2008年1月28日
於 日本財団ビル2F 会議室
<フリーディスカッション>
【鶴岡】MDGsは日本がODA最大拠出国だったころから、世界全体のODAのかさ上げをねらって、成果主義も念頭において、できるだけ現場の実績が上がるような提案をしながらつくってきたものなんですけども、いまや日本の経済の勢いというか、財政不調の中でMDGsを提案してきたことも忘れてしまいまして、MDGsについては国民再教育を今、やっているところなんです。
その1つに、福田総理のダボス演説でも、MDGに言及しました。ダボスでは、総理はブレア前英国首相や歌手のボノやビルゲイツと懇談し、一緒に、今年はMDGsの中間年なので評価をしっかりやって、それをもとに2015年までの新たな具体的な指標をつくろうということも言っております。世界ではMDGsは完全にこれからの開発の指標であるということは確立しているんですが、ちょっと日本はその点やや弱いというのが現状だと思います。
さはさりながら、今政府部内では、MDGの中でも、4、5、6、に注目してこれらを中心的な課題に据えた上で、国際保健協力を推進しようということで、TICADそれからG8両方で大きな課題にして、今議論を進めているところです。UNDPはTICADの共催者の1つであり、もう1つが世銀ですけれども、日本政府とその3者でTICADは動かしてきているんですが、その中でも一番MDGの最も将来につながる話としては4、5、6、それから、実は4、5、6をやりながら、セクター間の関係を見ると、教育の行き渡っていないところはやっぱり健康も行き渡らないんです。単純に、薬の処方をしても、いつ飲んでいいかわからないとか。
【村田】字が読めなかったらどうしようもない。
【鶴岡】字が読めないというのは、お母さんも子供に教えられないし。そこで教育もしっかりやろうということで、総理のダボス演説では保健、水、教育という3つに焦点を当てて、サミットに向けた日本のMDGs達成の課題を特出しして頑張るということを言っています。
そういう過程でも、このMDGsは1つの道具ではありますけれども、何に支援を集中したらいいかということがよく整理されているものであり、また個別の詳細の目標も出ていますので、評価しやすい、そういう道具としての国際的に一致したものである。
これから1年間見ると、ことしは中間年なので、さっきダボスでの議論も紹介しましたが、9月の国連総会の場でゴードン・ブラウン、イギリスの首相の提案によるMDGsに焦点を当てた首脳レベルの会合をやろうという議論が、今、まとまりつつあります。おそらく国連総会の開会直後、あるいは前後ぐらいに、1日かけてMDGsを見直す、MDGsの現時点での達成状況をレビューした上で、これから達成すべき課題についての新たな目標設定ということになるんじゃないかと思います。
日本はそのTICADとサミットの2つの会議におけるMDG関連の議論を、国連の総会の場で加盟国に対して提示をするということで、日本自身の議長としての責任を果たす1つの形としたいと思っています。
【北岡】実際人間は健康で長生きできるのが一番ですから。ところで、今後、これを進めていく上で、ターゲットとか、切り口とか、地域たとえばサブサハラだとか、何か優先順位をお考えだったら、ちょっと教えていただければと思います。
【村田】国連の組織の調整役として、UNDPが各国130カ所以上の出張所といいましょうか、カントリー事務所を持っていまして、非常にdecentralizeされた形で動いております。ということは、要はこれは枠組みであって、例えて言えば、こういう言い方をしましょうか、南アフリカにおいては、あそこはHIVエイズの感染者が世界一なんです。そういうところは、HIVエイズのエントリーポイントを中心に、この8つをどう組みかえるかという方程式が成り立つわけで、優先順位はこういうふうになっていますけれども、この8つのメニューがどういうふうにしてその国の状況、それから地域の状況に応じてプロジェクトをつくるかというのは、現地の調整と政府との交渉によるわけです。 その中において、やはり受益国政府それからコミュニティーがオーナーシップを持って、やはり自分たちの責任を持ってキャパを上げるという意味では、彼らにやはり決定権を、オーナーシップを持たせるというのが、これが一番大事なところだと思うんです。人ごとではなくして、それを応援するのは国連のみならず、国際社会、OECDの国々であるんですけれども、やはり妥当性、効率性、それから効果、インパクト、最後には自立発展性という項目が評価の一部なんで、最後の自立発展性というところに焦点を当ててプロジェクト作成し、そこの状況に応じた形での組みかえをやるというところが、一番大事なところになってくると思います。
【北岡】相手の国のオーナーシップということで、典型的には北朝鮮のように、相手の国が変な政府だったり、あるいは無能な政府だというときには、また別のご苦労がおありだと思います。
【村田】例えて言えば、国連開発計画の執行理事会で決定された枠組みを越えて要請に応じることはありません。これのカテゴリーに外れるようなprojectにはファンドは出さないとなっています。 その取り決めの中で、この枠組みをグローバルに実施していく中で、ちょっと北朝鮮の話が出ましたけども、極端な例なんですけども、何でも彼らが要請するものをやるということではないわけです。一番大切な事は、国内の市民の意見がどういうふうにして吸い上げられていって、要請につながっているかというプロセスの中でガバナンスの問題が出てくるわけです。
