「アフリカの安全保障」
(研究会議事要旨)
冒頭、牛尾・外務省アフリカ第一課長が『アフリカの安全保障』をテーマに報告。主な内容は、アフリカ・クリアリングハウス議長国としての役割、APSAの概要とその諸課題、現在のアフリカ安全保障上の脅威について。
その後、参加者全員で自由討論。ここでの具体的な内容は、アフリカ待機軍の実現性、米仏のアフリカ軍事プレゼンス戦略、ソマリア沖海上PKOの可能性、アフリカ支援の諸課題など多岐にわたったもの。
1.出席者
北岡伸一(主任研究員)、青井千由紀(青山学院大学国際政治経済学部准教授)、岩沢雄司(東京大学大学院法学政治学研究科教授)、牛尾滋(外務省アフリカ第一課長)、小澤俊朗(内閣府国際平和協力本部事務局長)、坂根徹(東京大学大学院、日本学術振興会特別研究員)、城山英明(東京大学大学院法学政治学研究科教授)、鈴木一人(筑波大学人文社会科学研究科准教授)、滝崎成樹(外務省国連政策課長)、中谷和弘(東京大学大学院法学政治学研究科教授)、蓮生郁代(大阪大学大学院国際公共政策研究科准教授)、福島安紀子(国際交流基金特別研究員)、片山正一(東京財団研究員)、相原清(東京財団研究員)、都築正泰(東京大学大学院法学政治学研究科)
2.日時・場所 : 6月26日18:30~21:00、東京財団A会議室
3.報告者 :牛尾滋 氏(外務省アフリカ第一課長)
4.配布資料 :
「アフリカの安全保障」(牛尾課長報告レジメ)
5.牛尾課長報告
(1)アフリカ・クリアリングハウス議長国としての役割
・APSA(AU平和安全保障アーキテクチャー)に対するG8、国連、EUの支援のあり方を協議する場として、アフリカ・クリアリングハウスがある。2004年のシーアイランド・サミット以来、G8議長国がこの会合の議長を務めることになっている。実際、4月にこの会合があり、現在日本がG8の議長国であることから私自身がこのクリアリングハウスの議長を務めた。
・このクリアリングハウス会合設置の背景には、シーアイランド・サミットでアメリカが示したGPOI(Global Peace Operations Initiative)構想とAUを主体とした紛争予防、安全保障の確立を目指すAPSAとが一体となっている。アメリカは平和維持訓練者・平和維持要員を世界大で養成しようと提案しているが、この実際の意図は、今後アメリカはアフリカのPKOに人員を出さないということ。アフリカの問題はアフリカ自身が処理することを考えている。
・今回のG8外相会合他の政治声明にはAPSAについても言及される予定。その内容はAUへの支援を通じてAPSAを実現しようとするというもの。
(2)APSAの概要
・APSAの制度設計の中身は国連の集団安全保障体制と類似。AUが中心となってその下部にサブ・リージョナルな機関がある。例えば、ECOWAS(西アフリカ諸国経済共同体)やSADC(南部アフリカ開発共同体)などがある。これらがAUと協力しながら紛争を未然に防止し、また紛争が発生した場合には集団介入して、最初は政治的調停をやりそれでも解決できない場合はアフリカ待機軍を投入するという仕組みを考えている。
・APSAの核となるアフリカ待機軍は2010年までの設立を目標としている。その実働部隊となる兵士の訓練の場として、5つのサブ地域にそれぞれ一つPKOセンターを設置することになっている。具体的には、西ではガーナにコフィ・アナンセンター、マリにはフランスがやっているPKOセンターがある。また東では、ケニアとルワンダにあり、またエジプトにもある。
・AU本部にはPSOD(Peace and Security Operation Direction)という国連PKO局にあたる部局があり、ここがAPSAの中核となることが期待されている。具体的には、各サブ地域機関とMOUを結んで動員計画や訓練計画の立案を行うことができるようにすることを目指している。ところが現在は資源もノウハウもなく、国連とEUがMOUを結んで人材と資金を提供している。
・紛争を未然に防ぐための早期警戒システム(アフリカ大陸早期警戒システム)の確立もAPSAの一つの柱。昨年までは資金不足に直面していたが、現在はコンピューターの導入などドイツとEUからの支援でほぼ完成に近い。
