<開催日時>平成20年6月6日(金)
<参加者>
・佐々木良昭 主任研究員(中東 ※レジメ )
・渡部恒雄 客員研究員(アメリカ ※レジメ )
・畔蒜泰助 研究員(ロシア ※レジメ )
・森尻純夫 研究員(インド ※レジメ ))
・益田哲夫 研究員(南西アジア ※レジメ )
・田代秀敏 研究員(中国 ※レジメ )
・関山健 研究員兼プログラムオフィサー(モデレーター)
・平沼光 プログラムオフィサー
【関山】 事前に出していただいたこのペーパー(レジメ)を拝見する限り、やはり皆さんが今一番共通項の関心事として持っておられるのはイランかなと思うものですから、イランについて中心的に話ができればなというふうに思っております。
特に今、世界経済で一番やはり懸念なのは原油価格なんだと思うんです。特にアメリカのサブプライム問題とか、景気後退が思いのほか軽度で先が見えてきた感じがあるのに対して、原油価格は先行きが見えない。この原油価格の高騰で過剰利益を上げた産油国のオイルマネーが、今度、いろいろな食料や資源などの国際市況をさらに投機的に押し上げているというのが今の世界経済の状況だと思うので、こういう世界の資源エネルギー・金融情勢の動向を左右する中東情勢、なかんずくそこで繰り広げられている大国間のパワーゲームということについて議論をすることを目的に今回の第1回のオーバービューミーティングを開催したいと思っておりますので、皆さん、どうぞよろしくお願いいたします。
先ほど申し上げたとおり、その中東情勢の中でも、今、目下一番注目が集まるのがイラン。特にアメリカがイランに対してどう出るのか、攻撃があるのかないのかというところが1つ一番大きな関心事だと思うものですから、口火を切る観点から、ぜひ渡部研究員から、アメリカによるイラン攻撃の可能性というか、口火を切っていただければなと思います。よろしくお願いいたします。
<イランを巡る各国の動向>
アメリカのイラン攻撃の可能性は排除できない?
【渡部】 レジメを書いた後にいくつかの国際会議に出席して、アメリカ人やイギリス人などの専門家と話す機会がありました。いろんな人と話しましたが、結局、今すぐのイラン攻撃というのは、可能性は少ないだろうと考えているんです。もちろん全く可能性ゼロとは思わないけれども、緊急に対応を議論するという雰囲気ではなかったわけです。ただ、逆にもう少し長いスパンで見ると、来年に米国の新政権ができてからも、米国のイランへの武力行使のオプションというのは継続していくだろうと、多くの専門家は考えているようです。
かつて米軍の指導的な立場にいたあるアメリカ人専門家と話しをしました。軍人の方は総じて、軍事オプションには消極的で、この方もタカ派でもネオコンでもなく、現実派として非常に尊敬されている人なのですけれども、それでも、アメリカにとって核を持ったイランは許容できないと考えていることがよくわかりました。私に対して、核を持つイランを出現させるぐらいだったら、軍事オプションも考えなくてはならないのではないかと語ってくれました。武力行使をすれば、原油価格はますます上がるし、アメリカの経済もさらに苦しくなるし、国内政治的にも難しくなるでしょうというような話をすると、それはそのとおりだが、しかし、核を持ったイランとをはかりにかければ、どうだろうかと。アメリカにとっての核を持ったイランの重みを再認識させられました。この方は、もちろん理想を言えば軍事攻撃なんてしたくないし、イランが核開発をやめてくれればそれでいいんだけれども、そのためにもやはり軍事オプションというものをテーブルから外すわけにはいかないということを、冷静にお話されておりました。この人は、有名な人なので名前は言えないんですけれども、アーミテージさんじゃないですよ、その人の個人的な話を聞いて、米国のイラン核保有に対する懸念の重さということの、意味とリアリティーが実感できました。
最近、オバマ上院議員が民主党大統領候補に確定したわけですけれども、その後にAIPAC(イスラエル公共政策委員会)でスピーチをしたんです。スピーチの内容は、要するに、イスラエルや米国のユダヤ系有権者に対する踏み絵なんですね。特に民主党の場合、ユダヤ票の割合は大変大きいので、ここである程度踏み絵を踏んでおかないといけなかった。オバマはヒラリー・クリントンが予備選の最中に、AIPACでスピーチをしたような、あからさまなイスラエル支持のトーンとはニュアンスは違いました。しかし、イランの核開発に対しては、軍事力を含むすべてのオプションがテーブルにあると発言し、ある程度、武力行使も含みで、イスラエルにとっても、アメリカ人に全体とっても、イランの核は許せませんよというメッセージを発信しました。
オバマはイランの政権と条件なしに交渉するということを明言して、ブッシュ政権やマケイン陣営との違いは見せていますが、だからといってオバマ政権になっても、イランへの厳しい姿勢は継続しますよというメッセージも、留意しておく必要があると思うんです。現在のそのような流れを見ていくと、アメリカの現在のイランに対する姿勢は、多分、短期的な武力行使の可能性、例えば、チェイニー副大統領が任期の最後に存在感を見せるために強行する、というようなラインとは別に、もうちょっと長い目でアメリカの安全保障のインタレストの中に核を持ったイランを許容できるのか、核のイランを防ぐためにどの程度のエネルギーを使う気なのか、あくまでも経済封じ込めなのか、戦争も辞さないのか、ということを見ていくことがポイントになるのかなと思います。同様の観点から、イスラエル、そして他の中東諸国は、核を持ったイランに対してどの程度脅威に考えているのかというのが、他地域の専門家の方からぜひお聞きしたいことです。
【関山】 ありがとうございます。
そうすると、アメリカは、すぐにはないにせよ、オプションとしてはイラン攻撃はやはり可能性は排除できないと。ロシアはどう出てくる可能性が高いですか。
イランのウラン濃縮活動に対するロシアとインドの態度
【畔蒜】 ロシアは、基本的にイランに対して核の平和利用の機会を与え、なおかつ核燃料に供給するという形で何とかイランをこちら側に引き込みたいという政策をとり、それをブッシュ政権に容認させという形でここまで持ってきたわけですけれども、結局今の渡部さんの話ではないですけれども、それでも結局イランのウラン濃縮活動をとめることができないという現実がある中で、今後ロシアがとり得るオプションとしては、軍事攻撃という議論をする前に、一定の濃縮活動をイランに認め、そのかわりIAEAの関与をより高めて、ある種、イランを核武装させないという形の方向に今後ロシアとしては動き、アメリカもそういう形の方向に説得する方向で多分動いていると思うんです。
