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私のグローバル化論「グローバル化時代とアフリカ諸国」

May 17, 2008

片岡 貞治
早稲田大学国際戦略研究所 所長

我々の住む今日の21世紀の国際社会は、構造的変化の最中にある。冷戦構造の崩壊、湾岸戦争、コソヴォ空爆、9.11テロ攻撃とそれに続く対タリバーン戦争、2003年3月のイラク戦争とその後のテロの跋扈等、グローバリゼーションのもたらす影響が、経済面や社会面のみならず、政治面や安全保障面にも及んでおり、国際社会は、そうした構造の変化への対応のあり方を模索している。

こうした国際社会の構造的変化の渦中で、アフリカ諸国も新しい時代にどう対応すべきかについて未だに模索を続けている様に見える。近代アフリカの歴史を鳥瞰すると、アフリカが常に世界システムの波に弄ばれてきたことが理解される。アフリカは近代以降、列強のパワーポリティックスの「対象物」或いは「客体」として扱われてきた。アフリカは、奴隷貿易、欧州列強による植民地分割・支配、欧州列強に人為的に引かれた植民地境界線を引き継ぐ形での独立、冷戦時代の大国の戦略的な関与と冷戦終了後の財政的撤退等、常に国際社会の趨勢に左右されてきたのである。冷戦終結後の1990年代には、アフリカに対する国際社会の関心が低下し、アフリカ諸国の政治的且つ経済的なマージナル化が進んだ結果、民族紛争、権力闘争を含むアフリカ諸国の地域紛争、内戦が一層激化し、広域化していった。

冷戦後の構造的変化の渦中にある国際社会の枠組みにおいて、「アフリカのマージナル化」は一つの共通認識であった。しかし、ここ数年、グローバリゼーションの発展と共に、その流れに変化が生じている。

マージナル化からグローバル化へ

国際社会の「客体」として扱われてきたアフリカの主体性と自立性が今まで以上に求められている状況が到来したと言える。そのアフリカ側の回答がNEPAD(アフリカ開発のための新たなパートナーシップ)の策定であり、OAU(アフリカ統一機構)からAU(アフリカ連合)への発展であった。

今日、「アフリカ」が国際社会の最前線に出てきており、アフリカ問題そのものが、文字通りグローバル化し、国際社会の最重要課題の一つ、重要な争点として認識され始めているのである。即ち、これまで客体として翻弄され続けたアフリカが主たるアクターとして表舞台に出てきているということである。また、それは国際社会がアフリカに対して再び関心を示し始めたこととアフリカに対して関心を持つ国が増えてきたことをも意味する。安全保障、資源、移民、経済協力、疫病等、様々な分野でアフリカが最前線に立っているのである。他方で、アフリカは大国の資源獲得競争の舞台とも化している。さながら、グローバル化時代の「Scramble for Africa」が繰り広げられている。

恩恵に浴していないアフリカ

グローバリゼーションとは、財、サービス、ヒト、情報、労働力、技術及び資本などの移動のボーダレス化によって経済的な結びつきが増大することに他ならない。ワシントン・コンセンサスによる自由貿易の活発化と増大が富をもたらすという理論と市場優先主義は、勝者と敗者を峻厳に分別する。

しかし、アフリカは、国際社会のあらゆるアジェンダの最前線に躍り出ていても、グローバリゼーションの席巻する世界で最もその恩恵に浴していない地域であるとのイメージを与えている。事実、世界経済に占めるアフリカ(サブサハラ・アフリカ諸国)の割合は2.5%に過ぎず、原油価格高騰による好況に沸く産油国やレアメタルなどの鉱物国を除いては、現時点でグローバリゼーションの恩恵に浴している国はまだ少ない。

アフリカ諸国が歴史的な復権を果たすためには、グローバリゼーションの主体的なアクターとならなければならない。アフリカ諸国は決して貧しくはない。天然資源を含めた一次産品は豊富にあり、世界レベルである。しかし、こうした天然資源などの一次産品がアフリカに雇用を創出し、富をもたらしたことはなかった。多くのアフリカ諸国は一種類の一次産品に依存し、それをせっせと生産するのみで、加工する産業を持たなかったからである。それ故、一次産品の世界価格に絶えず影響されてきた。最も打撃を受けたアフリカ諸国は農作物輸出国である。90年代初頭以来、カカオやコーヒーの価格は大幅に下がっているからである。

自立のためになすべきこと

こうしたアフリカ諸国がグローバリゼーションというチャンスを活かし、そのアドバンテージを受けようとする為には、眼前に立ちはだかる先進諸国の保護主義という大きな壁に立ち向かわなければならない。アフリカ諸国としては、先進諸国との既存の貿易協定において獲得した利点や最恵国待遇及び自国の市場の開放に関する特例などを維持しつつ、自国製品の先進諸国の市場へのアクセスを確かなものにすることが求められる。グローバリゼーションの恩恵に浴している米国、EU、日本などの先進諸国は自国の農民を保護するため多額の補助金を投入し、一次産品の世界価格を抑制している。最も有名な例は、綿花産業である。米国の25000人の綿花従事者は毎年40億ドル以上の補助金を得ていると言われている。また一次産品を一度(ひとたび)加工して輸出しようとすると夥しい割合の関税を掛けられるという関税障壁も改善されなければならない。

グローバリゼーションはアフリカ人にとって不利となるルールの中で進行しているのである。TICADIVやG8が2008年わが国で開催されるが、アフリカ開発問題を援助の増額という観点ばかりで議論せずに、わが国としては、経済的弱者であるアフリカに有利になるようなルール作りを議論できるようイニシアティブを取ることが求められているのである。


【略歴】早稲田大学政治経済学部卒業。パリ第一大学政治学博士。在フランス日本国大使館勤務、日本国際問題研究所研究員、早稲田大学国際教養学術院を経て、2006年4月より早稲田大学国際戦略研究所所長。欧州やアフリカ諸国の政治家や政府関係者に知己が多く、世界中に豊富な人的ネットワークを有する。専門領域は国際関係論、アフリカ紛争・開発。

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