所有者不明土地問題を考える(下):土地は公共財という前提で | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

東京財団政策研究所

詳細検索

東京財団政策研究所

所有者不明土地問題を考える(下):土地は公共財という前提で

September 14, 2018

第112回東京財団政策研究所フォーラムレポート「 所有者不明土地問題を考える(上):政策動向と今後の論点 」を読む

土地は公共財という前提で

吉原 自治体では土地をめぐりどのような課題があるのでしょう。情報共有、住民参加によるまちづくりを長年実践されているニセコ町ではいかがでしょうか。

片山 ニセコ町の人口は約5,000人。小さな町が生き残る手段は住民自治しかないということで、徹底して実践してきました。【 発表資料はこちら

町を持続させるためには環境政策が重要で、住民ニーズもそこにあります。「環境モデル都市」「持続可能な開発計画(SDGs)未来都市」をめざし、環境基本条例、景観条例に加え、罰則規定付きの地下水保全条例、水道水源保護条例を制定しました。こうした開発規制を行っているので、投機的な土地の買収はニセコ町内ではほとんどありません。

ニセコ町の土地をめぐる歴史を振り返ると、1972年の列島改造ブームで農家の離農が加速度的に進みました。そこに1986年のバブル景気で原野商法が始まります。原野や山林などを、「新幹線が予定されている」「必ず値上がりする」などと言って売りつける不動産詐欺です。「コーヒー1杯でニセコに土地が買える」といったキャッチコピーをご覧になった方もおられるのではないでしょうか。

現在も土地の値段はそれほど変わっていません。山林は1平米80~100円で売買されています。都会の方々は「とりあえず買っておこう」とお思いになるのでしょうが、税金もかからないので、放置化される。水道水源保護条例を制定したとき、違反者には懲役を課す開発規制なので水源地域の土地所有者に通知を出すと、38%が宛名人不明で戻ってきました。所有したところで次の代に相続されず、親が土地を持っていたことすら子どもに伝えられていないことも多いのではと思っています。所有者を補捉するのは難しく、それがまちづくりの大きな課題になっています。

2018年1月1日現在、ニセコ町の面積は1万9,713ha、そのうち課税面積は1万916ha(55.4%)です。課税土地の所有者はほぼ明らかになっています。一方、非課税面積は8,796ha(44.6%)です。非課税面積のうち公共等用地を除外した面積は1,708ha(町全体の8.7%)で、そのうち所有者不明土地面積の推計は444ha(町全体の2.3%)です。この土地については追跡調査ができていませんし、その余裕もありません。これでもわれわれのような小さな町は捕捉しているほうで、都会では不明土地はもっと多いのではないでしょうか。ちなみに、ニセコ町の土地が外国資本に買われているとよく言われますが、住所地が海外の土地所有面積はわずか0.6%の129haです。

持続する自治体をつくるために所有者不明土地問題の解消は急務です。この問題があることによって林地は荒廃し、一体的土地利用・流動化が阻害され、防災・減災対策に支障を来すほか、適正課税への懸念も生じます。防災対策で河川や道路を整備しようとする際、不明土地があると本当に大変です。

われわれとしては、長期間所有者が不明で公共の福祉に資する土地については、当該自治体が希望する場合には、土地の所有権を自治体に移転してほしいのです。使用期限が定められていては、税金を使って投資することは困難です。土地は公共財、私たち国民の財産だという前提で土地政策を変えていく必要があるのではないでしょうか。相続登記がされていない、言ってみれば眠っている人の権利を財産法で守っているのはおかしい。そこは変えていただきたいというのが思いです。

時間が経てば所有権は消えるか

山野目 片山町長が最後におっしゃった「所有権を自治体に帰属させてほしい」というお話は、ごもっともだと感じます。そういう自治体もある一方で、「国は使い勝手の悪い土地をわれわれに押しつけようとしている」と拒絶反応を示される自治体もある。市町村はいま、マンパワーや予算の厳しい制約がある中で地域のさまざまな難しい問題を抱え込んでおられます。

これは矛盾しているということではなくて、それぞれの市町村が状況を踏まえて意向としてお考えになることです。ですから、これから国が制度づくりをしていくときに、市町村が必ず引き受けなければならないという雰囲気をもつ制度にしてはいけない。引き受けようとすれば引き受けていただけるという柔軟なものとして、またそう受け止めていただける制度を工夫してつくらなければいけないと宿題をいただいたと感じました。