実際、アメリカの中でもそういう形の議論をしているグループもありますから、前のロシア大使のピッカリングなんかはそういう議論をしていますよね。だから、その辺が今後どうなるか。つまり、アメリカにとって軍事攻撃をすることの代償、リスクと、一定のウラン濃縮活動を認めることで、ただし、IAEAの関与をより深めて、イランの非核化、核武装までは至らせないということのプラスマイナスが今後多分はかりにかかってくるのかなということだと思います。
【関山】 なるほど。IAEAの査察を受け入れる形でイランが今あるじゃないですか。それも含めて、今、イランの国内情勢はどういう方向に向かっていこうとしているんですか。
【森尻】 私は、今、ロシアの態度というのは、インドの態度とほとんど同じだと。やはり今、畔蒜さんの話を聞いていて、ああ、そうか、私らが観察しているインドというのは、インドの政治中枢は、ロシアとは情報を交換しているのかなというふうに思いました。
そういうところから今のお話を踏まえて言うと、全くロシアがとっている態度とインドがとっている態度はイランに対してほとんど同じだと。ただ、今のインドの情勢から言うと、アメリカに距離感を置かざるを得なくなっていて、自分のところはIAEAの査察をどういうふうにやらせるかとか、インドもやはり民政核の問題を持っているわけですから、どういうふうにやらせるかということに関しては、イランに対してはある種の共感が最近はある。非常に情緒的ですけれどもね。政治家たちの中には、ある種の共感があるというふうに読めるところがありますね。
【関山】 なるほど。そうすると、例のイラン、パキスタン、インドをつなぐパイプラインというのは、そういう文脈で言うと、どう見えてくるんですか。
【森尻】 そのガスパイプラインをつくることはもうインドにとっては、IAEAだとか、あるいはインド自身の民政核、それからイランがどういう形で民政核を持つかということ以上にインドにとっては緊急課題なんです。
今の段階では、別に合意しているわけではないけれども、一応同意しているパキスタン、この上に乗って、もう1日も早く実施していこうと。それはもう既成の事実としてのパイプラインをつくっていこうという雰囲気です。
それで、先ほどのご質問に答えることになるかどうかわからないんですけれども、インドが見ているイランの国内情勢は、決して今の大統領に対して温かいことばかりではないよと。党内党派的には、党内党派というか、あそこはすべてがムスリムリーグですから、パキスタンにちょっと似ているところもありますけれども、その中の反大統領勢力というのはかなり最近力を持っているし、ほんとうは国民はあんまりアメリカやロシアと摩擦を起こしたくないし、経済の方向に向いてほしいしというのがあって、結構現体制の政府としては厳しいところにあると思います。
でも、インドは、それは触らないで、パキスタンが協力する限りはガスパイプラインをまず規定の問題としてつくろうと。そこである意味でのアメリカとの距離感ができてもいいだろうということは考えていると思います。先月の私のレポートとともに、そういうふうに思います。
【関山】 そうですね。アメリカとの距離感をとりつつあるということですね。
【森尻】 はい。
【関山】 益田さん、何か同じように補足を。
イランへの経済制裁は利いているか
【益田】 このイランの核開発問題という言い方でずっと私も見てきているんですけれども、やはり情勢的に変わってきたというのは、経済制裁、これはおそらくきき始めてきているんだと思うんです。まずイランの対米だけではなくて、いわゆるEUがどちらかというと非常に対話路線で来たにもかかわらず現在にあるというところがやはり1つの現実。今の大統領批判が内部で起きてきているということも、これは事実だと思うんです。ただ、国の方針としては、核開発をやめる、濃縮をやめる、それはまずあり得ないでしょう。
さっきの、じゃあ、だからと言ってアメリカが軍事力をほんとうに実行するのかとなると、これはもう私はイランだけの問題でないところにアメリカの難しさがある。イラクをどうするのかとか、それから中東、パレスチナ問題もどうするのか、全部今、私はリンクしているなと。ここをやはり見ておかないと、単にイランとの国だけでドンパチが始まるみたいなことはまずあり得ない。というのは、シリアも絡みますよね。これはレバノンもどうするのかと絡む。そこら辺がみんなリンクしている。ですから、アメリカのオプションというのは、非常にやはり今、難しくなっていることは事実です。イスラエルのことも考えなければいかん。それから、北朝鮮のこともやはり考えなければいかんという、あまりにファクターが多過ぎる。
【関山】 それはアメリカの外交全体ということから行くと、イランの問題というのは、先ほど渡部さんにも、オプションとしては今後消えることはないという話でしたけれども、かといって、非常にプライオリティーの高い話ということでもないんですか。
【渡部】 軍事オプションというのは、圧力をかける外交的ツールでもあるんです。だから、テーブルから引っ込めると圧力にならないから、外交的にも簡単にオプションを引っ込めるわけにはいかない。軍事オプションを取り下げたからといって、イランがそれに呼応して、簡単に核開発を止めてくれるわけではないんですから。しかも、軍事オプションといっても、米国がイランに陸上兵力を送るオプションは、現実的には実行不可能に近くほとんどあり得ませんので、やるとすれば、核施設や軍の施設を限定的に空爆するぐらいでしょう。それにより、イランの体制変革を狙うというあたりでしょう。よほどのタカ派を除けば、軍事オプションを言うひとでも、外交的な意味あいで語っているはずです。一刻も早くイランを攻撃せよ、と言っている人は少数ですよね。そこはある程度外交のゲームとして理解しなくてはなりませんよね。
【益田】 だから、核開発を、あるいは濃縮をやめますと言ってしまえば、もう何もなくなるわけですよ。いわゆるカードがなくなってしまうわけだから、イランはずっとやり続ける、やり続けると言っているわけであって、問題は、私は北朝鮮も同じだと思うんですよ。