ここで問題なのは、二国間で戦争するときには、仲介、介入は国際社会は実行してきました。ただし、国内紛争になってくると、これは国内の干渉になることから、主権国家に対する干渉というものはどこまでできるのかという議論に、今なっています。ほとんどが、今は主権国家における国内の紛争をどうするかというのが、大体90%ぐらいのガバナンスの問題です。
【小澤】私、国連代表部に2003年の秋に着任するときに、もちろんMDGsという言葉は知っていましたけれども、着任してみて、大変多くの人がMDGsで燃えあがっているので、非常に驚きました。途上国の人達が中心ですけども、とにかくみんなMDGsと毎日のように言っているのです。
それで、いろいろなことを考えさせられました。ニューヨークだけでMDGsという言葉が蔓延しているのか、日本だけが知らないでいるのか、何なんだろうと思いました。良く見ると、大体途上国ではMDGsというのは流布しているし、ほかの先進国を見ても、結構流布しているんです。どうして我が国では意外と知られていない言葉なんだろうと。
かと言えば、一つは、このミレニアムという言葉です。これを千年紀と訳すと、千年紀開発目標になるが、これはまたわかりにくく、要するに日本語に訳しにくい言葉なんです。実はもう1つ理由があって、これはMDGsの第8目標なんです。第8目標の、パートナーシップの中にODAの対GDP比0.7%目標実現というものが入っているのか、入っていないのかという問題があります。これは入っていると思うんですけれども、昔、日本はODAのGDP比が0.2から0.3%を突き抜けて伸びていくころに、0.7%目標をコミットしちゃったわけです。コミットしちゃって、MDGsと言っていると、じゃあ、いつ0.7%目標を実現するんですかと聞かれてしまい、そうすると何か後ろめたくなって、いや、コミットしているけども、期限は設定していないんですという話をすることになる訳です。そうするとMDGs全体について、たしかに日本がアイデアを出して、オーナーシップを持っているんだけども、第8目標があるがゆえに、何かうさん臭いという気持ちが、実は我々の潜在意識にあるのではないかと、こういうようにも当時から分析しています。
そうすると、村田先生あるいは鶴岡さんほか、みんないろいろ努力するけれど、MDGsという言葉は、どこまでほんとうに日本の中で広がりを持っていくだろうかと考えてしまいますが、正直に言って、どうでしょうか。
【村田】MDGsと言われるとわかりにくいですね。一応MDGsというラベルはついていますけれども、日本が今までやってきた、特に国連の中では経済社会理事会でリーダーシップをとってきて、もちろん安全保障理事会のことが、いつもフォーカスになりますけれども、私は国連職員として、日本が一番大きな役目を果たしたのは、経済社会理事会でリーダーシップと思います。それでやはり世界の社会問題、経済問題に対して多大な貢献をしたということは、国民が知らないということが一番大きな問題じゃないかと思うんです。
それが、MDGsというラベルで説明するものだから、そのプロセスが全然わかっていない一般市民にとっては、MDGsというのはやはり理解できない。ないですよね。だけども、やはり日本の今までの国際貢献と、経済社会理事会の中でも、今まで果たした日本のODAの実績というものを、説明する、言ってしまえば啓蒙活動というんですか、それが今までなかったから、MDGというのはすっきりこないんじゃないかなと、個人的に思います。
私にとって、日本政府の、まだ日本国民が考えているMDGsというのは、もう今まで日本の政府も、それから最近は特にNGOの活動が目立ちますけれども、やってきているんですよという形でのメッセージが欠落しているような気がしています。
実際いって、0.7%というのは、そんなにもう固執しているようには……。ただし、プレッシャーはかかります。ただし、一番大切なこと、私も今、一生懸命頑張っているのは、日本のプライベート・セクターを、環境問題もそうですけども、どのように参画していくかということですです。これはODA以外に日本のプライベート・セクターがMDGsにどうパートナーシップとしてかかわってくるかというのが、これから非常に大事な点だと思います。
その中で、一番今、日本のプライベート・セクターがおくれているのはCSRなんです。日本の国内の公害問題におけるCSRは、非常に高いけれども、これをグローバルな競争という段階において、戦略性に欠けている。CSRというものがマーケティング・ストラテジーの中核にならなきゃだめだという概念化が、まだできていないんです。それがもう少し外に出て競争して、ああ、これはやはり途上国においてもCSRというのはこういうふうにして競争できるんだという意思が生まれたとき、日本のODAプラス日本の直接投資という、やはり日本の独自なこれからのフォーミュラというのが出てくるんじゃないかと思いますけども。
私は、ODAのことだけをこれから見ていくんじゃなくて、やはり民間企業の接点というものを、ODAとどういうふうにブレンドしていくかという新しいフォーミュラを環境問題でも考える必要があると思うんです。
【鈴木】今お話にありましたCSRの問題ですが、今の日本のメーカーはCSRを取り上げて、いかに社会的にレスポンシブルであるかということを言うんですが、彼らの言うレスポンシブルというのは、他国や社会に迷惑をかけないという責任であって、何か社会に対する貢献をしようというタイプの責任と捉えていないというのをすごく実感しています。そこがMDGとプライベート・セクターのすり合わせの難しいところという感じがします。