片山 今後もNPOをはじめさまざまな組織がまちづくりに関わろうとするでしょう。地球環境保全、二酸化炭素(CO 2 )排出量削減のために緑地を増やそうとか、いろいろな試みが生まれています。自由な発想を妨げる制度は変えていかなければなりません。所在が不明な所有者に権利があるとする発想を変えて、所有者の所在が不明であれば財産放棄したのと同じと考えてはどうかと思うのです。

山野目 いままで日本には「時間が経ったら所有権が消える」という発想はなかったわけですね。それは国の審議会などで決定して施行することではなくて、少し時間をかけて各方面のご意見をうかがいながら考えていくことです。今日を皮切りにいろいろな方のご意見をいただいていきたいと思います。

手放すことができる仕組みを

吉原 いま議論されているのは、所有者が明確でなく長期間放置された土地の受け取りについてですが、所有者が明らかな土地についても、所有権を手放すことができる仕組みと受け皿の設置を検討する必要があります。

増田 「所有者不明土地問題研究会Ⅱ」で、所有者にとって利用・管理・売却が困難な土地を所有者が手放し、公的色彩をもった機関(受け皿機関)がそれを受け取り、管理し利活用を促す仕組みの具体化策を検討しはじめました。ランドバンクのような仕組みです。

この問題は、突き詰めて考えると土地の利用可能性に行き着くと思います。所有者が手放す土地をなんでも受け皿組織が引き受けることにはなりえません。受け取る土地の要件、基準を設定する必要があります。たとえば、採算の合いそうな土地のみ受け取ることにするのか、そうでない土地も受け取ることにするのか。

今年4月11日、大分県中津市耶馬溪町で発生した斜面崩壊により、複数戸の家屋が土砂に巻き込まれ、6名がお亡くなりになりました。まとまった雨が降っていない中でも土砂災害が発生している。それ以降、土地の受け取りを逡巡する自治体も出てきています。やはりむやみに土地を自治体で受けると危ないと。自然災害の可能性が広がっているときに、将来世代のことを考えて、土地を含めた空間的な管理をどうするのか。利用というよりは管理の仕方です。山野目先生がおっしゃったように、必ずしも積極的に使うのではなくて、「粗放的な管理」でも十分社会的な意味があると思いますが、そのときの管理をどの程度にするかということについて、きちんと議論する必要があります。

登記は「しなければいけない」をコンセンサスに

吉原 相続登記のあり方に関してはいかがですか。

山野目 まずは、相続登記はしなければいけないということを社会のコンセンサスとして明確にする、法律に書き込むことが出発点になるのであろうと考えます。その次に、「しなければいけない」相続登記を実効的に国民のみなさんにしてもらうにはどういう手順にしたらよいかという具体的な議論に進んでいくことになります。

現在の制度で、建物を新築したときには登記をしなければならないことになっています。しないと10万円以下の過料に科せられると法律に書かれてありますが、使われたためしがありません。新築されても登記されていない案件があちこちにあるため、それを摘発する機関の労力や効率を考えるとさまざまな障害があるからです。かつ、10万円程度では大した罰則ではないと思われる方もいるかもしれません。このへんのところを考え込んでいく必要があります。

国の法制で罰則を設けるときには、内閣法制局や法務省刑事局との協議が必要になります。登記をしないだけで懲役刑を設ける法律案を政府が提出しようとしても、おそらく現実の政府の政策形成のプロセスの問題としてうまくいかないでしょう。そこは引き続き考えていかなければなりません。

それから、税制の問題があります。登録免許税は土地の値段の1,000分の4。小さいようにみえるけれども、土地の値段が高ければそれなりの額になります。それに加えて司法書士に登記を依頼すればその費用もかかります。国民にこうしたコストを負担してもらうのに理念だけを言っても通りません。登録免許税は、少なくとも初期にはかからないようにすることが出発点だろうと思います。ただ、その先は工夫が必要です。免税期間をどのくらいにするのか、税率のめりはりをどうつけるかなど、税制でどう誘導するのか、工夫の仕方を考えていかなければいけないでしょう。

吉原 多くの論点が挙がり、社会の変化の中でこれから制度のあり方を深く考えなければいけないということにあらためて気付かされました。本日はありがとうございました。


所有者不明土地問題を考える(上):政策動向と今後の論点 」を読む

<所有者不明土地問題を考える> 一覧ページへ

注目コンテンツ

0%

INQUIRIES

お問合せ

取材のお申込みやお問合せは
こちらのフォームより送信してください。

お問合せフォーム