【関山】 そのあたりはどうですか、佐々木先生。
イランの今後、3つのオプション
【佐々木】 今ご指摘のとおりで、イラン人というのは、彼ら自身が言うとおり、長い歴史を持ち、文化を持った人々です。だから我々はそれほど単純には考えていないんだよというのは前の大使もよく言っていたんだけれども、皆さんがおっしゃるとおりで、核の開発を、それが核兵器であれ、あるいは核兵器でないにしろ、まさに核を使えるような段階にしていく、濃縮というのは、これは絶対おろせないんだろうなと思うんです。
それについては、イランのハーメネイーという保守派のリーダーもそうだろうし、アフマディネジャドもそうだろうし、じゃあ、最近非常に対立関係になってきているラリジャニはどうかというと、ラリジャニもそれは言えないだろうし、国民はアメリカに攻撃されることは非常に怖いとは思いながらも、やはり彼らの国民感情として、それはおろせないという状況にあるんだと思うんです。
ただ、私が思うのは、例えば、2009年にはもう核爆弾ができるみたいな話をイスラエルが言って、とにかく早くやっつけないとだめなんだよということを一生懸命アピールするんだけれども、あの国にそれだけ早い核兵器を開発する能力があるのだろうか。
【関山】 イランということですか。
【佐々木】 イランに。それが運搬可能なサイズになるのだろうか。それから、運搬手段があるのだろうか。私は結局は核弾頭を積める規模のサイズにして、軽量小型にして、それを運べるミサイルがある。飛行機で運ぶというのは非常に難しいだろうから、それが前提だと思うんだけれども、そうすると、例えば、アメリカの核軍事の専門家なんかにすれば、まだ時間はあるなということはあると思います。まさに渡部さんが言うように、プレッシャーはどんどんかけて、とにかくそれが少しでもおくれる状態にしたいという気持ちはあるだろうけれども。
だから、どこまでイスラエル、イラン、アメリカが核兵器の開発について本音で焦っているのかなということだと思います。
私は去年の段階で書いていたと思うんだけれども、アフマディネジャドはだんだん外されてラリジャニが出てくるんじゃないかと書いていたんだけれども、最近になって、核交渉にずっと携わっていたラリジャニが国会議長になって、国会議長というのは結構大変な権限があるらしいんだけれども、彼がなったということは、当然、ハーメネイーが後ろであいつにやらせろと言ったと思う。それは方向転換だと思うんですね。今までのアフマディネジャドの非常に乱暴な言辞を引っ込めて、どちらかというと、西側が比較的受容できる常識的なイラン人を表面に出してきているのかなと。
私はこの問題をどうやって処理するかというのは、もちろん第1のオプションとしては、渡部さんが言うように、もし起こるとすれば空爆だろうと。体制転覆だろうと。
第2は、国内でいわゆる反体制勢力が革命を起こして今の体制をひっくり返すことによって状況を変えるという。
第3は、権力内部で一緒に軌道修正をして、十分に納得が行くのに近いレベルまで話し合いができる新しい体制をイランの中につくる。
この3つのオプションだろうなと。
今、イランが考えているのは、最後の交渉に値し得る人材を出してくるというカードではないのかなというふうに思います。実際にラリジャニが国会議長になったときに、西側のマスコミを見ていると、これは大きないわゆる変革のサインであるという言い方をしているんですね。ということは、実は西側の国々も、ヨーロッパとか、あるいはアメリカの一部の中にも、そういう方向で今の熱くなっているものをちょっとクールダウンできればなという気持ちがあるんじゃないのかなというふうに思います。
【佐々木】 渡部さんがアメリカの人たちといろいろ話をしていて、比較的常識派の人と話したら、オプションとしては外さないよと。だけれども、やがてはやはりそういう状況が続けばやらざるを得ないときが来るだろうなという話なんだけれども、それでは比較的タカ派の人たちというのは、本音の部分はどんなふうに考えているんですか、今の段階で。
アメリカの本音は
【渡部】 穏健派や現実派にとっては、昨年12月に米国政府が公表したイランは2003年秋に核兵器の開発を停止しているとするNIE(国家情報評価)のラインで、イランが実際に核兵器を開発するまでにはしばらく時間があり、軍事的に一息つけるこの間に、外交交渉を進めようと考えているのでしょう。タカ派にとっては、政治的な思惑もあり、イラク開戦と同じ理屈で、イランの核が兵器級(ウェポングレード)でなくとも、アルカイダなどのテロリストにそれなりのものを手渡せば、米国やイスラエルにとっては十分な脅威なので、一国も早い断固たる措置をと考えているのではないでしょうか。
【佐々木】 ダーティーボムとして。
【渡部】 核爆発をさせずに通常の爆破で放射能汚染をばらまくダーティーボムとして使うか、あるいは、ミサイルに積めるほどのサイズまで小さくなくても、それなりの核爆発を起こす核兵器で、核テロを行うか、いずれにせよ、これらの兵器はミサイル搭載の核弾頭よりは、容易に製造できるわけです。テロリストにとっては、ダーティーボムだけでも、世界に十分な衝撃を与えることができますよね。だから、タカ派にとっては、テロの恐怖への政治的な意味合いが大きく、実はアメリカ人はここに弱いですよね。現在のアメリカ人の世論調査を見ていても、テロに対する懸念というのは、依然として大きいままです。ブッシュ政権が人気を失なった理由の1つに、イラクに対して戦争までやっておきながら、本質的にアメリカ本土を虎視眈々と狙っているテロリストに対して何の手も打てなかったじゃないか、ということがあります。民主党系の専門家などは、それをブッシュ政権への政治的な攻撃材料にしているわけですね。イラクなんかを攻撃したから悪いんだと。本当だったらイランを最初に攻撃すべきだったというようなことを言う人は、民主党系やブッシュを批判する人にいます。テロリストとの関係が薄かったサダムフセインのイラクとは異なり、テロリストとの関係が深いイランが核を持つということに対して、アメリカ人の潜在的な恐怖は相当強いのだと思います。
【佐々木】 強硬派の人たちに言わせれば、もっともっと強い。