・紛争発生時には、軍事的介入よりもまず政治的介入が有用であるとして、実際に紛争当事者間での調停を担当する「賢人パネル」を設置している。昨年このメンバーとして5人ほど選出されている。そのメンバーではないが、コフィ・アナンがAUの依頼で、ケニアの調停にあたったケースもあり、今後賢人パネルが機能することが期待される。
(3)APSAの諸課題
・4月のクリアリングハウス会合でも提起された点であるが、本当に2010年までにアフリカ待機軍が設置できるのかという課題がある。具体的な課題の一つは、資金の集まりに「むら」がある点。ドナーにとって利益のある分野には資金が多く集まるが利益にならない分野にはあまり資金が集まらない傾向。資金が多く集まっていてもそれが有効に使われていない場合もある。2010年までに待機軍設立を実現するためには、ドナー間で資金投入上の調整が必要。またドナーのファンディングと機能調整のため改めて制度設計が必要であろう。
・アフリカ内での人材のリクルートが機能していない。そのために必要な人材を雇用することができず、EUと国連に依存している状態。AU本部に30人ほどEUと国連から人が出ている。それでもなかなか機能しておらず、ドナー間でもさらに方策を協議している。現在、条件を良くしまたアフリカ外のコンサルタントを利用しアフリカ外部から人材をリクルートしてくることが検討されている。
・PKOセンターの機能にも「むら」がみられる。ガーナのコフィ・アナンセンターはECOWASと一体となってよく機能している。フランスがやっているマリのPKOセンターもなかなか良い。これは必ずしもフランス語圏からではなくイギリスからも資金が入っている。それからEUはレカンプという独自に兵員の能力を強化するイニシアティブをやっている。機能していないのは、エジプトやケニアのPKOセンター。ケニアについてはイギリスの支援で機能する可能性があるが。ルワンダについては建物があるのみ。動員の仕方、センターの運営についてAU内部でも全然計画が上がってこない。良く機能しているPKOセンターには援助が集まる。コフィ・アナンセンターへのドナーは多くさまざまな支援が表明されている。軍事部門に限らず文民部門、例えば警察の訓練への支援も表明されている。
・PKOセンターへの支援において、G8諸国ではロシアも含めて財政支援に積極的。最近中国も兵隊教育への支援を検討している。日本は今回始めてPKOセンターへの財政援助を補正予算で対応することになった。また今回防衛省との協議がまとまり、人道法の教育を目的として自衛官を派遣することになった。
・G8内部で関心やアプローチに違いがある点も課題。例えば、EUが制度設計を重視するのに対して、アメリカは軍事重視であり兵隊の養成・動員が関心の中心。一方、制度設計やドナー間のコーディネーションにはそれほど関心がない。アメリカはソマリアへの重点的な資金配分やGPOIを強調する点が際立っている。このようにG8内でもなかなか話がかみ合わないことがある。
・現状は遅々としていて2010年までに間に合うかはわからないが、EU、国連、G8の努力でアフリカ待機軍の設立は実現する方向。紛争の発生を想定した地域レベルでの兵隊動員の図上演習などシミュレーション訓練が進んでいている。確かにAUのキャパシティー・ビルディングは弱い部分であるが、これもある程度今後進んでいくのではないか。
・近年注目されているのは、APSA構築における文民部門特に警察機能の能力構築の必要性である。
(4)現在のアフリカ安全保障上の脅威
・民族間紛争は大体終結していて紛争自体減少傾向。現在も残っているのは、スーダン、慢性的にあるコンゴ民主共和国、そしてソマリア。コートジボワールについては、11月に大統領選挙が予定されているが、この選挙が終われば落ち着くであろう。リベリア、シエラレオネは全然問題ない。ジンバブエは政治的文脈での脅威と言える。
・真の安全保障上の脅威はエリトリア。チャドと組んで最近ジブチと戦争するなど何かといえばエリトリアが出てくる。アメリカが同国を目の敵にするもやむを得ない。
