General Assemblyの季節 | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

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General Assemblyの季節

October 30, 2008

御巫智洋(国連代表部参事官)

1.はじめに

9月25日、前日に国会で総理大臣としての指名を受けたばかりの麻生総理は「It is my greatest honour to stand here as the new Japanese prime minister---brand new, really, having been designated by the Diet just slightly more than 24 hours ago.」という発言で国連総会における一般討論演説を始めた。
9月の最後の一週間、国連周辺はある種異様な雰囲気に包まれる。普段は比較的静かで観光客が国連の建物をバックに写真を撮ったりしている国連前の1st Avenueの通りは、巨大なコンクリートのブロックと数多くのNY市警の車で閉鎖される。国連の隣にある代表部の入っているビルへのアクセスも国連から遠い側の49丁目側の一点のみに限定され、警官によるIDのチェックが行われる。
「脅威度の高い」各国首脳は、黒く長い車列を組む。その長い車列が、窓から銃をちらつかせて周囲ににらみを効かせながら、狭いNYの通りを速いスピードで通過する。歩行者は、時にはこの車列をやり過ごすために30分以上道路を横断できなくなることもあるが、皆半ばあきらめ顔で車列の通過を待つ。NYのローカル・テレビは年中行事のように今年もまた「General Assembly」の時期が来た、道路封鎖箇所はこの辺りなのでご注意を、という警告を発する。
国連総会の会期は毎年9月に始まり9月に終わる。今年の総会会期は第63会期であり、9月16日に開始された。会期開始第一週は新総会議長の就任、議題の決定等が行われ、第二週に入りいよいよ各国代表による一般討論演説が開始される。初めは各国の国家元首(Head of State)レベルが演説を行い、各国首相は政府首脳(Head of Government)レベルとして国家元首レベルの後に演説を行う。麻生総理は政府首脳レベルの3番手として9月25日午後に発言することになった。

2.「総会ロジ」

今年は9月21日から23日まで森元総理が来訪されてアフリカ開発ニーズに関するハイレベル会合等に出席され、23日~25日まで川口元外務大臣が来訪されてCTBT(包括的核実験禁止条約)フレンズ会合等に出席された。そして、25日に麻生総理と中曽根外務大臣がNY入りされることになった。総理の滞在時間は極めて短く、25日昼過ぎにNYに到着し同日夜にはNYを出発するという慌ただしさであったが、この約10時間の滞在中、一般討論演説の他、潘基文事務総長との会談、ラッド豪首相との会談、タラバーニー・イラク大統領との会談、食料危機・気候変動に関する事務総長主催夕食会への出席、ボノ、ボブ・ゲルドフ両氏との面会を行ったほか、多くの各国首脳との立ち話等を精力的に行った。
これらの日程につき、外務本省からの指示を受けつつ国連側、会談の相手国等との調整を行い、会場のアレンジ、移動手段の確保、報道関係者との調整等を行うのが国連代表部の役割であった。こうした業務は外務省では「ロジ」と呼ばれるが、国連代表部はこの時期通常の体制を離れて全館挙げて「総会ロジ」のための特別な体制を組む。筆者も普段は法務関係の問題を扱う第6委員会関係を主な業務としているが、この時期は代表部の総会ロジ体制の総務を担当した。

3.「15分ルール」

国連の一般討論演説に関するロジの最大の特徴は、肝心の一般討論演説のタイミングが前の発言者の演説の長さ次第で変動することである。今年の麻生総理の発言順は25日午後の10番手であったが、総理の前の9名の発言者がどのくらいの長さの演説をするかがわからない。そのため、他の日程が演説時間とぶつからないようにするため、時間設定に悩むこととなった。各国の一般討論は15分までという決まりが一応存在する。しかし、実際に15分以内で演説を終える国は少なく、17~18分程度の国が多い。長い国は30分以上演説を行う場合もある。逆に、比較的まれではあるが、演説を予定していた国が急に都合が悪くなり演説のタイミングが繰り上がる可能性もないわけではない。
国連の一般討論演説の期間は各国の首脳が国連周辺に一堂に会しており、様々な二国間・多国間の外交を繰り広げる絶好の機会である。したがって、我が国に対して多くの国から二国間会談や多国間会合への出席の要請が行われ、我が国としても同様の要請を行う。各国とも首脳のスケジュールはタイトであり、首脳のNY滞在中に出来るだけ多くの会談をこなしてもらおうと必死で日程を調整する。更に今年の場合、国内の政治情勢の影響で直前まで来訪者とスケジュールがはっきりしないという特殊事情もあった。そもそもお互いにタイトなスケジュールの中での調整なので、日程が合う時間帯というのはなかなか見つからない。複数の国との会談を同時に調整する場合には一層調整は困難になり、次第に行事と行事の間のすき間が少なくなっていく。また、一般討論演説の発言者リストが本番に近づくにつれ次第に変化していき、当初は余裕をもって設定したはずの行事と行事のすき間が急に減少してしまったりする。