【渡部】 いろいろな強硬派がいますけれども、結構チェイニー副大統領についてよく言われることは、心配し過ぎる人だということです。チェイニー副大統領はあまりにも最悪の状況を考え過ぎるのだと。ただし、チェイニーの懸念は、ボルトン前国連大使などの核非拡散の専門家に共有されている傾向です。しかも、タカ派ばかりではありません。民主党系であろうが、穏健派であろうが、核の拡散を目の当たりにしている非拡散専門家にすれば、やはりそれが一番心配だということになるのは非常によくわかる話ですから。
【佐々木】 例えば、今、オバマとマケインが大統領選挙に向けて活動をしているんだけれども、私はオバマを勝手に穏健な、まだ時間があるよと判断する側の人だと想定しているんだけれども、マケインはどんなふうに考えているのか。
【渡部】 マケインはどっちにも、つまり、ブッシュ政権の1期目にブッシュがあそこまでタカ派に行くかどうかが事前にはわからなかったように、マケインもどっちに転ぶかちょっとわからないという議論を経済広報センターで今週の初めに公開でやりました。そのときに参加してくれたスコークロフト・グループ代表のケビン・ニーラーとの議論で、マケインの姿勢は結局まだわからないね、という結論になりました。 マケインというのは、イラク開戦前に現実的な立場から、イラク攻撃をすべきではない、という論陣を張ったスコークロフト前国家安全保障担当補佐官(ブッシュ父政権)とは親しい友達であり、陣営の中には穏健派もいるけれども、例えばロバート・ケーガンとかのネオコンも陣営に参加しています。それから、今はマケインと組んでいるリーバーマン上院議員は、敬虔なユダヤ教徒として、イスラエルの安全保障に関しては最タカ派ですからね。そうなってくると、マケインがどちらの立場をとるかというのは、今でも、正直言ってわからないということです。
【関山】 だけど、今後の大統領選挙というのをちょっと考えたときに、オバマ自身も今少しイランに対して、強硬とまでは言わないけれども、従来の主張に比べると、少し突っ込んだ発言をして、マケインとの勝負をだんだん意識しているところがあるじゃないですか。
【渡部】 そうですね。
【関山】 でも、やはりマケインとオバマの間の政策的な対立軸の1つはイランなんだと思うんです。
【渡部】 出てくるでしょう。
【関山】 そうすると、オバマとの違いを強調するために、マケインがより強気なことを言ってくる可能性というのはあるんですか。
逆に言うと、そのままマケインが大統領になったときに、選挙公約を守るような、強気の政策を実行してくるということはないんですか。
【渡部】 それが微妙でして、アメリカ国民は、イランに対してきついことを言って圧力をかけることは賛成だけれども、同時に、イラクから早く兵隊を退けと言っている人達が多いわけです。さすがに、米国がイランを攻撃したその先の困難さというものは、ある程度予想できるから、実は毅然とした姿勢までは歓迎されるけれども、武力行使をさらに続けて米国民の負担を増やすところまでは、共和党も含めて賛成されないラインでしょう。多分、次期大統領はこの件に関しては、選挙で言ったことにはあんまり縛られないと思います。みんな現実的な難しさを理解しているので。
今問題になっているのは、もっと政治的な話で、イランに対して条件をつけて交渉するか、無条件で直接交渉するかというようなことがずっと話題になっている。オバマがいっているのはこうです。ブッシュの失敗というのは、北朝鮮とかイランに交渉の条件をつけてハードルを上げ、言葉だけは厳しいんだけれども、結局彼らにフリーハンドを与えてどんどん核開発を進めさせてしまったじゃないか。私だったらもうちょっと柔軟に対応しただろう、ということです。それはある意味、正論ではあるんですけれども、じゃあ、そのように対応したからといって、核開発を止められたかどうかは定かではない。もう既に核実験をしてしまった北朝鮮なんかはいい例ですが、すでに核兵器を持ち、核開発が進んでしまっています。進んでしまった場合、どうするのかということは、実はあんまり選挙公約的にすっきりとした話はできないわけです。
例えば、北朝鮮に関して言えば、現在ブッシュ政権が何をやっているかと言えば、もう核を持ってしまった北朝鮮に、とりあえず持っている核、特にプルトニウムが大量に蓄積しているので、これをなるべく正確に申告させて、その量を把握して、それがよそに流されないように気をつけるという、そういう対症療法みたいなことをやらざるを得なくなってしまっています。イランだって、多分、北朝鮮のようになる可能性が十分あると思うからこそ、核開発を止めないのでしょうけどもね。
【関山】 渡部さんの説明の中に核を持ったイランが許せないという表現がありました。それはアメリカに限らず、ほかの周辺諸国も多かれ少なかれそうなんだと思うんです。例えば、ロシアにとってみると、核を持ったイランというのは、もしくはイランが核を持ってしまうことに対する恐怖というのは……。
【畔蒜】 もちろんだから、ロシアもイランの核武装というのは反対で、だからこそ自分たちのビジネスの利益も相まって、ああいう形のソフトランディングのプロポーザルをイランにも出し、アメリカにも出し、ご承知のとおり、最近やっとアメリカもロシアとの原子力協定の正式調印をしましたので。
おもしろいのは、渡部さんがさっきおっしゃったように、マケインの今後の対ロ政策がわからない1つの証左として私が見ているのは、マケインが最近、核に関する安全保障政策という演説をやって、その中でいわゆるロシアとアメリカが今やっている核の不拡散のスキームをイランに対して適用している。これをマケインが支持するという演説、あと、核削減に関する米ロの法的に拘束力のある条約を締結することも支持するという発言をやって、これは明らかにもうスコークロフトのラインの人たちのマケインに対する入れ知恵なのは間違いなくて、ですから、そういう意味で既にマケイン陣営の中で外交政策をめぐる陣取り合戦というか、ポジション争いがもう既に行われていてという見方なんだと思うんです。
最近、CSISが米ロの原子力協定に関するレポート、これは結構厚いレポートを出していて、その中で執筆者なんかを見ていると、ダニエル・パネマンというスコウクロフト・グループの人間も入っています。彼は一貫してスカウクロフトと一緒に米ロの原子力協定の流れがイランの核開発問題の解決に資するのだという主張をしている人間で、そういう人間の流れがマケインのほうにも影響を与えている。それが完全に勝つかどうかは、多分、選挙が終わって、もろもろのバトルの中で多分決まってくることなんだと思うんです。