・アメリカが最も危険視しているのは、モーリタニア・マリ・ニジェール・チャド・スーダン・エリトリア・エチオピアの一本線におけるイスラム原理主義の急速な拡大と南下。すでにチャドやマリ北部、ニジェール、モーリタニアでは原理主義の傾向が強い。今後、ソマリア、エリトリア、特にスーダンで原理化が進めばこのインパクトは大きい。アメリカはスーダンの原理化を最も憂慮。現在アメリカは秘密裏にスーダンと正常化交渉を行っているが、この交渉はうまく行っていない。正常化交渉の背景にあるのは、南北対立として発生しているアビエでの紛争もあるが、スーダンのイスラム原理化の阻止がアメリカの真のねらい。
・スーダンへの対応において、エリトリア、チャドへの警戒が必要になるわけであるが、その際ジプチが重要な拠点となる。ここにはアメリカもフランスも軍事的プレゼンスを持つ。しかしフランスは近年撤退傾向。アフリカ全体でみてもフランスは撤退傾向。一方でアメリカはプレゼンスを拡大。アメリカがジプチを重視するのは地政学上その重要性を認識しているからであろう。これはAPSAとは別枠で自国単独の国益という観点から。対照的にフランスはAPSAの文脈に沿っての撤退と考えられなくもない。
6.議論
(1)アフリカ待機軍の諸課題
中谷 AUとECOWASの関係について伺いたい。この関係は敵対的ではなく相互補完的であると言って良いのか。ECOWASにおいてはナイジェリアの力が重要であると考える。またこれは感想であるが、APSAが実用化すれば、国連ではうまく機能していない憲章第7章のもとでの集団安全保障が、AUという第8章の地域バージョンで機能することになり、画期的であると思う。
牛尾 先般のクリアリングハウス会合での議論ではECOWASとSADCへの評価は高かった。しかしこれとは対照的に北アフリカ、CEN-SADへの評価は低い。全然機能していないと言われる。実はAUは今回のクリアリングハウスに初めて招待された。アフリカ側にAPSAがなかなか進展していないと迫ったがあまり反応はなかった。むしろECOWASなどうまく機能している面もあるがあまり機能していない面もあるという議論になる。
青井 アフリカ待機軍のマンデート6点(?モリタリングその他の平和支援、?危機的な状況下又は加盟国の求めによる加盟国への介入、?紛争の激化、周辺への波及及び再発を防ぐ予防的な部隊展開、?紛争後の武装解除及び動員解除を含む平和構築、?紛争地及び被災地での人道支援、?その他PSC及至AU総会によって認められた活動)のうち、それぞれに必要とされる能力は異なる。ある専門家によれば、現在ピース・キーピングはできるが、ピース・サポートとかピース・エンフォースメントについては全く能力がないという評価であった。このような評価が妥当であろうか。
牛尾 そのような評価は先般のクリアリングハウス会合でも聞かれた。細部についてみれば前進している面があるが、本当に2010年までにすべてのマンデートができるようになるのかという懸念が数多く示された。それに対してAU側はやるしかないのだという見解。
青井 アフリカ待機軍の能力拡大を妨げる真の要因はどこにあるのか。
牛尾 アフリカ側に課題が多い。特に必要な人材がそろわないという根本的な問題である。それと同時に先進国側にも問題がある。それはドナー間のコーディネーションが不十分であること。それぞれが人と資金を一緒に出して、自国の人がいてやりやすい分野には資金を出すがそれ以外には出さないという傾向がある。
北岡 アフリカには近代的に組織された精鋭の軍隊が戦争したことはあるのか。
青井 南アフリカやナイジェリアの能力は割合に高い。ナイジェリアについては特にECOWASの紛争解決に際して軍を派遣した実績がある。
小澤 エチオピアは南アフリカの次に能力を持っているのではないか。
牛尾 アンゴラ内戦をみれば南アフリカが相当な能力を持っているのは確か。ナイジェリアについては、リベリア、シエラレオネ、ギニアの内戦の際、軍事的にとは言わず政治的に介入して紛争を収めている実績があって、これがECOWASが相対的に機能しているという評価につながっている。
