1、議論のポイント(導入にむけての具体的課題と検討)
第1に、政策目標、政策のターゲットを明確にすること。
当面、若年層を中心としたワーキングプアと呼ばれる人たちや、母子家庭に対する就労を通じた貧困対策を念頭において検討すべきであると考える。とりわけ少子化対策としては、子育て家庭への経済的な支援としての税額控除(一定の所得以下の家族に、児童一人当たりいくら、という支給)を組み合わせる場合、比較的低所得の乳幼児家庭を対象とするのか、中高生を持つ比較的高所得時代もカバーするのかを明確にする必要がある。
第2に、他の政策手段との比較で、政策効果の十分な検討を行うこと。
就労インセンティブの拡大策は、所得アプローチであり、バラマキにならないように、効率的・有効的な方法を十分検討する必要がある。低所得就労者の給与に連動して給付することがかえって低所得への依存を招かないか、企業側がその分の賃金引下げを行うことはないか等々も詰めておくべき点である。
第3に、不正給付(還付)問題の防止、クロヨンと呼ばれる事業者の所得の正確な捕捉をおこなうこと。
そのためには、導入当初の英国のように、給付(還付)事務を会社レベルで行うこと、さらには、納税者番号制度の導入が課題となる。もっとも、英国・フランス等欧州諸国では、納税者番号制度なしに導入しており、その経験を学ぶことが重要である。
第4に、税務当局と社会保障官庁との協力・統合の検討。
課税最低限以下の所得情報について、社会保険事務所や地方自治体と協力する必要がある。
第5に、個人単位から世帯単位税制に変える必要性と資産テスト導入の可否。
本制度は、家族全体の所得をベースに設計しているので、世帯単位での所得の補足を前提とした仕組みにする必要がある。また、個人単位のもとで厳格な定義の行われている配偶者、扶養家族と、社会保障制度との整合性を保つ必要性もある。分離課税となっている金融所得のことや、資産テスト(ミーンズテスト)の導入の可否等を検討する必要もある。
第6に、児童手当、児童扶養手当、生活保護等の現行社会保障給付、配偶者控除を始めとする各種所得控除、最低賃金制度のあり方を根本的・総合的な見直し。
考え方としては、「最低賃金でフルタイム働いた者がEITCを受ければ、社会保障税引き後所得が貧困ラインを超えること」を目標とすべきである。
いずれにしても、中期のプランを立てつつ、「所得控除を税額控除に変えていく」ことから実施に移していくことが必要であろう。
最後に、「歳出・歳入一体改革」と整合性を採り、税収中立、さらには歳出面も含めた「財政中立」という考え方の下で制度設計。
2、討議の概要
- わが国の最低賃金は国際的に低いこと、引き上げが雇用に与える影響ははっきりしないこと等の説明。
- 最低賃金制度とこの制度は紙一重、表と裏なので、十分議論する必要がある。
- 勤労時間を会社が管理するという英国型は、個人事業者の存在を考えると採用が難しい
- 給付はするが還付はしない、ためには社会保険料を税とあわせて徴収することが必要ではないか。
- 市町村の児童手当との連動を同考えるか、児童手当分は控除するという方式も考えうる。
- 生活保護には、勤労控除の制度が導入されている。
- 年金未納問題との関係はなやましい。韓国の制度はサラリーマンに限定し、年金未納者への対応をも視野においたもの。
- 国民年金のように定額の保険料をどう構成していくのか。
- 具体的水準の議論になると、生活保護水準との関係が難しくなる。
- 児童を養育する非生活保護低所得世帯は焼く79万世帯、生活保護世帯は8万世帯。
3、その後、第1段階として、所得控除から税額控除への具体案として、森信研究員より以下の内容を説明。
前提 「税収中立のもとで、所得控除を削減し、税額控除を創設する」
(イ)配偶者控除を、現行の38万円から28万円に10万円削減する。
(ロ)夫婦・子2人で年収700万円程度(限界税率10%)の者の15歳以下の扶養親族に、その人数に応じた税額控除をする。
配偶者控除の削減による増収額は、約2,000億円
700万円以下の納税者に扶養されている15歳以下の扶養者 約1,000万人
扶養者一人当たりの税額控除額 2万円
年収700万円(夫婦子2人)の納税額は
10万円×10%=1万円 配偶者控除の削減による税負担増
2万円×2=4万円 税額控除額
4-1=3万円 還付
概念図
子供のいない専業主婦家庭は増税。独身世帯は税負担変わらず、という問題点は残る。