途上国に行っても、例えばそこで公害を出さないようにするとか、何か悪いことはしないというところまではいくんですけれど、そこから先に何か貢献するかというと、ちょっとまた違う話になっているように思います。
この10年間ぐらいで、途上国の経済成長というのは伸びていますね。その背景には、ODAというよりは、むしろ民間投資が入っており、ODAで達成したものとは言えないと思います。つまり、民間投資とMDGがどういうふうに組み合わされるべきなのかということが1つ質問です。
ただし、その点に引っ掛けてもう1つ言うと、やっぱり民間投資というのは利潤追求というのが一応の目標になるので、よくある森林伐採ですとか、さまざまな社会問題、環境保護の問題と矛盾が起きる可能性もあるだろうと思われます。続けての質問になるんですが、そういう場合、どういうふうに調整されるべきなのかということが問題だろうと思います。
それと、これは最後の質問ですが、国内における再分配の問題に関する問題です。これは国内のガバナンス問題ということになると思いますが、村田先生はガバナンス問題を国内紛争を例にだされていましたが、例えばタイみたいな国でも、地域格差というのは非常に大きいと思うんです。つまり、国内ガバナンスの問題というのは、別に紛争が必ずしもそれが原因ではなくて、やはり再分配をやれるだけの能力が政府にないということだと思います。そういった点についてはMDGの中に、具体的なガバナンス能力をターゲットにする何かプログラムとか、そういった展開の仕方というのはあるのかどうかというのを、ちょっとお伺いしたいと思います。
【村田】ちょっと逆向きから入りましょうね。ガバナンスはなぜ入っていないかというと、政治的な色彩が非常に濃いということで各国からの異論があった。それが1つある。ただし、MDGsを実行する上でガバナンスというのはやっぱり潤滑油みたいなものでして、いろいろな実質のプログラムを実施する際に、やはり行政サービスの効率化というものは、やっぱり途上国では、政府が独占しています。プライベートセクターが希有は場所では、やはり政府の行政サービスの質、それから彼らのネットワークを広めるためには、ガバナンスはどうしても必要と考えられています。 この中には入っていませんけども、UNDPのプログラムが存在する国々は、ほとんど130カ国以上あるんですけれども、全体でガバナンスにおけるprojectの比率が45%。ということは、UNDPというのは結構governance oriented organizationというふうに言及されるくらい、ガバナンスと貧国を中心にした組織です。やはり透明性の高いお金の使い方をやっているかどうか。それから会計検査院の改革だとか、裁判所の改革だとか、それから選挙のやり方だとか、そういったところがガバナンスの具体的な内容に入ってくるわけです。 途上国の政府はおおむね、national human development reportを作成しています。各国の人間開発報告書です。そこには地域のランクダウンがあって、例えばフィリピンだったら、やっぱりミンダナオ島が一番教育レベルが低いというところで、こういった状況が続くと、また問題が起こりますよという警鐘を鳴らす形でのフォーラムがございます。
ということで、やはりガバナンスを見るときに、その裏づけとなる政策の指針、いわゆるHDRというのはとても大事だということで、グローバルhuman development reportと、各国のnational human development reportが共存します。
それから、今度は、じゃあガバナンスと国連とODAと民間をどういうふうにくっつけていくかといいますと、やはりこの中では民間の持っている技術、それからODAの持っている二国間援助という1つの大きな政治的な枠組み、最終的には国連の持っているグローバルな1つのネットワーク、どういうふうに組み合わすかというと、まずやはり民間の企業が投資しやすい環境づくりは、リスクミニマイゼーションという形で国連が入っていくことが多いんです。そこでつちかった技術協力を、小さなプロジェクト、パイロットプロジェクトをやり、それが成功に終わったときには、中規模のODAでfollowし、最終的には民間のダイレクト・インベストメントを入れるという、3段階に分かれるのが積み上げ式で一番成功している例なんです。
ブータンでもあるわけです。ブータンでは、UNDPが電話ネットワークのマスタープランをつくって、それに日本のODAが電話ネットワークを引いて、今度は民間直接投資をよびこむが、やはりMDGの中でもそういった3段階方式といいましょうか、パートナーシップの組み方というのは、非常に大事になってきます。それを円滑にするため、やっぱりガバナンスという行政サービスの枠組みの中で円滑に回るプロジェクト、オーナーシップ(自己責任)として必要になってくる。
最後、利害関係のバッティングということを言われましたけれども、これはコンスタントにございます。プロジェクトが大きくなればなるほど、汚職問題のありますし、それからモンゴルであったんですけれども、さるカナダの鉱山会社が、彼らの有利なような契約をしようとして、モンゴル政府はUNに対して、契約のレビューを要請してきました。正当な、そしてモンゴルにとってもプラスになるコントラクトかどうか精査してくれないかということです。