北岡 スーダンでAUの活動を視察した際、何か旧日本軍やドイツ軍のように短時間で首尾よく行動するというのとは違って、だらだらしていて戦争するという感じがまるでない。ナイジェリアのような大国は別として、近代的に組織され訓練された軍隊はアフリカにはないような気がする。
牛尾 5月にスーダン・ダルフール北方のエルファシールに行ってUNAMIDを視察してきたがここでも覇気がなかった。事情を聞いてみると、ロジスティクスの能力が低い。満足な兵舎がない。トイレもない。十分に食事を摂っていない。兵舎があってもキッチンがない。ケータリングを頼んでも機能しない。それから兵隊の能力も極めて低い。原則としては各国が自国で訓練してから派遣するのだけれども、訓練をせずにそのまま来るので何か烏合の衆といった感じ。兵士の訓練への支援は軍隊に限らず文民でもできる部分があるのかもしれない。人道法など基本的なことを教えるのが中心。
北岡 しかし、軍隊だからこそできる訓練もあるのではないか。戦前の日本の例で言うと、軍事訓練を受けていない人は行列行進ができなかった。たとえ軍事まで行かなくとも、組織だった行動というのは軍隊的な訓練を受けないと身につかない。アフリカの軍人にはこれが欠如している。
小澤 やはり軍人が行ってこそ、規律ある生活とか行動というのが現地の軍隊に導入できるのではないか。これは文民のカルチャーとは根本的に違ったもの。
(2)米仏のアフリカ軍事プレゼンス戦略
小澤 先ほど報告のなかで地政学的判断からアメリカ軍がジプチに拠点をおいているとあったが、これには西海岸に適当な拠点が見つからなかったという背景があるのではないか。APSAを機能させるために輸送面でのロジの支援をアメリカは重視している。そのためには西海岸に拠点を求めていたはず。
牛尾 確かにアメリカはリベリアに基地の設置を考えていたが、結局交渉はうまくいかなった。リベリアへの基地設置は西の原理主義を警戒してという文脈もあった。アメリカはブルギナファソ、マリとそれぞれ軍事協定を締結している。米国はモーリタニアのイスラム原理主義にも目を光らせている。
北岡 アフリカにおけるイスラム教徒の拡大の規模とそのインパクトはどのよう
なものか。
牛尾 砂漠の北側にいるのは大体ムスリム。それから最近異様に増えているのは、実はキリスト教の福音主義系。西のコートジボワールではかなり増加。バボ大統領夫人も何かエバンジェリカル系の宗教にはまり込んでいると言われる。今後、イスラム原理主義とエバンジェリカル系キリスト教徒との間の宗教対立も西アフリカ諸国の安全保障を考える上で一つの要素として観察していくことが必要である。
小澤 イスラム原理主義とエバンジェリカルの双方が拡大しているのは憂慮するべき事態である。
鈴木 西アフリカにおけるアメリカとフランスの関係について伺いたい。先日フランスで新しい国防白書が出ていて、ここではセネガルなど伝統的な西アフリカとの結びつきの重要性が強調されていた。アフリカの安全保障においてプラスの要素で米仏が関係を構築する可能性はないのだろうか。
牛尾 昨年コートジボワールでフランスの関係者と会談した際、アメリカの勢いにフランスが圧倒されていると聞いた。大統領選挙でアメリカはバボに相当肩入れして、フランスを追放しようと言わんばかりであったという。しかし、米仏が互いに張り合うことにはさほど意味はない。現地のイギリス外交官は、米仏の間に挟まれて苦心しているようであった。
青井 アメリカのアフリカ支援の傾向について伺いたい。以前アメリカは各サブ地域の大国に直接支援する傾向であったと思うが、今でも同じ傾向が続いていると理解してよいか。
牛尾 現在でも基本的に国ベース。米国の国務省の担当者と話した際に聞いた話では、例えばソマリアなど支援の対象国を絞っている。米国はAPSAに協力しているが、必ずしも米国の考え方はAPSAと合致しているとは言えないのではないかと思う。
(3)ソマリア沖における海賊取締目的のPKOの実現性
小澤 今後、海賊の取締を目的とした海上活動をPKO化する可能性はあるのか。これが実現すれば画期的なこと。(4月にイエメン・アデン沖の公海上で)日本の船が襲撃されてドイツの軍艦が駆けつけて助けてくれたということがあった。因みに6月初めにソマリア沖の海賊問題に積極的に取り組んでいくという決議が安保理で採択されている(S/RES/1816)。