いずれにしても、ロシアとアメリカがソフトランディングの方向で核開発問題を解決する、あるいは、少なくとも軍事攻撃ではない形で解決を図るという方向性もマケイン陣営一部にあるのは間違いないですね。その中で執筆者なんかを見ていると、タネマンというスカウクロフトグループの人間も入っていますから、彼は一貫してスカウクロフトと一緒に米ロの原子力協定の流れがイランの核開発問題の解決に資するのだという主張をしている人間で、そういう人間の流れがマケインのほうにも影響を与えている。それが完全に勝つかどうかは、多分、選挙が終わって、もろもろのバトルの中で多分決まってくることなんだと思うんです。
いずれにしても、そっちの流れは、ロシアとアメリカがソフトランディングの方向で核開発問題を解決する、あるいは、少なくとも軍事攻撃ではない形での解決という方向で動くという流れも一方で確実にマケインの中にも流れているということは間違いないですね。
【関山】 そうすると、アメリカにとっても、ロシアにとっても、基本的にイラクが核を持つことは脅威であることにはかわりがない。アメリカもイランに核を持たせないように圧力をかけるということはあっても、実際にそこに軍事活動、特に地上軍を送るようなことはきっとなくて、何となく圧力をかけながらソフトランディングを目指していく。ロシアもそのソフトランディングを目指す方向にアメリカの説得というか、イランの説得をしていくということなんだと思うんですけれども……。
【畔蒜】 そうですね。
【関山】 もしもアメリカが陸上軍とまでは言わないまでも、空爆なんかを始めた場合に、ロシアはどう出る可能性があるんですか。
【畔蒜】 まあ、でも、そこに介入はできないでしょうからね。
【関山】 反対するんですかね、やはり。
【畔蒜】 反対はするでしょう。国連で反対して、だから、イラクのときと同じだと思いますよ、それは。国連で反対をして、でも、じゃあ、それ以上何ができるのと言ったら、アメリカが軍事攻撃をすると言ったら、ロシアがそれに立ち向かうということはあり得ないので。
【関山】 賛成もしないけれども、少なくともポーズとしては反対をして……。
【畔蒜】 うん、それは反対する、全力で反対するでしょうけれども、でも、アメリカがやってしまったら、はい、それまでよという感じでしょうね。それはもうだれもとめられない。
イランを敵と見ない中国
【森尻】 中国はどう考えているんですかね、そのイランの核開発に関して。
【関山】 中国にとっても、当然、イランの核というのはやはり安全保障上の脅威であることは間違いなと思いますけれども、他方で、中国は別にイランのことを敵だとは全く見ていませんし、特に経済的にはイランと最近非常に仲よくやっていて、貿易関係も非常に強い。特に核とまでは言いませんが、イランに対して兵器の輸出もしているやに言われていますので、さすがにそこで核を持つとなれば脅威であることは間違いないと思いますが、そのイランの軍事的な脅威に対する感じ方というのは、アメリカの感じ方であったりとか、今、畔蒜さんから伺ったロシアの感じ方と中国の感じ方は温度差があるのではないかなと思いますが。
【田代】 例えば、テヘランの地下鉄、あれは中国がつくっているので、写真を見てもまるっきり北京の地下鉄と同じ車両が走っている。地下鉄をつくったということは、防空施設まで一緒に作ってしまったと思われます。中国の地下鉄がそうですから、安全保障のレベルまで中国はイランにかなり肩入れしているのでしょうけれども、北朝鮮と同じで、中国にとってはいい駒なんでしょうね。つまり、イランが核兵器を持つよとか、そういうことでアメリカがあそこに集中している間に時間が稼げる。それはちょうど中国の南に海南島がありますね。この一番南の三亜というところに、今、潜水艦が潜ったまま出入りできるという巨大な基地を建設しているんです。これはもう既に航空写真とかで分析すると、20隻ぐらいのSLBM攻撃型潜水艦が入れるらしい。1隻に12発のSLBMがついている。JL21というもので、まだ実験段階なんですけれども、アメリカ本土に届くのが開発目的なんです。しかも固形燃料ミサイルですから、いつでも海中から撃つことができる。
【畔蒜】 中国は原子力潜水艦はどうなっていますか。
【田代】
晋級というのがあって、今、1隻しかないんですけれども、今、どんどんつくっているようです。プラスして航空母艦を5隻ぐらい作っている。その航空母艦というのは別にアメリカのような機動部隊ではなくて、潜水艦隊防衛用らしいのです。だから、潜水艦の捨てごまとして航空母艦を置いて、アメリカの偵察隊や攻撃隊をブロックして、その間にSLBMをアメリカに向かって撃つということが可能であることを示さないと……。
【森尻】 ベンガル湾でも訓練をやっていますよね。
【田代】 そうですね。
【森尻】 航空母艦はね。
【田代】 ところが、ここができるまでの時間稼ぎとして北朝鮮やイランというのはいい駒です。アメリカはここにかかりきりになって、これをどうするのかとは言ってこないですから。
ただし、問題は、新疆ウイグル自治区でしょう。これは『中国統計年鑑』にもはっきり書いてあるんですけれども、何とか族自治区というものの総面積を合計すると、全土の63.3%を超えるんです。ということは、ひっくり返して言うと、漢民族の固有の領土というのは4割ないわけです。
しかし、ウイグル地区は絶対に手放せない。というのは、ここにぺトロチャイナの石油基地があるんです。イランが核兵器を持って、この地区に圧力をかけると、中国にとっては悪夢です。しかし、北朝鮮と違ってイランの場合制御はできないのですから。
【畔蒜】 でも、イランが核兵器を横流しするよりもパキスタンがやる可能性のほうがもっと高いですよね、きっと。
【田代】 でも、中国はパキスタンを中国は完全に抑えたと踏んでいる。
【森尻】 私もそう思います。
【田代】 最近、パキスタンのグワダルの港は、3つ巨大な桟橋があって、航空母艦でも入れる。もちろん原子力潜水艦でも潜ったまま入港できます。攻撃型潜水艦が潜ったまま横須賀でやっているように着岸できる。中国がダミーでもいいからそれをやったら、中東情勢は一変するじゃないかと思います。
【佐々木】 それはもう完全に完成しているの?
