自治体の資金調達
地方分権、“地域主権”が進むことは、地方自治体の裁量が増すことを意味します。予算や条例を自治体の意思決定として議決する地方議会の責任はより一層重くなります。ただ、現在、国と地方の長期債務残高は800兆円を超えるといわれています。
先般の「三位一体の改革」以上の国からの税財政の実質的な移管は、国と地方自治体の税財源の抜本的な改革が行われない限り期待できません。歳入の大幅増が見込めなければ、基本的には借金を返済しつつ、独自で十分な資金調達をしていかなければ自治体経営は成り立ちません。
これからの地方議会の役割は、各種サービスの提供という歳出面だけでなく、健全な歳入が行われているかも視野に入れていかなくてはなりません。今、資金調達のひとつである地方債(市場公募地方債)に関心が高まっています。
このような問題意識の下、2010年6月7日、駒澤大学非常勤講師(前シティグループ証券 シニアクレジットアナリスト)の江夏あかねさんに「地方財政制度と地方債市場~議会の質疑で役立つ基礎知識~」というテーマでご講演いただきました。
概要
まず、地方債とは何を説明いただき、現在世界的にも日本の地方債に注目が集まる背景や投資家が選択する地方債の銘柄について分析いただきました。また、地方債のクレジット・スプレッド(信用リスク等による利回り差“プレミアム”:具体的には国債に上乗せ利回り)の推移と構成要素についてもいくつかの図表を示しながら説明いただきました。
参加者からは、改めて行財政運営の重要性を認識した、特に財政健全化への具体的な取り組みの必然性を理解できたとの発言がありました。また、金融機関の経営が悪化し、大量の地方債の引き受けに慎重になった場合はどうなるかなどについても議論がありました。
雑感
地方債は自治体の課税権を担保としていることと、地方公共団体財政健全化法が施行されたことにより、地方自治体の破産は制度上存在していません。また、地方債はディフォルトすることはないと認識されています。それは国が地方財政制度を重層的に整備していることが背景にあります。クレジット・スプリットもこの制度を踏まえて設定されています。地方自治体の財政的な自立を考え、国との関係を現状の支援体制を変質させるのであれば、そのプロセスは透明性を高く保持しなければ、市場の反応は過敏になることが予想されます。
また、当面の自治体の財政運営としては、歳出に占める公債費の増加を抑え、財政の硬直化を鈍化させることが重要です。それだけではなく、地方債の償還期限や魅力的な商品として住民参加型市場公募地方債を含む資金調達源の多様化を図り、低い調達コストで安定的に管理することも求められます。
最後に講演で話題になった言葉の紹介です。国と地方自治体の関係を示しているのでご紹介します。国が地方自治体に対して行う財源保障機能とは、“保証”ではありません。国はあくまでも地方自治体の財政が一定の状態を維持すること支えるだけです。地方自治体の財政に損害が生じたときに、その債務を履行する義務は国にはありません。でも、紛らわしい印象を受ける言葉ですね。
参考:「地方債投資ハンドブック」(江夏あかね 財経詳報社 2008年)