途上国の利害関係と、それからさる会社の利害関係というものが非常にぎくしゃくしたり、対立したり、市民が犠牲になったりすることがあります。フィリピンでも、金山、鉱山、マーカッパーというのがありましたけれども、UNIDOが政府の要請を受け、状況を徹底的に調査したこともある。
やはり、最終的にはCSRのことに関しては、迷惑をかけないということより、その前段階で、市民参加をうながし、やっぱり公開質問が必要になってくると思うんです。そういった市民参画のフォーラムをつくっていくというのは、私は大切なことだと思うんです。
【中谷】日本経団連が、ミレニアム開発目標に関して何か提言を出していましたら教えていただきたいと思います。もう1点は、企業の行動に関連して、住友化学工業が蚊帳でしたか、アフリカでの、ああいうプロジェクトは非常にいいと思うんですけれど、ほかに何かそういういいプロジェクトはできてきていますでしょうか。ボトム・オブ・ザ・ピラミッドといいますか、ピラミッドの底辺に対するビジネスモデルはうまくできるのでしょうか。日本の企業の製品のは、品質がよいのですが同時に割高になるのに対して、途上国では品質は先進国の人々が使うには十分でなくても、安いものが求められるんだろうと思います。そういうビジネスモデルというのが、うまく確立できるのかなと思います。
【村田】経団連ですけども、経団連を団体として見て、CSRの活動がどう行われているかというのは、いろいろな団体が入っていますので、非常に難しい。ただ、UNDPと直接CSR Projectを実施してきている会社は、2-3社ありますが、1社はオリンパス。オリンパスは、アフリカのいろいろなコミュニティーの写真を撮っているんです。TICAD関連で、横浜でもアフリカの展示をしています。オリンパスはHIVのキャンペーンにUNDPに3万ドル寄付し、その3万ドルでアフリカのHIVエイズのキャンペーンをやっています。内容は、アフリカのミュージシャンを使ってミュージックCDをつくり、そのミュージックCDの中にはHIVエイズに感染しないためのレッスンをアフリカのラジオで流すんです。その企画を提案したら、これはいいということで、プロトタイプCDをがありまして、それをTICADでも配ろうと考えています。
それが非常に小さなお金なんですけども、ベストセラーになりつつあります。私も結構聞きましたが、ミュージックとしても聞けますね。
2番目は、今、ヤマハ発動機。彼らはやはり国内でも魚が好きですから、ヤマハ発動機は、非常にアプロプリエートテクノロジーと英語ではいうんですけど、適切な技術、簡単な技術をもって、ろ過機をつくる技術と、ローカルでそれを生産しようとする動きがあるんです。そのフィージビリティー・スタディーをUNDPが手助けしているんです。それは、まさに途上国におけるCSRです。
あす、野村総研に行って、ちょっとそういったお話をしてくれというので、やってきます。今度大和證券がコンサベーション・インターナショナル・ジャパンというNGOと共同でNGOと共同で気候変動と生物多様性のことでジョイントシンポジウムをやる。これはCSRの一環だと思うんです。今までは証券会社でそんなことをやったことがなかった。
やはり海外に競争力を持つためには、そういったCSRカルチャーを1つのストラテジーとして成熟させていくというんですか、そういう努力がだんだん出てきたということがあります。
最後に、地雷のことなんですけども、コマツは非常にすばらしい地雷の除去をする機械を製造しています。先立って、外務省の方々と経団連のチームが南アフリカ経由でアンゴラに入りました。アンゴラ政府はコマツの地雷除去の機械に非常に興味があるんです。カンボジアでも非常にいい例がありますので、ビジネス・オポチュニティーと地雷除去というのと、地雷原がありますから、それで、その中をUNDPがブローカーとして仲介に立って、CSRを推進する、ビジネスにもなる、いい機械が入るという形でのモデルをつくろうとしています。これからポテンシャルは日本の会社にも、そういった形で非常に出てくるんじゃないかと思っています。
【潘】筑波大学の潘と申します。非常に興味深いお話、ありがとうございました。
1つだけ、ご質問したいことがありまして、二国間援助のODAとMDGとの関係についてのお話なんですが、特定の国よりも一般論的な話なんですが、先ほどのご説明の中に、例えば幾つかの援助の段階に分けて、最初はエントリーはMDGから入って、ある段階になるとODAのフォローアップがあるということですが、先ほどお話の中にもCSRの話があるんですが、こっちのCはcorporationのことなんですね。Countryのこと、国家のことをいうと、例えば、同じ二国間援助、ODAをやっている国もたくさんあるんです。
例えばEUとかの場合は、最近中国と協力してアフリカで援助をやろうというような交渉が行われているところだと聞いておりますけれども、例えば国連の場合、MDGの一環として、こういうようなODAとマルチとのセットみたいな形での交渉が行われているかどうかということを、1つお伺いしたいと思いますが。
【村田】技術的にはすでに実施されております。私が1981年に国連開発計画に入った時点で、“ジョイント・ファイナンシング”だとか“コスト・シェアリングだ”という名称で、1つのプロジェクトにUNDPもお金を出すけれども、他のドナーもお金を出してというふうなジョイント・アカウントを設定して共同出資で実行するProjectのは多く存在します。
さる国では、プロジェクト・アカウントをは別だが、、同じ目標に向かってゴールをセットしてアプローチしようという、通称”パラレル・ファイナンス“というProject形式もあります。
