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私のグローバル化論「地球温暖化防止への新たな一歩—バリ行動計画の評価」

May 16, 2008

ジェフリー・D・サックス
米コロンビア大学地球研究所所長、同経済学教授

昨年12月にインドネシアのバリ島で開かれた国連気候変動枠組み条約第13回締約国会議(COP13)は地球温暖化の防止をめざすバリ行動計画を採択して閉幕した。この行動計画は具体的な温暖化対策よりも参加各国の話し合いの枠組みに重点が置かれている。このため大きな一歩とは言えないかもしれないが、私は以下の三つの点からこの行動計画に一定の評価を与えている。

第一に、世界各国は結束して米国の非協力的態度を改めさせた。第二に、今後の協議の道筋を示したロードマップは周到な配慮に基づくものである。第三に、経済開発と温暖化ガスの抑制を両立させる現実的な解決策を視野に入れている。

地球温暖化については1997年に京都議定書が採択された。しかし、国際社会はその後この問題に十分な対応を行っておらず、この行き詰まりを打開することがバリ会議の第一の課題であった。そして、この課題は十分に果たされたと私は考えている。まず、世界各国が米国の説得に努めた結果、米国代表はバリ行動計画に署名した。さらに、先進国と開発途上国の見解の相違は今なお大きいが、中国、インドなどの途上国も地球温暖化対策に前向きの姿勢を示すようになってきた。

開発途上国の協力を促すには、いくつかの課題を調和させる必要がある。第一に、国際社会は温暖化ガスが気候に及ぼす影響を緩和しなくてはならない。これは1992年に採択された国連気候変動枠組条約からバリ行動計画まで一貫して受け継がれている基本的な課題である。第二に、国際社会は経済発展の継続ならびに貧困の緩和を実現すると同時に、温暖化ガスを削減しなくてはならない。なぜなら、貧しい国々は貧困の継続をもたらす温暖化対策を受け入れないからである。第三に、国際社会はすでに発生した気候変動や今後深刻化の予想される気候変動に直面する国々を支援しなくてはならない。

バリ行動計画はこれら三つの課題への対応を打ち出している。まず、この計画の眼目は特別作業部会の設立であり、この部会は「計測・報告・検証が可能な」方法で温暖化ガスを削減する世界的な取り決めを2009年までに実現することをめざしている。また、排出削減の方法は「経済、社会の発展ならびに貧困の撲滅が世界的な優先課題である」との認識に基づく「持続可能な発展」と両立するものとされている。行動計画はさらに、貧しい国々に対する環境に配慮した技術の移転を求めている。

しかし、温暖化ガスの排出抑制、継続的な経済発展、気候変動への対応の三つの課題を同時に達成することは容易ではない。今日の技術水準を前提とするなら不可能であり、革新的な技術が開発され、それが急速に普及すれば可能と言えるだろう。

技術開発は二酸化炭素の排出を削減もしくはゼロに近付けることをめざしているが、この二酸化炭素は石油、天然ガス、石炭などの化石燃料の燃焼により生じる。そして、これらの燃料は世界の事業用エネルギーの5分の4を構成する世界経済にとり不可欠なエネルギー源である。また、二酸化炭素の排出は再生可能なエネルギー源への転換もしくは化石燃料の利用の抑制により削減される。そして、ここで重要なことは世界の化石燃料の約75%が、発電、自動車、暖房などの燃料あるいは石油精製、石油化学、セメント、鉄鋼などの原燃料に用いられていることである。したがって、これらの部門において自然環境に配慮した製造技術が開発されるかどうかがカギとなる。

たとえば、太陽エネルギーを大規模に利用する発電施設、化石燃料の燃焼により発生する二酸化炭素を分解する技術などが実現されるだろう。自動車の燃費は電池とガソリンを組み合わせるハイブリッド技術の進歩により大きく改善するだろう。断熱素材の改良、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換などにより、暖房のために消費される化石燃料も減少するだろう。

また、ある予測によると、主な産業部門が自然環境に配慮した技術を今後数十年にわたり開発・採用すれば、世界は年に1%足らずの所得減と引き換えに二酸化炭素の排出を大幅に削減できるという。つまり、世界はわずかな所得を犠牲にすることにより、大規模な気候変動を回避できる。言い換えると、経済成長と二酸化炭素削減の両立は十分可能なのだ。そして、豊かな国々は貧しい国々への新しいエネルギー技術の移転を経済的に支援することができるだろう。

さらに、2009年までに実りある合意に達するには、気候変動の原因やコスト負担をめぐって先進国と途上国の間で行われている原則論の応酬を克服する必要がある。なぜなら、世界が今必要としているものは新たな技術の開発、検証、採用を世界規模で促進する実務的な計画なのだ。国際社会はまた、全ての国が自然環境に配慮した技術について実効ある戦略を策定し、豊かな国々がバリ行動計画にうたわれている「資金面ならびにその他のインセンティブ」の提供を履行することにより貧しい国々が新たな技術を導入できるように、努力しなくてはならない。

バリ会議について、協議の継続には合意したものの、他に見るべき成果はないと批判する見方もあるようだ。しかし、私たちはむしろ190もの国々が行動計画を採択したこと、そして計画達成を可能とする科学技術が存在することなど、肯定的な側面に目を向けるべきではないだろうか。

課題は山積し、前途は決して平坦ではない。しかし、バリでの議論を経て状況は改善した。今こそ地球温暖化の防止に本腰を入れ、バリ行動計画を実行に移すべき時ではないだろうか。

(プロジェクト・シンジケートより翻訳転載。Copyright: Project Syndicate, 2007.)

    • コロンビア大学地球研究所長、米Millennium Promise共同創設者
    • ジェフリー サックス
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