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12月6日研究会報告「社会保障財政の長期的課題」講師:岩本康志氏

December 6, 2010

12月6日、岩本康志 東京大学大学院経済学研究科教授より「社会保障財政の長期的課題」に関して報告を受け,その後メンバーで議論を行った。

1.財政健全化への道のり

2050年くらいまでのスパンで見ると、財政には3つの課題がある。(1)基礎的財政収支赤字の解消、(2)社会保障・公費負担の伸びに対する財源確保、(3)基礎的財政収支黒字の確保、である。(1)については、現状でGDP比約6%の赤字を2015年までに半減という目標がある。(2)については、岩本・福井(2010)の推計から、2010年~2020年まででGDP比約1%、それ以降で約3%の財源が必要である。(3)については、諮問会議の議論をもとに、GDP比で約1%の黒字を目指すとする。単純計算で、GDP比約11%、消費税に換算すると約22%という数字になる。もっとも、景気回復による歳入増・歳出減を考慮すれば、GDP比で7%くらい(消費税換算で14%)には落ち着くだろう。財源も消費税だけでなく、他の手段も考えられる。

2.社会保障改革の視点

社会保障財政における公費負担の伸びをみると、マクロ経済スライドの導入で、基礎年金の伸びはそれほど大きくなく(2025年まででGDP比約2%)、少子化対策も規模としては小さい。今後の社会保障の伸びの中心は、医療・介護である。現行制度を前提に、医療・介護の保険料と公費負担の推移を計算すると、2070年頃のピークまで一貫して上昇していく。また、後期高齢者医療制度における公費割合が大きいことを反映して、保険料よりも公費負担のほうが伸びが大きい。これに対し、医療・介護をもっと節約できるのではないかという議論もあるが、これに対しては否定的に考えている。先進諸国における効率と公平の関係を見ると、日本より一人当たりGDPが高く(効率的)、より平等な国は多くあり、日本もその方向へ進める行ける余地がまだあると考えている。高齢者の医療費の多くは現役世代の負担なので、その負担を軽減する意味で、積立方式の導入は選択肢となるだろう。

3.財政再建のシナリオ

景気後退期の財政再建は得策ではない、というのは長期的には正しくない。財政破綻は経済の低迷と将来への悲観によって引き起こされるものであり、再建の先延ばしは、より景気の悪い時に再建の必要に迫られる状況を引き寄せてしまう。歳出の削減がほぼ限界であることを考えると、消費税10%はもはやタイミングの問題でしかない。一気に引き上げるのは難しいので、7~8%程度を挟んで2段階で引き上げることや、所得税などの一時的減税と組み合わせるなどのやり方は必要だろう。一つの望ましいシナリオとして2012年秋での2~3%の引き上げを計画し、最終判断は2011年度末に景気動向を見極めて行う。これで、経済が順調なら2013年度に基礎的財政収支半減目標を達成できる。残りの2~3%は最初の引き上げ後に時期を判断と思っている。

4.議論

・消費税導入にあたっては、逆進性対策として番号の導入が必要ではないかとの議論はある。ただ、番号を理由に消費税導入を先延ばしにすることはできない。7~8%までなら、現行制度の下で引き上げることは可能ではないか。

・最終的に消費税は何%くらい必要か、という見取り図は難しい。大雑把には2050年頃に20%くらいか。これも制度の改革で変わりうる数字。とはいえ、足元については、できるだけ速やかに10%への引き上げをするべきとは考えている。

・積立方式の導入については、二重の負担が発生するという議論がある。しかし、この場合も、現行制度の下での負担よりは、実は小さくなる。全体として世代間で負担が平準化するという視点が重要。

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