【潘】それは交渉は国連は国連のチャンネルでこの受け入れ……。
【村田】いえ。受益国政府にお願いして、お互いにオーバーラップしないために、そういった合同会議を持ちます。それはとても大事なことなんです。
通称いわれる、マルチ・バイ・コラボレーションなんていう援助強調の一環として表現され、日本も非常に力を入れています。
中国のことにちょっと触れますけれども、中国のODAというのは非常に特異でして、ODAというよりはビジネス・マーケティングでしょう。ODAとはちょっと性格を異にする。
ODAの場合は透明性を非常に要求されます。特に国連の場合においては、監査はございますので、その辺には非常に透明性が高いところがあると思います。
【潘】ただ、そういう場合は、例えば被援助国家から見れば、むしろ中国タイプの援助のほうが都合がいいかもしれませんね。あえて国連の援助を取らないんです。
【小澤】中国の支援はレジーム(政権)に対する支援になりがちです。
【潘】はい。
【村田】それはちょっとわからないでしょう。
【小澤】それは、政権はありがたいと思うんです。
【村田】受け入れるほうの評価によりますからね。
【鶴岡】おもしろいのは、具体的に今、村田さんが言ったように、普通は援助国側はこういう会議を開いて、その国にどういう援助をするのか、こういう必要性があるけれども、どの国がどの分野が一番得意で、資金も一番潤沢かとか、そういうことを全員で情報を共有しながら、受け入れ国の意向を1つ1つ全部確認した上で援助計画をつくるんです。そういうところに中国を入れて議論するのがいいのではないかと、情報も共有できるし、中国もどこに最も効果的に援助を出すのが適当かがよくわかるでしょうということを提案すると、受け入れ国側が中国を入れるのに反対します。なぜでしょう。そこに問題があるんです。
そういう意味で、受け入れ国側からすると、中国はほかの国ができない非常に貴重な貢献をしているんです。(笑)
【村田】いろいろなパターンの援助があるということで、今のところ、とめておきますけれども。
ただし、1つ今大きなトレンドとして流れているのは、一国のドナーが独占的にスコアを上げて、その国のためになるような、そんな単純な、援助というのはないということなんです。アメリカ1国を例に上げても、アメリカがすべての援助で自分たちのブループリントを作成できるかというと、疑問です。やはり援助協調というのは、受益国家のキャパシティーが試されるところで、ガバナンスの高揚が必要です。
中谷先生がボトムアップのことを言われましたので、ちょっとそれに言及させていただきますけれども、ボトムアップは別に新しいものではございません。私が一番興味があるのは、ボトムアップのビジネスで買えない人たちはどうするかというところに、興味があるんです。プライスダウンしても買えない人たちのことのほうが問題でしょう。
だからこそ、マイクロ・クレジットなんていうのがはやっているじゃないですか。じゃあマイクロ・クレジットをスタートするには、どこから金がくるのかといった場合には、大体源はODAからくるほうが多いんです。
グラミンバンクも、マイクロ・クレジットは大体ODAからだと思う。そのお金をイニシャル・インベストメントできた出所はどこか、だれも問わないです。お金を持っていない人が集めたお金じゃないですよ。
【鶴岡】グラミンバンクにはJBICも拠出しました。
【村田】そうです。
【鶴岡】ところが、あまりにもお金が集まりやすくなったので、JBICの高い金利でこれ以上借りるのは、得ではないといって、JBICには次の機会に声がかからなかった。そのぐらい、確実な融資先になったんです。だけど、当初資金はODAでグラミンバンクの考え方を支持した幾つかの国際機関と、国がお金を出したんです。そのうち、自分の実力でもって集められるようになったんです。
今はODAは入れてないんじゃないかな。
【村田】ええ、入れてないですね。私はグラミンバンクの方をよく知っているんですけど、マイクロ・クレジットをスタートさせた初期の段階で金の源泉はどこかと聞いたときに、しっかりした説明がないようです。
【鶴岡】マイクロ・クレジットは決して低利じゃないんですよ。高いんですよ。だから、ものすごくもうかるんです。
【村田】特に女性がマネージすると、ものすごくもうかる。回収率90何パーセント。
【中谷】取り立てが厳しい。
【村田】そう、取り立てが厳しい。
【鈴木】元々、貸し倒れのリスクを含んでいるので金利が高いんですよね。
【青井】どういうプロジェクトを開発援助機関がやっているとか、フォーカスエリアとか、そういうことについてはすごく情報が豊富なのですが、援助によって実際どういう結果が得られたかというアセスメントについては、的確な情報を得るのが難しいと思っています。例えば、しばらく前になりますが、アメリカの国務省にインタビューに行きました折に、あちらの担当官が、汚職の撲滅に今、アメリカ政府は力を入れているけれども、これはどこまでうまくいったか、またいつ援助を終えてもよいかを測るインディケーターがないとおっしゃるんです。
だれに対して、どういう結果が出てきているのかということを測るアセスメントの方法について、実際にどのようなものがあるのかについてお話いただけないでしょうか。中国の援助の結果とイギリスの援助の結果と、きっと違うでしょう。国連の基準も違う。汚職の改善を測るのが難しいという難しさと、援助の方向性がばらばらな中で結果を測る難しさと、受益者が多様であるという難しさと・・・援助のアセスメントは実は大変に複雑な問題で、その辺について、もし国際機関で考えているようなことがあれば教えていただければと思います。