【田代】 港は完成しています。グーグル・アースで見ることができます。中国は「人民日報」英語版のオンライン版で、中国のフィナンシャル・アンド・テクニカル・サポートによってできたと述べています。これは危険なゲームですね。
<パキスタン、アフガニスタンの行方>
パキスタン、アフガニスタンとNATO、アメリカ
【森尻】 さっきインドはというふうに尋ねられたんだと思いますけれども、今のお話に関連して、私は中国のことを伺いたかったんですけれども、今、核搭載可能ミサイル実験に関しては、インドもパキスタンも第二次段階に入ったんですけれども、当初の計画は一応クリアしてきたんです。インドが今、関心があるのは、迎撃ミサイルシステムです。これは2004年ぐらいからイスラエルとノウハウを一緒に共有してきてやってきて、今、イスラエルとどういう関係にあるか、ここのところはちょっと見えないんです、シークレットなんです。私がいくら探っても、まだそれが続いているのかどうかわからない。ただ、彼らはレーダー基地をつくって、それで迎撃ミサイルシステムを実験段階にまで高めようとインドはやっています。これはずっとこの間やってきた長距離ミサイルと、それから迎撃ミサイルシステムに結びつつあるわけです。これはアメリカの動向とか、日本の動向とか、いろいろなことを考えているんだと思いますが、パキスタンは中距離だけなんです。パキスタンが怖がっているのは、インドは仮想敵としては中国を目指して長距離弾道弾をやったんです。ところが、パキスタンは中国に向いていないんです。パキスタンが怖いのは、イランであり、イラクであり、アフガンなんです。だから中距離なんです。ここにすごく大きなイランに関する問題意識があると思います。今、中国がいかにパキスタンに対応したかということで言うと、アメリカはそのパキスタンを今どう認識しているのだろうかというふうに私は考えます。
【益田】 いや、そこは、今、アメリカと今一番対立しているのは何かと言うと、テロ対策です。要は、新内閣になって、新内閣というより、この総選挙、パキスタンの総選挙がある以前にムシャラフ政権がまず過激派対策ということで、タリバンの、タリバン全部じゃないですよ、タリバンの一派の司令官と休戦協定。それが現在まで流れてきていて、新内閣になって、とにかく過激派対策をやっていくという、これは政策です。これがやはりアメリカとものすごく今、対立。というか、アメリカは何を心配しているかというと、アフガニスタンのことを考えています。これはNATOはもっとい続けるのか、いつ撤退できるのか、もちろん先週、日本政府がアフガンに自衛隊調査団を出しますと言ってしまっていますけれども、おそらく私はアメリカの、これは後で渡部さんに聞かないとあれですけれども、アメリカのプレッシャーがかなり、前からあるんですけれども、現実になって、そう言わざるを得なくなった。このサミットを控えてということで、非常に政治的な意味なんだと思いますけれども……。
【森尻】 アフガン問題に関しては、変なところで変なドジをNATOもやったんですよ。
というのは、先週、アフガン国境地帯でミサイルを誤射してしまったんです。短距離ミサイル。それでパキスタンの領内に入ってしまったんです。それで、民間家族、少数民族なんですけれども、二、三家族殺されているんですね。これで一気にシャリフが政権を離れたことを含めてパキスタンの中でNATO並びにアメリカに対して険悪感があります。だから、この辺のことをどうアメリカがとらえようとしているのかというのは、ちょっと私としては注視だと思っています。
【畔蒜】 ちなみに、この間のNATOの総会で、NATO側がロシアに対してNATO軍の物資のトランジット、要するに、輸送をロシア領内でという要請を出したのは、まさにパキスタンルートがもう機能しないということでロシアルートでという形の要請を出して、ある意味、ロシア側としても、これは表立っては言わないでしょうけれども、おそらく何らかの、特にヨーロッパ、ドイツなんかとのNATOの統合拡大問題、ウクライナ、グルジアの問題と、多分バーターを裏できっとやったんでしょうけれども、それもあって、結局ロシアはそれにゴーサインを出したわけですね。
ですから、そこも含めて、パキスタン、アフガンの問題というのは、イランと並んで、今、かなり重要な問題だと思います。
【佐々木】 少数民族というか、部族のトライバルの連中との取り引きをパキスタン政府がやったというのは、あれは全くアメリカの意向は無視してやったわけですか。
【森尻】 そうですね。
ムシャラフは終わったか?