4.厳戒態勢

NYというただでさえ渋滞の多い場所で、この期間はセキュリティーのための措置として様々な通りが閉鎖される。また、他の各国首脳の車列の後ろになると日本の車列が長時間待たされることもある。総理・大臣の宿泊するホテルから国連までは空いていれば車で5分の距離である。しかし、隣のホテルに宿泊している米国の某要人や同じホテルに宿泊している中東の某要人の車列が一足先に動くこともあり、その場合には思わぬ時間がかかる可能性がある。
また、この時期に国連内で会談を行う場合に頭を悩ますのは国連内のパスの問題である。通常国連内に入る場合には「グラウンド・パス」というものが必要であるが、この一週間については、総会議場その他の会議場の近辺は「セカンダリー・パス」といわれるもう一つの特別なパスがないと入れなくなる。このパスの割り当てには制限があり、各国が希望の数を割り当てられるわけではない。また、国連の建物の中は普段でさえ道に迷ってしまいがちだが、この時期には普段は通れる通路が一部通れなくなる。そのような中で、パスによる制限区域と通路の閉鎖状況を頭に入れながら、国連の中を会場から会場に移動する際の最も適切な「動線」を判断することも円滑に日程をこなす上では非常に重要である。特に総理と一緒に多くの随員が移動する場合には、全員がはぐれずに確実に移動できる動線を決めることが一層重要になる。

5.「不安」的中

総理と大臣の宿泊するホテルに設置された「ロジ本部」では、ホワイトボードに総会議場から連絡してくる一般討論演説の進行状況を書き込みながら、総理と大臣のホテル出発のタイミングや他の行事の日程再調整の必要性などを検討し、逐次一行に伝達していく。
今回の総理御出張において最も実現が心配されたのはイラクとの首脳会談であった。総理の一般討論演説の後に予定されていたこの首脳会談はお互いにタイトな日程の中で設定されたため時間の変更が難しく、演説の進行状況の影響を最も大きく受けるものであった。結局心配は現実のものになり、総理の演説の直前のいくつかの演説が制限時間を大幅に超過し一カ国30分前後かかってしまったものもあったため、会談を予定の時間に実施することが不可能になってしまった。
とはいえ、せっかくの貴重な首脳会談の機会を失うのは惜しく、日・イラク双方とも日程の再調整に最大限努めた。その間、代表部員のみならず、本省からの出張者を含めあらゆるチャンネルを通じて調整を行ったが、その甲斐あって夜9時過ぎに国連内において会談が行われることになった。ロジ本部からは現場の状況は直接目に見えないので、イラク側が実際に会場に姿を現すまで緊張しながら連絡を待った。最終的にイラク側が到着した際にはもはや国連内には人もまばらであったようであるが、会談開始の連絡が無線で流れた際には関係者一同安堵に胸をなで下ろした。

6.おわりに

基本的にロジはうまく行って当然と思われがちである。また、実際結果的にはうまく行っていることが多いかもしれない。しかし、その結果を達成するためには十分な準備とその場その場での臨機応変の対応が求められる。
国連総会という各国の首脳が一堂に会する華やかな舞台に総理や大臣といったハイレベルの要人が登場し積極的な外交活動を展開するということは、「JAPAN」の存在感を示す上で極めて重要な意義がある。総会ロジは国連外交の表に出ない地味な裏方の仕事である。しかしこれなしには華やかな外交が成立しないこともまた事実かもしれない。そう考えればこの時期とかく顕著になりがちな代表部員の睡眠不足や週末出勤も報われるというものである。
General Assemblyの喧噪が去るとNYは急に秋めいたように感じられた。10月上旬からは例年通り総会の各主要委員会が開始され、討論や決議案交渉が始まった。ここからはまた各代表部員がJAPANの代表である。

    • 国連代表部参事官
    • 御巫 智洋
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