【村田】おっしゃるとおりなんです。評価する時点で、どこから始めるかということなんです。例えて言えば、ポリシーレベルで政策におけるその政策の妥当性というものを見る、マクロな意味でのエバリュエーションから始めるのか。それもボトムレベルで、非常に末端のプロジェクトで、その政策とプロジェクトの関連が、どういうふうにプロセスでつながっているか、プロセスエバリュエーションやるのか。最後に、一般市民に対してどのぐらいなインパクトでできてるのかという、いろいろなエバリュエーションのやり方があると思います。
ただし、こういう言い方をします、橋をつくったら、橋ができたのがインパクトであるのか、それとも、橋ができて村人たちの経済状況がよくなったから、それがインパクトなのか、いろいろ考え方があると思うんです。だから、私たちの指標というのは、ちゃんとプロジェクトの中でこういうところを見ようというのは入っています。それは定期的にモニタリングすることによって、それを評価する1つの目安にいつもチェックしているんですけれども、その中でやっぱり一番大切なのは、プロジェクトをデザインするときに、そのインジケーターというものを、まだそのエバリュエーションプロセスに、みんながどういうふうに参加するかというところが大切と考えます。
特に私が一番今、困っているのは、こういう状況があるんです。普通、中長期的な援助が平和な状況があって、急に災害が起こって、それでクーデターが起こったとします。3つぐらいの問題が一遍にその地域を襲うんです。そのときに、今までやってきた仕事を緊急援助に切りかえて、そしてクーデターが起こったときには、この3つの要素の中でのプロジェクト、3つばらばらのプロジェクト、同じコミュニティーにあるプロジェクトをどういうふうに評価するか、ものすごく複雑です。
平和な状況の中で、1つのプロジェクトをモニターして、そのエボリューションを見るのは、結構簡単なんです。ただし、そうじゃなくして、村の村長が選挙でかわったり、プロジェクトのリーダーが途中で抜け落ちることによって、マネジメントのストラクチャーが変わることによって、プロジェクトの進行がおおいに変わる。今まで予期しなかった最終的な結果、そういったものが一番クリティカルインシデントというんですか、それをモニターすることによってエバリュエーションの結果というのは随分違ってくると思います。
【藤重】日本国際問題研究所の藤重です。貴重なお話、ありがとうございました。
ここで質問として挙げさせていただきたいのは、UNDPとして、先ほどUNDPというのはコンフリクトやガバナンス達成に力を入れているとおっしゃっておられたと思うんですけども、UNDPという国際機関において、MDGの達成とコンフリクトの解決ということと、どうリンクされているか、どのように努力を行われているかということと、もう1つ、もっと一般的にMDG全体の枠組みとして、紛争の解決ということはどのように達成目標として位置づけられているのかということについて教えていただきたいと思います。
【村田】まず第一に、このMDGsの8つのゴールというのは、例えて言えば、紛争後の状況を見ると、やはりもう一度紛争に戻らないための非常に大切な8ゴールには必要最低限のインジケーターだと思うんです。
戦争が起こってしまうでしょう。そうしたら、この8つのゴールというのは、緊急性のある内容からスタートするんだろうと思います。ベーシック・ヒューマン・ニーズなんて、BHNなんていわれていますけれども、その中では水であったり、シェルターであったり、最低限の食べ物であったり、そういったものに集約されることが多いんです。だから、紛争が始まってしまったら、おそらくこのインジケーターというのは、あるところだけが非常に突出しています。
社会構造の弱者層で例えれば乳幼児の状況をどう見るか、これは紛争中でもいえることなんです。ただ、援助のデュレーション、それからボリュームというのは状況によって違ってくると思うんです。
この8つのゴールというのは、紛争の真っ最中に考えると、このゴールというのはちょっと違ってくるんじゃないかと思いますけど。
【北岡】ちょっと聞きたいんですが 私、2005年に小澤大使なんかと一緒に石川薫さんの選挙運動をやってたんですけど、デルビシュに負けました。こういう分権的な組織において、トップの人によるリーダーシップでどう違ってくるか、あるいは執行委員会の顔ぶれによってどう違ってくるか。分権的な組織で、しかもいろいろなコンセプトが流動的な社会で、リーダーシップのあり方ということを教えていただけますか。
【村田】UNDPに特化してですか。ケマル・デルビシュはトルコ人で、UNDPで初めて途上国で総裁になった方ですけど、私もUNDPの職員なので、ちょっと説明しがたいところもあるんですけども、どういうふうに説明しましょうか。
【北岡】なかなか立派な人なんですね。
【村田】ええ。
【北岡】だから、やっぱり大きな変化だと思うんです。彼はもちろんプリンストンの教授で、アメリカンマインドを持った人だけど、それでも途上国からなって、何かそれによる違いとか、そういうことがあるでしょうか。
【村田】やはりG77との扱い方というのは、全く違います。彼は率先してG77の交渉にかかりますから、それは前のリーダーシップとは考えられなかったことです。