滝崎 その実現の可能性は現時点では低いのではないか。その安保理決議採択の背景をみると、イギリス、アメリカ、フランスがソマリア沖での海賊取締に積極的である一方で中国とロシアは消極的。そもそも海賊が「国際の平和と安全」に対する脅威なのかどうかについて必ずしも意見の一致がない。またこれはIMO(国際海事機関)という他の国際機関の領域を侵害することにもなり得る。途上国の警戒感も根強く、自国の主権が侵害されるのではないかと考えている。実はこの決議に最も強硬に反対したのはインドネシア。マラッカ海峡の海賊問題を抱えていることもあって、ソマリアでの試みが自国にも影響してくることを極度に警戒。コンセンサスでの採択でなければ意味がないと考えた米英仏、特に仏はソマリア沖以外の海賊案件はIMOの枠組みでやることにして、また既存の国際法(海洋法条約)を尊重するというラインで妥協して最終的にこの決議は採択されている。
中谷 海賊が実際に発生するのは公海上ではなく、大半は港か領海12海里以内。基本的には各沿岸国が自ら取り締まることが期待されている。しかしその能力がないのでソマリアは国際的な介入の対象になりうる。
小澤 ソマリアは特殊な事例であろう。ソマリランドやプントランドという半ば独立国のようなものもあるが、モガディシュには実際に正統政府は存在していない。
北岡 マラッカ海峡の場合、その周辺はれっきとした主権国家であるが、ソマリアの場合は権力が空白の状態。
滝崎 このようなソマリアの特殊性ゆえに今回の安保理決議は成立したと考えられる。この決議に中国が最後までとことん反対しなかったのは、自国の船も被害に遭う可能性があることを認識しているから。ここはある程度協力したほうが得策であると判断したのだろう。
牛尾 西アフリカ特にギニア湾沿岸諸国の中では、米国、英国とナイジェリア、ガーナが協力して麻薬、人身売買、小型武器等の流通を阻止する目的で海上警備活動を行う構想があって現在水面下で具体化が進んでいる。
鈴木 確かにアメリカは麻薬撲滅という目的で取り組んでいるという印象が強い。海賊やテロ対策という文脈よりも。
牛尾 西アフリカでいうテロとはナイジャー・デルタの話。
昨年ナイジェリアとガーナの首脳がそれぞれ別々に訪日した際、二人に共通していた日本への要求というのは巡視艇と専門家。なぜかと聞いたら日本のインドネシアへの海賊対策支援を参考にしてとのこと。
滝崎 日本は東アジアの海賊対策に積極的に取り組んできた。インドネシアには巡視艇を技術協力(専門家)付きで送っている。このインドネシアへの巡視艇の援助は武器輸出三原則の例外としての対応で苦労が多かったと聞いている。
小澤 インドネシアに援助した巡視艇は特注で作り、三原則にかからないようにしたと聞く。
鈴木 マラッカ海峡の海賊対策の枠組みにはいろいろな形がある。バイのものがあったりマルチのものがあったり重層的で非効率。何か一つの枠組みでやるほうが効率的であるのではないか。
滝崎 その課題への取組として日本が行ったのが、東アジア海賊対策地域協力協定。しかし、現在、この協定の下でシンガポール、マレーシア、インドネシアの三国間の連携がうまくいっているとは言えない。この協定の目玉の情報センターは現在シンガポールに置かれているが、当初は、マレーシア、インドネシアも自国への誘致に名乗りを挙げていた。結局最も良い条件を提示したシンガポールにセンターが設置されることになったが、それに反発し、マレーシア、インドネシア両国は、未だこの協定に入っていない。マラッカ海峡の鍵を握るインドネシアが資金も能力もあるシンガポールやマレーシアと連携を深めることがマラッカ海峡を安全にする上で必要であるのだが、ある種の大国意識が働いていてなかなか円滑に行かないところもあるようである。インドネシアが先述の安保理決議に唯一賛成に回らなかったのは、安保理での議論がマラッカ海峡に及ぶのを懸念してのことであろう。
(4)アフリカ援助の諸課題
青井 安全保障の質が全体的に変化しているというのがアメリカの認識ではないか。チャドとかエリトリアをどうするとか。必要なのは警察まで含めた文民のケーパビリティーを強化することで、これはイスラム過激派対策とは異なる。もしかすると5年前とはオーバーオールで安全保障のアジェンダが変化しているのではないか。そうするとAU待機軍の位置づけも当然ながら変化しているのではないか。
