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「ニセ議会基本条例を斬る」開催にあたっての所感:木下敏之上席研究員

June 25, 2009

「政策懇談会:ニセ議会基本条例を斬る」を開催します

前我孫子市長の福嶋上席研究員と、北海道の栗山町議会事務局長だった中尾研究員と一緒に7月1日の「政策懇談会:ニセ議会基本条例を斬る」のパネリストを務めます。
今、全国の市町村議会では議会基本条例を制定するのが密かなブームになりつつあります。そして、その先鞭をつけたのが北海道の栗山町議会です。
栗山町議会の議会基本条例は、議会が住民と徹底的に向き合い、論点整理と意見交換を行い、議会としての考え方をまとめて、執行部と対峙しようというものです。具体的には、議会は一年に一度、町民に報告と意見交換をする会を開催しています。そのことを議会基本条例で義務化しています。
現在、全国で50前後の市町村議会が議会基本条例を制定しているようですが、その中には、住民に対して公式な場で報告会をしたり、公聴会をできるだけ開くことを明記していないところもあります。
自治基本条例のケースでも同じですが、条例を制定することそのものが目的となりつつある感じがしています。住民の意見を吸い上げ、議会として議論することよりも、議会の議決を要する執行部の各種基本計画やマスタープランを、増やそうとする動きに重きを置いているのではないかという気がするものもあります。
また、ある議会では、住民に公開せずに議会基本条例の検討を行っているそうです。制定過程に住民が参加していないということは、議会基本条例のそもそもの意味が全く理解されていないのではないかと思います。
「地方議会の改革プロジェクト」では、このような「ニセ」の議会基本条例が蔓延していくことを防ぐために大いに警鐘を鳴らしたいと思い、48の議会基本条例を比較分析した報告会を開催します。単なる報告会ではなく、参加いただいたみなさまと活発な議論を試みたいと考えております。
福嶋上席研究員や中尾研究員のお話はとても面白いです。私も思うところをストレートに発言します。詳細は こちら です。申し込みフォームは こちら です。

佐賀市長時代の議会についての理想と現実のギャップ

私は、佐賀市長在任中は、議会に議案を否決や修正をされることが多く、ある人は「市長。一議会、一否決ですね。」と言って笑っていた。それも覚悟していたことで、私の前職である農林水産省という職場で学んだ根回しという手法をあえて封印しながら、様々な前例の無いことに挑戦したからだ。
どうして根回しを封印したかというと、国と違って地方自治体は二元代表制であり、市長も議員も別々に住民から直接選挙で選ばれる。その民意を、根回しで曲げたくなかったということと、議会という公開の場でどのような議論が交わされるかを住民に見せることが非常に大事であると考えていたからだ。
しかし、当時の佐賀市議会は、私の考えているこのような理念や理想とはまったく別のもので、さまざまに水面下での調整を議会から求められた。また、議長や委員長に委員会の開催を求めても、なかなか、委員会を開催しようとしない。あるときは閉会中に市町村合併についての説明を求めたことがあったが、すでにびっしり埋まっていた視察の日程が優先された。(執行部は、その頃、重要な仕事があることを予測して、みな予定を空けていた。)
委員会で議論しても、自民党系議員と社民党系議員がまったく逆の意見を発言することもあったが、議員どうしの議論で意見を集約することなどなされず、「では、執行部は、各委員の発言を十分踏まえて対応してください。」といって閉会になることも多かった。これは、執行部にとってはとても有難いことで、何もせずにそのままにしておくことが出来る。
また、執行部の提案は、重要な議案となれば、何千名かのアンケート調査の結果を基にしていることが多い。それなりに民意に基づいているといえる。となると、そのようなデータを持っていない議員が反対を表明しても、アンケート結果に基づく方が圧倒的に優勢となる。少なくとも、議会での質問の前に自分の後援者に緊急アンケートをとって、それを根拠に反論するくらいは出来るだろうにと思ったが、そのようなことはなかった。多くは、感情的な反発だった。
日本の民主主義はこれで大丈夫なのだろうか?と漠然とした不安を持っていた。

英仏の地方自治制度視察で受けたショック

そして、市長選挙に負けた後、加藤会長に声をかけていただき東京財団の研究員として地方議会改革を研究することになったが、ちょうど、「改革派首長」といわれた方が相次いで政界から退かれたころで、なんとなく停滞感があったときだった。
そこで、水戸黄門の出現を待っているのではなく、議会が大きく変化して改革を進めていく原動力にならないといけないのではとの仮説の下、まずは、改革派といわれた市長と議会の関係を調べることとなった。
その結果は私にとっては驚きであった。詳しくは東京財団の報告書をお読みいただきたいが、改革派首長のなかでも、根回しなしで行政運営しているのは、前我孫子市長で東京財団の研究員である福嶋浩彦さんと私の二人だけであった。やはり、憲法が規定する二元代表制はこの国の風土に合わないのかと思った。
次の驚きは、一昨年にフランスとイギリスの地方自治体を訪問した時のことである。私自身が不勉強なことに、日本のように首長も議員も別々の直接選挙で選ばれている国は、先進国にはほとんど無いことをその時に初めて知った。大部分の先進国は、市議会議員が直接選挙で選ばれ、市長はその中から選ばれる体制だった。議院内閣制である。
日本でも議員のボスが次の市長候補を決めているところもあるが、これは水面下で行われており、住民にはまったく見えない。そして、改革派首長でも、実質的に議会と執行部が一輪車になっていることが多い。それならば、やはり日本は二元代表制を捨てて制度として一元代表制にしたほうが、すっきりとして良いのではと思うようになった。

目からおちたウロコ‐福嶋研究員の指摘

しかし、その後、福嶋研究員の講演を聞いて、目からウロコが落ちた。
「今の日本の議会には、公聴会の開催など、住民の意見を聞く仕組みがいくらでもあります。しかし、多くの議会では、重要議案の賛否すら公表しないし、公聴会も行われていません。このような、住民の意見を聞くことを徹底しておこなっていない状態で一元代表制(地方議員を直接に選挙し、その中から市長を選ぶ制度)を導入しても、住民の意見をしっかり聞いて市政運営を行うことなどありえないです。」
福嶋氏の発言概要はこんな感じの内容だったと思うが、確かに今の制度を活用してもいない議会が、急に変われるかと言うとそんなことはないと私も思う。
そして、議会基本条例が各地でブームとなり始めているが、住民にきちんと向き合うという「背骨」の部分を曖昧にした条例が制定され始めていることを知った。このままで行くと、住民との関係を強化する条例ではなく、執行部の様々な計画について、議会議決事項を増やし、執行部に対する議会の権限だけを強化する方向に向かってしまう。
これから、多くの自治体は、財政難の中で高齢者の増加という難しい問題を抱える。これまで以上に執行部・議会と住民との議論や意見交換が望まれる。今、執行部はアンケート調査やパブリックコメントなど、住民の意見を吸い上げる仕組みが整いつつあるが、議会はどうだろうか。
この議会基本条例の制定の検討過程とその後の運用は、これから厳しい利害調整が必要な地方自治体にとって、住民の意見を議会としてどうやって吸い上げるかを考える非常に良いきっかと訓練の場となると思う。
これからのこのプロジェクトの調査・検討が私自身、楽しみである。

<文責:木下敏之上席研究員>

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