もう1つは、トルコという地域は、非常にヨーロッパとアジアにジオポリティカルに、複雑と同時に、文化的に両方に何となくブリッジが置ける、非常に特異な状況なんです。そういう意味では、彼の立ち回りを見ると、非常にカードの出し方がたくみです。時には西のカードを出したり、時にはG77のカードを出したり、なかなかリーダーとしては私は有能だと思います。
【岩沢】私は、2002年から2004年まで、国連先住問題常設フォーラムの委員をしていました。このフォーラムは、先住民族の経済社会開発、文化、環境、教育、健康、人権という幅広い範囲のいろいろな問題を扱う機関なのですが、2005年の第4回会期は、「MDGと先住民族――第1目標・貧困と飢餓の根絶、第2目標・普遍的教育の達成」という総合テーマの下で審議を行いました。
そこで、その関連でお聞きしたいのですが、開発目標の達成度に関して、国民全体のデータではなくて、少数者とか先住民族とかグループごとに分けた(disaggregate された)データを、UNDPはどの程度お持ちなんですか。
【村田】さっき申し上げましたように、各国UNDP事務所では、national human development reportを出版しています。その中のデータの中で、longevity、長寿の率だとかeducationだとか、それから必要最低限の生活に……、employment levelというのはあります。その中には先住民族も入っていることが多いです。特にフィリピンは良い例だと思うんですけども、その辺はディスアグリゲートとしてデータはございます。
一度それをチェックしていただいたらいいんですけれども、ミャンマーのようにデータがそろわないところもあるんです。そういうデータを集めるのは、なかなか難しいです。ただし、できるだけ集めようという形で、今、データ収集には非常にUNFPA、人口基金とDPが一緒になってやっています。
人口基金は国勢調査の技術協力の実施をadviceする組織なんです。中国で国勢調査を援助したのはUNFPAなんです。あまりこれは知られていないんですけども。
【鶴岡】それはUNDPは、今、所長が言われたように、実は途上国の声がかなり強い機関なんです。もともと途上国の開発のためにつくった機関だから、いろいろな決定事項における途上国の影響力というのは大きなものがあるので、簡単にいうと、途上国にとって都合の悪いことはしないという傾向が非常に強い。それをアメリカをはじめとする先進国が、自分たちがたくさん出しているお金を、そういうふうに使われていいのだろうかという監視の目を光らせているという、そういう緊張関係があります。
今の先住民の状況について、教育と子供の健康についてはユニセフがデータを持っていて公表しています。MDGは地域とか、さっきの色刷りの資料を見ると、国別の指標をもとに統計をつくっているんです。例えば、中南米で、国としてのMDG数値が緑になっている国がある。しかし、国内の部族別の統計を見ると、もともとの原住民、土着の人たちは、一切よくなっていない。だけど、少数だし、多数派のヨーロッパから移住してきた人たちの改善率が非常に高いので、平均をとると、国としてはもうMDG目標を達成したことになったりすることがあるんです。
MDGの指標をなぜつくったかといえば、援助が有効に活用されることによって、世界が安定していくことを確保するためなんです。開発援助の目的というのは、世界の安定を実現するという、その基盤をつくることなわけです。ところが、富が偏在すれば、1つ1つの国の中での紛争の種をつくっているようなものですから、そういう部分についての指標が出てこないというのは、実はMDGの持っている根本的な欠陥なんです。だけど、それを出されると、この国は貧富の差が激しくて、裕福な層は全然自分の国の中の貧困層に対する投資を怠っているという議論になっちゃうので、やっぱりなかなか国連の世界では、そういうものは表から議論できないんです。そこは1つの限界があります。
もう1つおもしろいのは、MDGは2000年につくったんですけど、もともと、さっきのお話にあったように、長い構想段階があって、そのときの前提というのは、主権国家がそれぞれの国については責任を持つということだったんです。ところが、さっきも話があったように、内紛がどんどん大きくなってきて、部族対立で国の中で整理できないような状況があるのが1つと、僕は、もう1つ大きいのはグローバリゼーションだと思います。国境がもうなくなってきていて、特に経済活動については障壁がないものですから、資源国の場合は外国からの資源に対する投資によって得たその国の富を、その国の人はその国に再投資しないんです。どんどん海外に投資して、金融資産として運用して富を、一握りの裕福な層がどんどん獲得していく。だからパリだのロンドンだの、場合によってはニューヨークだのの不動産市場を支えているのはどこの金かといえば、先進国の資金だけでなく、資源をもった途上国から流れている金でもある。しかし、投資している人の国々では、一般国民は貧困にあえいでいる。
これはグローバリゼーションの皮肉な結果であって、ほんとうは自由に流れることによって、みんなの富が増えるということを前提にしていたんだけれども、国の中の偏在が、今度は国と国の間の偏在をさらに助長して、それがさらにまた紛争の種になりかねない、こういう状況が今あるんだと、僕は思うんです。それはガバナンスという一言では、ちょっと簡単に片づけられない問題だと思うんです。この解決策は、自分の国の中にさらなる投資機会を設けて、国内で資金が回ることによってその国の経済を健全化させることだけではありません。富を持った人は、お金を持って国を出ちゃうから。だから、お金を持った人は、資源を押さえているため、また、権力機構を押さえるために、その国に存在はあるけれども、1年のうちの半分以上はその国にいなかったりするというのも全然珍しくない。
