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【書評】エビデンスに基づくエネルギー政策議論の積み石に

November 28, 2017

評者 舘祐太データ・アナリスト

【書評】依田高典・田中誠・伊藤公一朗著『スマートグリッド・エコノミクス――フィールド実験・行動経済学・ビッグデータが拓くエビデンス政策』(有斐閣、2017)

電力価格が上昇した際、人々は電力消費をどれくらい削減するか。節電要請や社会的行動といったインセンティブのもとで、人々はどのように電力消費を変化させるか。定量的な研究が行われていなかったこれらの疑問に対し、フィールド実験によってその影響度合いを明確に示したものが本書である。

2011年の東日本大震災と、それに続く福島第一原子力発電所の事故により、現在もなお、日本のエネルギー政策は多くの課題を抱えている。多くの原子力発電所が稼働を止めるなか、日本がエネルギーミックスを構築していく重要性は論を俟たず、なかでも再生可能エネルギーをどれくらい導入できるかが一つの焦点となるだろう。しかし、供給量が自然条件に左右されやすい性質のため、供給側が需要量に合わせる従来の需給調整の方法でなく、需要側が消費量を調整するデマンド・レスポンスへの関心が高まっている。

スマートグリッド(IT技術で供給側・需要側の両方から電力の流れを制御し、最適化できる送電網)により技術的な障害は解決されつつあるが、消費者が実際にどのような行動をとるかという点に関しては不明なところが多かった。事実、震災の年の夏において、節電要請に対する企業や消費者の取り組みが、経済活動の水準を大きく落とすことなく、電力供給の減少を乗り切ることにつながったことは、おそらく誰も予想していなかったことであろう。本書で示された研究結果は、これらの間隙を埋める多くの有益な示唆を与えている。

電力・エネルギー政策を扱った書籍であるものの、検証の手法としては計量経済学、消費者行動の分析には行動経済学の知見が活用されており、それぞれの領域における応用例としての側面も特筆すべき点であろう。実証の方法としては、無作為比較対象法(RCT:Randomized Controlled Trial)を活用したフィールド実験が採用されているが、RCTは変数間の因果関係を測定することに優れた手法であり、近年、その必要性が高まっている「エビデンスに基づく政策」の要請にも応えたものとなっている。

また、多くの関係者との調整が必要となるフィールド実験において、産学官民間の調整のエピソードも、今後同様の研究を行う人々にとって有意義なものとなるであろう。行動経済学の応用例の一つとしては、節電行動を引き起こすための「内的動機(金銭のためでない公共心等に基づく動機)」と「外的動機(主に金銭的な報酬による利己的な動機)」の検証実験が行われている。2017年のノーベル経済学賞を受賞したことでも記憶に新しい、リチャード・セイラー教授らによるナッジの考えが援用されており、内的動機では反応が徐々に鈍化していく「馴化」がみられたのに対し、外的動機にはそれがみられなかった、などの興味深い結果が示されている。

筆者達が認識しているように、本書で示された結果は特定の地域における結果であり、それをほかの地域や日本全体に敷衍できるかどうかという「外的妥当性」に関する議論は常につきまとう。その克服のためには、今後、フィールド実験の結果を積み重ねていくことが一つの解決策となり得るが、その際には、この書籍での取り組みが積み石となり、さらなる研究の蓄積に寄与するものとなるであろう。

◆【連載】研究員リレー書評は こちら

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