北岡 大きなトレンドとしてあるのは、あんな紛争なくてもよかったのにという紛争はなくなってきた。希望的観測であるが紛争は減少傾向。あと残っている問題は、スーダンやダルフールなどそもそも不自然にできている国家の問題。スーダンは南北に分断してダルフールに特化するとか、ソマリアもソマリランドを切り離して対応するとか考えられる。これ以外は基本的に部族の名誉とかで血みどろになるような紛争はそろそろ卒業であろう。
牛尾 われわれも同様の認識を持っている。しかし、イギリスやノルウェーは、ケニアで選挙が失敗した事例から、待機軍を選挙と紛争予防に絡めてやること、PSDだけでなくPD、政治委員会まで絡めてやらなければいけないと主張している。
鈴木 ヨーロッパ側の見方は、アフリカでは秩序の安定とデモクラシーは必ずしも一致しないという理解。一定の権威的な体制下であってもまず治安や秩序の維持を重視し、民主化はいきなり全国レベルで進めるのではなくローカルなレベルから徐々にやっていくスタイル。確かに安全保障の質自体の変化があるが根本的なところでの変化はない。現在は一定の安定が確保されるようになってきたなかで、EUはNGOに資金を直接渡してこれを前面に出してアフリカのキャパビルを支援している。また、NGOの人が政府団のなかに入って国際会議の場に出ていることもある。本当にNGOなのか、Nを付ける必要があるのかわからないほど政府とNGOが一体化している例がある。
牛尾 先般のクリアリングハウス会合では、二人いたノルウェー代表のうち、一人
は政府の人であったがもう一人はNGOの人で政府代表として出席。
青井 ヨーロッパは、10-20年の長期間かけて現地のNGOを支援して紛争解決、平和維持の要員を養成している。これは一つのスキームとして画期的。
鈴木 その現地のNGOで中核になる人物というのは半ばヨーロッパのエージェント化している。もともとヨーロッパで職業を持っていたり家を持っていたりする人で、そういう人たちが母国に戻って現地のNGOとして平和維持要員の養成を行ったりしている。
小澤 欧州が財政支援、NGO支援が中心であるのに対して、日本は地道なフィールドでの技術協力が中心。ここで考えてもらいたいことはなぜ日本の支援の評判が良いのかという点。一見、財政支援は効率よくみえる。ちゃんと計画を作って、事後にレポートを作るからアカウンタビリティーもある。しかし、ここにはアフリカ自身のオーナー・シップが欠如している。実際にレポートを書いているのはみな白人でありNGOの人。日本の支援は愚直であるかもしれないが、実際にフィールドに入って米の作り方を教えてたりしている。実はそういうところが評価されている。
鈴木 確かにオーナー・シップが欠如している。外から援助が入って一時的には問題は解決するけれども、関心が低下したりして財政支援がなくなったりあるいはNGOが撤退すると、結局残るのは現地化されていない問題。今ヨーロッパで議論になっているのは、選挙を実施する時点でその後秩序を維持するにはどうすれば良いのかという視点。仮に選挙がうまくいったとしても課題がすべてなくなるわけではないが。
城山 APSAの枠組みの実効性も何か怪しいのではないか。EUが中心となって共通プランとかスクリーニングだとか言っているが、その基準がアフリカの現地のニーズをどの程度反映したものかわからない。援助のなかでどこがオーバーサプライでどこが欠如しているのか、あるいは本当に何が必要なのかというアフリカの視点が入ってこなくなる。また、欧米諸国が共通基準でスクリーニングをといっても、その内容は各々異なり、同床異夢の可能性もある。だからこのEUが描こうとしている絵をどう評価していいのかわからない。
牛尾 ドナー間でもこのような議論は起こらない。ましてアフリカ側はお金をもらっている立場からドナーには逆らえないし何かまともなことも言えない。