それは日本では、日本の国をそうやって出て行く人はほとんどいませんから、なかなか理解しにくいことなんだけれども、実はグローバリゼーションと、そういう富の偏在によって、しかも教育がお金がかかるということがもう1つあって、そういう人たちの子供は外国でますますすぐれた教育を受けて、ますますその国の国民から乖離した人たちになるんです。そういう、ほとんど国籍が必ずしもないような人たちの手にどんどん富が集中してきちゃっているので、その富をどう使うかと。少なくとも、紛争を起こす種の富にならないようにしなきゃいけない。逆に言うと、その富の自由度と蓄積を許すために、彼らはそのお金をそういう方向で使う傾向があるんです。そうしないと、そういう動きを規制されたら、彼らは自分たちの富の自由度がなくなるわけだから。このような新しい問題はまだ国連で議論されていない。
【北岡】これはもう、先住民委員会とか、経社理のうちの社の部分というのも重要なんですよね。国民国家はある役割を果たしていたんだけど、次のモデルはなかなかまだないということでしょうね。
【村田】最近はグローバルファンズなんて傾向があらわれてますけど、グローバルファンズというのは勝手に規約を決めちゃうでしょう。だからユーザーとして引き出すほうにとっては、非常にいろいろな条件がつき過ぎるんです。そのトレンドが今、ヨーロッパを中心にして今、出てきているんです。私個人的には、ちょっと反対なんですけど、その辺はODAに従事している方はいろいろ意見があると思います。
【鶴岡】それはまたいろいろな意見がもちろんある中で、何か緊急な事態が起きて、1万人単位の犠牲者が出てくるようなときには、直ちに手当てをしないと生命が失われます。軍事的な介入の議論は、保護する責任のほうからどうやって武力介入はしていくのか、他方、武力介入をしてもしなくても、もうその国の機能が破壊されてしまっていれば、水もなければ、病院もなければ、何もない。そうすると、もう人はどんどん死ぬわけです。そっちのほうの手当てをどうするかと。それはすぐにつぎ込めるお金と人間と機材がなければ、人の命は救えません。それを要請していたのでは間に合わないから、だから国連とかいろいろなところにお金をプールしておくのが一番効果的である。
次に何が問題になるかというと、じゃあどの事態に対して、幾らのお金を出すのを、だれが決めるのか。この、だれ。このだれについては、基本的には国連の機関は自分が決めたいんです。UNDPも含めてです。どこに振って、幾ら出すか、それを我々は、いや、それではちょっと納税者との関係でも説明し切れるかどうか不安があるし、ほんとうに公正にそういう権限まで全部、お金つきで渡していいんだろうかということを考えるものですから、使えるお金をゼロにはしないけれども、大体こちらが出したいところを優先して使ってもらえるように、これはイヤーマークという言葉で、最初から使途を指定した資金の出し方をする。
しかし、財布の中に入っているお金で、これはおかずは買えるけれども、ご飯は買えない。それだとやっぱり買い物に行ったとき、困りますよね。それと同じで、機関の自由度がそれだけ損なわれるわけです。そこが常に緊張関係があって、結局のところ、お金の出しぐあいのよさということからすると、麻薬みたいなもので、例えば今だったらダルフールに向けてお金を出しますというと、お金は集まりやすい。だけど、実はコンゴもほんとうは危機なんだけれども、コンゴに向けて出しますというと、CNNに乗っていないから、コンゴじゃお金は集まらない。そういうのがあって、やっぱりそういうもろもろの利害が絡んでいるものだから、今、村田さんが言われたように、あまりグローバルファンドというのも、あれがお金を集める理由は、エイズを前面に出したからなんです。エイズで、年間1,000万人以上が死ぬんですと。これを我々は見過ごすのが文明人ですかと言ったら、やっぱり小学生からみんな、それは気の毒だということでお金が出てくるんです。それを母子手帳を配るためにお金を集めようとしてたら、なんでということになって、実はお金は集まらない。
だから、ああいうファンドというのは、援助の商品化の1つの道具なんです。MDGも、実はそういうところはあるわけです。
【村田】当機構はpolicyがありますから。私の一番大切なpolicyというのは、やっぱりhuman development reportです。人間開発報告書というのがあるから、うちの存在自体が開発の政策面であらわれてくるんだろうと思いますし、それを抜きにした組織の存在自体半減するでしょう。 ある時期国連開発機関を統一してUNデベロップメント・オーガニゼーションを構築する動きがありました。またそれがトレンドとして、一つの“UN”という形で、復帰しているんですけれども、私はそういう方向に関しては、国際政治の中で追い風になっている。
その中で、UNDPのロゴがあるとかないにかかわらず、そういった方向というのは国連組織の効率化において非常に大切だと思います。これから大きな波の中で、国連改革というときには、ただセキュリティー・カウンシルの国連改革のみならず、やはり開発援助に携わっているエージェンシーの国連改革の動きをもっと助長するようなサポートが世界から出れば、MDGsの方向にも、効率的なUNとODA機関とNGOの関係が生まれるんじゃないかなという気がしてならないです。
-以上-