインタビューで、ある穏健派を代表するシンクタンクに在籍する者は「サンダースは社会主義者であり協力は不可能だが、ウォーレンであれば喜んでアドバイスしたい」と語り、同じく穏健派シンクタンクのサードウェイ幹部もウォーレンについて高く評価する発言をしている[7]。また、アメリカ進歩センター(CAP)は、ウォーレンの側近であるシタラマンを上級研究員に迎えている[8]。これらの例に象徴されるように、穏健派の態度はウォーレンに対する拒否反応一色ではない。この点はサンダースと大きく異なるところであろう。そもそも、ウォーレン自身も、前回大統領選挙の民主党候補争い終盤にヒラリー・クリントンへの支持を表明し副大統領候補にも名前が浮上したように、元々党内穏健派と敵対関係にあるわけではない。
もっとも、現在、党内穏健派の専門家が続々とウォーレン陣営に参加しているわけではない。また、ここ最近はウォーレンが提唱するメディケア・フォー・オールに対して、穏健派の批判が拡大している状況である。しかし、以上のように一部であったとしても協力の可能性を示唆する声が存在することは興味深く、今後の選挙戦の展開次第ではウォーレン陣営に歩み寄る動きが生じることも考えられる。
[1] MJ Lee, “`Every one of the decisions is her decision;`Inside Elizabeth Warren’s policy factory,” CNN, June 24, 2019
<https://edition.cnn.com/2019/06/24/politics/elizabeth-warren-policy/index.html>
[2] Alex Thompson and Theodoric Meyer, ”The Ivory Tower team of wonks behind Warren’ policy agenda,” Politico, June 24, 2019
< https://www.politico.com/story/2019/06/24/elizabeth-warren-policy-team-1376718 >
[3] Ibid.
[4] Ibid.
[5] Shane Goldmacher, Sarah Kliff and Thomas Kaplan, “How Elizabeth Warren Got to ‘Yes’ on Medicare for All,” The New York Times, November 17, 2019
< https://www.nytimes.com/2019/11/17/us/politics/elizabeth-warren-medicare-for-all.html>
John Cassidy, “Elizabeth Warren Doubles Down on Medicare for All,” The New Yorker, November 2, 2019
< https://www.newyorker.com/news/our-columnists/elizabeth-warren-doubles-down-on-medicare-for-all>
[6] 宮田智之「2020年大統領選挙とシンクタンク(1) -民主党候補者争いとの関係を中心に-」(2019年4月16日)<https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3076>
Gideon Lewis-Kraus, “Could Hillary Clinton Become the Champion of the 99 Percent?” The New York Times, July 23, 2016
< https://www.nytimes.com/2016/07/24/magazine/could-hillary-clinton-become-the-champion-of-the-99-percent.html >
[7] 筆者によるシンクタンク関係者とのインタビュー(2019年2月6日); Natasha Korecki and Charlie Mahtesian, “Warren emerges as potential compromise nominee,” Politico, June 19, 2019< https://www.politico.com/story/2019/06/19/democratic-establishment-elizabeth-warren-1369874>
[8] Center for Amertican Progress, <https://www.americanprogress.org/about/staff/sitaraman-ganesh/bio/>