【佐々木】 私はムシャラフというのは1つの役割がもう既に終わったなと、去年の前半の段階で思っていたんです。だから、段階的に彼は外されていくか、突発的に外れるかどっちかだろうと思っていたんだけれども、最近の例えばブットが暗殺された、西側ではそれ以降のパキスタンの印象、あるいはムシャラフの、どちらかというと、ちょっとアメリカと距離を置いたのかなというような動きにしろ、何となくアフマディネジャドが一方において、そろそろおまえ、おりろというのと同じように、こっちでも何となくおりるのかなという気がしています。
【森尻】 今朝の情報でも、パキスタンの新聞なんかは、シャリフ一派は、要するに、ラフォーレ側ですね、彼らは少数民族も背景にしているんですけれども、ムシャラフをおろす、大統領を罷免するという運動になぜつながらないのかということで、大集会を起こそうと言っていますけれども、ただ、客観的に言いますと、やはり政変以後、ムシャラフはある意味では復活してしまいましたよ。
【森尻】 むしろムシャラフがいなくなったらパキスタンはめちゃくちゃになってしまいます。
【佐々木】 だから、アメリカは何らかの措置をしないわけにいかないです、中国よりも。
【森尻】
そうなんです、だから、それでアメリカはと伺っているわけです。だから、私は田代さんにその話を聞きたかったんですよ。
【佐々木】 そうなると、多分アメリカは相当乱暴なことをせざるを得ないだろうなと。その辺も含めて、ちょっと皆さんの意見を聞きたいんだけれども。
【益田】 やはりムシャラフがほんとうに力をなくしたのかどうかの評価は、軍がサポートしているかどうかというところがかぎだと思うんです。
【益田】 軍にとって対テロ戦争を完全に引いてしまう、これはあり得ないと思います。これは対インドの関係もあるし、それからアフガニスタン情勢もあるし、パキスタンはとにかくいつも見ておかないといけないのは、軍、それからISIです、情報部。これか主導権を握っているわけですから。彼らは今、ほんとうに表に出ていない。わからないです。
【森尻】 どうなんですかね。その表に出ていないという部分で、パキスタンの軍はムシャラフ支持というのはどのぐらいのあれがあるんでしょうね。
私は、一時はもうほんとうに、ブットの前後、あのころはやはり軍はムシャラフに対する支持率はぐんと落っこちたと思っていたんです。一時期。ところが、暗殺以降、特にシャリフが出てきて、チョードリー復活みたいなことがラフォーレの側で出てくると、また何かものすごい軍がお互いにもたれ合っているのではないかというふうに見えるんですけれども。100%では決してないんですよね。
【益田】 軍も1つかどうかがわからない。
【森尻】 そうですね。
【益田】 ただ、私は、やはりアメリカで教育を受けた連中もかなりいますから、この連中はやはりアメリカと一緒にやっていく。それから、アメリカも莫大な金ですよね。けた違いの金がパキスタンに入っているわけです。アメリカはおそらくこれを使っている。じゃあ、もう引くよと言ったときに、もう軍は相当の打撃を受ける。
接近する中国、パキスタン
【森尻】 だから今、ムシャラフが直に北京に行って、聖火リレーが始まる直前に行って、しかも1週間いたんですよ。経済人と一緒に行っているんです。それで、中国側は大歓迎です。国賓並みですよ。首席から、首相から、外相からすべて会っている。それから、経済人も会っているんです。それでいろいろな話をつくったわけです。さっきの港の話を含めて、軍事協約を含めてやっているんですね。この動きをアメリカはどう見ているのだろうかというのが不思議でしようがないんです。
【渡部】 これはわからないですよね、ほんとうに。というのは、正直言って、この辺の話がまずメディアで出てこないでしょう。
【森尻】 そうですよね。
【森尻】 やはりアメリカもかなり気にはしていると思うんですよね。これがどういうふうに動くかによっては、イランだって、イスラエル問題だって波及すると思うんですよ。さっきおっしゃっていたように。
【佐々木】 前に何かで読んだのでは、グワダルのいわゆる産業地域開発という名目だったでしょう、最初。
【佐々木】 ところが、もともとあれは偵察基地なんですよね。軍港と。それが先ほどのお話だと、もう完成していますよとなってくると、アメリカの艦隊と石油の動きから、対イランにしろ、もう全部スケスケで見えてしまっているわけですよ。そういう状態をアメリカが果たして放置できるのだろうか。
【森尻】 できないと思う。
【田代】 だって、グワダルはイラン国境から70キロしかないですね。
【森尻】 そうです、そうです。
<変化する大国間パワーバランス>
米国の中国への脅威認識
【渡部】 間接的な話なんですけれども、アメリカの専門家にとって、中国に対して感じる脅威の質がここに来てすごく変わってきているんですよ。表立っていっている中国ステークホルダー論による関与政策とは、乖離傾向があるのかと思います。今年はじめのASAT(衛星破壊ミサイル)などがきっかけになっているような気がします。
【佐々木】 その中国に対する感覚がちょっと変わってきたというのは?