城山 アフリカへの援助を統合あるいは調整するというリーダーシップがアフリカ主導でオーナーシップを持って真に機能していない以上やはりAPSAの方向性に依存するには危惧が残る。このようななかで戦略的にみてどのようなところに今後日本は入っていけばよいのだろうか。
牛尾 一つにはAPSAへ直接の資金提供。しかしこれまでの日本からの拠出金が十分に使われていない。したがってさらに資金を出す場合財政当局を説得するのが難しい。先般の補正予算でG8のなかでの評価を高めるにはPKOセンターだけでなくAPSAにも資金を直接投入するべきだと言っても説得力がなかった。日本としてはアフリカ側に金を使ってくれというわけであるが、何しろプロジェクトを書ける人がいない。金を送るから銀行口座を教えてくれといってもなかなか教えてくれない。回答に半年ぐらいかかる。
鈴木 NGOや開発コンサルがプロジェクトの代筆をしていることがある。
牛尾 それから今後検討が必要なのは、AU本部のPSODに日本から人を送ること。日本の拠出金をうまく使うためにはやはり人を出すことが重要で、現在検討しているのは例えばJICAの人材を活用できないかと言うことである。
坂根 NATOのAPSAへの協力はあるのか。また、北アフリカなどにおける取組みに中東のイスラムコミュニティーからの支援もあるのか。それから民間軍事会社がAPSAで活用される可能性はあるのか。
牛尾 NATOは先般のクリアリングハウス会合でロジの分野でEUと協力してAPSAに関与する姿勢を表明している。北アフリカ諸国については、先日のTICADでわかったことであるが、アラブ連盟は意外とAUと協調したい意向。ここにはリビアに対するけん制の意図があるかもしれない。民間会社の活用については現在のところ具体的な話は出ていない。
北岡 中国のアフリカ支援についてであるが、最近必ずしも資源目当ての露骨な進出とは言い切れなくなっている。
牛尾 この点を如実に感じたのは先般のクリアリングハウス会合。これまでは中国は参加を断っていたが、今回の東京での開催には在京から人が出てきた。来夏の次回の会合にも参加する意向。つまり、中国がある程度国際的な枠組みに入って1プレーヤーとしてやっていくという時代が来たのではないか。PKOセンターへの協力も相当やっているようだ。しかし今回インドの参加はなかった。
滝崎 インドも何かTICADの親戚のような「インド・アフリカ会議」を開催した。アフリカ側からの参加国は15カ国で、EUとの会議への参加国も同数であるようだ。
牛尾 これはリビアが主導して決めたルール。いちいち40何カ国が全部参加するのではなく、地域の代表を15カ国に絞るという合意。15カ国の内訳は、5地域で3カ国ずつであるが、有力な国というのは決まっていてそれがいつも代表して出てくるらしい。来回のTICADは15カ国で行われるかも知れない。
北岡 今後15カ国が代表するという方式が理想型になるのだろう。会議への参加国数をめぐって中国と競争をしなくて済むのでこの方がよいのではないか。最近マルチの枠組みにコミットしてきている中国と競争するのはかなり厳しい。
牛尾 確かに量的な意味での中国との競争は厳しい。しかし今回のTICADは質的にみても充実したものであった。中国と比べてバイでの首脳会談は非常に丁寧に行った。20分ずつ総理が実際に各国首脳と会談していて、例えば、中国と最も関係が深いとされるスーダンの役人は中国の同種のフォーラムと比較してこれを高く評価していた。しかし心外であったのは、メディアがこれを安保理改革とやたらに結びつけて報道していたこと。また、ルワンダのカガメ大統領について、総理との二国間会談において内戦発生時に日本がPKOを派遣したことに関し感謝の意を示さなかったと報じていたが、その当時のカガメ大統領の立場を考えれば、国連不信は当然のことであって国連の活動の一環としてのPKOについても全く評価していていなかったわけで全く誤解に基づくものであると考えている。当時の経緯をもう少し勉強して報道して欲しいと思う。
北岡 先ほどの発言にもあったように、今後のアフリカ支援は、財政支援も重要であるが、実際に日本人がアフリカに行ってPKOでも技術協力でも何でも良いから支援することがより重要。現地で日本をインプレスできるし、また日本人自身の意識にも大きな影響を与えるだろう。