【渡部】 つまり脅威認識をわりと表立って出すようになりましたね。わかりやすいのは、国防総省の中国の軍事力のレポートが去年と今年で相当トーンが違うんですよ。警戒心がものすごく強くなっているんです。彼らが表立って外交上、言葉にすることとは違うラインで、安保上の警戒感が膨らんでいるという部分は、今の話とは絡むのだろうなという気がしますけれども。
【佐々木】 いや、だって、中国はビルマに海軍基地が、あるいはそれにかわる海軍のファシリティーを持っているでしょう。それでグワダルが完璧になった場合には、アメリカの側からしてみれば、インド洋海域全部を抑えられているということですよね。やはりしかるべき手を打たないわけにはいかないだろう。なおかつ、それがイランが今、アメリカとの緊張関係の中で中国と比較的友好的な立場をとってくれば、なおさらそれが今度は絡まってくるとなると、ますますもってそれは放置できないのではないかなと思えてならないんです。
この前、よくも書いたりと思ったんだけれども、イランを攻撃するならいいですよ、一番最初に第一波攻撃するのはカタールですからね。カタールの空軍基地を破壊しますよと出ているわけです。
それで、おとといの夜会ったイラクの外務次官が言うのでは、クエートに対するインボルブがものすごく強くなっている。それで、クエートの人口の2割ぐらいがもともとイラン人なんだって。1950年代に優先的にイラン人に第一級国民の国籍を与えていた。我々イラク人はもらえなかったんだけれどもと言っていたけれども、バーレーンは半分以上なんです、65%ぐらいがシーアでイラン系なんだね。そうしてくると、やはりちょっと尋常じゃない状態が生まれている。どうも私は渡部さんよりももうちょっと危ないなと思って見ているわけです。
【畔蒜】 確かにアメリカにとっての情勢の悪化というのは、多分、中東においても、対中のパワーバランスにおいても、多分どんどん悪化しているんだと思うんです。問題は、じゃあ、どっちかを手をつけたときに、結局これはどっちか手をつけたら、多分どっちかがより進んでしまうという構造になっていますよね。イランをやってイランが混乱してきたら、中国がよりフリーハンドを得る。逆に中国により力を入れようとしたら、イランなんて絶対手が出せない。
【佐々木】 そんな中で、今、イラクとアメリカが軍事協定を結ぼうとしている。在イラクのアメリカ大使は、最低50の基地は確保したい。今、430何カ所あると言っていた。何のためか、対イランですよ。もちろんそれは中央アジアとかトルコも含めてそうだろうし、湾岸もそうなんだろうけれども。ということは、相当必死でいるようだ。
おとといの夜、イラクの外務次官が来て歓迎パーティーを大使公邸でやったときに、来ていたのはほとんどは日本の外務省のいわゆる条約関連の関係の人間ですよ。それから、イラク特措法関係の人間。驚くなかれ、メーンゲストの一人はシェーファーだ。アメリカ大使が最初から最後までいて、司令官と海兵隊の人間と4人ぐらいで来たのかな。大使と次官との話の中で、何と言ったか。大使が次官に言ったのは、いや、アメリカがもうちょっと追加のブリーフィングをしたいと言っている。どうすると言って、そうしたら、次官が、いいわ、明日の朝早い段階ででもいいんだったらおれは受ける、明日というのは発つ日だからね。ということは、多分日本の外務省が日米安保というのはこんなふうに決めて、こういうことが問題なんだよとダーッと全部やっていたのに対して、アメリカ側は信頼がおけなかったんだね。だから多分、だめ押しを一発やってやろうということでそれを言ったんじゃないのかなと。
【平沼】 今までのお話を聞かせていただきまして、話の整理をさせていただきたいんですけれども、そもそもこのアメリカとイランが今、摩擦を起こしているという原因は、いわゆるタリバン政権とフセイン政権が崩壊してしまった後の中東の地勢学的バランスをどっちが有利に運ぶかというところが大きな根本にあって、その表面上にあらわれるのが核問題であったり、イラク、ロシア問題だったりするというものはまず前提にあると。今の田代さんのお話とかを聞いていくと、実はそこに中国というのが大きく絡んでいて、イランに対して支援をしたり、また、アフリカの諸国に支援をしたり、このレジメに書いてあるとおりに東西から中東への中国の軍事バランスみたいなものを強めてきている。そうなってくると、将来、今、イラン、アメリカという構図だけれども、実は中国、アメリカという摩擦も起こりかねるのではないか、その辺はどうなのかというふうに森尻さんは聞かれてきたということですよね。
そうなってくると、日本として今後考えなくてはいけないのは、ひょっとしたら、将来、また米中がどんなリクションかわからないですけれども、対立の構図になって、そこでまたいつものとおり日本は、じゃあ、日本はどっちにつくんだ、どういうふうにするのかというような局面もあらわれる。そういったことも考えて、今のうちから日本は自分のスタンスを考えておかなければいけないというのが日本の影響かなと思ったんですけれども、そんなような理解でよろしいんですか。
【関山】 大変すばらしい理解です。
でも、少なくとも、今お話を伺っていてほんとうに疑問に思うのは、アメリカはおっしゃるとおり、中国に対する脅威が高まりつつあるというのはそうなのかもしれないんですけれども、私自身はそれがやや違和感があって、中国単体で見たとき、米中関係のバイの関係で見たときに、今、それほどアメリカにとって中国の脅威というのが如実に増している状況ではないはずなんですよね。その中でアメリカ側が中国に対する警戒感を高めているというのは、やはりグローバルで見たときの中国のいろいろな動きということにやはり懸念があるのだろうなとは思うんですけれども、そこがどれほどほんとうにアメリカにとって差し迫った脅威なんだろうかというのは、私はやや疑問なんですよね。
【佐々木】 それが、余計なことかもしれないけれども、前にアジア2025というのが出たでしょう。四、五年前の段階であれは出ているんだけれども、2025年のことを想定して考えているわけです。ロシアが最近出したやつは、アジアではないけれども、2017というのが出たんだね。少なくとも10年、15年先を見て計算して追っていくわけでしょう。だから、我々のようにここ二、三年で見た場合には、それこそさっきのイランの核問題じゃないけれども、いや、まだ大丈夫なんじゃないのとおれなんかは考えるんだけれども、彼らは、もっとロングレンジで見ているから、そうすると、どの時点でたたこうかということを当然考えざるを得ない。
それから、ある人が言ったのは、そもそも自分たち欧米のテリトリーであるアフリカに対して中国人が手を突っ込んでくるなんてとんでもない話だと。つまり、非常に知性的な知的な判断も一方にあるんだけれども、もう一方では非常に感情的な判断があって、意外にそれがエモーショナルな状況を生み出してしまう場合があるのではないかなという気がするんだよね。
中国のアフリカへの関与
【関山】 エモーショナルな部分というのはほんとうにそうかもしれないですね。それこそ昨今、中国がアフリカに対して進出を強めているなんていう言い方がよくありますけれども、これは田代さんがお詳しいと思いますが、中国はアフリカと戦後長らくずっと関係が深いんですよね。
【関山】 援助ももう50年代からやっているような状態で、確かに学的に中国自身に力がついてきたから増えているというのはあるのかもしれませんけれども、中国とアフリカの関係というのは、ほんとうにもともと伝統的に強いわけで、そうすると、これ